Show must go on!


クレイジーフルーツ
2013/05/02 22:47 (0)


磨き上げられたカウンター、高い天井に鎮座するシャンデリア、重い天鵞絨のカーテン。どれも品よく、鼻につかないほどの高級感を漂わせている。
カウンターの奥には世界中の銘酒が並んでいるところをみると、ここはバーのようだが、深夜も近い酒屋の繁盛時だと言うのに、広い店内に人影は二つしかない。
店内の散らばるテーブルのうち、一番小さな丸テーブルが店の真ん中ある。そのテーブルに向かい合ってその二人は座っていた。

「今日はご機嫌だな」

桃色の派手なファーコートを纏う見上げるほど大きな人影は、椅子の背もたれが折れそうほど寄りかかり、組んだ膝の上で長い指を組んでいる。色の濃いサングラスで視線は読めないが、口元には笑顔が貼り付いている。
「そうか?」
胡散臭い笑みの男の声を受け、ワインをボトルで煽っていた赤毛の男が、ボトルから口を離した。赤毛の男の顔は目元も耳も真っ赤で、目は酒精に蕩けている。上着は着ておらず、芸術的な筋肉のついた背中が照明よりも白く照っていた。
どちらも目立つ格好と顔形で、品のある店内で、その二人ーーードフラミンゴとキッドが最も品がなかった。
キッドは酒が回って熱くなった指先で、テーブルの真ん中のフルーツをわし掴んだ。繊細な細工の彫られたくすんだ金のフルーツボールは、品のない男の乱暴にも寛容だ。いくつか掴んだフルーツは、キッドの目の前の真っ白な皿に散らばった。イチゴが三粒、巨峰が二粒。
「百万由旬の現に恋する兵どもが不燃ごみで築く楼閣に、那由多の玻璃瑠璃敷いた青空が、七宝眩む観世音の金剛を降り頻らせただけだ」
酒に酔っている割りにキッドの舌は滑らかに動き回っているが、言っていることは脈絡も文脈もなく、夢見るように上滑りのことを綴っている。
「まぁそれだけだな。それがなくともおれはいつでもご機嫌麗しいぜ」
キッドはそう嘯き、皿の横のナイフとフォークを手に取り、フォークでイチゴを押さえナイフでヘタを切り落とす。巨峰もフォークで押さえ、ナイフで切れ目を入れ、器用に皮を剥く。そうする必要は特にないのだが、ナイフとフォークの扱いは完璧だ。だが、片足はブーツのまま椅子に乗せ、片膝立ち。切り落としたへたや皮は床に投げ落としている。行儀がいいのか悪いのか。
ドフラミンゴはそんなキッドの様を、変わらず笑顔を貼り付けたまま眺めていた。
「なぁドフラミンゴ」
キッドはフォークに刺した巨峰を持ち上げた。フォークから水っぽい紫が滴る。ぱたっ、ぱたっ、とテーブルに濃い染みができた。そこから香るほんの少しのエロチシズム。巨峰は唇に消えた。

「ーーークレイジーフルーツの食い方を知ってるか?」

時折しゃくり上げながら、キッドはそう尋ねた。
「あ?クレイジーフルーツ?」
ドフラミンゴが初めて笑みを消し、不思議そうに首を傾げた。
「ヒクッ……ナイフもフォークも手を拭くナプキンもいらねぇぜ」
銀のフォークがイチゴをぐさりと突き刺す。顔を上げ、赤ら顔でキッドが笑っている。酔っぱらいの愉しげで、ふわふわとした目だ。

「そのままガブリ」

「ーーー!!」
キッドは突然席を立ち、テーブル越しのドフラミンゴの両頬を両手で押さえ、噛みつくようにキスをした。
キッドの手にはナイフとフォークを握ったままだ。刺されたばかりのイチゴも、フォークの先についたままになっている。串刺しのイチゴが柔らかな光りを浴びて煌めき、馬鹿みたいに真っ赤でかわいらしい。
ドフラミンゴの頬にはナイフとフォークの柄が当たっている。ヒヤリとした金属の感触と唇の酒精の熱さに現実感が浮わついていた。イチゴからこぼれた甘臭い汁がフォークを伝い、キッドの赤い爪を溶かしてドフラミンゴの頬を滑った。

「ふふ」
クスクスと笑いながら、キッドは唇と手を離した。
サングラスのずれたドフラミンゴは、ぽかりとした顔で、間近にある蕩けた酔っ払いの目を見つめるしかなかった。フォークに刺さったイチゴが、酒を移された唇に押し付けられた。
カランと音をたてフォークが皿に転がった。機嫌よく鼻歌を歌うキッドは、呆けるドフラミンゴを一人残し、ふらふらした足取りで店の出口に向かう。真っ白な皿の上でフォークに刺さったままのイチゴが静かに息を引き取った。







狂わせて、クレイジークレイジーフルーツ、クレイジークレイジーフォー・ユー♪



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