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【Attendre et espérer!】

「果報は寝て待て」という言葉の通り、願ってやまなかったチャンスは突如として男の前に舞い降りた。天使はとうとう彼に微笑んだのだ。

 ***

 ――「アッカーマン、電話か? 鳴ってんぞ〜」
「はい、すみません。(チッ、誰だ? こんな仕事中によこして来やがんのは)」
「もしかして……彼女か?」
「……いえ、」

 仕事中のデスクの傍らに置いていたスマートフォンから鳴り響いた振動に耳を澄ませ、男は一体誰だと怪訝そうに元々不機嫌そうに見える顔を歪める。
 ディスプレイを見れば画面に映っていた「海」その単語に迷うことなくその無機質な輝きを放つ板に手を伸ばした。

「あぁ、どうした」

 職場でも電話や来客の対応をしても滅多に笑わない男のその口元には微かに笑みが浮かんでいた。

 ***

「それでね、リヴァイ!! も〜聞いてよ本当に!! 最っ悪!! あの男、本当に最後まで……」

 だんっ、と乱暴に置かれたのはチェーン店によくある巨大なグラスジョッキ。それを横目にしながらリヴァイは電子煙草をくゆらせ汗をかいたグラスジョッキの向こう側にいるスーツ姿の海に目線を向けた。
 海はこっちが見ても明らかなくらいに泣き腫らした瞳でリヴァイに縋り付くようにその涙の理由をぶちまけていた。

「信じらんない、あいつ浮気してたの!! こっちは必死に毎日働いて誕生日のプレゼントとかも用意していたのに!!」
「そうか、そりゃあ残念だったな、」
「サプライズしようと思って隠れていたらあいつ他の女を家に連れ込んでそれはもうずいぶん巨乳のっ……も〜許せない!! 今日はじゃんじゃん飲んで忘れてやるんだからリヴァイも付き合いなさいよ!!」
「仕方ねぇな、」

 涙ながらに抑えきれない悲しみを訴え、やけ酒にビールを煽る海。
 そんな彼女を横目にリヴァイは電子タバコを吸いながら彼女のやけ酒に付き合わされている。
テーブルの向こう側の海のブラウスは半端に胸元が開いており、そのまま屈めば谷間が見えそうだ。上目遣いで涙目で自分を見つめる姿に彼女はもしかして自分を誘っているのではないかと錯覚を覚える。しかし、それは全て違うと言える。
 なぜなら彼女とは中学時代からの同級生でイザベルやファーランと並んで長い付き合いだし、あくまで自分は彼女にとって自分はただの聞き役、良き友人でしかないのだ。
 これまでも彼女が付き合う男たちは皆趣味が悪く、浮気・DV・ギャンブル・酒癖・エトセトラ、エトセトラ。と、とにかく付き合ってみないと確かにその人間の本質までは分からないものだが、彼女が選ぶ男はどいつもこいつもクズの極みばかりで彼女はとにかく男運が無い。と言うか見る目が無いと言うのか。

 元々女関係に疎く恋愛経験も無いわけではなかったが今は独り身のリヴァイですらそう思うのだから間違いない。
 そして、彼女に新しい恋が生まれ、割と短期間で盛り上がったかと思えばすぐその恋が終わりを迎えていた。その度に自分はこうしてチェーン店の安い居酒屋に呼び出され、延々とやけ酒に付き合わされるのだ。

 頬杖をついて相槌を打ちながら、リヴァイは口元を抑え込みながら少し飲みすぎだと彼女に指摘しつつもトイレに行ってくると食事の最中に立ち上がった既に酩酊状態の海を見届ける。

 そして、フラフラとした足取りの彼女がテーブルから姿を消すと、そのテーブルの下では、やたらとニヤけそうになるその口元を誤魔化すように心の中では思わずガッツポーズを決めていた。
 彼女には申し訳ないが、失恋する度に自分を呼び出すその呼び出し電話は彼にとっては願ってもない嬉しいニュースなのだ。
 とうとう待ち焦がれたチャンスが来たのだ。これで彼女と自分を邪魔する人間は誰もいない。
 夏のはじまり、素晴らしいチャンスの訪れにリヴァイはあくまで自然な態度で彼女の聞き役に徹するが、本心では、ガッツポーズを決めている。
 彼女は深刻に悩んでいるのに、自分は彼女が男に振られた事が嬉しくてたまらないと言わんばかりに。

「毎回飲みすぎなんだよお前は、ゲロでも吐いてすっきりしたか?」
「うっ、だって仕方ないじゃない、飲まなくちゃやってられないんだもん」
「言わんこっちゃねぇな。さっきまで赤かったのに今度は真っ青じゃねぇか」

 正直言ってニヤニヤが止まらない。いつもこうして彼女の話し相手と称して傍にいた、だが傷つくのが怖くて、この関係から先に踏み出せなくて。自分が口にしてしまえばこの関係は破綻してしまうのではないかと、いつか終わる男女の関係ならば半永久的に続く友人としての付き合いに誤魔化して逃げてばかりいたのだ。
 思いを伝える事も出来ず、今まで彼女が他の男に傷つけられるのを黙って見てきた。
 だが、もう自らこの感情を抑制する事はしないと今夜誓う。
 緩んだ表情を頬杖で隠しきれない程に今この気持ちは最高潮に盛り上がっている。
 ニヤけたその表情を真一文字に引き結んだ唇でどうにか誤魔化している状態だが、青い顔で今にもその場に倒れてしまいそうな海を自然でスマートな立ち振る舞いでリヴァイの逞しい腕が支えた。

「もう泣くんじゃねぇよ」
「え……」

 泣き腫らしたのだろう、顔色は青白いが、瞳は擦った証で赤く腫れており充血している。アルコールの効果もあり尚更痛々しく見える。恋しい女だからかもしれないが、それでもリヴァイは彼女の悲痛な顔を見て心に決める。

「俺にしろ、俺を選べ。海」
「リヴァイ……え?」
「俺なら、お前を絶対に泣かせたりしねぇ」

 男がずっと、ずっと、この日のために待ちわびて、そして用意した口説き台詞。
 見事に決まった。悲しみに暮れる海はリヴァイから差し出された提案を、そっと目を閉じて彼の逞しい腕の中に包まれ。その力強い温もりの中そっと小さく頷くのだった。

 ***

「ぅ、……ん、っふ、……ッ」

 そこから彼女を抱き寄せてすぐに、タクシーに乗り込んだ。行き先を告げて向かったのは、一人暮らしのアパート。
 行為の為にあるようなネオン街にある誰が使ったかわからないホテルなど使いたくない。求めるがまま、なされるがままに身を委ねてきた彼女を抱き寄せ、二人はなだれ込むようにしけこんだ。

 彼女が自分に応じて腕を回してくる。2人は手を繋ぎ指と指を絡ませて紡ぎあった。例え、一時の寂しさを満たすためとはいえ、彼女の涙の理由、そして失恋の傷に付け込んだ自分はここに至るまで種を撒いてきた、その種を今こそ刈り取る時だと。
 傷ついた彼女の心の弱さに付け込んだ自分は策士だろうか、卑怯だろうか。後ろめたさが全くゼロなわけではない。
 しかし、この瞬間を狙っていた自分は溢れるこの感情を抑えることが出来ない。

「リヴァイ……あの……」
「ずっと、お前とこうしたかった……」

 リヴァイはごく自然な流れでこの行為に持ち込むことに成功した。その対象である海。まるで壊れ物を扱うかのように抱き上げそっと組み敷くと、彼女に初めてキスを落とし、二人は深く深くキスを交わし、そして結ばれた。そっと微笑みを浮かべるリヴァイの見た事もない表情に目を奪われる。
 下着の上から、やわやわと見た目より大きなその手で胸を揉みしだかれてしまえば、何も考えられなくなる。しかもその相手がまさか気心知れた元・友人だとは。
 滅多に笑みを浮かべないリヴァイの笑顔に海は傷ついていた自分の気持ちを包んでくれた彼にすっかり心奪われていた。
 不思議と嫌ではなくて、求められることがこんなにも嬉しいのだと気付く。

「何だか、変な感じ、がする……今まで、一緒に飲んだり騒いだりしてきたのに、リヴァイとは決して「そんな関係」には、ならない。って、思っていたのに……」
「嫌か? 俺と「そんな関係」になるのは」

 ほんの少しの期待の中に隠せない罪悪感が湧き出る。しかし、此処まで来て退くようなそんなマヌケな真似はしない、彼女の指先を絡めながら涙を流しながら自分の首に腕を回してくる愛おしい存在を引き寄せる。

「そんなことない……」

 ずっと仲のいい友人としてやってきた。彼女の恋愛の愚痴を聞くのは慣れっこだ。しかし、もう我慢できない。
 目の前の彼女から酒の匂いの中に漂ういつものいい香り、自分はまるでその香りに引き寄せられた昆虫だ。
 このまま彼女に捕食されても構わない。違う、数え切れない種を撒き芽が出た、そう、自分が彼女を今から捕食するのだ。

 緻密に罠を仕掛けて今ようやくばら撒いた種は芽吹きの時を迎える。そして、成就する思いがある。見事に彼女はその仕掛けた罠に引き寄せられた。
 これから彼女を自分の思いのままに彼女を抱くと言うのに海が身に纏っていた衣服を取り去ったその時、自分が想像していたのは中学時代のままの平面が目立つ海の身体。
 しかし、今目の前に広がって居たのは紛れもなく成人して今が一番女の魅力が溢れる年代である海の身体はリヴァイにはとても魅力的に見えた。

「待って、リヴァイって、その、童貞じゃないよね?」
「……あ? 馬鹿かてめぇ。誰が童貞だ。いくら何でも、俺を馬鹿にしすぎだ」
「だって、リヴァイって中学の時から全然女の人に興味無さそうだったし、」
「そう見えただけだろうが、馬鹿にしてんのか」
「ちっ、ちちち違うよっ、」

 単刀直入に質問を投げかけられたリヴァイが怪訝そうに眉を顰めた。童貞ではないと言え経験が豊富かと聞かれればそうではない。
 だが、経験以上の愛で補い彼女を抱くつもりだ。リヴァイは裸の彼女を前にしてやけにその魅惑的なウエストのくびれに目を奪われていた。

「(いつまでもガキだと思っていたが……違う、俺がいつまでも中学時代のあいつのままで見ていただけだ。もうガキでもねぇのに、こいつはもうとっくに一人前の女なのに、あれから何年経ってると思ってんだ)」

 海も手伝いながら自身も居酒屋の匂いのするスーツを脱ぎ捨て裸でベッドで抱き合い見つめ合う。なんだか照れ臭い気がするのを誤魔化すように、二人は男女となって結ばれた。

「んぅっ、あっ、っ、……!!」
「痛くねぇか」
「っ、あ、痛く……、ないよ、」
「だろうな、ここは随分良さそうだ」

 裸の身体に覆いかぶさる同じく裸の彼のずっしりとした筋肉を纏った肉体の重みに驚きながら、常に鍛えている彼の身体はまるで彫刻のように美しかった。
 今まで幾度も色んな男と肌を重ねる行為をしてきたが、皆、自分の欲求が満たされればそれで満足するような最低な男達で、中には避妊すらめんどくさがる男もいたことを思い出す。
 そういう人間に限って生理が来ないと言えば慌てふためいて逃げて行くくせに。

「触るぞ」
「えっ、」

 触れた部分からじんわりと彼の温度が伝わる。アルコールが二人の緊張を解きほぐしていく。 付き合いの長い二人がただの友人から、恋人に変わるのに時間はかからなかった。
 彼の女になればきっと自分は幸せになれるのではないか、そんな気持ちも少なからずあったのだ。

「んぅっ、あっ、」

 武骨な指先で触れられた箇所から敏感に反応する自分の身体はとても素直にその快楽を享受した。
 リヴァイの事を今までただの同級生として全く意識したことが無かったと言えば嘘になるが、本当はよく見れば綺麗な顔だったり、神経質そうな指先が行為の時はどんな風になるのか、興味を抱いた事はあったのだ。
 ただ彼は自分とは友人関係でそのままの関係で大人になってからも仲間達とつるんで時々集まっていたから。
 今こうして彼と恋仲になってしまった、男女の関係になりその関係が壊れてしまう事がどうしても嫌だったのもある。
 付き合うだとか、そんな次元に居る以上に彼とこれまで築いてきた関係を壊したくなかった。

「ダメ、おかしくなりそう……変な声が……」
「それでいい、出しちまえ」

 しかし、彼が触れる指先は思った以上に繊細だった。力任せに、乱暴に、何度も何度も繊細な部分を往復され、いつも苦痛を伴い気持ち良さよりは相手に嫌われたくないからと言う思いで耐えていた。
 ただ痛いだけだった行為が彼の手で塗り替えられていく。そして彼の全身が訴えていた。もう回り道をする必要は無いのだと、「彼女」になればいいと。

「はっ、あっ、ん〜〜ッッ!!」

 彼女の柔らかな胸を丹念に揉みしだき、硬く起立する先端を散々舌で舐ったリヴァイの目線が辿るように下へと注がれていくが、綺麗なウエストのクビレに行為に没頭したいのにやけに目について気が散りそうだ。
 失恋で弱った彼女の心にごく自然に。そして自分だけの海にすると決め、入念に計画したと言うのに、目の前の生の彼女をいざ抱けると思うとらしくもなく緊張が走る。
 さんざん彼の唇が肌を辿ればぐちゅりと彼の指が胎内に埋め込まれていくが、決して痛みはない。ゆっくり確かめるよう胸の愛撫とアルコールで潤う胎内からじわじわ溢れる愛液を引き出していく。

「あっ、ふぁっ、んあぁっ」

 浅い部分で往復し、くちゅくちゅと音を立てて愛液を掻き出せば彼女の身体はみるみるうちに愛液を分泌させ、増えていく彼の指をスムーズに受け入れ始める。
 胎内の入り口の上のざらついた部分をひっかけるようにぐりぐりと刺激されれば腰が無意識に浮いて、もっと、と強請るように揺れる。

「は、あ……!! っ、んっ、……ひッ!」

 そして愛液で濡れた親指がその入口の上の敏感な突起を擦る。
 そうすればたちまち二重の快楽に犯され海は甘く仰け反ってたまらず声を発した。
 思った以上に彼の持つテクニックのその気持ちよさに変になりそうで。痛いだけの指の愛撫が変わる。今まで付き合ってきた歴代の男達でこんな風に丁寧に前戯をしてくれる人などいなかった、

「っんぅ!? ふ、ん、んっ…え…? や、あぁああっ!!!」

 じゅっ、と音を立ててリヴァイは躊躇わずにそこに吸い付いた。
 何をするにしても潔癖症が付きまとっていた彼だが、それは彼女の前では消えたのか。クリトリスに歯を立てながら舌全体で膣の入口をべろりと舐め上げているのだ。その光景に海は目を見開く。
 そのまま愛液を纏った指が引き抜かれて――……。

「ひ、ぁ……っ!!」

 気付いた時には既に三本の指で柔らかく解され、ぽっかり空いた彼女の膣口にそのまま彼の屹立の先が宛がわれていた。
 最近まで違う男の粗末なものを受け入れていたので痛みもなくスムーズに埋め込まれぐちぐちと、確かめるように、秘部に馴染ませるように塗り付けそしてようやく二人は繋がり合った。

「んっ、うううんっ……!!!」
「は、痛くねぇか?」
「うん……っ、痛くない、よ……リヴァイ」

 長らく拗らせそして成就した思い。幸せな瞬間である筈なのに、ずっと、彼女が他の男と付き合っては別れる度に伝えたかった思いをようやく打ち明けることが出来、リヴァイは心も体も満たされた。しかし、恋の痛手に傷ついた彼女の弱みに漬け込んたような気がして、卑怯な手で自分は彼女を抱いたのではないか?そんな疑問符が浮かぶ中、違う、誰も傷ついていないと。リヴァイはこの感情はなんの偽りもないと正当化する。
 二度と来ない今年の夏は、いつもより楽しくなりそうだ。
 男は海をあらゆる体位で抱き潰す勢いで抱いた。そして抱き締めながら幸運の天使がくれたこのひとつだけの芽生えた思いを噛み締め再び海を空が明らむまで飽きることなく求めるのだった。

 今、彼の撒いた種からようやく一つの芽が出た。

 Fin.
いつもお世話になっている真琳さんへ!お誕生日おめでとうございます!!
【Attendre et espérer!】

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