Going Under | ナノ
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【消えない炎】

※時系列的には無限列車あたりになります。
※悲恋・死ネタです
※救いがありません


 どうか、この温もりだけは絶やさないで。誰よりも強く、力強く自分を導いてくれたのは紛れもなく彼の存在だったから。そう、今の自分があるのは彼のお陰、そんな分かり切った事を。人は何故それを知りながらも何度も、何度も失うのか。
 そして、師範と過ごしていたあの日のかけがえのない二度と、永劫戻らない平穏な日々だったのだと。失ってから身を持って、知るのだった。

 かつての私は酷く怯えていた。獣のような、凍えた冷たい目を宿したまま、世界そのものを全てを恨んでいた。
 鬼に家族を殺され、それだけで済むならよかったのに、あろうことかその鬼は私の女としての大事な尊厳さえも殺し奪っていった。殺しはせずに弄んで蹂躙した。正直このまま生き恥を晒すなら、――……。
 それなのに、人間はどうしてこうも愚かにも、しがみつく生き物なのだろう。死ぬ勇気など無かった。死に場所を求めて鬼殺隊に入隊したが、この刀が自分の皮膚を切る感覚に震えて自ら命を絶つことも許されないまま。生き恥を晒しても「鬼に殺された、家族も、そして自分の女の部分さえも」叫んで声を枯らしても鬼などこの大正の世に存在しない、古い言い伝え、異常者と蔑まれ、誰もかれもが信じてくれないのに。

――「大丈夫か?? 手を貸そう!! 俺が来たからにはもう大丈夫だ。心配することは無い」

 そんな自分を取り巻いていたどす黒い復讐に染まる紅蓮の炎、それを一瞬で取っ払ったのは。確かに感じた命の果てに芽吹いた心、目の前にはまさに彼の生き様がありありと映し出されるまっすぐな瞳。

 あの人に拾われた命。だからこそ、今こうして成り立つ命があった。今こうして息をして他の誰でもない自分が自分のままで生きていられるのは紛れもなく彼のお陰であり、それ以外には何もないのだから。

 あの人はまるで燃え盛る炎のような人だった。
 強く燃え、そして、未来の為に、若い者たちの為に、つながれる思いを託して散って言った儚い命のような、人。

 私に触れる手の温度を、もう二度と忘れはしない。
 あの日の夢を、私は今も覚えている。いつか巡り合うその夢の果てに、きっと彼はいる、そう信じて、どうか微笑みを絶やさずに。何時までも心の果てに燃える炎のようなあなたの目を、今だって覚えている。初めての出会い、きっと何度も繰り返し望むこの景色。

――「海、聞けば君は両親を亡くしたそうだな。鬼に殺されてしまったと聞く。君だけが生き残った事も。だが、その事に関して君が泣いたり悔やんだり、悲しむことなどひとつもない!! 安心しろ。俺が傍で君を守ると約束する。君の面倒も過去も全て受け止めて傍に居よう!!」

 暗闇の中に閉ざされていた光を貫いて光に導いてくれたのは。私を照らしたのは、凛とした彼の存在だった。
 鬼にこの身体を穢され、それでもその憎しみを抱いて目を覚ました私には失うものはないと。それ以上の地獄など無いと、傷ついた私を癒したのは、気付けばすぐに引きずり込まれてしまいそうな深い深い底なし沼から救い出してくれたのは紛れもなく、あなただった。

 世界で一番尊敬するあなたはどんな鬼にだって負けやしない、私はそう信じている。
 だから、いつも一緒に行動していた師範と離れる事があるなんて、だって私はどんな時も近くで彼をお守りするのが仕事なのに。師範は私を危ない目に遭わせたくないと、私の同行を拒否した。こんなこと、初めてだった。

「師範!! どうしても……、行かなければならないのですか?」
「あぁ!! そうだ!! 派遣された隊士や一般隊士への影響も出始めている。ここはひとつ炎柱でもある俺の出番だろう!! もしかしたら上弦の鬼かもしれん、俺が確認のために行くことになっている!! 本当は君も一緒に連れて行きたいが、君は怪我をしているからな。不完全な状態ではないと万が一のようなこともある。今回は君は留守番だ。代わりに俺の父上と、千寿郎と一緒に居てくれ、くれぐれもよろしく頼む!!」
「はい、師範、分かりました!!」
「うむ!」
「師範が戻るまで、どうぞここは継子の私に、お任せください、必ず守り抜いてみせます」
「いい心がけだ、俺は君をとても片時も忘れずに見守っている。安心して任せよう!!」

 ここは私の今の居場所、そして私の大切な帰る場所でもある。今回は俺一人で十分だと、念を押し、私はその言葉に耳を傾けていた。そして彼は無限列車へと旅立つ。師範に負けない元気な声で返事をすると、師範・煉獄杏寿郎。彼は嬉しそうに微笑み返して大きな手で包むように、私の頭を撫でて、そしてその手が名残惜しむように頬を撫でて触れてくれた。

「待って、下さい」

 離れようとするその手の温度が二度と失われたら。そう思えば思う程に彼と離れがたく思うのはなぜか。その手の温もりに触れて、大きな手が私を包むようにいつも私の壊れてしまいそうな鬼への憎しみと私の女を奪った鬼への憎悪が解けていくようだった。

「そんな風に見つめられると、俺が君から離れられなくなりそうだ」
「構いません、」
「こういうことは、もっとちゃんとした時にちゃんとした場所で君に打ち明けようと思って居たんだがな、」

 鬼への憎しみを忘れる事は出来ない。だけど鬼とは関係なく彼に出逢えたことは私の人生の至上の喜びとして刻もうと思う。
 自分自身の標となるような。彼に出会えたことには感謝をいや、感謝だけでは到底足りないくらい。
 だけど、鬼さえ存在しなければ出会わなかったこの縁。結ばれた思い、私はきっと悔やんだりしない。

「君がこの炎柱の邸に来てからどれだけの時間が過ぎただろうか。俺と君はすっかり近しい仲になったと、そう思わないか!? 俺は思う!! 君が自ら命を絶とうとしたのを俺は何度も止めた、君は鬼に穢されたと泣いていても、その涙を俺はとても美しいと思う。君の鬼への憎しみの目が俺を見るとたまらず優しい目になる事がとても嬉しくもあった。今は俺が介錯する必要もない位に君はすっかり元気になった!! それに、君は、日に日に美しさを増していると俺は思う!! うかうかしていたら君は他の俺ではない男のものとなってしまいそうだ!! だから、俺は君を俺の海、だけにしてしまいたい」

 だからこそ、自分にこうして触れてくれる彼の手からは確かな力強さ、温かさをひしひしと感じて、ますます離れたくないと、このまま離れてしまう事への恐怖を感じた。切に願うのだった。どうか帰って来て欲しいと。それだけを望むからと。

「構いません。どうぞ、私を、あなただけのものに、してください! 師範、いえ杏寿郎……さん。誰よりも、あなたを、お慕いしております、最初はただ、あなたのお傍に居られるだけでよかったのに、今はもう、止められないくらい……好きなんです! あなたの継子でありながら、私はあなたを愛してしまいました」

 その証拠に、私の身体はまるで自分が必死に覚えようとしている炎の呼吸を纏うかのように、どす黒く熱い衝動が駆け抜けていくようだ。
 彼の斬撃のような大ぶりに見せ掛けとても繊細で一つ一つ細やかな炎が灯るように。

 気付けば、私は師範としてその名前の裏に隠せない慕情を秘めていた彼へ愛してるの文を綴るかのように、離れないように、彼を抱き締め返していたのだった。

 自分でも何をしているのか、実感してしまえば恥ずかしくなるのに、もう止められない。
 家族を殺されて、それだけでは鬼は飽き足らず。鬼に慰み者にされた身体を癒して欲しいと、彼の大きな手を引き寄せて自分の女の柔らかな部分へ押し当てると、はっ――、と、確かに目の前にいた師範がはっ、と息を詰まらせる声がした。

「海、結婚前の女がそのようなことをするは、あまり感心しないな」
「申し訳ありません、そうですよね……ご迷惑ですものね
「そう、じゃない。俺も男だ。あまり、煽るものじゃない……、そう、言っているんだ」

わざと、自分の身体の線がわかるように。今より多感だった頃に感じ始めた男たちの自分を舐めるような目線が嫌で、そんな矢先に鬼に襲撃され己の弱さを呪い続けたあの日の忘れたくても忘れられない記憶を思い出すから、それをどうにかかき消して欲しくて、普段剣を振るう時などは隠している肌のふくらみを誤魔化さずに彼の目の前でさらけだす。不安をかき消して欲しくて。そっと、逞しい彼の大きな手を自分の胸へ持って行くように導くと、目の前の師範の目つきが鋭いものへと変わったのを見逃さなかった。

「いいんだな?」
「……っ、は、い」

それはまるでいつかの歌舞伎座で見た獅子さながらのような気迫さえ感じられる。鮮やかな師範の髪がはらりと広がり、私を難なく抱き留めてしまう腕の力に抱き締めらると不思議と恐ろしく悪夢として時折襲ってくる過去の残像が次第に薄れていくようだった。

「君は、いつも鍛錬の時に仄かに香る匂いに俺はいつもあてられていた、理性を保たねばどうにかなりそうな程に、君は美しい、まるで花のようだ。この花をもし愛でるのが俺であるのなら、その時はどうか折れぬように慈しみながら触れたいと、常々思っていた所だ」
「んっ、……あっ、師範、もっと、抱いて、抱いてください!! 痛くはないです、すでに破瓜は終えているのですから……もう嫌なの、鬼に抱かれたこの身体が……汚い、醜い。だから、いっそ、このまま家族と同じ場所に、一思いに一緒に死んでしまいたかった。介錯無しでもいいから腹を切りこの命を……それなのに、死ぬのも怖い私は臆病で狡い人間なんです、辱めを受けたのにあなたに抱いてほしくて夜な夜な、ごめんなさい、みっともない、女なんです……」
「止めろ。お前を辱める鬼など俺がみんな必ずや骨の髄髄まで焼き尽くしてやる、だから泣くんじゃない。明日をもわからぬ命なら、今は俺だけを見てくれ。集中しろ、それに。俺の事はいい加減に「杏寿郎」と呼べ、俺もお前を男として抱く、だからお前も継子ではない、ただの、女になれ」
「あっ、」

 炎の呼吸の使い手でもある彼は、誰に対してもいつも堂々として、そして、心にも熱く燃えるような炎を宿して。
 だけど、その声は決して熱血漢で暑苦しさはない、いつだって耳に心地の良い声だった。自分が消えていた着流しを開かれると、すぐ露わになる素肌を見て鍛錬でお世辞にも美しいとは言えない肌を師範は綺麗だと、うっとりするように微笑みながら口づけを送る。ただ恋焦がれて止まなかった男の人が今こうして自分に覆いかぶさり、あぁ、何て幸せなのだろう。泣きたくなるくらいに切なくて、あえやかな声が口から洩れ、あふれ出す多福感に涙が止まらない。

「柔らかいな……お前の身体は、どこもかしこも」
「あっ、……んっ、いやっ、そんなに、じっくり見ないで……あの、明かりを、消してください、っ」
「駄目だ、余すことなく俺に見せろ。そうでなければ君を抱く意味が無いだろう。何も考えなくていい、俺に身を委ねて力を抜くんだ」
「はい……っ、あッん、ぅ、んむ……っ、」

言葉の途中で遮るように重ねられた唇の温度に浮かされて溶けそうなほど気持ちが良い。ずっと求めて居た彼からのキスはまるで炎の呼吸を纏った時のように身体が熱くなる。唇が離れ、二人の間を伝う銀糸が一夜だけでもいいからと、のめりこめと誘ってくる。

「あ、っ、きょうじゅろ、さ、そんな所……ダメですっ、」
「駄目じゃないだろう」

仰向けのまま、畳に敷いた一組の布団の上でまさかずっと夢にまで焦がれていた師範に抱かれるなんて夢にも思っていなかった。これが夢なら永遠に覚めなくてもいいとさえ感じる。私の上に伸し掛ると、その体格の良さが見なくても触れる事で直に感じられる。
しとげに身体をくねらせると、師範、杏寿郎はうっとりとした眼差しを浮かべて私を見つめていた。

「海、目を閉じるな。俺に集中しろ、」
「あっ、でも、こんな格好……でっ」
「恥ずかしがる必要などない!俺も恥ずかしくて火が出そうだ!」

炎柱邸には私と師範と要しかいないから、何が起きても誰も私達を邪魔する人間はいない、だからこそ、余すことなく上から射るように見つめる彼の眼差しに耐えきれずに首を横に振る。
彼の生きている証を、音が聞こえる。鍛え抜かれた厚い胸板に触れる事で感じる。
それは一定の感覚で刻み、高鳴りに合わせて彼の呼吸も乱れていく。

「杏寿郎……」

彼の名前をただ、呼ぶ。それだけなのに、下半身から熱を帯びて熱くたまらなくなって、痛みだけが残された行為に確かな変化をもたらした。

「海……力を抜いて俺に身を委ねてみろ」
「ぁ!ッン、……!」
「そうだ、いい子だな、」

まるで稽古の時のようにいい出来だと頭をひと撫され、ときめかない訳が無い。

「もう……あッん、はぁう、ん! んぁっ、んっ」
「そうだ……もっとだ……」

覆い被さる身体押しつぶされそうな圧迫感を感じるのは、彼も着流しを気付けば脱ぎ捨てお互い身に纏うものはない。薄明かりの下両手首を片手で抑えられてしまえば私を隠すものは何も無い。
むき出しの身体を晒して、裸の胸に私の胸が潰されると、そのままむき出しの両胸の尖りに、彼の舌が這い回る。

「んん〜〜!!」
「声を抑えるんじゃない、俺しか見せないのなら、俺だけに聞かせて貰えないか、」
「あっ、っ、んっ、あっ……!」

いつもの声調とは違う師範、杏寿郎さんの声に次第に上擦った声が彼の耳へ吸い込まれ、くちゅくちゅとはずかしい音に聴覚を支配される。
彼の空いた手が胸の先端を弄り回し。時折唇で愛撫されて、舌で突起をねろねろとこねくり回されどんどん張りを持ち硬さを帯びていくようで。
銀糸を伝い離れる唇から漏れる息が次第に激しさを増していく。もう止められない、彼の腕の中でこのまま一生を終えても構わないとさえ感じる程に求めている。欲している。

「ん…っ!ああぁっ、はぁーッ…やぁ、んあっ、」
「そんな声を出すな、止められなくなる……加減が出来なくなりそうだ、あぁ、もう遅いが……許してくれ」
「んあっ、あん、っ、ひっ、うぅ、」

布団の上でまぐあい、胸の愛撫を執拗に受け腰から下がまるで雷でも落ちたような鋭い衝撃が走る、気持ちがいい、上も下も関係なく、互いに獣のように求め合う。これが刹那だと、わかっているから?それとも?めちゃめちゃにされて、思考が回る。このままではおかしくなりそうだ。

「あっ……んっ、ひあっ!ああっ」
「あぁ、可愛いなお前は……素直で、たまらん。好きだ、海……鬼に穢された記憶がお前の笑顔を曇らせるなら俺がその笑顔を照らしてやろう……あぁ、もう俺も我慢の限界だ……っ!」
「あっ、だ、めぇ…っそこ、っやぁ…っ! ひっ、んんッ…!?」
「もう、待てん、辛抱してくれ」

その瞬間、ぱかりと開かれた膝の間に割り込んできた逞しい肉体が恥ずかしさと反射的に太腿とピタリと閉じようとしていた自分を遮り、彼の指先が確かめるように自分の下肢の間に滑り込んでくる。

くば……と開かれたそこは既に赤くヒクヒクとしとどに濡れており、別の生き物みたいだ。恥ずかしくてさっと顔を赤らめる前にぬるりと愛液を纏った彼の中指が奥深くまで侵入して内臓を突かれたような衝動にもんどりうつ、いつも自分で慰める時よりも太い、彼の男らしい指がゆっくり、確かめるように何度も何度も往復すると、求めに応じてどんどん溢れ、卑猥な水音がぬちゃぬちゃと音を立てて耳を侵していく、その音に余計に興奮を掻き立てられて恥ずかしいのにやめてほしくないとさえ思ってしまう。

「んっ、っ、あっ、はっ、」
「気持ちいいのか、そうなのか、海」
「はい、っ、んっ、奥が、切なくて……っ、も、欲しいです」
「もう、か? いいのだろうか、まだ痛むかもしれないぞ、」
「でも、こんなにも濡れています……」

次第に増えていく指と飛び散る愛液が恥ずかしい、布団はきっともう濡れてしまっている。こんなに早くもう死と度に濡れているなら、きっともう見抜かれてしまっているはず、夜な夜な、一人で……。

「だが、これだけ濡れていても内部まではどうなっているのか君には分かるまい。奥がまだ濡れていないかもしれないだろう、それでもいいとお前は、言うのか」
「はい……大丈夫です、痛みなら耐えてきました。あなたも、もう限界ではないのですか……?」
「むぅ……」

ぐっと下唇を噛み締め堪えているその姿に彼の中の男を感じ、いつも堂々としている彼もこうして服を脱ぎ捨て裸になって求め合えばありのままの彼の姿にどうしようもなく惹かれるし、その先を見たいのだと、望んでします。指で拡げられた入り口からは自分でもわかるくらいに愛液がまるで枯れない泉のように溢れている。彼が音を立ててぬぽっ、と愛液を纏わせた指を引き抜くと待ちきれずに居た彼の自身が下肢から飛び出し、その熱の大きさに確かに慣らしておかないとその太さを受け入れるには痛みを覚えてしまいそうだと感じていた。

「だが駄目だ、もっとよく慣らしてからだ、さぁっ」
「あっ、杏寿郎……!」

過去の受けた痛みさえ断ち切るように、彼の鮮やかな緋色混じりに輝く金髪が私の下肢の間に埋まったのだ。そして、あろうことか彼は当たり前のように下肢の間に顔を埋め粘着質な舌を往復させて入り口付近を彼の舌で何度も何度も往復させたのだ。ぬぽぬぽっ、と音を立て死と度に濡れた秘所から溢れる愛液が止まらない、腰を跳ねさせ、どうにかその強すぎる快楽から逃れようとしても腰をがっちり抑えられ、浮くたびに腰が押さえつけられる。

「ひぁあ……っ! ん…っ!んんん…っ!はぁーッ…もうやん……っ!!! んやあぁッ!! もぉっ、ぁッんっ、気持ち、声、我慢、できなっ、」
「フー、フーっ、いい。そうだ、我慢……するなっ、聞かせろ、」

声をかき消すような粘着質な水音が止まらない。肌を重ねた事で私が彼に訓練でいつも負けてしまう様に、お互いに感じる体格差が嫌いではなかった。彼が男で、そして自分が女であることが、こんなにも喜ばしい。
身体を繋ぐ手段を持つことが出来たから私の身体は鬼に穢された、だけど、こうして彼に抱かれた事で私は過去を克服することが出来た、彼と共に歩んでいきたい。

「俺は、君を抱く、だが、それを一夜だけの仮初とは思わないでくれ、俺が傍に居よう、誰よりも君の傍に……! 責任は取る! 俺を受け入れてくれ」
「嬉しい、私、幸せです……私をあなたのものにしてくださ、――んぁっ、は、あっっ、いあああっ!!」

ズン!! と、まるで上から串刺しにされたような衝動が腹の裏を突き破る。あまりの激しさに勢いを増し貫かれた熱量と衝動に襲われ背を仰け反らしてつま先を思いきり反り返らせ叫んでしまった。
彼のような逞しさを持つ剛直の硬さと熱さに声をあげられずにはいられなかったのだ。

「っ、……ン、海……」
「あっ、はっ、ううっん、っ」
「狭いな……少しこのままにしておこう」
「はっ、ァ、んっ」

みっちりと栓をされたように膣口を埋める熱量。圧倒されてしまいそうな質量が何度も何度も腹の内側を突き破る様に最初は確かめるようだった動きから次第に激しさを増していく。

「よもやよもやだな、はっはっはっ、腰が無意識に動いている……うっ、締りもいい、気持ちが良くて俺が待てん、初めてつながるのに優しくしてやれなくて済まない、」
「んっ、だって……我慢、できなっ、ぁ、はぁ、 あっ、んあぁう」

自分を弟子ではなく女として見てくれていると思うと多福感が止まらない。両足を高々と掲げ、そのまま軽々と彼の逞しい肩に自分の膝がかけられる。

「じゃあもっと腰を振らねばなっ、ほら……!! ヒッッ!! アッ、ンンンッ、や、気持ち、いッ」
「うむ! いい反応だ!! お前は順応性が高い、今お前を貫いているのは醜い鬼ではない、俺だ、俺の目を見ると良い、」
「あぁ〜〜!!! ひぁああっ、んぁっ、ああっ」

それだけで興奮材料になり、お互いの下肢の間はもう私の愛液だけで酷い有様となっている。何度も何度往復し、ぶつかり合う肌と肌、粘着質な音に滴る愛液、臀部を伝い乱れるシーツに擦れる彼の膝がする切れてしまうのではと過ぎる不安さえもかき消す衝動がお互いを繋ぐ。

「アッ、んんっ」
「ん…っ、気持ち良さそうだ、は、あっ、俺も、もう……」
「あ、ぁっ、んっ、も、もっと……突いて、ああっ、ンぁ――!!」

そして、彼の身体が寒くも無い、むしろ交わり汗ばんでいるのに震えはじめたと思えば思いきりズドン!と、一突きされ、やがてビクビクと震えながらどっぷどっぷと注がれる彼の熱を肌で温度を膣口が感じられなくても彼の注がれる熱の迸りは感じられる。
暫く交わっていたと思えば夢中の果てに、彼が果てたのだと知ると、そのままくたりと脱力し、汗ばんだ肌が覆いかぶさる中お互いにまだ離れがたいと差し伸べられた舌と舌で絡めあい口づけを交わした。

「辛くないか。身体は平気か、」
「は、あっ、へ、いきです……アッ、んっ、抜くの、いや……まだ、」
「だが、これ以上無理をさせる訳には」
「いいんです、どうかもっと、抱いてください」

 抱き締めていた私の腕をそっと引いて。強請るような目をする私を彼は微笑みながら頬を撫でる。旅立っていく彼をどうか離れても守れるように願いを込め今度は自ら彼の上に馬乗りになって腰を振り続けた。





「要、どうしたの? 要??」

 彼は、鬼に穢された私にそっと触れて。抱き締める腕の強さ。それだけを残して……。そして、安らかに天国へと旅立って行った。未だ若い身の上の彼は、温もりだけ残して。立派な最期だったと、それだけ。約束通りに戻って来たのは無言の彼と、彼の鎹鴉だった。

 ――「海、お前は誰よりも幸せになって欲しい! 君なら過去を必ず乗り越えられる筈だ。辛いなら俺に頼ればいい、それでもいい、俺が受け止める。だから、どうか、自分も死ねばよかったなど、そんな悲しい事は言わないでくれ。それだけを俺は願っている!!」
「師範、師範ッ……!!」

 遺書の中から出て来たのは、思わず息を呑んだ。もう二度と帰らない彼を思えば思う程辛く悲しいだけなのに、待ち焦がれていた景色はもう何も見えない。閉ざされた私の世界はもう二度と、開かれることは無い。

「あ、あああっ、うああああっ――……!!」

 どうして、何で、どうして彼が死ななければならなかったの? まだこれからの人生。先は長く、華々しく輝ける未来があったのに。
 私には彼という道しるべしか存在しないと言うのに。もう二度と誰も失いたくない、その為に振り上げた刀は、誰へ向ければいいの?

――「俺が、俺が居ながら助けられなかったんです!! 本当にすみませんでした……!!」

 師範の鎹鴉に導かれて屋敷に訪れた少年をつい責め立てる自分の浅ましさに嫌になる、雷鳴がとどろき、あの人の居ないこの世界がまるで本当に暗闇に閉ざされてしまったようだと感じていた。

 あの人を無くした悲しみに囚われてしまえば何もかも見えなくなる、私は悲しみを振り払う様に必死に刀を振り続けた。
 あの人がいない邸は広く寂しく、私に触れてくれた一陣の炎のような熱が、身体を貫いていった瞬間の衝撃が忘れられなくて。まるで吹き荒れた炎のように。激しく燃え落ちた彼の命を模した羽織で彼に抱き締められるのを夢見たように焦がれて沈弱していた。
 彼の思い出に逃げる事しか出来なかった彼の光が無ければとても弱い私は、戦う事も、上弦の鬼に自ら戦いを挑み復讐することも、彼の後を追う事も出来ずに顔を埋め、あなたの居ない現実など受け入れられそうにも無いからと自慰行為に耽るようになった。

「はぁ、っ、あっ、んっ、一人じゃ、自分の指じゃ、気持ち良くない、杏寿郎ッ、あなたじゃなきゃ果てられない、満たされないのよ、感じられないの……っ!!」

 あなたがこれまで導いてくれた私の人生、これからどうやって歩いていけばいいのか、答えをひとりでは見つけられないまま、もう二度とあの笑顔には触れられない。そして、あの人がいないその重苦しい現実が。閉ざされた私の人生へ深い影をもたらすべく再び、やって来たのだった。

「なんで、なんで、っ……!きょじゅろ、杏寿郎……っ、ぁああああっ、うあああああ――!!!」

Fin.



【消えない炎】

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