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「#年下攻め」のBL小説を読む
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─07─

 田舎独特のコンビニやスーパーがあるメインストリートを抜ければそこは見渡す限りの田んぼしかない。角を曲がり人通りの少ない路地を走る海のセダン。日陰で雪が固まったブラックアイスバーンが残る路地を進むと二階建ての少しカントリー風の民家が見えてきた。そこに車を停めた海。ミカサの家かと表札を見れば海の苗字に思わず目を奪われた。
「到着しました」
 どうやら海の家らしいが、確か彼女は一人暮らしだった筈では。
「ミカサのお家はここから少し歩いた私の近所なんです」
「お前、一人暮らしだったんじゃ……」
「仕事辞めてからは実家に戻されました。父親もひとりじゃ心配だからって。無色じゃ一人で食べていけないからって」
「そう、だったのか」
「大丈夫です、あなたには関係ない事なので」
「(覚悟していたが、かなりきついじゃねぇか……すがすがしい位に嫌ってるな。そんな目で見るなよ)」
 エルヴィンからは聞いていたがやはり、海はもう自分とは同じ業界の人間では無くなってしまったのだと改めて海の口から聞かされるとその事実は重く男へのしかかった。今は父親と暮らしていると、それはそれで防犯上は安心かもしれないが、そう言えば、あっちの都会にいた時海は幼い頃に母を亡くし、それ以来父親と二人三脚で暮らしてきたと苦労していた日々を話していた。
 父親に大切にされて育ったのだろう。確かに思う、彼女は親の目抜きにしても躾の行き届いた真面目でいい子だと思う。頑固なところは多少あるが、そんな彼女をここまで愛らしい笑顔が素敵な女性に育てた父親も大層立派な存在なのだと。果たしてどんな父親なのか。
「おっ! 海〜帰ったか!」
「あ、おとうさん!」
 海の車の音に気付いて庭から顔を覗かせたのは、でかい雪かきのシャベルを軽々と手にビルのように背が高く厳つそうな男だった。大きな雪かきシャベルを片手に呑気に手を振り駆け寄る低い声を持つ男の後ろを黒髪ショートの美女、自分の親族であるミカサも顔をのぞかせた。久方ぶりの親戚との再会にミカサも歩み寄ってきた男に頭を下げて。思ったよりミカサは顔色も悪くなく、一見肉親の死に塞ぎ込んでいるような感じでもなかった。
 父親とミカサが顔を見せるなりさっきまでつんとしていた彼女が自分が見たかった笑顔にみるみるうちに変化した。
「久しぶり」
「ああ、」
 お世辞にも元ヤン上がりであまり外面の良くない男。海との事を気に病んでますます塞ぎ込んでいた日々を思えばリヴァイの元々よろしくはない部類の人相はますますクマができ余計悪く見える。ここで微笑めば少しはいい印象かもしれないが、愛想のない男は不気味にほくそ笑む事しか出来ない。海の親を前にしてもその表情が崩れることは無かった。
「えっと、ミカサの親戚? 本家? のリヴァイさん? ほんで海の出向先の上司なんだろ?」
「そう」
「リヴァイ・アッカーマンだ」
 そうして深々と頭を下げてきたミカサより小柄のしかし海よりは背の高い男に海の父親は神妙そうな顔つきでジロジロ上から下まで眺めていた。
「ああ、よろしく。あっちではだいぶ俺の娘が迷惑かけたんじゃねぇか?」
「彼女は半年でかなり俺の部署に貢献してくれた。感謝している」
「へぇ〜〜〜!!! そうか、そりゃあお役に立てたなら、なぁ、なっ! 良かったなぁ、海! お父さんは鼻が高いぞ?」
「……そ、そんなことないよ。お世辞だよ」
 硬い握手を交わしながら父親に娘を褒めるようなことを告げれば自分の娘を褒められて喜ばない肉親はいない。父親は嬉しそうに微笑んだ。ああ、笑った顔もよく似ている。間違いなく海の父親だ。
「まぁまぁ、あっちに比べたら同じ日本海側でもこっちはとにかく豪雪地帯で冬は本当にヤバい位に寒いからな。とにかく上がれ。メシの準備しねぇとな! 今はミカサの家で通夜と葬儀の準備中だ。今にもぶっ壊れそうな民宿ぐらいでホテルとかもねぇし。ここドドド田舎で不便なとこだから葬儀の間は俺んちに寝泊まりしてくれ。移動の車は海が出すし、遠慮はしなくていい」
「え? お父さん!?」
「何だ? ミカサも泊まるしエレンも呼んでみんなでミカサの傍に居てやろうぜ?」
「け、けど、」
「おいっ! 遠路はるばるきた上司に対して恩を感じてないのか!」
「もう、そんな訳ないったら……!」
「んじゃあ、泊めてやろうよ」
 てっきりミカサの家で寝泊まりするもんだと思っていたリヴァイと海は父親からの提案に激しく動揺した。まして、一番目をまん丸くさせてびっくりしているのは海だった。
 かつての上司が自分の家に寝泊まりするとは。思ってもない出来事だ。・・・しかし、この家の主は父親だし、父親は自分たちのあの夏に起きた出来事も、その後の事、都合なんか知りもしない。いや、知っていて敢えてそうしたのか?駄目だ、海の父親が何を考えているのかさっぱりわからない。しかし、ここで好意を断ればますます不思議に思われるだろう。唯一、海と男の間柄を知るミカサだけが赤いマフラーに顔をうずめそれを睨むように眺めている。
「そ、そうだね……ミカサもいるし、」
「んだろ? よし、決まり! 俺がローン払ってる家なんだから文句は言わせねぇ海から聞いたけどリヴァイさん? 確か掃除得意なんだろ? よろしくな」
「さん付けは必要ないので大丈夫です。しばらく世話になる」
 いや、もし二人の関係を知ったらガタイのいい父親は間違いなく自分の娘に手を出した男を許さないだろうし、海だけの話を聞いたら自分はそれは最低な男だろう。温厚な父親は怒って手に持った雪かきスコップで男を近くの公園も兼ねた山に埋めかねない。結局家主の判断に逆らえず、リヴァイは海に二階に案内され、海の部屋の隣の客間を使うことになった。
「リヴァイ」
 部屋でクリーニングに出した喪服を干し、早速どこかの姑のように部屋の汚れをチェックしているとドアをノックせずやってきたのはミカサだった。
「ああ、大丈夫か?」
 唯一の肉親の死に心を塞ぎ泣いているかと思っていた彼女を気遣い声をかけたが、ミカサは思ったよりもしっかりしていた。少しは元気かと安堵した時、リヴァイは突然腹部に激しい痛みを覚えて思わず後ろの敷かれていた来客用布団に沈んだ。
「っ……てめぇ……・いきなり遠路はるばる田舎に来た人間に……何しやがる。ろっ骨が折れたと思ったじゃねぇか」
「海の苦しみに比べたら大したことはない」
 ミカサの本気の拳が男のレバーにヒットしたのは一瞬だった。いくら男が鍛えていたとしても突然の打撃は力を抜いてたのもあり物凄く、いや、かなり痛い。アッカーマン家は武士の家系でそれに倣いミカサも男顔負けのシュートボクシングで鍛えているからなおさらそのパンチは無防備だった男がぐらつくほどの威力だった。
「海は、あなたのせいで心を疲弊させていた。電話で日に日に元気がなくなって、絶対に切らなかった髪をバッサリ切った時、何かあったんだって、ただ事じゃないと思っていた。だけどその元凶があなただったとは。もしあなたが目の前に居たらようやく落ち着いて元気になって来た海だってどうなるかわからない。だから海に一切近づかないで」
 きっぱりと告げた意思の強い黒曜石の瞳に灰色の自分の瞳が映る。拒まれれば拒まれるほどこんなにもひとりの女に執着する自分が情けない。しかし、男はそれでも今更何も言わずに帰るという諦めるという選択肢などない。
「……お前、海の一方的な話だけで偉そうに語ってんじゃねぇぞ。それに、これは、俺と海の問題だって言ってんだよ。俺は償いに来た、今まで海に言えなかった、けど、居なくなって気付かされた海を本当に……思うからこそ、」
 海をもう一度この腕に抱きしめたい。それだけの思いが今の男を突き動かす。
「海はひとつ勘違いしている。その誤解を解きにきた。その為に俺はここにいる」
 ミカサの拳を骨が軋むほど握りしめて、男は立ち上がる。まだ腹が痛むが、これしきのパンチで倒れるような男は海をもう一度この腕に抱き締めるには到底一筋縄では行かない。
「心の病気は、そう簡単に治るものじゃない。それでも、海を受け止める覚悟があるなら、私は……」
「海の心が今はもう違う男に向いているのなら俺は何も告げずに去る。けど、あいつがそうじゃねぇのなら。俺は……どんな海だろうが、病気だろうが何だろうが全部ひっくるめて受け止めてやる。海が地元が良いって言うなら仕事も役職も捨ててこっちに来てもいい、その覚悟だ」
「……そう。だけど、海が違う男に簡単に目を向けるような子なら精神を病んだりはしないと思う。海の気持ちも答えも知ってる。けど、それは私の口からは教えられないから。直接聞いて」
 ふい、とそれだけ告げて黒髪を揺らしミカサは部屋を出ていった。1人残された自分。ひとまず今日は喪服は着ないし、堅苦しいスーツを脱ぎ捨て私服に着替えようかとコートと上着を脱いだ時、ノックと共にミカサと入れ違いに顔を覗かせたのは海だった。
「失礼します。晩御飯の準備出来たので降りてきてください……お父さんが……」
「ああ……今行く」
 半袖のVネックのインナーから浮かび上がる筋肉を纏った男の身体が海の視線に飛び込んできて、海はじろりと凝視すると思い出したかのように、逃げるように扉を閉めてしまった。
「あれ、海、どうしたんだよ、熱でもあるのかよ?」
「あっ! エレン、い、いつの間に!! ううん。なんでもないの! きゃっ!」
「おい!大丈夫かよ!?」
 ドドド!!!と派手な音を立ててスリッパで階段を滑るように降りていった海。男の屈強な肉体をまじまじと見てしまい明らかに動揺していたのは見て分かる。わかりやすい海の態度、話す機会は十分にある。
 男は涙を呑んで自分の幸せを願い別れを受け入れてくれたペトラ、必死に自分たちを結びつけようとしてくれたユミルやヒストリア、それに遠巻きに見守るエルヴィンにあわよくばハ○撮り動画をと過激な期待を寄せるハンジと、沢山の声援を受けて様々な思いの果てに必ず解けた糸を繋ごうと闇の中足掻く。
 気づけば誕生日のクリスマスまで目前に差し迫っていた。クリスマスは救世主の生誕した記念すべき日だそうだ。果たして神により選ばれし救世主は自分に微笑むのだろうか。答えは海しか知らない。この歳にもなって誕生日なんて要らない、心から海が欲しいと渇望した。この腕に抱きたい、欲求よりも孤独に飢えて冬はあまりにも寒すぎる。一人ではこの身体は冷え切って到底、芯まで冷えて温まらないだろう。

 
To be continue…

2018.10.12
2021.01.08加筆修正

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