Show must go on!


ハムエッグトースト(アプキド)
2013/09/14 00:56 (0)

ふと目が覚めて時計を見ると、針は八時を回っていた。
カーテンの引かれた窓を見れば、隙間から夏の強い日差しが漏れている。
今日は休日だ。
アプーは枕に顔を埋め、もう一眠りする体勢に入ったが、ふと、洗濯物が溜まっていたことを思い出した。

「……おい、おい」

アプーは半分開ききらない目で隣を見る。ほとんど開かない瞼でも、目立つ赤毛はすぐ分かった。
「おい、起きろ。キッド、起きろって」
よく見えないままキッドの裸の肩を何度か小突くと、不機嫌そうな唸り声が上がった。
「……んだよ、ってーな」
アプーもうまく舌の回らない寝起き声だが、キッドの方もふにゃふにゃと腑抜けた声だ。
「洗濯機回せ」
「あ?やだ」
ーーー寝みぃもん、と白い肩越しに声が飛んでくる。
アプーはしょぼしょぼする目でサイドテーブルに手を伸ばす。この男が見返りなしに行動することはないなんてこと、とっくに分かっていた。
サイドテーブルの上には、灰皿と、煙草の空き箱と、バイクのキーと、小銭が散らばっている。昨夜、ポケットの中身をひっくり返したままだ。
「五百円」
手にした小銭の中で一番サイズのでかいやつをキッドの中身の少ない頭に投げつける。
「て」
キッドは小銭のぶつかった箇所を手で抑え、その手で枕元を撫でた。枕の上に転がっていた硬貨に手が触れると、摘み上げる。摘まんだ手を顔の前まで回し、手の中のそれを確認しているようだ。アプーから見えるのは朝の覚めきらない目にはうざったいだけの赤毛だけだが。
「しゃーねーな」
そう言うとキッドはのっそりとベッドから起き上がった。ベッド下に落ちていたパンツを拾いあげると、それだけ身につけてキッドはベッドルームから消えていった。布団から出るときに見えた真っ白でしみ一つない尻が眩しかった。
アプーはずり落ちていた布団を引き上げ、目を閉じた。二度寝の瞬間が一番幸せだ。ベッドルームの外では、キッドが歩き回るペタペタという足音が聴こえる。洗濯物は全部洗面所に溜めているはずなのになにやってんだ、とちらと思ったが、面倒だったので考えるのはやめた。お布団最高。二度寝最高。それだけ分かっていればいい。
アプーは仰向けになり、二度寝に入ろうとした。だがーーー

「おい、他洗うもんねぇか」

またベッドルームのドアが開き喧しい声が眠りを妨げた。
洗濯かごを抱えたキッドは、部屋に脱ぎ散らかされていたアプーのTシャツやらズボンやらをかごに回収していく。
「シーツも洗っちまう?」
喧しさに唸り声をあげるアプーをよそに、キッドはアプーの布団を容赦なくひっぺがす。
「ほらこれも洗うから脱げ」
キッドはアプーの腹に馬乗りになると、アプーが着ていたタンクトップの裾に手をかけ、まくりあげる。八割ほど眠った頭と体で抵抗などできるわけもなく、顔をしかめ唸るしかないアプーはされるがまま服を脱がされた。
「へへ」
キッドはクソガキのような顔で笑うと、アプーの胸筋から腹筋を指でなぞり、アプーの腹からずり降り、足の間で腹這いになると、股間の膨らみの先端近くを人指し指でぐりぐりと刺激する。
「あと五百円くれたらここもきれいにしてやるけど」
そう言うと、キッドは赤い舌先をちらりと見せた。
「おっと!」
顔面を真っ直ぐに狙ってきたアプーの長い足を避け、キッドはベッドから降りた。
「あと三時間寝かせてくれたら千円やる」
アプーは枕を抱き寄せ、顔を埋めて投げやりにそう言った。せっかくの休日だ。とにかく睡眠を貪りたかった。
「まじで?やりぃ」
キッドはアプーから脱がせたタンクトップをかごに放り込み、「寝せる寝せる」と調子のよい声をあげる。
「じゃあごゆっくりな」
部屋中の洗濯できそうな布類を全て回収したキッドは、ベッドルームのドアから顔だけ覗かせて手を振った。
アプーはそれに、枕から顔を上げないまま、犬猫を追い払うようにしっしっと手を振り返す。

「あ、それだけで金もらうのわりぃし、掃除機もかけてやるよ」

ドアが閉まった。
「……」
アプーは何か信じられないような言葉を聞いた気がして、顔を枕に埋めたまま身を固くした。信じたくない事実だが、何やらもう目が覚めてしまっていた。

そうして、直に聞こえだしたガーガーと耳喧しい音が、アプーの耳には無制限ノールールファイトのゴングの音に聞こえたのもどうしようない事実だった。


「……キッド!てめー今日こそ殺してやる!」
「うわっ!なんだよいきなり!サービスで掃除までしてやってんのに!けんかなら買うぞごら!」
「けんか売ってんのはテメーだ!ぜってーぶち殺す!」




(Introducing to you first on my left,the challenger,FIGHTING OUT OF THE BLUE CORNER, wearing pink trunks.Introducing, Eustass Kid!)
(Introducing to you next on my right,the champion,FIGHTING OUT OF THE RED CORNER, wearing black trunks.Introducing, Scratchmen Apoo!)

(round1 fight!)




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