Show must go on!


増税目前
2014/03/30 00:22 (0)

「風呂で煙草吸うなって言ってるだろ」

湯気よりも濃い、しなやかな煙が立ち上がるのを見咎め、キッドは眉間にシワを寄せる。
男二人が向かい合って入れば動く隙間もほとんどない浴槽の中で、ローは身を捩り、左脇の浴槽の淵に置いた灰皿に煙草の灰を落とした。
「灰が湯に落ちたら汚ねぇだろ」
灰を落とした煙草をまた口に戻すのを目でおい、キッドは言葉を重ねた。
うっすらと濡れた唇から、紫煙が細く吐き出される。水を吸った黒髪から水滴が落ち、水面を叩く。
「……気をつける」
風呂での煙草をやめる気などさらさらないと言うように、気のない口調だ。関心なさげに瞼が眠そうにゆっくりとまたたく。
「気をつけたって落とすときは落とすもんだ。落とす可能性を減らすんじゃなくて、落とす可能性をなくせっつってんだよ」
キッドの眉間のシワはさらに深くなる。
「増税が辛くて禁煙してるからって、俺に当たるなよビンボー人」
「禁煙前から何度も言ってただろーが」
三割程度は図星だが、七割の自分の正当性を信じ、キッドは素知らぬ顔で三割の八つ当たりと七割の正当な糾弾を続けた。
「だいたいお前はどこでもかしこでも煙草吸いやがって。飯作りながらも吸うし、飯の最中も吸うし、デスクでも吸うし、上司からの電話の最中も吸うし…」
「あと、セックスのときも吸うし、キスの合間にも吸うな。……口さみしくてイラついてんならこれでも吸ってろよ」
「んぁ……!」
不機嫌に歪められたキッドの唇に、ざぱりとお湯をかき分け水面に出たローの右足の親指が押しつけられた。
キッドが正面のだるそうな顔の男を睨むと、浴槽の壁に寄りかかり、左手に持ち替えた煙草をふかすローが不敵に笑った。
キッドはローの目を離さないまま、押しつけられた親指を口内に飲み込んだ。両手でローの足を支え、ローの目を睨んだまま、男のものでも咥えるように、全体を唾液で濡らし、舌先で爪の形をなぞり、指の股を舐め、口を窄めて上下にしごく。
「は、っは、」
キッドの口から垂れた唾液が糸を引き、湯船に混じる。
ローは野犬のような凶暴な目を離さないまま、自分の足指をしゃぶるキッドを見下ろしていると、自然と口端が持ち上がった。煙草の味がさらに深みを増す心地だ。
「……!」
だが、それもつかの間。ローはびくりと肩を震わせた。自分の股の間をチラと見下ろし、キッドを睨みつけた。
「足くせ悪いぜ」
入浴剤を嫌うキッドのために、何も入れていない湯は透明で、湯に浸かる二人の体もよく見えた。透明な湯の中で揺れるキッドの赤い陰毛も、ローの黒い股ぐらも、その股ぐらに押しつけられた足の白さも、全てよく見える。
「おまえもな」
足指を三本口に含んだキッドが、もごもごと嫌味を返す。先ほどとは逆に、キッドが不敵に笑ってみせる。
足裏で股間を詰り、親指と人差し指で挟み上下する。
ローが半分にまで短くなった煙草をくわえなおし、浴室の壁のタイルの模様を意味もなく目で追うが、細められた目と引き結ばれた唇が快感を滲ませている。
キッドはわざとらしく音をたて指を吸う。足の裏で、硬く張り詰め、震えるローのものを感じ、こちらを見ようとしないローの横顔に嫌味のかかった視線を送る。ローの震える指先に支えられた煙草の先には、次第に灰が溜まってきていた。


「お湯、汚すなよ」


キッドが嫌みたらしく笑っているのを横目で睨みつける。
風呂から上がったら復讐だ、とフィルターに食い込む歯に誓った。





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