Show must go on!


元カレ今カノ
2014/02/10 12:54 (0)


数年前におれの前からふらりと消えた彼氏が、彼女になって帰ってきた。


街中の雑踏で、俺は立ち尽くした。
往来を塞ぐ障害物を、みな怪訝な顔で窺い、通り過ぎて行く。みな足早なのに、一人も俺にぶつかることはない。日本人はみな忍者の末裔なのだ。人混みの中でも、誰にも何にもぶつからず早足で通り過ぎることなんて、朝飯前なんだろう。

「よぉ」

俺と同じように、往来の真ん中で足を止め、堂々と立つ赤毛の女は、唇を釣り上げて笑う。
ほっそりとした腕が胸の下で組まれ、その豊かな肉を際立たせる。身長は高くスーパーモデル並みだ。目も唇も、警戒色のような真っ赤な髪も、強気さと生意気さを物語る。強い印象を残す女だ。一度見たら、誰の脳裏にも焼きつきそうな熾烈さ。おれは、そんな熾烈さを持つ奴をもう一人だけ知っている。
「お、まえ、おまえ」
何度も何度も舌の上をから回った言葉が、震えながらもやっと音になった。
数年前に、ふらりと消えた俺の恋人ーーーユースタス・キッドによく似た女は、鼻先をつんと上げ、目を細める。

「よぉ、トラファルガー、久しぶり」

仕草の一つ一つが記憶に重なる。「そんなバカな」と戸惑う脳内の声はどんどん小さくなり、「まさか」と震える声がどんどん大きくなる。
「キッドなのか……?」
返る言葉はなく、女の小作りな鼻がクソ生意気にフンと鳴らされた。右の口端だけ吊り上げて強気に笑う様がよく似合う。
「何年ぶりだ?全然変わらねぇな、お前。安心した。ヒゲも昔のままだな。俺が似合うって言ったからか?髪は少し伸びたな」
高い女の声。女が粗雑に喋るのは好きじゃねぇ。だが、この女には似合いすぎで、嫌悪も浮かばない。「あ」と不意に女が舌をとめる。


「ところで、処女いる?」


言いたいことは山ほどあった。お前は本当にキッドなのか。どこに行っていた。その姿はなんだ。おれがどんな気持ちでーーーだが、そんなことはさておき、おれの口から飛び出した最重要伝達事項は



「……………い、いる」



という一点だけだった。



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