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【お願いだから、触らないで(L)】

 彼女の様子が変だと男が気付いたのは、資金繰りのパーティーに彼女と彼女の部下と馬車に乗り揺られている時だった。いつも明るくて朗らかな海。しかし、今は着ているドレスのせいか、それとも、資金繰りのパーティーの度に貴族の女から声をかけられる男を懸念しての不安か、出会った頃のような弱々しくどこか儚くて、憂いを帯びた眼差しをしていた。しかし、彼女の落ち込む理由、それがまた違う理由だとは知る術もなかった。

「海、どうした?」
「あっ、ごめんなさい・・・何でもないの。ただ、久しぶりのパーティーだから・・・」
「お前は、いつも通りあの貴族共にその歌を聞かせてやればいい、そうすりゃ貴族もまた気分をころっと変えて金を積む。」
「ん・・・そうだね。」

 清楚な雰囲気を纏う彼女に不釣り合いな胸元はタートルネックで隠れているが、その代わりに大胆に背中が開いたレース素材で透けた大人っぽい真っ黒のブラックドレス。赤い薔薇のコサージュを緩やかに纏めあげた髪に飾り、柔らかいぽってりした唇には赤い紅が引かれていて。まさか、そんな彼女がかつて地下街で名を馳せた歌姫であり、現に今は両親の血を引いた泣く子も黙る調査兵団に心臓を捧げた分隊長だとは思うまい。

「海・・・顔色が悪いな。無理、してねぇか」
「どうして、そう思うの?」
「いや・・・何でもねぇならいい。」

 会場に着いても、海は歌うまでに至らなくて、気分が乗らないの。と、酒をしこたま浴びるように飲んでいた。いくら酒に強い海でもあれは飲みすぎだ。リヴァイは何度も止めさせようとするが海はリヴァイの手をすり抜けそのままステージに向かって颯爽と歩き出してしまった。何かがおかしい。最近いつにも増してどこかに居なくなりそうな、消えてしまいそうな不安にたまらずリヴァイは今すぐ海を抱き締めて安心したかった。

「あの、リヴァイ兵士長・・・?」

 高らかな声で愛の歌を歌い上げる海を遠巻きに見つめてリヴァイが1人で酒を飲んでいるとそれをチャンスだと貴族が1人、また1人、そして群れとなりリヴァイの元に集まってきた。その女達の瞳には自分が映っていて、その眼差しが何を求めているか容易くわかる。しかし、穢れた女達の欲望に付き合う気など全くない。リヴァイは目もくれずに歌い終えた海に手を差し伸べるとエスコートしたまま自分に用意された部屋に海を連れ込んだ。

「リヴァイ!?」
「お前・・・なにか俺に隠してるな?」
「何も・・・隠してなんて・・・ないよ。」
「じゃあ、確かめさせてもらう。」

 壁に押し付けられ、有無を言わさず海はリヴァイに着ていたドレスを脱がされてしまった。シュルリと音を立ててリヴァイは自身のスーツからクラバットを引き抜くとそれを海に手渡し、普段よりも荒っぽく海を抱き締め普段は冷静な彼からはにわかに信じ難い勢いで口付けてきた。リヴァイは信じたかった。海の身の潔白を、しかし、キスをして、ベッドに押し倒してみても静かに泣く海。

「エルヴィンに抱かれたの・・・」

 リヴァイは言葉を失った。海が口にしたのは思いがけない人物だったからだ。

「私、駄目なのに・・・嫌だったのに・・・感じてしまった・・・だからね、私は、・・・リヴァイ・・・もう、あなたにふさわしい女じゃ、ないの・・・」
「・・・海・・・言うな。これ以上言わなくていい。」
「私、・・・リヴァイに相応しい女なんかじゃない・・・ったら、だから、」
「言うなって・・・言ってんだろ!!」

 男は許すように壊れてしまいそうな海を強く抱き締めた。久しくこんなふうに怒鳴るような大声を張り上げたのは何時ぶりだろう。兵士長の立場として、男に宛てがわれた豪華な客室で本来は貴族との密会にと用意された部屋で同期であり、恋人の海の身につけているもの全て脱ぎ捨て丸裸にした。

「やめて、・・・いや・・・こんなの・・・っ、」
「いいからよく見ていろ。」

 豪奢な部屋の鏡の向こうに映る丸裸の自分に海は泣きそうな顔で顔を背けるもリヴァイは許さず真っ白な美しい肢体を見てろと背ける顔を押さえつけて目を向けた。

「お前は、穢れちゃいねぇ・・・。」

 兵士として鍛え抜かれているが、自分とは違う、顔は幼いままなのに、小さくて柔らかくて、色白のすべすべでもちもちとした肌触り。

「あっ・・・んんっ!ああっ!」

 この罪作りな肢体をエルヴィンも見たと思うと長い付き合いになるエルヴィンへの憤りを覚えたが、泣きじゃくった海を怖がらせないように、彼女が味わった苦痛を繰り返し繰り返し洗い流すようにしつこく抱いた。

「リヴァイ・・・リヴァイ・・・っ!」
「お前、死ぬなよ。死んだら許さねぇ、お前はちっとも穢くねぇ。穢ねぇのは・・・守るって誓ったのによ、守りきれなかった俺だ・・・」
「リヴァイ・・・」
「エルヴィンも、自分がいつか死ぬと思って、そう思って、お前に触れたんだろうな・・・だがな、やらねぇよ。もう、お前は俺から離れるな。心も体もひっくるめてお前は俺の物だ。」

 独占欲にも似た普段取り乱さない男の激しい感情に海は胸を抑え涙した。

 
ーーーーーーーーーーー


 パーティが終わり、エルヴィンも帰ろうとしていた時、ふと、扉の向こうに小柄な男が立っているのを見た。

「よぉ、エルヴィン。」
「何だ。まだ居たのか。てっきり海と帰ったのかと思ったよ。」

「金輪際お前が海に近づかせねぇように、アイツはこんな血腥ぇ調査兵団なんか似合わねぇ」
「そうか。それは残念だ。彼女は調査兵団にとっては欠かせない存在だ。抜けた穴はどう埋める?」
「俺がやりゃあいいんだろう。あいつの分まで俺が巨人共を絶滅させるし・・・資金繰りもやる。」
「俺は彼女に調査兵団の現状を教えた迄だ。そうすれば、お前も重い腰をあげると思ったからな。」


 エルヴィンの思惑は最初から自分に向けられていたと知り、リヴァイはその為に海はこの男に蹂躙されたのかと思うと自分自身の事を恨んだ。
 今もベッドで安らかに眠る海を思う。もう、激化するこの状況から、心根の優しい彼女を守って戦うのも限界がある。彼女を死が渦巻く戦いから引き離したかった。

「あいつはな、俺を調査兵団に引き入れたお前の事を心底すげぇと尊敬してたんだ・・・そんな海の純粋な思いを踏みにじりやがって・・・。あいつは俺を裏切ったと1人思い悩んで自殺寸前だった。あいつは他人の命には敏感なくせに自分のことになると、平気で舌噛んで死ぬような女だ・・・お前を許すことはしないが、殺すのはもう引退したからな。あいつに免じて殺すのだけはしない。」
「そうか。」
「分かってるよ、エルヴィン。お前がこうするしかなかったことも。」
「お前に理解してもらえたのならいい、それに、俺がその為だけに海を抱いたと思っているのならそれは大きな誤解だ。俺は、海の事を「海は過去にお前が好きだった女じゃねぇんだよ。俺は海との関係が終わったと、いつ言った?今も昔も変わらず俺は海だけしか女に見えねぇし、あいつは明日にでも俺の嫁にする。覚えてろ。」

 最後に男は自分より何倍も背丈のあるエルヴィンの胸板を思い切りど突くと足音を荒く部屋に戻った。


 淫らに乱れた海に与え続けた行き過ぎた快楽とエルヴィンとの夜に思い悩み眠れずにいた疲れと相まって大きなベッドに横たわり未だに熟睡して眠り続ける海を横目にリヴァイは決意を新たに静かに胸の内に燃ゆる炎を揺らめかせていた。

「お前は、俺が守る。安心しろ。だから、もう巨人共への復讐に生きる必要なんてない・・・俺だけの為に生きてくれ。そうすりゃ、俺は・・・何でも出来る。お前が笑ってくれりゃあ・・・そう思うんだ。」

 海の頬を伝う一雫の涙。唯一の変わらない海の幼い寝顔を眺めて男は誓いを新たにそっと、死体のように眠る海にキスをし、自分も眠りに落ちて行った。

To be continue…

【お願いだから、触らないで(L)】

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