Show must go on!


無題
2013/08/14 19:31 (0)

薄気味悪い話。
何が書きたかったか見失ったけど、書き直す気も起きないので不良品のまま放り出す(°▽°)







「俺は親父の腹から産まれた」

酒精の混じった吐息と共に、キッドはそう溢した。
半分以上中身の減った深緑のボトルをテーブルに置けば、酒がちゃぷりと波打った。
キラーは小さく首を傾げた。キッドの言葉は耳に届いた。届いたが、その言葉を理解はできなかったからだ。

「お前に昔話したことあったか」

キッドはキラーの疑問を他所に、話を続ける。ソファーに背を預け、ローテーブルにブーツを履いた足を投げ出した格好で、勿体ぶった口調だ。
「……」
ソファーの正面は、海を望む窓だ。その窓枠に寄りかかり、ロックグラスを揺らしたキラーは、老成した瞳をキッドに向けた。
「お前の生まれた国や、ガキの頃の話なら、断片的に」
「そうか、なら今日は俺の親父の話をしよう」
俺を産んだ親父の話をーーーと、深緑のボトルを傾け、半分以上減った中身をさらに減らし、キッドは物語のために唇を湿らせた。


「俺の親父は海賊だった。なに、そう名の知られた海賊というわけじゃなかった。いたって普通の海賊だ。奪い、殺し、犯し、壊す、普通の海賊さ。小さいながらも、海賊船の船長だった。そんな親父はある日、夢を見たそうだ。濃い霧の中だ。立っているだけで髪も服も水気を吸って重くなるような濃い霧の中、女がいた。黒く長い髪が、霧に濡れていた。和の国独特の服を着ていたそうだ。女は最初、遠く離れていたが、ゆっくり、ゆっくり、近づいてきていた。親父は逃げようとした。海賊やってても、薄気味わりぃものは怖いもんなんだなキラー。体は動かなかったそうだ。霧の中、だんだんと近づいてくる女、動かない体ーーー女は、とうとう親父の鼻先までやってきた。普通の怖い話ならそうだな、ここで女は顔をあげるだろう。爛れていたり、血まみれだったり、のっぺらぼうだったり、そんな顔がバァン!……でもんなことはなかった。女は顔をあげることなく、腕に抱えていた赤いぼろ布を親父に押し付けた。腹の辺りにズイッと。親父は動けないから、恐怖に震えたまま、目だけを動かし、女が押しつける布を見た。もぞり、もぞりと動いていた。芋虫のように」

ーーーそこで親父は目を覚ました。

「目を覚ますと、街の路地裏の小汚ない壁を背に、濡れた地面に踞っていたそうだ。それを見つけたのは、親父の右腕であり、相棒であり、友人でもあった副船長だという」
キッドの目は、テーブルのボトルに注がれている。指先がボトルを揺らした。ちゃぷり、と水音がたつ。

「その夢を見た日から、親父の腹は徐々に膨らんでいった」

ーーー気が狂いそうな話だろ。わけのわからない夢を見た日から、腹がどんどん膨らんでいくんだ。得体の知れない何かがいる予感を抱えて、親父は海賊家業を続けた。
腹が膨らみだして九ヶ月を過ぎた頃、これ以上は船員に隠しきれないと、副船長を連れて親父は船を降りた。膨らんだ腹を抱え、副船長の男ととある街に隠れ住んだ。そこは、夜になると立っているだけで服まで濡れるような濃い霧が出る街だった。
ん?親父は気が触れなかったか、だって?いや、いたってまともだったらしい。阿呆なのか、肝が座ってるのか知らねぇが。まぁ、どんなことも楽しむような野郎だったらしい。
親父が夢を見た日から、一年が経ち、二年が経ち、三年と三ヶ月経った。そうしてとうとうその日はきた。叫び、のたうち回るような痛み……陣痛というやつらしい……痛くて痛くて、体中から汗が吹き出すが、親父も副船長の男もどうすることもできなかった。なぜか分かるか?……簡単だ、親父は勿論、野郎にはクソ出す穴以外ないからな!
そこで副船長の男は、よく研いだナイフで親父の腹をかっさばいた。
ーーーあぁ、もちろんだ。いたさ。そうでなければ、この話しは始まらなかった。親父の腹から出てきたさ。髪も歯も生え揃った血まみれの鬼子がなーーー

「それが俺だ」

ボトルの底で、酒が揺れた。ちゃぷり、と。窓の外でも絶えず続く波の音と同じ音。然らばそこにあるのは小さな海だろう。
「信じるか、キラー」
キッドの目が、愉しそうに細められ、キラーを試すように覗き込む。
「信じる信じないの問題ではない」
キラーは寄りかかっていた壁を離れ、グラスをキッドのボトルの横に置き、キッドの前に立った。
「お前が黒と言えば白も黒にする。お前が真実だと、言うか言わないかだ」
「卑怯な答えだな」
キッドはにやにやと笑い、キラーの首裏を両手で引き寄せ、口づけた。酒の味が交わされる。
キッドの肩から、重いコートがするりと落ちた。
「ところでキラー、お前と出会ってそろそろ三年と三ヶ月だな」
笑いと滑りを帯びた声が、熱い呼気と共にキラーの耳朶を掠めた。

ーーーナイフはよく研いでおけよ、キラー











人の子は、十月十日。
人でなしの子は、三年と三ヶ月。








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