Going Under | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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【×Setsubun×Dressing room】

 冬の寒さの一番のピークであり、終盤でもある二月は身体の深々まで凍えるほど寒い。
 体脂肪率一桁の男にとって寒さは本当に敵そのものである。
 無意識に身体に力が入り、こんな時は温かな湯船につかり、心行くまで温まりたいものだ。
 子供体温である愛する妻を抱き締めて眠ろうか、そんなことを思いながらリヴァイは厚手のコートを身に纏い帰宅した。

「帰ったぞ」
「はーい、お帰りなさい」

 オートロックを解除して迎えてくれるのは自分よりもだいぶ年下の愛しい妻。
 二人の日々もあっという間に過ぎ、気付けば今年もまた新たな年が明けたなと思えば、いつの間にか新年が明けて一カ月が過ぎ、心躍るイベントが目白押しの二月を迎えていた。
 年齢を重ねると一年が本当にあっという間に過ぎていくなと感じながら、リヴァイはいつも自分が帰ってくると嬉しそうな声でお帰りなさいと迎えてくれる海を抱き締めて、肌を重ねて毎日抱かずとも繋がらずとも、その柔らかなぬくもりを心ゆくまで感じたいと思った。
 もし、彼女が犬だとしたら間違いなく尻尾を振り乱して喜んで駆け寄ってくるだろうなと、愛らしい眼差しがいつも自分を見て、そしてはにかんだように微笑んでくれるその笑みを思い浮かべ、そんなことをぼんやりと感じていた。

「あ?」

 しかし、今日の彼女はいつもと違う。いつも玄関まで迎えに来るのに今日は彼女の声は廊下の向こうのリビングから聞こえる。
 そしてつんとした鼻に突く匂い、一体何をしているのだろう。
 厚手のコートとスーツを除菌スプレーで除菌し、そのまま洗面所に向かう。
 手を洗い、うがいを徹底的に済ませ、そのままひとまず冷えた身体をシャワーで温めながら着替えを終えると、何やらリビングの前のドアに突っ立ったまま動かない直立不動の小さな背中が見えた。
 一体何を企んでいるのかと、そのままスルーでもしようかと思ったが、きっとそうすればへそを曲げるに違いないので仕方ないから付き合ってやるかと、リヴァイがため息をついて肩を掴むと……。

「オイ、何してんだ、」
「ガオ――!! 鬼だぞ!!」
「……あぁ、鬼だな」
「どう?びっくりした?」
「(疲れた……)」

 仕方なく悪ふざけに付きあうか、と。仕事て忙殺されくたくたなのだが、師走の繁忙期を抜け、決算期までのこの時期は特に暇なのでいつもよりは相手をする余裕もある。
 声を掛けた瞬間、突然振り向いた海は思いきり両手を上げて大きな声でそう自分を脅かそうとしたいつもきれいにケアをしている素顔はどこか人を馬鹿にしたようなキャラクターの鬼のお面で隠されている。
 身に着けているのは勿論この時期に相応しい鬼が履いているとよくモチーフとなっているあのアニメキャラも身に着けている黄色に黒が濃く浮かび上がった獰猛な動物の柄。
 しかし、元より表情筋が死んでいるクールな三十路男が驚いて派手なリアクションを見せる訳でもない。
 呆然と立ち尽くす風呂上がりのいつもセットした前髪が垂れ下がったままの男は海を見てイベントごとにやたらと自分を巻き込んで盛り上がるアッカーマン家となりつつある今日が何の日かを知るのだった。

「随分と小せぇ強盗が入ったかと思ったじゃねぇか」
「むっ、小さいは余計ですよ。リヴァイ、帰宅したらちょうどお風呂に行くと思ってたので待ち構えてて正解でした、今日は豆まきの日ですよ? 恵方巻手作りで今日は頑張ろうかと思って色々準備してたんです。あ、もちろん窓全開で今年の悪いものぜーんぶ、豆まきしてお祓いしましょう?」
「オイ、今外気温何度だと思ってんだ。凍え死ぬぞ」
「あら、こっち全然雪降ってないし、コート要らないくらい暖かいのになーに弱気な事言ってんですか、私の田舎なんて大雪の中お父さん半そでで鬼の格好して豆まきしてくれましたよ」
「お前な……親父と一緒にすんなよ……」

 ぱたぱたとスリッパを鳴らして。自分をリビングへ押し込むとそのままダイニングテーブルの上では色とりどりの今日の日の為に海が準備した恵方巻に使う具材が並んでいる。

「リヴァイは何味にします? 海鮮系に揚げ物系にそれとも王道の七品目の恵方巻もありますよ」

 さっき玄関に入った時につんと鼻を突くような匂いがしたのは酢飯せいだと理解し、リヴァイはそのまま海の向かい側のダイニングテーブルの椅子に腰かけ、海鮮系は生臭いのが苦手なので、ひとまず王道の七品目にしたのだった。

「オーダー入りました!!」

 今日の海はいつもより上機嫌でさっそく恵方巻作りに取り掛かる。
 無意識だろうか、くびれた腰を振り、鼻歌交じりに笑顔で振舞う海が居るとこの部屋の空気もすっかり彼女の色に染まり、ほんのり頬が赤い海はきっと先に自分に内緒で一杯ひっかけたなと獣並みに勘のいいリヴァイはすぐに察知した。

「どのくらいの太さと長さにします?」
「普通でいい。気合い入れるなよ。デケェのは顎が外れちまうだろうが」
「そうですよねっ、恵方巻丸かじりするのにあまひにも長くて太いとお口に入りませんもんね、」

 サラッと、口にした海は何のことか分かっていない。リヴァイにはその言葉が先週末の彼女とのめくるめく深夜の情事を思い起こさせた。

 ――「リヴァイ、」

 甘く、蕩けるような、めくるめく情事。一応彼女より長く生きて来て自分がそれなりに培ってきた三十路男の持つテクニックで骨抜きになるまでその小さくて柔らかな肢体を食い散らかした記憶。

 ――「あっ、んっ、だめぇっ、あっ、ん、そんな、おっきいの、入りません……!」
 何度肌を重ねても恥ずかしがる海が最後には自分が与える底なしの快楽に堕ちて、淫らに腰を振りながら甘えたように大きく両足を広げて迎え入れる姿が何とも言えず、日ごろの仕事のストレスを彼女にぶつけるように獣のように彼女を抱いて滅茶苦茶に抱いた。

 ――「ひっ、んっ、んああっ!リヴァイの、太くて硬い……もっと、私のお口のナカでっ、気持ちよくなって」
 普段は落ち着いた声が情事になれば情事特有の甘い声に変わる瞬間の何とも言えないギャップにどれだけ自分は弱いか、海は知らないのだ。
 化粧を落とせばいつまでもあどけないその顔が自分の欲に染まって。
 強要するつもりはないが、彼女の小さな口いっぱいに自分の下半身の中心で熱を持つそれを咥えさせて、彼女の咥内で達した後も尚も、全身をその白に染めたくなる。
 大切にしたい。何に代えても守りたい守り抜きたい大切な存在だ。
 これまで、自分が不器用なせいでさんざん悲しませ傷つけてきたからこそ、そして過去に付き合ってきた男たちの誰よりも、彼女の処女は残念ながら奪えなかったが、歴代で彼女を底なしの快楽へと堕とした人間は自分一人で在ればいいい。
 と、あまり人に見せないポーカーフェイスの顔の下ではそんなことを、思っていた。
 ――「んあっ、アッ、も、だめ、っぇ、あ、ン…ッ、んあ、ああぁ〜〜〜っ!」
 時々何もかもを忘れ。時折潮まで吹いて。真っ赤な顔で髪を振り乱し、前後不覚になるまで最後は泣き叫びながら仰け反り果てる彼女の普段とのギャップに自分は虜だ。
 淫猥な妄想が脳裏を支配している。何も考えられなくなりそうだ。
 時々思う。組み敷いて、自分の体重で彼女を圧迫して後ろから無茶苦茶にガンガン、攻めたくなる時が。

 ――「さ、ん、さん!!! リヴァイ!!」
「……何だ」
「ちょっと、大丈夫ですか? ちゃんと息、してます??」
「……あぁ、」
 気付けば自分はどうやら淫猥な妄想に耽ってしまい、思考をここではないこの前の情事の記憶までぶっ飛ばしてしまっていたようで、突然目の前に心配したような海の声が聞こえて急いで現実へ思考を戻した。
「大丈夫ですか?疲れてますよね……」
「あぁ、けど心配すんな。俺は大丈夫だ」
 心配そうに正面から少し前のめりに顔を覗き込む海。だが、屈んだ拍子に自分が送ったネックレスが揺れる胸元からはほんの少し影がかかり谷間があと少しで見えそうで見えない位置に目の前にあるもんだからリヴァイは思わずさっきの妄想よりも生々しいその姿に息を呑んだ。
 しかし、色気もクソもないこの日の為だけのやたら派手なトラ柄の派手なエプロンで隠されてしまい、ちょうど見えそうで見えないという直接見せつけられるよりも余計にそそられそうなそのアングルが眼前に飛び込んで来た。
「(見えそうなんだよな……谷間が、あと少しで)」
 最近新調した下着らしく、ネット通販では谷間が盛れるし温かいと評判らしく、それを見に着けてからなのか、確かに細身なので豊満ではない海の胸だが、余計な脂肪がない分余計身体の柔らかさが頓所で際立つ胸元に無意識だが、惚れた女の胸の谷間を見て何も感じないわけがない。目線が集中した。それをつまみに酒でも一杯飲めそうだ。

「あ、今年の方角はどっちでしたっけ?? 今恵方を調べるアプリあるので、出来るまでの間、調べててもらえませんかね」
「……仕方ねぇな」

 ふと、屈んでこっちを窺っていた前のめりの姿勢から元の体勢に戻り、器用に海苔の上に伸ばした酢飯の上にきゅうりやかんぴょうまきなどの具材を並べながらリヴァイは言われるがままにスマートフォンでアプリを検索し始めた。
 やはりこの時期だからなのか、ダウンロードする人間が多く、恵方巻のワードだけですぐ方角、アプリと、続け様に単語がサジェストに浮かび上がってきた。

「方角は、あぁ。ちょうど洗面所だな」
「洗面所ですね!! じゃあ今年は洗面所で丸かじりしないと、ですねっ」

 別にここでその方向を向いて食べればいいのに、彼女は家の中でその方角に一番近い部屋で食べないと意味が無いと突っぱねるのだ。
 もしこれが便所だったらそれでも食べるのだろうか。
 正直便所で恵方巻を丸かじりなど、幾ら綺麗に掃除していたとしても用途が用途なだけ想像しただけで食欲が失せそうだ。
 これまで、母親はその美貌を生かして夜の高級クラブで働いていたので、しょっちゅう夜は家を留守にしがちだったし、かといってあの叔父とのそっけない二人暮らしでこんな風に季節の節目ごとの行事を祝うことなどほとんどしてこなかったリヴァイにはいちいち小さなイベントも大きなイベントに変えてしまう。
 そんな海の姿に、最初は「あぁ本当にめんどくせぇ女」だと、一蹴しかけたが、父子家庭で育った海が寂しくならないようにと趣向を凝らして盛り上げていた海の父親との思い出が彼女を形成したのだと思えば、そんな思いを無礙には出来なかった。
 自分の為に住み慣れた故郷を離れてこんなはるか遠くの海からすれば気後れしそうな冬は海からすれば温かいが、その分夏は灼熱の大都会と姿を変えるこの場所まで嫁いでくれた海と少しでも楽しい時間を共有できればいいと思った。

「あっ、ごめんなさい、リヴァイさんのもう一度作り直しで、いいですか?」
「構わねぇよ。なんだ、しくったか」
「はい、見て下さい、こんなに極太になってしまいました」

 どうやら具を詰めすぎたらしく、リヴァイの目の前には黒々とした恵方巻が鎮座していた。思わず肘からずっこける。確かにこれは大きすぎる。口には入りきらないだろう。

「ちょっと、これだと大きすぎますよねリヴァイさんの……リヴァイさんのはもっと長くして、あ、そこそこの太さがあって……」
「(オイ……やめろ)」

 ブツブツと呟きながら再び作り直しますねと、ふだんおっとりしているのに、手際はてきぱきとして良いのか、手先の速さは父親譲りなのか器用に慣れた手つきで巻き直しに取り掛かる海の発言にさっきの卑猥な妄想で思考を飛ばした男にはどうしても恵方巻だとか、大きさとか長さとかやたら連呼する海。
 もちろん普段は恥ずかしがりやな海自らがそういう卑猥で艶っぽいやり取りを求めてくるはずもないのに。
 海本人はただ純粋に父親と楽しんで来たこの日の為のイベントを懐かしむようにこれからは自分とそのうち授かれば増える新しい家族と楽しむアッカーマン家のイベントにしようとしているのに。

「出来ました!! ささっ、食べましょう。あ、でもその前に豆まきしてしまいましょうか」

 そしてようやく自分の口にもちょうどいいサイズの恵方巻が出来上がる。
 仕事から帰って空腹で待たされようやく食べられるかと思いきや海は桝にてんこ盛りにした豆を反対側の和室にある母親の仏間から持ってくると嬉しそうに家中の窓を全開にし始めた。

「寒ぃ……早くしろ……」
「それじゃあ、リヴァイさんが鬼役ですよっ、悪い鬼!! 暴漢!! 悪鬼!! 滅殺!!」

 正直こんな行事などすっ飛ばしてさっさと恵方巻を食べたいのだが。
 しかし、ここで海の言う事を聞かないと後からどんな目に遭うか分かったものではないし、イベントに付き合ってくれない!酷い!!と拗ねられたら、海の恵方巻きのネタで燻ぶり始めたこの情欲を発散することが出来なくなる。
 とりあえず早々に終わらせようと派手で奇抜な色のよくスーパーなどで豆を買うと付いてくる紙で出来た鬼の面をつけたリヴァイは言われるがまま海の投げてきた豆の集中砲火を喰らう事になるのだった。
 しかし、豆を投げる彼女は本当に自分を鬼だと思っているのか容赦なく投げて来て硬い豆は当たるととても痛い。それにーー……

「野郎てめぇ!! お前なんかこうしてやる!! おにはぁああああああそとおおおおぉおお!! ふくはぁあああうちぃいいいいい!!!! 家から出ていけぇ!!!」

 普段おっとりしており物静かで大人しい海が突然変貌したのだ。大声で豆を投げつけて追いかけてくる姿は恐ろしいものがあった。
 彼女も慣れない都会での暮らしにストレスを抱えているのだろうか。
 振り払いたい災厄でもあるのだろうか、それに伴って飛び出す聞くに堪えない暴言。と、それに聞き間違いでは無ければ確かに彼女は自分の事を「暴漢」呼ばわりした気がする。
「暴漢」読んで字のごとく。その意味がどんなものか、海はわかって口にしたのだろうか。しこたま豆をぶつけられながら玄関まで逃げていく自分を仏間の母親はどう思っているだろうか。叔父に見られでもしたらそれこそ孫の代まで笑い話にされる。地獄の果てまでヤツの顔面を蹴っ飛ばさなければ。
 それとも自分がいつも加減しているつもりだが最後には理性なんてものは消え失せ泣き叫ぶ彼女が果てても尚貪る姿を暴漢だと思っているのだろうか。そんな予期せぬ不安と自分との行為を彼女は苦痛に感じているのかと一縷の不安を抱く。
 女の嫌は難しい、本当に嫌がっているのかそれともいやよいやよもオッケーサインの内なのか。
 玄関まで駆け抜け家中豆だらけになりながらようやく海は満足したのか心なしかすっきりした表情で玄関まで逃げた自分を迎え、いつもの笑みを見せてくれた。

「お疲れ様です、リヴァイさん。さぁ、これで今年の我が家の鬼は居なくなりましたね」
「あぁ……」
「それじゃあ、急いで食べましょう!!」

 明るい笑顔でこの家を照らす太陽のような存在を見つめて。2人ダイニングテーブルで見つめ合い、ようやく食べようとしたその瞬間、海は突然恵方巻を抱えるとそのままリビングダイニングを出ていこうとしたのだ。

「オイ、何のつもりだ?」
「え? あ、ほら、さっき恵方は洗面所の方だって、リヴァイさん言ったじゃないですか」
「そうか……じゃあお前はそっちで食え、確か一言も喋らず、余計な事も考えず、恵方に向かって丸かじりしなきゃなんねぇんだろ??」
「そうですそうです、さすがリヴァイさん、物覚えがいいですね」

 なでなでと頭を撫でられまるで自分は彼女に飼いならされているみたいに感じる。自分の頭を撫で繰り回して飼いならす女なんてこの世に存在しないと思っていた。
 しかし、海はやはり、違う。彼女とはこうなる運命だったのだろうか。
 うきうきと小走りで洗面所に向かう後ろ姿を見て、リヴァイはもくもくと恵方巻を食べると空腹の限界に来ていたのもありあっという間に完食して、さっき外した鬼のお面をもう一度身につけて。
 そしてニヤリと、滅多に笑わない何かを企んだような笑みで、この家の主は微笑んだ。

 ▼

 無言で足音も立てずに洗面所へ向かえば、海はなんと正座して一心不乱に頭を動かしながら恵方巻を頬張っていた。
 元々身体も大きくはない彼女は小さな口いっぱいに恵方巻を含んで残り半分まで到達しているが、長いのかまだかかりそうで。
 それに、願い事をお願いして丸かじりするのに真剣で気配を消した背後の自分には全く気付いていない。
 それをいいことに、リヴァイは背後から彼女を抱きかかえるように真後ろにどかんと座り込み、そのまま項に唇を寄せたのだ。

「なんだ、まだのんびりちんたら食ってたのか、我が家の奥さん」

 鬼のお面をつけたままの自分に気付いた海が声を発しようとしたのを人差し指を立てて「静かに食ってろ」と顔の見えない男はジェスチャーで示すと、海はされるがまま大人しく恵方巻を食べるしかなかった。

「お前の口にはその太巻きのサイズはデカすぎんじゃねぇのか」
「んぐっ……!!」
「お前、本当に顎と言うか、口がちいせぇもんな……身体も、チビだもんな。自分のおクチいっぱいに咥え込んでやがる……」

 自分ではわからないのだが、海は自分が耳元で囁く声がダメだと、それだけでダメになってしまうの。
 と、具体的ではない言葉で恥ずかしいと告げる。
 小柄な部類に入る自分よりも小さな身体は簡単に自分の腕の中に包まれて、恥ずかしいのといいながらも、自分が触れればたちどころに淫らに感じて甘えてくる姿がたまらなく、ソソる。
 首筋を舌でなぞるように下から上まで、そのまま緩くアップにされたポニーテールのしっぽが揺れる。普段隠されている敏感な首筋が料理で剥き出しになるその後姿がやけに自分には煽情的に映える。

「海……黙って集中して食ってろ、俺はお前をゆっくり食べるからよ」
「えっ!!!」
「自覚もなく俺のブツはもっとデケェ、とか長い、とか、散々褒めてくれた礼をしてやらねぇとな……望み通りお前の好きなデカくて太いの、食べさせてやろうか」

 その単語に彼は一体何を勘違いしたのかと、振り向こうとするのを阻止し、リヴァイは海に静かに一心不乱に恵方巻を喰えと促しているにもかかわらずその手つきは明らかにこの前の週末の余韻をまた身体が覚えているうちに引きずり出すような手つきにしか感じられない。
 温かくぬる付いたリヴァイの舌が首筋を這うと、それだけで膝から力が抜け落ちてしまうのに。
 しかも、ここは普段肌を重ねて求めあう寝室ではなく洗面所。まさか、こんな場所で……。
 恥ずかしくて身じろぎ、静止の目線を向けても鬼のお面を身に着けたままその表情の伺えないリヴァイがそのお面の下ではどんな表情をしているのか。狩るか、狩られるのか。
 狩る側の部類に入る目の前の獰猛さを普段は三十路の大人の中に押し隠した男がこの行為を止める訳がない。
 彼が始めた。自分には彼を拒む権利など無い。だから、もうきっと止まらない。海は観念するしかなかった。
 跡を残したりはしないが、わざと吸い付いてきたリヴァイに海はビクビクと震えながら反応を示すしかない。
 強い快楽から逃げないように背後から抱きかかえるように抱き締めた男はワンピース越しの臀部にグリッと熱を押し付けて来た。
 既にガチガチに硬くなり、彼がこの雰囲気に酷く興奮しているのがわかる。
「あっ、は、だめ、っ……リヴァイさん、そんな、」
「オイ、喋んなって言っただろ、おら、集中してサッサと食えよ、おっきくて太くて硬い恵方巻をよ」
「あっ、急に、なに……」
 むに、と背後から掴みやすい両胸を揉み上げると海は確かに小さく「あっ……」と甘い声を漏らした。恵方巻を持ったまま身悶える海にふつふつと灯っていた情欲は完全に点火した。
「また、ここにたくさん、俺のをたっぷりと、注がねぇとな……」
「つっ……」
「早く欲しいんだろ、海」
「っ、ううっ、どうして、そう、恥ずかしい事を……」
「好きなんだろ?恥ずかしいのが……お前は」
 こうなってしまえば、もう恵方巻どころではない。リヴァイの武骨な手が無遠慮にエプロン越しの胸を揉みしだきながら谷間を寄せては柔らかな脂肪の中に手を突っ込んで暖を取る。
「あ、あっ、う、んっ、リヴァイ、あっ、」
 始めから容赦ない彼から与えられる責め苦に仰け反り、このまま容赦ない底なしの快楽に溺れてしまいそう。
 いや、もうとっくに彼の望むままに反応するように身体はそうなっている。
 ワンピースの襟ぐりから突っ込まれた体格の割に大きなリヴァイの手。ひんやりとした感触がまるで蛇のように這いまわると、リヴァイの手が入り込んで焦らしもせずに胸の頂を摘み上げ、抓ったり転がしたりとあっという間に形を変えられる。
「あぁ、柔らけぇな……」
 色んな願いを込めた恵方巻を完食する前に海はとっくに声を漏らしてしまって震える指先から食べかけの恵方巻が零れ落ちてしまった。
「っ、うっ……ううぅん……あぁっ、あっ、」
 彼に初めて抱かれたあの雨の夜の日から、これで何度目になるのか。
 幾度、何度、彼に抱かれたかわからないほど乱されて解かれたこの身体は、彼が望むままに敏感に反応しては尾てい骨から痺れるような疼きが走り、行為になかなか踏み切れなかった過去の自分。
 しかし、今や彼の触れる手つきに敏感に反応し、しとどに濡れてしまう身体へと、もう手遅れになるほど開発されてしまっていた。
 気付けばお面を押し上げ、覗いた彼の薄い唇が覗き見えて。
「は……うっ、あっ、んっ、んむ……っ、ちゅ、っ、」
 その唇に誘われるがままに海は唇を重ね、舌を引きずり出され無我夢中で息もつかせぬ激しいキスを交わす。
 力が入らない膝から下を支えられるように無理やり腕を掴んで立ち上がらせられると、フラフラと目の前の鏡の大きな洗面台へと上半身を押し付けられ、背後の彼に背中を向ける体勢にされてしまった。
 ぺしゃりと力なく伏せた上半身、べろんと履いていたワンピースの裾を腰までまくり上げられれば上下揃いの薄紫の総レースの下着越しに透ける臀部が彼の眼前で露わになる。

「しかし、チビのくせに身体は……ガキのケツじゃねぇよ……ほんとにけしからん、エロいケツしやがって……オイ、俺はまだ何もしてねぇが……何だこれは? なぁ、海よ」
「っ……はっ、あっ、」
「下着がもう糸引いてグズグズじゃねぇか……くそエロいな……」
 剥き出しの両胸の彼に弄繰り回された突起は敏感に尖り、擦れて冷たい清潔な洗面台には淫猥な空気がゆらりと立ち込めていた。
 恥ずかしいと言いながら身体はすっかりその気にさせられて、ふるふると震える海。
 だが、否定をしておきながらもいつのまにかルームウェアをずり下げボクサーパンツから取り出した彼の猛る熱。
「はっ、ああっ、あああう…」
「俺のも気持ちヨくしてくれよ」
ずりずりと硬く熱を押し付けて、下着越しでもぬちゅぬちゅと自分の下肢の間から漏れた愛液と彼の先端から迸る苦い先走りがわかる。卑猥に混ざりあい聞くに絶えない異音を奏でている。

「なぁ、上のおクチでもう食えねぇなら、お前には下のおクチがあるじゃねぇか……なぁ、俺のこの恵方巻も食ってくれよ……」
「あ、えっ、リヴァイ……やっ、」
「さっきはさんざん俺を追いかけ回して豆ぶつけまくって挙句、結婚した旦那に対して「暴漢」呼ばわりしやがって……。さすがに傷つくじゃねぇか、お前が痛くねぇように配慮して、何もしなくても想像しただけでこんなにぐちゃぐちゃに濡れるくらいになるまで抱いてるのに、それを暴漢か。俺とヤルのは嫌いか?」
「えっ、あの、っ、私、そんなこと、言ってな……あああうっ、ん、っ!!!」
「言った。オイオイオイ、自分の発言も覚えてねぇのか……暴漢なら暴漢らしく後ろからブチ込んでやったぞ、」
「っ、あっ、はっ、……ひ、っ!!ああ〜ああん!!」

 狙いも定めずに、ずるんと滑り込むように。はくはくと蠢くそこへぬぷぷぷ……と音を立てて、みっちりとお腹いっぱいになるまで彼自身を背後からの不慣れな体位で受け入れてしまっていた。
 しかも、普段抱き合い愛し合うベッドではない洗面所と言う用途の異なる場所で貫かれ、まだ彼に触れられても居ないのに、自分の下肢の間はすっかり愛液で濡れそぼっており彼の挿入をスムーズに受け入れてしまっていた。

「あっ、んぅ、っ、リヴァイの、あっ、おっきくて、硬い……あっ、いっぱいで苦しっ……」
「当たり前だろ、これがいつもな、お前を気持ちよくしてんだよ……恵方巻よりもデケェのがな」
「ひああっ、あっ、んっ、」
「まぁ、時間はある。ゆっくり味わえよ」

 ゆっくりと馴染ませるように始まる律動に洗面台に押し付けられた胸の先端は敏感に尖り、何度も擦られ海は恥ずかしそうに顔を伏せたまま甘い声を漏らしていた。

「んああああっ、やらぁっ、ふか、いっ、あぅっ、おなか、くるしっ……!!」
「ほら、ちゃんと食えよ?残すなんて罰当たりだろ、アッカーマン家の恒例行事何だろう節分は、恵方向いて静かに食わねぇと駄目じゃねぇか、海」
「っ、あっ、んああああっーー!!!」
「声、我慢しろって、ああ、聞こえねぇか、」

 どちゅどちゅとダイレクトに子宮のざらついた入り口を抉られ、前付きの海では若干痛みを覚える背後からの彼の交わり。
だが、少し曲がっている彼の陰茎は痛みの中でも快楽を拾い上げて反応するように着実に海に背後からの交わりに痛みから確かな快楽を拾い始めている。背後からの交わりはポルチオをダイレクトにノックする。
 感じたことの無いナカで果てる感覚というものをリヴァイによって会得し、変化をもたらしつつあった。

「さっきはさんざんぶつけたこの豆もしっかり食べねぇとな、」
「んあぁっ!!! やめっ、ひっ、うっ、クリ、っ、一緒にしたら、だめぇっ!!!」
「ッ、く、は……っ!! 締め付けんなよ……やべぇな、止まんねぇ……」

 お互いに洗面所の明るいLED電気の下で交じり合い、鏡には快楽に顔を赤く染めたリヴァイが鬼のお面を取り去り、俯いたまま自分を背後から貫き、親指でぐりぐりとクリトリスを転がしたり擦り付けたりと前と後ろから攻めてくる。胸は冷たいひんやりした洗面台に擦られて。
 リヴァイの表情は普段セットされている黒髪が今は垂れ下がったままなので伺えないが、口元は快楽に耐えるように歯を食いしばり、間近で見ると長い睫毛を伏せて悦に入り浸っているに違いない。
「ひ、あっ……や、ん、あっ、んッ、ン――… …っ!!」
 避妊具のない生の彼の交わりは余計にお互いを夢中にさせる。忘れずにつながり合う先端を親指でぐりぐりと擦り付けられ腰から先が痺れるように海は仰け反り、その拍子に柔らかな上半身が反り返り、鏡に揺れながらリヴァイを視覚でも興奮させる。
「腰が下がってきてる、オラ、お前チビなんだからもっとケツあげろ、そうしねぇとポルチオまで届かねぇだろ」
「あっ、っ、んっ、もっと、きて、あっ、りヴぁい、あっ、気持ちいいっ、は、っ、あっ、んあああああ〜〜〜っ!!!」
「っ!」

 下着に包まれて控えめな谷間がのぞくのもいいが、やはり自分はありのまま、剥き出しの彼女の身体の方が興奮する。ちら見せなんてそんなまどろっこしいもので満足できるか。
 リヴァイは果てを感じ、より一層奥深くの子宮口の入り口まで雁首で海の感じる気持ちいい部分を全部擦りつけながらこれ以上の入らない部分前入り込んで、海はそれだけで甘い声で達してしまいナカで暴れ回るリヴァイをこれでもかと締め付けたのだ。

「あああっ、っまっ、まだ、いって、あっ、そんなに、っ、あっ!だめぇっ!ダメえっ!!」
「うるせぇ、っ、俺も、ほら、イキそうだ……そんなに、締め付けんじゃねぇよ、おらっ、」
「んあああぁ……〜〜!!それ、だめぇっ、あっ、いやっ、ん、いく、いっちゃ、う!」
「イケよ、おら、……っ」
「あっ!んあぁ〜〜っ!あ、は……っ、気持ちっ!リヴァイ、あんっ、あっ、また、イク、イッちゃう!あ…ん…っ」
「は、っあっ、く……俺も……出る、出ちまう……ッ、海……っ、」
「〜〜〜っっ!!あ、ひ、っ、あん……」
「海……ナカに、出す……からな、」

 パンパン、ぐちゅぐちゅ、二人の間からは聞くに堪えない肌と肌を打ち付け合う淫猥な音と海の悲鳴のような喘ぎ声が絶えず響き、二人は豆まきでリビングは閉めたが部屋の窓という窓全開なのも忘れ、海の声が止まることは無い、ナカに居るリヴァイを締め付けながらまた達した。

「ッ……、海……イキそうだ、出すぞ、ッ……!!」
「は、あっ、来て、リヴァイ、あっ、も、ダメっ、ああっ、わ、たし、もまた、あっ、来ちゃっ、ん、あっ、ひあああー!」
 ラストスパートだと律動の速度を上げたリヴァイが達した瞬間、最後にズン!と大きく子宮口を突き上げ、腰を震わせてドプドプと中に大量の精を吐き出し果てた。
 海のナカはまるで生き物のように絡みついて締め付けて。
 その強い締め付けにリヴァイもまもなく限界を迎え、逞しい彼の強靭な腰裁きが、ガンガンと激しく前後に律動を繰り返した後、望むままに海は神経が焼き切れてしまいそうな強い快楽の下でうめき声を漏らしながら、ゆっくりと脱力する。
「ハァー……」
「あ、ん……あ、っ、ひ、」
 海のナカに白濁を撒き散らし、萎えた彼がズルンと抜け落ちる。
 海は無意識に抜け出た彼の余韻を確かめるように、きゅっと膣口を、彼の精子をどこかへ出ていかないようにと、締め付けていた。

「は、あっ……ふかい、ああっ、りヴぁい、あっ、もう、だめぇ、だめなのぉっ、りヴぁい、あああっ、」
「悪ぃ、な……駄目だ、まだ止まりそうにねぇ。今度は上のおクチでも食ってくれるか、海」

 しかし、どうしたことか、今日は酒が入っていないからなのかはわからないが、一度達したら満足するはずの彼の猛りはまた反り返りながら海の中に吐き出した白濁と愛液をぬちゅぬちゅと掻き出すようにまたそそり立っている。
 臀部にゴリッと押し付けられた硬い熱にさえ感じてしまいそうになりながら顔を赤らめる海。
 下半身にはもうとっくに力が入らないのに、リヴァイは力の入らない身体を軽々と思いのままに。
 洗面台に海の抱き上げた身体を横向けにすると足の間から飲み込みきれなかった彼の白濁がとろりと溢れた。
 無遠慮に重力で横に流れた胸を鷲掴み、そのまま不安定な角度から最奥までどちゅん、と貫いてきたのだ。

「ひ、あっ、んぁ、あああ〜〜っ!!!!」
「クソ、止まんねぇな……まだへばんじゃねぇぞ、俺は暴漢なんだろ? それなら暴漢らしく最後まで抱き潰してやる」
「あっ、っ、んっ、する、っ、あっ、リヴァイの、恵方巻、もっとちょうだい……っ」
「は……お前ってやつは、本当に……わかった。お望み通りくれてやる……まだイクなよ。さっき煽ったこと、覚悟しろ海」

 見上げた彼は舌なめずりをして嬉しそうに笑っている。
 普段めったに笑わない男が笑う姿は妖艶で、より胸を高鳴らせ、長い前髪の隙間から覗く獰猛な目が自分だけを見つめてくれる。
 それだけで甘イキが止まらない。伸しかかる彼の背丈の割に細身なのにどこにその重さがあるのか。
 筋肉は脂肪より重いと言うが。
 重量のある65キロの重みに呻きながら、骨盤にあたる彼の骨が肌にあたり時折痛むのに、止まらない。
 彼に抱かれる愛の重みを思う存分に受け止め、感じながらの横位は海に得体の知れない感覚をもたらした。
「あっ、はっ!おかわり、いらない、っ、あっ、もうお腹、いっぱいだよっ、んあっ」
「まだだ……、まだ食え、厄除けしねぇと、おらっ、」
「あっ!ひぅ、っ、また、いっちゃ、また、いく、ぁ、んやぁぁっ〜〜〜!」
 いつの間にか。たくましい彼の腕と肩に担がれた海の足が何度も痙攣していた。
全部、彼の袋の中のモノを出し切るまで、彼と堪能しよう。
食べ損ねた恵方巻の代わりに、二人は平日にもかかわらず精魂尽きるまで洗面所で淫らに肌をぶつけあいながら何度も肌を重ねるのだった。

 Fin.
 2021.02.02

【×Setsubun×Dressing room】

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