Going Under | ナノ
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【Can you feel the Destiny】

 lost of out ATLASの続きです。

 しなやかな体躯の獣の見た目は非力な草食動物のように見えるのに、いつも真っ直ぐに見つめる穏やかなその笑顔は愛しく、精悍さを増して今はまるで知らない男性のように見えた。その華奢で細いが、筋肉質なその腕に抱き締められながらもようやく結びあえた温かな余韻を噛み締めていた。

「海……」
「ん、おう、じょう……」
「海」
「あ、正人……ご、めんなさい、名前で呼ぶの久しぶりすぎて……はずかしくて……」
「ちゃんと名前で呼んで欲しいな。昔みたいに」
「うん……ごめん。正人」
「可愛いから許す」
「えっ!」
 可愛い、彼はいつも歯が浮くようなセリフを何の恥ずかし気も無く、素直に感じたままに口にして微笑んでいた。ずっと、本当はこんな風に望んでいた。自分にはこんな経験なんて永遠にないかも、なんて思っていたのに。
 見つめ合うその漆黒の闇の中に閉じ込められたように。自分だけを映して欲しいと望んでいたその目線の先には、望んだ通りに自分が映っている。
「好きだよ……」
「私も、大好き……」
「僕の方が、好きだよ」
 こんな時にまで彼の負けず嫌いの本領が発揮されている。普段コートを見つめる静かなる肉食獣のように。闇を孕んだその眼差しが今は成りを潜めて穏やかに自分を見つめている。
 自分より頭一つ大きい彼の胸板に顔を寄せて、サラサラと自分の髪を撫でるその手つきに微睡んでゆく。
 まるで魔法のように。染み渡る彼の声に力んでいた全身の力が抜けていく。

「海、」
 彼が試合中に見せる貪欲にカバディにのめり込む闇よりも深い、地獄の底から湧き上がる様なその裏の顔のままに。いつも自分に背中を向けていた彼に、今こうして純粋に、その瞳に自分を見て欲しいと、ただ、そう思った。これまでの隙間を埋めるかのように降り注ぐ口づけが苦しい、自分にこんな欲望があるなんて、思いもしなかった。
「触っても、いい……?」
「う、うん……大きくないけど」
「そう? そんなことないと思うけど……」
 こんな時でも気遣いを忘れな彼の手つきが緊張で強ばる身体を解きほぐしていく。彼の見せる男の一面に胸の鼓動が先ほどから煩いのはどうしてなのか。
 無理やり組み敷いて好き勝手にのしかかって貪るようなことはしない。彼らしいと言えば彼らしいのだが、しっかりと許可を得ながら彼の骨ばった手が誰も触れた事のない胸をやんわり包んだ。
「柔らかくて気持ちいいよ」
「っ……」
 大きくも小さくもない、ごく平均的な女子のサイズ、だと思うが、華奢な体躯で余計に柔らかく感じた。初めて触れる恋しい女の身体に押し隠せない羞恥で笑うその笑顔が愛しくて、海は恥ずかしもあるが、どうせならそのまま触れて欲しいと、ゆっくりとその胸を震わせながら突き出した。
「海……分かってるの?」
「正人こそ……分かってる……?」
 この先に求めるもの。
「もう、離してあげられない」
 おっとりした優しい彼が試合中の時のように、いつになくまじめな声で。もう止められない。お互いに無邪気に制服を着てはしゃいでいた年頃はとうに過ぎ去って、気付けばお互いに男女としてはいい年齢になっていて。
 お互いの、身体の凸凹の違いを確かめ合いながら確かめるように抱き合う。
 離れていた時も、自ら離れたのに、それでも、お互いを忘れた事など、一度も無かった。
 あの頃から背も伸び、細身であるが、それでも自分よりも体格は良い。彼はいとも簡単に自分を抱き上げると、そのまま寝室に続く扉を開けた。
「あっ、怖い…っ」
「大丈夫、落とさないようにしっかり持ってるからちゃんと僕に掴まってて。海くらいなら僕だって抱えられるよ」
「うん……」
 試合中は磨き上げた彼の十八番のカウンターで自分より何倍も体格のある人間を軽々と投げ飛ばす力はあるが、こうして軽々と持ち上げる。もしかしたら、これもカウンターの原理を利用しているのかもしれない。
 じゃなければきっと自分は重いはずなのに。身長の割に体重がある方だと思う。
 だけど、そう不安に思っていた海の気持ちを見抜くように簡単に抱き上げられて。自分は改めて彼にとっては女なのだと実感させられた。
「ベッド、いい?」
「うん、」
 お互いに性別の違いなど分からない頃から、無邪気に仲良くしていた頃と、成人した今はもう違う。彼にお姫様抱っこをされる日が来るとは思わなかった。そしてその海の身体は彼の寝室のベッドに運ばれ、身を横たえられた。倒れ込んだ拍子にシーツからは清潔な彼の香りがして。その懐かしい香りに思わず恍惚ともとれるため息が漏れた。
 彼の性格ゆえか、彼は強引にこの行為にもつれ込んだりはしないけど、きっとこの先を求めていたのだろう。きっと今、これから始まる行為に対して心の準備が未だで、怖いと言えば彼は強靭な理性でこの行為の先を止めるだろう。否が応でも彼との性別の違いを思い知らされた。
 そうして、自分を組み敷くと、彼はそのままうっとりしたような表情のままダウンライトのほの暗い明かりを頼りに覆いかぶさると待ちきれなかったと言わんばかりに海の首筋に顔を埋めていた。

「あっ、待って……正人!」
「ごめん。急に」
「あ、ちが、うの…」
 ずっとこうして欲しいと、そう願っていた反面、突然、今までカバディだけを一途に求め続けていた彼の「男」の一面を見せつけられ、覆い被さる男の重みに驚いた。
 彼が男の顔を見せるのはコートに立つ間だけだと思っていたのに。だが、それ以上に、怖いと思ったことがある。海にはもう一つ、どうしても彼に話しておかなければいけないことがあった。

「あの、その、……私ね、まだ、……なの……」
「え?」
「あの……その……」
 彼に真っ赤な顔でそう告げるなり、海は恥ずかしいのか逃げるように彼の香りのする枕に顔を伏せてしまった。
 彼の部屋だから彼の香が充満して漂うのは当たり前なのだが、ここは彼の香りが強すぎる気がする。余計に心臓の鼓動がうるさく鳴り響く。
 好きだからこそ彼の体臭もひっくるめて彼を形作る全てに包まれて。海はますますこれから始まることに対して緊張と、小柄で身体付きも平均な自分が恥ずかしくてたまらないようだった。
 しかし、さっきから黙り込んだままの彼の唇はぽかんと開いたままで、何も語らずにいる。

「その、引いた……? この年にもなって、経験ないなんて……おかしいって」
「え? どうして? そんなこと全然思ってないよ。むしろ、良かった。海はとっくに僕じゃない他の人の誰かとこうしてたって事なのかと思って身構えた。でも、何で経験ないと引くの? 僕も海が、初めてだよ」
「ええっ!? あ、あの!?」

 そして、今度は。てっきり彼は見た目も悪くないし、人当りもいいから。実際彼を良いと思う人も居た。もう他の人と既に経験しているのかと思っていた海に突如として彼から落とされた爆弾発言。今度は海が驚く番だった。
 しかし、驚く海に反して、彼は当たり前のように口にする。

「ずっと、これまでカバディ一筋で生きて来て……正直、それ以外の事とか、考えたこともなかった。僕にはカバディしかなかったから。ただ、いつも僕の傍で見守ってくれていた海のことは、頭の中にあったけど、こうしたいなって……その意味を知った時には、もう海は傍に居なかったから」
「正人……」
「海が大事なのに、いつも傍に居てくれたから、安心してた。無くしてから気付いて、もし、また生きてる間にこうして海と街のどこかで出会えるなら、もう離さないと決めていた。僕も不安だ、カバディの経験は摘んできたけれど、こういう経験なんて積んでこなかったし。ただ、もし、不安ならこれからたくさん練習すればいいよ。カバディみたいに。ね?」
「う、うん……練習……うん、か、カバディ……練習、ふふっ、あははっ」
「え!? 何か変な事言っちゃったかな?」
「ううん、違うの、安心したの……、あなたが、少しもあの頃と変わってなくて……私の大好きな……カバディを愛している正人のままで安心したの」
「海……」

 これから始める行為を、大好きなカバディに例えてしまうのも彼のカバディに対する一途さが垣間見えて。彼は見た目は確かに高校の時よりも大人びた、だけど、いくつ歳を重ねても変わらない、安心して、強ばっていてた身体の力が抜けていく。安心して微睡の中にいるようだ。
 しかし、これからお互いに未知なる体験をここでする事になる。たまたま友人たちとその話題になった時、友人たちはものすごく痛い、とも聞くし、血も出ると。だが、誰もが最後には幸せだと話していた。憧れるなと言われても初体験に対する並々ならぬ思いがむくむくと顔を覗かせた。
 だが、痛いのだろうか。不安が過ぎる。無理もない、これから待つその未知なる恐怖に、女になる事に震えながらも海は彼からの温かな言葉と、彼が自分以外の女性に触れたことが無いと知り心の底から安心していた。

「あ、でも……少し待って」
「どうしたの?」
「僕、まだシャワー浴びてない……。浴びて来てもいい?」
「あ、う、うん……」
 もう一度、今度はどちらからともなく求める気持ちは同じだった。そしてごく自然に重なり合ったキス。いよいよ、この瞬間を迎えると言う事で。お互い緊張がほぐれてきたなと思っていたのだが、次の瞬間、彼はここまで来て何とも気の抜けるような言葉だった。
 彼も緊張しているのだろうか、ダウンライトの光だけでは彼の表情が伺えない。いつも通りの彼に見える。
 いつものように穏やかな笑みを携えているのに、自分のシャツの裾を引っ張り、子犬のようにクンクンと確かめるようにその匂いを嗅いでいる姿は変わらない。
「あの……もしかして私が汗くさいの、嫌だと思ってる……? 私は、気にしないよ……?」
 自分はこれまで彼の体臭を臭いとこれっぽっちも思ったことは無いし、室内競技で常に汗だになるくらいの激しいスポーツをこなす彼らの姿を長年目にしてきた。
 カバディで汗を流す彼らの汗はとてもきれいだと思っていた。
 それよりも今日の交流会の大卒男のムスクのような香水の方が無理だった。
 自分は雨にずぶ濡れで冷えたので風邪をひかないようにと既にシャワーは浴びたが、彼はそういえば自分が先に濡れた身体を温めた為に未だ浴びれていないことに気付いた。
「ううん、僕が嫌だ。お互いこうして抱き合えるのに、汗だくなのは……やっぱりお互いにとって、特別なものだし、緊張しているのは海だけじゃないよ。誰のものでもない、海を僕だけのものにしたい。もう今度こそ離したくないと思うよ。最初の記念になる夜だから、お互いにいいものにしたい。せっかくの七夕だし、ね」
「正人」
 自分への気遣いを忘れない彼が尚更愛おしく思う。そうして、彼は海の小さなその手を筋張った手で簡単に包んでしまうと、そのまま海の手を自分の心臓が高鳴る左胸へと持って行く。
「ほら、すごい音でしょ? あの時の、決勝の時よりも……緊張してるかも」
 それは大げさではないか、負ければその場で終わる夏のあの激闘の日々の中で彼がそんなことを思うとは。
「はっ!? あの時の!?それは……大げさでしょ!」
「カバディは楽しいから……そりゃ、あの時は最期がかかってるから、緊張はしたけど、どんな試合になるのか楽しい気持ちの方が大きかったから。今は、海が好きだから、海を傷つけたくないし、そっちの方が緊張するよ」

 その心臓の鼓動は試合中ではないにもかかわらず、速い一定のリズムで彼の硬い胸板を通して海の手に緊張と鼓動を打ち鳴らしていたことに気付いた。
「ね?」
「私もだよ……」
 小首をかしげて、にっこりと微笑む彼はカバディに夢中で楽しんでいる、まだあどけない中学生の頃の幼い彼のようにも見えた。あれから数年が経ち、もうお互いとっくに成人した大人同士なのに、彼の心は、まるで何も変わらない。
「すぐ戻るから少し休んでて。あ。でも寝ちゃダメだよ。海ってばすぐ寝るから……一応」
「緊張して眠れないよ……大丈夫……」
 ぽんぽん、と優しく海の小さな頭を撫で、彼は寝室を去っていってしまった。

 ***
「はああ……緊張……した……っ」
 緊張の瞬間から急に一人きりになり、海は緊張と混乱でめまいを起こしかけていた。
 寒がりな彼の毛布にくるまりながら彼にもそういう欲求があったことが信じられなかった。
「(どうしよう……どうしたら……いいの?)」
 こんな事、誰にも聞けない。聞けなかった。彼に身を委ねればいいのはわかってる。未知なる経験、カバディとはまるで違う。だって、彼はずっとカバディ一筋だったから。まさかこんな風にお互いの気持ちを確かめ合いながら肌を重ねる事にまで発展する事に驚きが隠せない。
 これが初めての経験となれば、互いに慣れ親しんだカバディよりも緊張することはあるだろう。
 そうして彼が戻ってくるまでの間に海はベッドに突っ伏したまま動けずにいた。
「正人の布団……あったかい……」
 珍しく寒い雨の夜、寝室には穏やかな静寂が流れていた。もう二度と、せめてもう一度、会えないのなら、こうして彼と過ごした過去の夢の中で永遠に生きていこうと、そう思っていた。そんな彼のTシャツだけを着たまま、全身彼の匂いに、包まれたまま。深い安堵の中に居てだんだんと優しい睡魔が海を眠りの世界へと誘おうとしていた、ふわふわと微睡みながら毛布に包まれる素肌がとても気持ちいい。寝ては行けない……でも……そう思いながらもゆるりと海が睫毛を伏せた時だった。
「海」
「っ……まさ、と……」
 瞳を閉じて海がウトウトし始めてから数分もしないうちに彼は宣言通りに汗だけを流し、すぐ戻って来た。
「やっぱり寝そうになってたね」
「んん……ごめん、なさい」
 聞こえた自分を呼ぶ優しい声に顔を上げると……、彼は上半身は何も着てなくて、タオルを肩にかけ、濡れた髪が肌にまとわりついて、細身だが、しっかりと全身筋肉で覆われた凸凹のある身体はベッドを軋ませながら海が驚く前に、覆いかぶさってきたのだ。
 気付けばいつの間にか、海は彼の広い肩幅に包まれシーツの波に沈んでいた。
「あ……んぅ……っ、」
 突然の彼の素肌が恥ずかしくて。いつも試合で夢中になると切れて出血していた彼の薄い唇が重ねられ、そのまま開いた口から差し込む舌が。ねっとりと、深く絡みつく。
「っ、っ……んっ、」
 彼の艶かしく濡れた黒髪から伝う雫が冷たい。だが、ずっと求めていたその温度をもう離したくはないと、二人は無我夢中になって深くキスを交わしていた。
「あ、正人? 髪の毛、乾かさないと風邪引いちゃうよ……?」
「大丈夫、タオルで拭いたから」
「だって……」
「もう、片時も離したくない」
「っ……」
 服越しに柔らかな胸に顔を埋めてきた彼の甘えるような仕草に切なく胸が痛む。
 彼が愛しくてたまらない。こんな気持ち、初めてだった。こんな風に気持ちだけでなくて、素肌どうしで、いつか愛することが出来る事を願って成就した幸せを噛み締め海は求められるままに「男」の顔を見せる彼に縋り着いた。
「正人……」
「いい……?」
「うん、……うん、っ……」
 自分の手を取り、まるで忠誠を誓う騎士のように。そっと口付けてくるその唇の触れる箇所から熱を持ち、彼のきざな態度に海は自分がお姫様になったような気持ちに陥る。胸の高鳴りを抑えられなかった。
 ずっと、ここまで来た。この先彼と結ばれることがないのならば、もう一生このまま処女のままでもいいとさえ。思っていた。
 だけど、もしいつかまた素直になれたのなら、彼と向き合えたのなら。
 そしてその願いが今、こうして彼の手で果たされようとしている。
 彼が愛しくて、キリがない。破瓜の際に流れる痛みなど越えるから、どうか、もっと傍に。来て欲しいと思っていた。
「初めてだと……痛い、んだよね……海の事、大事にしたいのに、海に痛い思い……させるのは嫌だな……」
「そんなことない……痛くてもいい……、抱いてほしい……正人なら、いい」
「海……」
 女性でもある海から先に口に出させてしまった。恥ずかしい事を言わせて終いったと思い彼はそのまま海を抱き締めた。
「ほら、出産に比べたら……きっと、大丈夫だよ、痛くない、よ……きっと」
「海は、子供欲しい……?」
「えっ! そ、それは……だって、私たちまだ未成年だし、高校卒業したばかりだし……」
「僕は……海と、家族になりたい。また昔みたいに一緒に過ごせたら、きっと、毎日楽しいんだろうなって、思ってた」
「正人……」
「お互いに、家族の居ない寂しさ、分かるから……。海には素直に言えた。海の事。大事にする。痛くしないようにするのは……無理かもしれないけど、でも、大事にするから」
 優しく彼の腕の中に包まれ、これ以上にない程の夢心地の中に居た。剥き出しの背中を抱き締めながら、叫び出したくなるくらいの恥ずかしさを内に秘めながら海は彼の頬にキスを落とした。
 口ではなく敢えて頬なのが恥ずかしがり屋でいつまでも少女みたいに初心であどけない海の可愛いと思う瞬間。
 肝心な言葉を恥ずかしがって言いかけて戸惑う海が素直に求めた言葉だった。
「服、脱がせたいんだけど、いいかな?」
「う、うん……」
 替えのない海に着せたのは自分のお気に入りの相変わらず奇抜なキャラクターがプリントされた一点物の何気に素材のいいTシャツ。首元から引き抜くようにそっと脱がせると、脱げた拍子に目の前で揺れながら姿を見せた自分にはない柔らかな胸。
「あ……っ、見ないで……っ」
 想像した以上に細くて、柔らかくて、透き通るような白い肌をダウンライトが生々しく照らし、その艶めかしいラインを浮き上がらせた。
「あれ、そういえば下着……は……?」
 下着に包まれていない剥き出しの重力に従い流れる胸をまじまじと目の当たりにした経験のない彼は驚きを隠せない。なんと、海は下着をつけていなかった。服を脱がせて何の心構えも無く見えた海の胸に思わず凝視した。海は恥ずかしそうに俯き両手で胸を包むように隠す。
「う、うん、……下着……雨で濡れて……今、乾かしてたから……」
「そっか、残念」
「え?」
「海の下着姿……ちゃんと見て見たかったな」
「正人……」
 どこか、しょんぼりしたような。明らかに落胆した表情をする彼はまるで犬みたいに見えた。
 そんな姿がどこか可愛くて。憎めなくて。その服を着せたのは、その服を脱がせたいという願望がそんな彼にもあったから、だろうか。
 彼も人並みに異性に触れたいと言う欲求を持っているのか、自分の身体に興味を持ってくれていると知り、海は恥ずかしそうに俯きながら微笑んだ。
「ごめんね……次は、ちゃんと着ておくから」
「ホント!? うん。お願い。絶対だよ」
 突然自分の両手を包んだ目の前の彼が瞳を輝かせて嬉しそうに笑うから。素直にそう自分の願望を口にして求める彼はなんて愛おしいのだろう。
 お互いに見つめ合いながら。彼の唇がそっと海の首筋に降りた。
「っ……んっ……、くす、ぐったい……」
 まだ誰にも触れられていない、未開発な海の身体。彼の乾いた唇から漏れる吐息に過敏に反応を示して、そのまま、彼の唇が下へ下へと降りていく。首筋を辿りながら鎖骨にキスをして、そして、そのまま柔らかな双丘へと伸びた。
「海……」
「あっ、あうっ、……んっ……やっ、声、出ちゃう……!」
「いいよ。声、我慢しなくても」
 耳元で突如低い声で囁かれ、ビクンと跳ね上がる肢体を見つめながら彼は女性の抱き方など、誰からも教わらなかった筈なのに。本能がまるで覚えているかのように海の身体を暴いていく。
 彼の手に包まれた胸が自由に形を変えて揺れる。それは自分の身体には無い。どんなものよりも柔らかく、筋肉ではない弾力のある感触に夢中になる。
「海……心臓の音、すごいね」
「っ、いや、言わ、ないで……」
 いちいち自分に触れてどんなふうになっているか、とか、事細かに感想を告げないで欲しい。互いに触れ合いながらも大きく聞こえる心臓の音を聞きながら恥ずかしさから海は真っ赤な顔で両手で顔を覆ってしまう。未知の感覚と死んでしまいそうな恥ずかしさに溺れてしまいそうになる。
「僕も緊張してる」
「っ……」
 ふるりと立ち上がった色素の薄い突起をくりくりと弄びながら、そっと唇を寄せて。そのまま海の胸の淡く色づいた突起を口に含んだのだ。
「あっ……!! や、っあっ……!」
 突然に与えられたその刺激にびくりと海の肩が跳ねた。音を立てて、吸い上げながらもう片方の胸をやんわり揉みながらお互いに身に纏う者を取っ払い、彼の胸板に海の胸がそのまま潰れる。
 もう二人を隔てる者が無い位に、貪欲に求め合った。
「あっ、まさ、と、待って……恥ずかしいよ……!」
「ん?」
「私ばっかり……恥ずかしくて……」
「大丈夫。僕も、同じ気持ちだから……」
 緊張で強ばる彼女を少しでも安心させるように。額に彼のキスが落ちて。胸の愛撫を続けながら、彼の手が下腹部を辿り、そのまま柔らかな太腿に触れた。
「っ……」
 痛みを感じさせないようにと、そっと内腿に手を伸ばすと、ゆっくり開かれていく下肢の間に彼の骨ばった手が伸び、その自分ではないひんやりした手の感触に震える肩に緊張しているのが分かる。だからその緊張を少しでも和らげてやりたくて、彼の手が何度も何度も擦る様に往復すると、ガチガチに強ばっていた力が抜けた。
「あっ……っ、正人……」
「怖くないよ。大丈夫」
 開かれた足の間に割り込んでくる彼の身体に緊張感が増すが、安心させるように優しく髪を撫でながら海の履いていた下着に手をかけ、そのままゆっくりと降ろして下腹部に触れると、未開発のそこはしっとりと潤っていた。
「痛くない……?」
「ううん、痛くない……っ……、痛くないよ……っ」
 ここに、これから触れる。ゆっくり控えめに、様子を伺いながら沈んでいく中指。だが、まだ指一本しか胎内に埋め込まれていないのに、そこはまるで異物を拒むように粘膜が収縮して受け入れるのを拒んでいるようだった。
「嘘つかないで」
「へ?」
「海はいつも言わないでしょ? 辛い事も居たいことも、我慢して、そうしてすぐ倒れて、無茶して。我慢するから……、本当はすごく痛いハズなのにさ、強がってさ」
「っ……!」
 乾いた指先で軽く入り口の部分で往復させるだけでも痛いらしく、開かれた足が震えていた。こんな状態で自分のを入れるなんて、無理なのではないか、せっかく彼と結ばれたのに、身体も結ばれたいと思うのに。海は思いとは裏腹に彼の指さえも拒む身体を恨んだ。粘膜部分だから濡れてはいるが、まだ完全に内部までは濡れていない、
「あっ、痛っ…!」
「でも慣らしておかないともっと痛いから……」
「んっ、んんっ〜……」
 力が籠るせいで余計に痛みを感じてしまう、震える足をカタカタと震わせながら海はねじ込まれた二本の指が開かれ、今まで誰も受け入れた事のない部分に侵入してきた彼の指を受け入れる。
「海、力を抜いてみて」
「っ、うんっ……」
 安心させるように海の髪を撫でながらそっと二人で唇を重ね合わせていく。未開発の閉ざされた部分をゆっくりゆっくりと二本の指で優しくほぐすように往復させていくと、海もキスに意識を向け、だんだん痛みから違和感へと変わった。
 自分でも触ったことのない部分に彼が触れている。
 行為とは一番縁が遠そうな彼が……今、お互いに裸になり、そして抱き合いながらシーツの波間で愛し合っている。
 誰よりも恋焦がれた彼とこうなる事は決して嫌ではないし、むしろ、本当は望んでいた。痛みはあるが、決してこの行為を止めて欲しいとは思わなかった。
「ゴメン……。海、痛いのも辛いのもみんな海に背負わせて」
「ううん……! いいの…っ、…全然、大丈夫……、だから……止めないで……」
 小声で、縋る様にこの先の、中途半端に止めたら彼だって男として辛いものがあるだろう、彼とどうしてもこの行為が結びつかなかった、だけど彼はれっきとした男の人で、彼にだって、人並みにある。自分もそうであるように、もう、さっきから彼の熱が痛い位に自分を求めているのが分かるから。
「ううっ、んっ、」
 痛みの中で、深さを増していく彼からのキスを受け止めるので精いっぱいだ。その間にも頑な理性でガチガチだった海の思考がどんどん熱に浮かされていき、彼から贈られる深いキスに上手く答えられない。
「は、っ……んっ、っ……」
 そうこうしている間にも彼の指は絶え間なく下腹部を愛撫し続けていた。彼の細長い指でも痛いのなら、この先彼自身を受け入れたらどうなってしまうのだろう。
「濡れてきた……」
「いっ、言わないで……」
「慣らしておかないと痛いからちゃんと慣らしておかないと」
「んっ……」
 粘着質な音が確かに沈黙の中で抱き合い口づけあう2人の下の方から聞こえる。往復している間に彼の親指がグリッとその繋がり合っている部分の突起に触れ、大げさなほどに海の肩が跳ねる。
 何もかも見透かされたような、暗闇に慣れて来たことで彼の表情がよく見えた。いつものような穏やかな笑みを浮かべていた。さすがにコートに君臨している魔王のような表情は今は見えないが、微かに彼からはどす黒い感情が見え隠れしている。
「っ…」
「ここも、触るね……?」
「んんっ…!」
「あっ、ごめん……痛い……?」
「っ、へいき、だよ……」
 一言目には必ず自分を気遣うように労わりながら、彼の親指が閉じられた海の閉じられた入り口の上の突起に触れた。
 未開発では痛いが、慣れてしまえば処女でも容易に快楽を得られるその部分。
 中指と人差し指で胎内をかき回され、濡れた愛液を指で濡らしてゆっくりと擦り始めると、未開発の身体にはまだ違和感と痛みしか感じられず、海は得体の知れない感覚に思わず声を上げて仰け反り、シーツの波間に深く沈んだ。
「あっ、んっ、あうっ……」
 申し訳ないが、例え大好きでたまらない相手でも緊張と痛みでまだこの先の見えないこの行為を気持ちいいとは思えなくて、だけど、親指でその突起を優しく擦られると下半身から今度はゾワゾワとした感触が登ってくる。
「んっ……、あっ、んっ、うぅっ…」
 痛みの中に快楽を見出し始めた海の未開発の身体がどんどん自分が触れる度に反応を示すのが面白く、王城もその行為に完全に溺れていた、理性が飛びそうになり、その口元には歪んだ笑みさえ浮かぶ。
 大切にしたいのに、愛してやりたい、痛みを感じなくなるまで。
 乾いていた唇がまた裂け、彼の唇からうっすら血がにじむのも構わずにそのまま海の唇に吸い付くと海の咥内に微かに血の味がした。
「好きだ……」
 いつも優しい口調が乱れ、本心から漏れた言葉を受け止めながら、唇を押しつけ、隙間から下をねじ込み、ねっとりと舌を絡めるように、海の小さな口の中を撫でまわしながら息をつく暇さえ与えない、痛みを忘れ去る様に。
「うっ、んんっ、あっ、まさ、と、苦し、っ……」
 口の中の酸素さえ奪われ下腹部では慣らすように絶え間なく指を広げられ、キスの気持ちよさに気付けばみっちりと閉じられた下腹部は今は愛液で溢れて彼の三本目の指が挿入されていた。
「あっ……、んんっ……!」
 身をよじらせる海に彼も夢中で覆い被さっていたのを止めた。苦し気に息を乱して震える身体を抱き締め、首筋や鎖骨にそっと口づけながらまた彼は執拗にキスを求めてきた。
「鼻で息して……、海」
「っ、んっ」
「うん。そう」
 甘く宥めるような声に反応しながら海は恥ずかしさでどうにかなりそうな思考の中で本当に彼は初めてなのだろうか、と。思っていた。
 この瞬間だけでキスもどんどん上達している。カバディでも唯一の武器、それだけを来る日も来る日も延々と磨き続け武器にしてきた努力家の彼の事だから、いつか自分ではなくても誰かとこうなる事を見越して研究や練習でもしてきたのだろうか。
 そう思うくらいに、彼の手つきは痛みしかまだ感じられない海の緊張を解きほぐしていた。
「海……」
 華奢な肢体に馬乗りになって覆いかぶさり、見上げた彼の顔つきがいつになく真剣で。彼が自分の頭の上に手を伸ばした備え付けの引き出しからあるものを取り出すと、彼は見えないようにそれを口で開封した。
 それが何かなんて、経験が無くても分かる。
 いよいよ彼と……意識するなと言われてもそれは無理だ。しかし、スムーズに装着した彼は初めてだと言いつつも何故、この時に使うためのそれを持っているのか?しかし、其処は敢えて聞くのを止めた。
 女には女の事情があるように、男には男の事情があるから。だが、彼は沈黙を貫きなるべく自分の首から下を見ないように目を真っすぐに見つめる海の口元が何かを言いたげにもごもごと動いたのを見逃さなかった。
「安心して、これは、誰にも使ってない」
「え?」
「男としてこういうのはいつ使うかわからないから、ベッドにちゃんと用意しておけって。それで箱買いしたんだ」
 安心させるように、彼は優しく微笑む。素直な彼のことだから真に受けたのだろうか。
 愛情に比例してまだ未開発な身体も快楽を拾い始めている。どうせ今も後も引っ張るだけ、痛いのは変わらないのなら……。海は臆することなくもうこのまま、彼に身を委ねた。
「海……。ゆっくり、キャントしてみる?」
「え?」
「キャント、次は海が攻撃手レイダー。はい、続けてみて」
「え、えっと……カバディ……カバディ……カバディ」
「ふふっ、あはははっ!」
「も、もう!笑わないで……っ!馬鹿っ!」
「あははっ、ゴメンゴメン。だって真に受けるから」
 攻撃手レイダーとして攻守が入れ替わり自分達が攻撃側となればこんな時に攻撃の際に必要なキャントをしてみろと急に言われて海は無邪気に笑う彼の頭を軽く叩いた。
 彼が自分をリラックスさせるためにわざとふざけていったと知るなり、後から込み上げる羞恥心。カバディにおいて攻撃手レイダーとして君臨する彼らしいアドバイスを真に受け素直にそれを実行した海がおかしくて可愛くて、笑っていた。
「ああ〜……本当に、可愛い。意地悪してごめんね。可愛いんだもん。だから、つい意地悪したくなる。でも……、さっきよりは和らいだでしょ?」
「う、うん……そうだね……」
 確かに。彼に言われてみるとそうだ。それが彼なりの「リラックスして」のメッセージで、それが冗談だと知るなり、憤慨する海だが、全身の痛みに身構えていた力が抜けた。力を入れすぎると後から筋肉痛になる。
「わ、笑わないで……っ、っ、ん、」
「大丈夫、ちゃんと濡れてる……かな。痛くない?」
「うん……、痛くない……けど、でも、こ、わ……い」
 まだ未開発の閉ざされた割れ目に避妊具を着けた自身をグイグイと押し付けて、胎内に埋め込み拡げていた中指と薬指と人差し指を引き抜くと、それよりも質量の増した熱をあてがい、そのまま一気にグググ……と腰を押し進めた。
「あ、い、いたっ……!」
「海……っ」
 じっくりと様子を伺いながらも、狭い胎内を拡げるように自身を埋め込んでいく。真下の海を見れば、海は痛いのかたまらず目をぎゅっと閉じて、その痛みに耐えている。
「ん、んっ、んあ……正人……」
「ゴメン……海」
「ん、んんっ……痛ッ、あっ、ああっ」
「やめる?」
 痛みに耐えかね、苦痛に顔を歪める海に、胸の奥が痛む。こんな思いをさせてしまっているのに、このまま押し進めていいのだろうか。葛藤が芽生えるも、彼も彼でこのまま抜くのは中途半端で辛い。
 そうしている間にもじわじわと海のそこは乾き始めている。
 まだまだ先端しか挿入(はい)って居ないが、膜に覆われたそこは破瓜の痛みに耐えかねている。
 海は今も歯を食いしばって自分の肩に爪を立てんばかりの勢いですがりついて痛みに耐えていると言うのに。
 その苦痛に涙をうかべる表情さえも、愛しく思ってしまう……。
「海……背中に腕回して捕まってて」
「あっ、んっ、無理ぃっ……やっぱり、無理だよ、っ。大きくて……入らない……っ」
「っ……」
 指なんて比べ物にならないくらいの彼の質量に海が痛みを覚えながらも彼はずっと求めていた恋しい人の胎内に沈み込みながら痛い位の締め付けが猛烈なうねりとなり締め付けられ、その締め付けが叫び出したいくらいに気持ちが良く、初めて感じる悦楽に理性のタガが外れそうだ。
 ゆっくり腰を押し進めるも、海の胎内はキツく締め付け彼の侵入を拒むようだった。痛みが強い。彼にもその締め付けられる痛みが、伝わる。
「海……目、開けてみて」
「ん……あっ」
 そうして、優しく髪を撫で、侵入し続けるその上の突起を優しく触りながら、海は痛みに硬く閉じていた瞳をゆっくり開けた。
 視界の目の前に映るのは自分を見下ろす最愛の彼の顔。優しい眼差しに見つめられながら海も安心したように彼の顔だけを見上げていた。
 安心から海の全身から力が抜けた拍子に。グン、と一気に熱い塊が彼の望むまま押し拡げられる海の入り口。腰を進めてゆっくりゆっくり海の中に飲み込まれていくと、海の顔が明らかに苦痛に歪んだ。その締め付けが彼の侵入を拒み、彼にも痛みが走る。
「っ……くっ……」
「あっ! 痛い……痛いっ……! 待って!! ああっ!」
 そこはギチギチと引きつるような痛みを与えながらも残りの彼を必死に受け入れようとする。彼の1番太い部分が入口を掠めた時、サラサラと何かが溢れるような感覚がした。
「は、あっ……」
「んんん〜……!」
 足をバタバタと動かし引き裂かれるような耐え難い痛みに涙が溢れ彼の肩に綺麗に手入れされた桜色の爪を立ててしまう。気持ちいいとか幸せだとか、そういう気持ちはない。
 ただ痛い。どうかこれ以上は。海が縋るように細身だが筋肉質で硬い彼の
 背中に縋り付いて必死に耐える。
「海……」
「っ、いやぁっ……痛い、痛い……! 無理だよぉ……っ、抜いて、っ! あっ!」
 しかし、今更ここまで来て止めるのも酷だ。この行為が痛いままで終われば、この後に大きな痛みを残すだけで進めなくなる。そうなるくらいなら。一思いに。
「海、海……」
「は、ぁん……」
「僕の上に乗ってみて」
 海が驚く暇も無く、突然海の華奢なクビレを抱いたまま海を持ち上げてそのまま自分の上に乗せる体位となり、柔らかな腰つきに驚きながらもそのままそろりそろりと下へ向かって腰を下ろせば猛ぶった彼の熱を感じた。
「あ……っ」
「腰、……そのまま降ろしてみて」
「っ……」
 そろそろと。ゆっくり腰を下ろしていく海。
「っ……!」
 海が必死に我慢しているのが分かる。膝が震え、そろりそろりと、しかし、先程より痛みはない。このまま腰を下ろせば自分の中に彼の熱を受け入れられる。
 海は覚悟を決め、痛みなら、一瞬だと、同じく苦悶に顔を歪めながらも唇を重ね合わせ一気にねじ込んだ。海の甘い声に腰が疼いて止まらない。
「っ、入った……大丈夫?」
「ん、あ、痛たたた……ほん、と…?」
「うん」
 まだ慣れない痛みの中、恥ずかしくて彼の体を直視出来ない海だが、腰を下ろして、自分から彼を受け入れたことで二人は、動かずにそのまましばらく抱き合っていた。
「海……」
「きゃっ、あっ……、いたっ、あっ、んんっ……」
 だが、今まで未開通だったところに無理やり拡げられる痛みは尋常ではない。今はその痛みを受け入れるので精一杯の海。これ以上の苦痛を彼女に与え続けるのも酷だし、自分の欲望よりも彼女の身体を気遣いたかった。
 元々小柄で華奢な海。入り口も小さいのか、自分のを受け入れるので精一杯だ。出し入れしながら、途中で滑りがよくなって、サラサラとした何かが肌を伝うのはそれは紛れもなく。
 身を屈めると、角度が良かったのか、入り口さえ貫けばそのますんなりと深く入り、海が一瞬だけ顔を苦痛に歪めたが、機転を利かせた彼の判断で自重での挿入により、隔たれていた膜が裂け、お互いにようやく繋がった。
「っ……あっ、んっ」
「痛いよね……、ごめんね……」
「ん、く、あっ、あ…ああつ! 駄目! 止めて! もう無理……っ! ああっ!」
 一旦、海からゆっくり自身を引き抜くと、柔らかな海を腕に閉じ込めてそっと囁いた。お互いに暑くも寒くもないのに肌は互いの汗でしっとり汗ばんでいる。労わる様に彼がそっと彼女の髪を撫でていた。
「海……ありがとう。ゴメンね、痛い思いさせて……」
「ううん、いいの……。私、幸せ……痛みがあるから、余計に、実感できた……から……」
「海…。今までゴメンね。たくさん我慢させてきたその分、今度こそ、大事にするから」
 痛みでまだ下半身から下を動かせずにぐったりした様子の海の身体を気遣いながらふわりと彼の手が剥き出しの背中を撫でた。
「痛くない?」
「ん……大丈夫……」
 ふるふると首を振ると、海は彼の腕をゆっくりと掴んで引き寄せると長い髪がシーツに広がりながら彼の肌をくすぐった。
「海……、大丈夫? 痛い?」
「……して」
「え?」
「いつもみたいに、頭、撫でて……欲しい……」
「海……」
 求めるように、縋り付いてきた自分よりも細くて小さな身体を受け止め、労う様に何度もキスを落とす。彼は海を抱き締めながら。善は急げと突然先ほどの余韻もまだ残る中である事を口にした。
「ん?」
「あのさ……、こういう事って……期間空けない方が、いい、んだよね……?」
「そ、そんなの、知らないっ……!」
「だから、ね」
「ん?」
「僕と一緒にここで暮らして欲しい」
「え?」
「もう、海がどこにも行かないように、今すぐじゃないけど、落ち着いてからでもいいから、ここで暮らさ無いかな、って……。ダメ、かな……」
 急な彼の提案に驚きながらも真剣なその黒目がちの大きな目に見つめられ、海は素直に頷いていた。
「うん……、うんっ、いい、よ」
「それじゃあ、決まり」
「一緒に暮らしたら、毎日正人の、お料理食べられるんだね……」
「うん。海の好きな物なんでも作ってあげる」
「胃袋掴まれちゃうね……じゃあ……明日はね……正人の……パンケーキ……食べたいな……」
 彼の胸板に顔を埋めながら。そのまま海はくたりと力尽きるように。瞳を閉じた。
 この痛みが彼と結ばれた証であるのだとしっかり、そう教えてくれる。まだ不慣れな行為、身体の内側から引き裂けるような、痛み。
 そのまま先程まで尋常ではない痛みを越えて愛し合ったベッドでまどろみながら。元々眠たかったのか海は力尽きるように眠りについてしまった。
 甘えるように子猫みたいに擦り寄る海が愛しくて。
 痛みを受け止め、互いに結ばれたのだと実感すれば心の奥からじんわりとした、温かな感情が溢れ出すようだった。
 近いうち、父親と母親に報告に会いに行こうか。彼女を連れて、二人。またいい報告が出来るかもしれない。
 カバディと同等に共に追い求めていた。そう思える相手との出会い、そしてようやく結ばれたのだと。こみ上げる愛しさに制御不能になりそうになる。
「おやすみ、海」
 もう自分も海もひとりじゃないのだ。穏やかな空気に包まれて彼は恋しい少女を抱き締め、ふわりと微笑んで、満たされた思いに安堵し、出来ることならこれが夢でないことを願い瞳を閉じるのだった。

 Fin.
 2020.07.12
【Can you feel the Destiny】

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