THE LAST BALLAD | ナノ
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#39 missing

 ウトガルド城を取り囲んだ巨人達。残されたナナバ達が必死に残り僅かな武器とガスを気にしながら懸命に104期生を守るために足掻いて応戦するも、獣の巨人による圧倒的な力、そして獣の巨人が率いた巨人の襲撃と繰り出された大砲のような投石攻撃によってリーネとヘニングが死に追いやられ、そしてナナバとゲルガーもとうとうガスが尽きて無残な最期を迎えた。
 今も耳にこびりついて離れない、優美に微笑んでいたナナバの壮絶な許しを請うかのような断末魔。
 絶体絶命に追いやられた104期生の中で、何よりも優先すべき救出対象が居た事を知り、ひとまず彼女たちを探すべく南西のウトガルド城へと調査兵団の精鋭部隊を結成し、急ぎ馬を走らせるウミ達。
 壁の秘密を知る権利を持つ高貴なその血筋をずっと隠していたクリスタ。その中で、クリスタの境遇を知り、かつての自分を重ねていたユミル。ずっと傍に居た彼女はついにその秘密を皆の前で明かすのだった。ナイフを手に、巨人たちに囲まれ絶体絶命の状況下でクリスタに別れを告げ、そして高い塔から飛び降りたのだ。

「ユミル――!!!!」
「(クリスタ……私もだ。自分なんて生まれてこなければ良かったと思ってた。ただ存在するだけで世界に憎まれたんだ。私は…大勢の人の幸せのために死んであげた……でも、その時に心から願ったことがある。もし生まれ変わることができたなら…今度は自分のために生きたいと)」

 巨人達が大口を開けて待ち構えている。その中央でユミルは思いきり手首を引き裂き、その返り血が彼女の顔の半分を汚していく……。
 それは、アニが女型の巨人となった時と同じく、夜明けに電のような強い光と共にユミルが女型やエレン巨人らと同じ知性を持つ巨人・「顎の巨人」として巨人化したのだ。クリスタ達の前に広がる衝撃的な光景。壁を破壊した超大型巨人や鎧の巨人やエレン巨人に比べてかなり小さめだが、その小柄な分、長い爪と強靭な顎の力、身軽な機動力を生かしてユミルはクリスタに別れを告げ、自らの命を賭けてクリスタとして死に場所を探し求める死にたがりの彼女を守るべく、塔に群がる巨人達に一斉に襲い掛かった。

「ウソだろ……ユミルまで……巨人に……」
「ユミル」

 全員が蒼白な表情で巨人化したユミルを見つめている中でライナーとベルトルトはその姿にかつて五年前のことを思い出していた。

「……あ、あの巨人は」
「あの時の」

 2人の記憶は五年前の記憶へと立ち戻る、かつて同じ使命を背負ってこの島にやってきた仲間であるマルセルがライナーを庇い、そして食われた最後の驚愕と絶命する恐怖に打ち震えたその姿、そしてマルセルを捕食したそばかす顔の巨人の姿を。
 ユミルは次々とうなじを食いちぎり、うなじを食われてそのまま倒れた巨人がぶつかった衝撃で塔が激しく揺れ、その戦闘の激しさを物語っていた。

「うお!!」
「あっ」

 地面が揺れ、そのまま塔が揺れ落ちそうになり、その衝撃に耐えきれずにクリスタの非力で小柄な体が塔から落ちかけた時、クリスタの足首をライナーの大きな手が掴んで持ち上げ助けてくれた。

「あ……ありがとうライナー。いっ!? いたた! ライナー!! 足!」
「ライナー!? もういいって! 放せよ足! オイ!?」

 が……しかし、ライナーはクリスタの足首を掴んだまま戦うユミルの姿に呆然としている。ライナーは無意識にその腕に力を込め、クリスタの足首を骨が軋むまで握り続けていた。ライナーの思考はある日の記憶へ、封じられた忌まわしき時へ、どこか遠くに飛んでしまっていたようだ。
 このままではヒストリア足が折れてしまう。慌てふためいたコニーの声にようやくライナーが掴んでいたクリスタの足首を離したのだった。

「す、すまん……」
「ううん、助かった」
「クリスタ……なぁ、お前は知ってたのか? ユミルが……巨人だったって」
「ううん、知らなかった。いつも近くにいたのに……こんな……こんなことって」
「……あれがユミル!?」
「つまり、あいつは……この世界の謎の一端を知ってたんだな? まったく……気がつかなかったよ」
「なぁ、あいつは……、どっちなんだ……? エレンも巨人だったけど、自分がそうだって知らなかったんだろ? でも、……ユミルは何か……巨人の力を知ってた風だぞ?」
「ユミルは人類の敵かもしれないっていうの?」
「そりゃあ……こんな力持ってたんだもんな。何考えてんのかわかったもんじゃねぇよ……」
「……一体ユミルの目的は何なんだ……?」

 血しぶきを上げ次々と巨人を倒して孤軍奮闘するユミル。クリスタを守るために。しかし、多勢に無勢。既に限界があり、とうとう巨人に捕まれてしまう…。そのまま手を掴まれ、勢いよく引っ張られるユミルはクリスタの前で肘を噛まれて痛みに絶叫した。

「ユミル!」

 クリスタの声に巨人に捕まれている腕を食いちぎるユミル。
 噛まれている肘を強引に引きちぎり塔の上部へ移動しようとしたその時、そのまま別の巨人に足を掴まれてしまい。逃れようと必死に塔にしがみつくユミル。
 しかし、ユミルが塔にしがみついたことにより今にも崩落しそうな塔の積み重ねられた煉瓦がどんどん崩れていってしまう。自分が捕まれば塔は崩れそしてクリスタが不安げに自分を見つめる彼女の顔を見てすぐに手を離すと、ユミルはそのまま巨人の群れの中へと落ちていってしまった。

「な!?」
「あ……あいつ!! 何だ…!? まさか……塔が崩れる事気にしてるのか!?」
「………そうだよ。巨人の力を自分一人で逃げるために使うこともできたはず……なのに……そうしないのは、私達を……命懸けで守ろうとしてるから……? 何でよ……何でよ、ユミル……」

 クリスタが立ちあがり、今にも崩れ落ちそうな塔に足を掛けてユミルに向かって叫んだ。それは今までいい子のふりをして押し隠してきたクリスタの本当の姿でもあった。

「死ぬなユミル!! こんな所で死ぬな!!」
「おおおオイ!」

 今度こそ本当に落ちる……! 慌ててコニーがそれを止めるのも構わず身を乗り出し絶叫したクリスタがユミルに暴言にも似た怒りを容赦なくぶつける。

「何いい人ぶってんだよ! 馬鹿! そんなにかっこよく死にたいのか!! このアホが  
 !! 今更天国に行けるとでも思ってるのか!? 自分のために生きろよ!! こんな塔を守って死ぬくらいなら……もうこんなもん、ぶっ壊せええええ!!!」
「おおおい!!」

 これまでにない荒々しい104期のアイドルだったクリスタの本当の気持ち。
 押し隠してきた感情が爆発した。彼女の絶叫を聞き呆気にとられるライナーたち。
 今にも落ちそうになりながら叫ぶクリスタにしがみついてコニーが必死に抑えるが、彼のトレードマークのスキンヘッドに手を当てなおも叫ぶクリスタの声に呼応するようにユミルが塔をぐるっと囲う周囲の煉瓦を次々と引きはがすと、ぐるぐる旋回しながらそれを巨人たちに投げつけ始めたのだ!
 もう遠慮はしない。そう、決めて塔を破壊し始めてゆくユミル。支柱を失い何とか保たれていた塔がとうとう支えを失い斜めに崩れ出していく。

「オ……オイ!! あいつ……! 本当に壊しやがった!?」
「いいぞユミル!!」

 大声で叫びユミルに呼びかけるクリスタの前にユミルが顔を出した。醜悪な外見に小柄な体躯の知性巨人の中でも会話が出来る能力を持ったユミルはクリスタ達に言葉を投げかけた。

『イキタカ……ツカアレ』

「生きたければ掴まれ」確かにそう呼びかけた巨人化ユミルの声にどうやらほかの知性巨人と違い人間の言葉を少し話せる機能が備わっているようだ。
 崩れ行く塔から逃れるべく、残された4人は必死にユミル巨人の髪の毛にしがみついたと同時にとうとう塔が真っ二つに崩れ落ちた。
 その衝撃で塔が崩れ巨人達は瓦礫の下敷きになり、ユミルは4人を守るように塔の上で態勢を保ちながらそのまま地面へと着地した。周囲は完全に瓦礫の山と化し、ウトガルド城は巨人たちを道連れに崩壊したのだった。
 ユミルの助けで何とか生還を果たした4人を朝焼けが包む。絶望の中、多くの犠牲のもとに窮地を脱し、月夜の下の死闘は終焉を迎えた。ユミルとそしてその瞬間まで戦い続けた先輩方のお陰で生きて朝日を拝むことが叶えられたのだった。

「ユミル……ありがとう」

 自らの隠していた秘密を晒してまでも自分との約束を果たしせ、そうして嬉しそうにユミルを見つめるクリスタ。だったのだが…。

「え……!?」

 激しい地鳴りと共に瓦礫から次々と巨人が出現し始めたのだ。そう、ヤツらはそう簡単にはくたばらない。瓦礫を突き破り束の間の朝焼けの中の静寂から瓦礫の下敷きになった巨人らが徐々に瓦礫の中から這い出して遅いかかる。

「まだ、巨人が……」
「オイ! ブス!! 早くとどめ刺せよ!」

 急かすようなコニーの言葉に再び最後の力を振り絞り、巨人へ飛びかかったいくユミル。
 その小柄な動きと、俊敏な動きで巨人のうなじを食いちぎるユミルだったが、その背後から巨人に髪の毛を掴まれ引っ張られたユミルは瓦礫に前頭葉を叩きつけられ、そのまま形勢逆転されてしまう。
 地面に押し倒されると、トロスト区奪還作戦でもエレンが狙われたように、次々と巨人が引き寄せられたようにユミルに向かって襲い掛かる。

「オイ……オイオイ……まずいぞ……」

 倒れ込んだユミルに抗う力はもう残されておらず、次々と倒れ込んだユミルを喰いつくさんばかりに巨人たちが一斉に飛びかかってきた。
 ユミルはそのまま抵抗虚しく巨人たちに囲まれ、巨人達はユミルの全身を無我夢中で貪るように喰い尽くしていく。

「ユミル!!」
「まずいぞ……ユミルが……」
「あぁ……そんな……そんな……」

 頭に噛みつかれ、そしてどんどん四肢を食いちぎられていくユミルに立体機動装置を持たない4人はどうすることも出来ない、早く彼女を助けなければユミルが巨人に食われてしまう。慌ててクリスタがユミルに危険も構わず駆け寄っていく。

「クリスタ!」
「待ってよユミル……! まだ……話したいことあるから……!!」

 内臓を食いちぎられ、足をもがれ、うなじの弱点が露出したらもうユミルは体力もなく誰も助けることが出来ない。完全に終わりだ。沈んだユミル意識の中でクリスタが危険を顧みずに巨人に貪られるユミルに向かって駆けていく。自分の名前を必死に呼びかけながら。

「まだ! 私の本当の名前!! 教えてないでしょ!!」

 聞こえたクリスタの声に、ユミルは消えゆく意識の中閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
 今にも泣きそうな表情で駆け寄ろうとするクリスタの前に姿を見せたのは。ヌッと瓦礫の死角から巨人があらわれクリスタを捕食しようと彼女に汚い手を伸ばしてきたのだ。

「待ってよ……まだーー……」

 クリスタの双眼から溢れた涙が頬を伝う。脳内でユミルと過ごしてきた3年間の月日が蘇る。

 ――「さぁ?似てたからかもな、」
 ――「クリスタ……安心してくれよ。私がここにいるのは、すべて自分のためなんだ」
 ――「クリスタ、いいか?私がその秘密を明かした時……お前は……元の名前を名乗って生きろ」
 ――「クリスタ、お前…胸張って生きろよ」

 ユミルが孤独で居場所もなく、生きているだけで蔑まれてきた自分にかけてくれたユミルなりの優しい言葉の数々がクリスタの脳裏に次々と蘇る。
 眼前に迫る巨人に誰も抗うすべを持ちえていない。クリスタが掴まれそうになったその瞬間、遠くから馬の嘶く声が聞こえた。

「クリスタ!」
「ウミ! まだ動くな、ああっ、ミカサまで!」

 エルヴィン団長の指示により構成されたもう今残された唯一の調査兵団精鋭部隊のハンジ班を中心とした主力部隊が全速力で馬を走らせようやく辿り着いた目的地。そこに加わったウミ達と共に平原を駆けていた。

「クリスタ……!」

 どこに巨人が潜んで居るのかも分からないと言う危険な状況下で、壁の保護対象となるクリスタ捕食寸前のピンチにウミが、ミカサが、一気に馬の速度を増してどこから巨人が襲って来るのかわからない状況の中先走ってどんどん先に行ってしまう。

「ウミ! 一人で突っ走らないで」
「早く行かなきゃ、クリスタが……危ない」
「わかってる、でもウミまで危険に晒せない」

 ウミはミカサと並んで走りながら馬が持てる最高速度を保ったまま、双方の剣を構え馬の背の上にゆっくり立ち上がる。
 中央に見えた群れなす巨人たち、その手前で今にもクリスタにその穢らわしい手を伸ばす巨人の姿にもう黙ってその瞬間を見ていられない。
 猛スピードで平野を駆け抜ける馬の上で立ち上がるなんて長年調査兵団に務めてきて熟練されたベテラン兵士でなければ出来ない芸当。万が一落馬すれば大怪我では済まない筈だがそれをウミは難なくやってのけそして馬の背を足場に飛び立った。
 ハンジはその出会った頃から変わらない小さな背に幼少の頃から英才教育をその小さな身に刻み込まれたのだとひしひしと感じていた。
 ウミはどこにでもいる平凡な女性に見えるが、有事の際に幾多もの死線を潜り抜けてきた猛者なのだと改めて思い知らされるのだ。
 ウミは兵団から離れて普通に生きてほしい、しかし、その願いとは裏腹にどれだけのブランクが空いたとしてもウミの意思は現役の頃と変わらない。戦いの中でしか生きられないのだと。
 アンカーを射出し、ハンジの静止の言葉も聞かずに飛び出した2つの影が同じタイミングで巨人を切り裂いた。クリスタを襲う巨人のうなじを切り裂く黒い影が一瞬にして巨人のうなじを削ぎ、巨人は朝焼けの光を受けそのまま鮮血を散らしながらゆっくりと倒れると同時に崩れ落ちた塔の残骸に着地する。突如として現れた黒い影の正体はミカサだった。

「ミカサ!?」
「お……お前……何で……!?」
「クリスタ……皆も下がって……後は、私達に任せて」

 さらりと黒い髪を揺らしてミカサが四人へ振り返る出で立ち。
 ストヘス区からエルミハ区を経由し、そしてウトガルド城を目指して馬を走らせて深夜から早朝にかけた大移動の果てにようやくウトガルド城へとたどり着き、危うくクリスタが巨人に食われかけそうになっていた瞬間、颯爽と姿を見せたミカサによりクリスタ達は危機を脱した。そう、間に合ったのだ。
 その瞬間、コニーたちの上空を朝焼けの空、鈍色の線が放物線を描いて一斉に空を埋め尽くすように駆け抜けていくと、駆けるそれは立体機動装置のワイヤーだった。そのままユミルを捕食しようと夢中で彼女を覆い囲んでいた巨人たちに向かって調査兵団の兵士たちが立体機動装置で一斉に飛び掛かると巨人のうなじを同じタイミングで切り裂いた。

「危ない!!」
「ウミ!」
「みんな、無事!? 大丈夫!?」

 朝飯前だと難なく横に回転しつつ遠心力を込めた一撃が巨人のうなじを切り裂いた。二対同時に襲い来る巨人のうなじを断絶し、ふわりと皆の前に着地して姿を見せたのは。
 自由の翼を刻んだマントを背に姿を見せた、かつて共に訓練兵時代を見守って来たウミだった。
 かつて分隊長として名を馳せた恐ろしい女が再び戦場へと舞い戻ってきた。
 遅れて到着したハンジが馬を走らせながら刃を手に部下たちへと的確な指示を下していく。

「後続は散開して周囲を警戒! 他全てで、巨人が群がってる所を一気に叩け!!」
「「了解!!」」
「ちょっと!? あんたは攻撃しなくていいからーっ!!」

 まだ完全に巨人化の後遺症から回復したわけじゃないのに。ハンジの制止も聞かずにエレンも同期たちのピンチと憎き巨人への怒りに闘志を燃やして立体起動装置を展開し、巨人のうなじを狙って飛び出したのだ。

「死ね!!」

 ずっとこの身で、この手で、巨人を討つことを考えてきたこの数年間、血ベトを吐くような壮絶な訓練に取り組んで来たのだ。ようやく巨人ではなく、自分自身の姿で。巨人のうなじを旋回して切り裂くエレン。

「やった!! 討伐数! 1!」 

 初めて自分のこの手で巨人を討伐した。
 巨人体ではなく、自らの子の手で。喜びに嬉しそうにこぶしを握り締めた瞬間巨人人が倒れるその風圧にワイヤーを絡め捕られ、そのままワイヤーに巻き込まれる形で地面へ転げ落ちるエレンにケイジがアンカーを射出し飛びながら真下のワイヤーと絡まりながら転んだエレンへ怒鳴った。

「馬鹿野郎!! 下がってろって言ってんだろエレン!!」
「は……はい……すいません。いってて……」
「エレーン!!」
「……お前ら!」

 駆け寄るライナー達。窮地に陥った104期生たちは駆け付けた調査兵団の主力部隊によって救助されたのだった。

 ▼

「ユミル……」

 塔に群がる巨人たちはやがて太陽の光の中静かに蒸発していった。危機を脱しユミルを抱きかかえながら懸命に彼女に呼びかけるクリスタは傷ついた痛々しいその姿に涙を浮かべていた…。しかし、命までは奪われずに済んだようで、呼びかけるクリスタの澄んだその声に少し目を見開くユミル。
 しかし、その身体はボロボロで、内臓が露出し四肢もひどいダメージを受けていた。

「私の本当の名前ね……「ヒストリア」って言うの……」

 風に掻き消えてしまいそうだったクリスタの優しい声が呟いた彼女の本当の名前。高貴な雰囲気を纏いそして凛としたその声は儚くも彼女が生まれながらに今まで背負ってきたその意思の強さを感じた。
 その言葉を聞き、彼女の本当の名前をそっと刻み込むと、ユミルは安堵の表情を浮かべ瞳を閉じるのだった。助けられたクリスタ、コニー、ライナー、ベルトルトらが調査兵団と共に馬に乗り壁まで向かう中でウミは一人古城の周りをまるで捨てられた子犬のように不安げな表情で、その場に居ない者達の姿を探し回っていた。その瞳は潤んでいるように見えて今にも頬を伝う…、そして、こぼれ落ちそうにハンジには映った。ここ一体を徹底して巨人を駆逐したはずだが、まだどこか巨人が潜んでいるかもわからないのに。

「ウミ、何してるの!?行くよ!」
「ねぇ、ハンジ……」
「どうしたの? さっきからうろうろして……何を探してるの?」
「ハンジ……ミケさん、クライスは……?……ミケ班のみんなは? どこに行ってしまったの??」
「ウミ。ミケ班のみんなは」

 彼女は104期生しか助からなかったこの現状を状況を見てもどうしても受け入れがたく、信じられずにいた。ミケ班の精鋭たちは皆実力者揃いだったから巨人にやられるなんて信じられなかった。
 しかし、目の前の現状、兵士として仲間の死を受け入れなければならないと、ナナバもゲルガーも食われ、そしてリーネとヘニングはコニーが話していた獣の体毛に覆われた巨大な巨人の攻撃を受け即死、遺体はがれきに埋もれて判別が出来ない。自分が幼い頃から面倒を見てくれた。
 大切な仲間達が巨人に無残に食い尽くされた事を、そしてここに居ない二人がどうなったのか…本当は理解していた。ならば、

「ウミ、いいね? まだ安全だと決まったわけじゃない。とにかく壁上まで戻ろう。そこまで戻れば大丈夫だ、破壊箇所を特定しないと。まだ私達には役目が残ってる。今ここに居ないミケたちの安否を気にしてる場合じゃない、分かっているね?」
「っ……わかってる、でも」
「ウミ……」

 クライスもミケも、二人はずっと調査兵団に居たのだ。父親が生きていた頃からの大切な仲間。どんな苦境も生き延びてきた、リヴァイが来るまでは2人が調査兵団の戦力の要であり、とても強かった。

「(クライス……ミケさん……きっと生きてるよね。無事、だよね)」

 何も言わずに唇を噛み締め、ウミは静かにまつ毛を伏せた。願わくばもう一度。一緒に酒を飲み語らい、そして夢を描いた。遠い夢を。しかし、涙は一滴も流さない。この先さらに待ち受ける現実がその涙さえも奪っていくなんて。

「ウミ、泣きたいのなら……今、私しかいないから」

 じわじわと視界がぼやけていくのは…その流れる涙が現実をしっかり受け止めているから。肩に置かれた手に振り向けば同じように悲しみに暮れるハンジの悲痛な表情があった。稀代の変人と言われているが、ハンジは自分にとって大切な古来からの友人であり、ただの変な人間なんかじゃない、ハンジは誰よりも聡明でそして優しくて、自分と同じ仲間を失うことに怯えていた。泣いてもいいよ。許されたのだが、ウミは頑なに頬を思いきり両手でぴしゃりと叩いて俯きながら何度も首を横に振った。

「人前で泣かないと決めた……あの人と。そう、約束してるから……」

 ウミが交わした約束の相手はいつもあの男の腕の中だけ。ハンジは何も言わずにウミを抱き締めて、そうして、お互いに、仲間の死を悼み、長い付き合いだった二人の生存が絶望だとしても信じたかった。
 その悲しみを束の間の時間分かち合い、そして壁上へと歩みだした。
 しかし、募る悲しみは次なる衝撃により一瞬でさらわれることになる。現実は容赦なく、既に待ち構えていた…。

To be continue…

2019.10.09
2021.02.03加筆修正
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