THE LAST BALLAD | ナノ
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#25 X−Day

 それぞれの思いが交錯する中、とうとうXデイを迎えた。
 トロスト区襲撃より丸1カ月が過ぎていよいよ今日は真実があるとされるエレンの家の地下室と彼女の帰る場所。今も生き埋めのままの母親が眠るシガンシナ区へのルート確保の為に第57回壁外調査が行われる日である。
 ウォール・シーナ・東部突出区、ストヘス区。
 頭からシャワーを浴びて昨夜の騒動に巻き込まれ寝不足の思考を振り払うべく一人の少女がガラス細工のような瞳に強い意志を宿し。そして、顔を上げた。幼き日、父との約束を果たす為に。

 ――「アニ、俺が間違っていた。今更許してくれとは言わない。けど、一つだけ頼みがある。この世のすべてを敵に回したって良い。この世のすべてからお前が恨まれることになっても父さんだけはお前の味方だ。だから、約束してくれ。帰って来るって」

 きゅっと蛇口のコックをひねり、少女、アニ・レオンハートは強い意志を瞳に宿して顔を上げた。その目にはもう迷いは無い。立ち塞がる障害はみんなこの手で…捻り潰す事を。

「(今日の任務。第57回・壁外調査にてエレン・イェーガーの捕獲)」

 ――ウォール・ローゼ東部突出区、カラネス区

「団長!! 間もなくです!」
「付近の巨人はあらかた遠ざけたぞ!!」

 いよいよだ。まだまだ先だと思っていた第57回壁外調査。行って帰ってくる為の
 試運転とは名ばかりで本来の目的は、シガンシナ区を破壊した壁の中に潜む巨人側勢力の人間をあぶり出す為である。
 敵をおびき寄せるためにエレンを餌にして壁の外へ出て、そしてウォール・マリアに点在している立体機動に適した自分達が有利な場所である壁内外に点在する樹高80Mもある巨木群ー巨大樹の森で捕らえる。
 しかし、この本当の作戦の目的はごく限られた5年前から生存する精鋭とエルヴィンのなぞなぞに答えられた一部の人物しか知らない。
 ハンジ班にミケ班、そしてリヴァイ班では自分のみ。そしてクライス。ずっと松葉杖だったがようやく回復して精鋭班の中に混じったクライスがこちらに向かって口パクで何かを訴えているが、わからない。
 きっと彼なりに調査兵団という死地に再び舞い戻りこれからまた巨人の脅威に立ち向かう自分を励ましてくれているのだろうか。班は違うが、作戦目標は同じである。
 一度は逃げ出した調査兵団、そして壁外調査――。

 住民たちに向けられる期待にも似た眼差し。しかし、何の成果も得られず帰ってくれば今度向けられるのは怒りと罵倒、時には石をぶつけられることもある。シャーディス団長の代で向けられてきた眼差しを今も鮮明に覚えている。だからこそ、あの時向けられた罵倒の言葉を思い返してタヴァサの手綱を持つ手が震えて止まらない。何もかもを失った、逃げるように調査兵団から姿を消した自分。5年間の沈黙の果てに再び自分はここに舞い戻ってきた。果たして大丈夫だろうか、止めどなくあふれる不安に苛まれて悪い考えばかりが脳内を駆け巡っている。

「開門30秒前!!」

 いよいよ開門が目前に迫る中で、多くの住民に見送られる中で。隣で開門を待つ昨晩、5年間の沈黙を破り、たとえ命が果てたとしても生涯愛し続けると誓った男の横顔を見つめた。
 もう離れない、強く抱き合い昨夜の事を思い返して瞳を閉じる。大切な人に託されたエレンを守る。そしてもう2度と嘘をつかない、リヴァイの刃になると決めた。この1か月間精鋭班に交ざって訓練をしてきたその成果を必ずや、そして故郷を破壊した巨人に変身できる人間を必ずやとっ捕まえて償わせるのだ。
 そして、彼を思い自分の代わりに彼を支え続けてくれた健気で一途に彼を慕い続けてきた彼女に正直に伝えたい言葉がある。初めての出陣に緊張した面持ちのエレンを隣で励ます栗色の髪の少女に声をかけた。

「ペトラちゃん、あのね……、この壁外調査が終わったらね、お話したいことがあるの」
「ふふっ、改まってどうしたんですか? ウミさん、」
「ちょっと、その……人前では言いづらいことなの……」
「そう言って本当はまた訓練の合間においしいケーキでも食べたいんじゃないんですか?わかりました。この壁外調査が終わりましたら、また付き合いますよ、ウミさん」
「ありがとう……ペトラちゃん」

 この1カ月間、何かと不便な古城生活ですっかり意気投合した唯一の同性である2人の緊張感のない会話を耳に挟んだこの班の最前に立つ男が厳しく声を投げかけた。

「オイ、ウミ、ペトラ。ペラペラ余計な事喋ってる場合か、お前もとっとと持ち場に着け」
「はいはいはい」
「返事は1回……分かったな」
「うっ……」

 彼がくれた大切な命を自分の不注意で失い、死神と呼ばれた死を呼ぶ自分とは真逆の道を行く人類最強としての称号を手に栄光の道を行く彼と別れることを選んだはず。だったのに……。
 でも、5年間の沈黙を経ても彼の心は、自分を…求めあう心は、嘘をつけなかった。心が遠ざけても…でも本当は……本当の心は、身体は彼を求めていた。
 ようやく自分は生きているのだと、彼の腕の中では嘘をつくのがへたくそな自分はどうしても嘘をつけなかった。
 彼に抱かれてようやく自分は生きているんだと感じた。そして、彼なしでは生きていけないと思い知るのだった。たとえ彼を慕う目の前の少女を傷つけてしまっても…そうして昨夜の幸せな気持ちを抱いて今朝、目覚めた時に彼の姿はすでに無くて。
 いつもきれいにセットした髪を乱し自分を何度も抱いた昨日の面影はどこにもなかった。今、静かに前を見据えるその表情は既に調査兵団兵士長として、古城の外で選抜した精鋭メンバーが全員集まる瞬間を待機していた。

「いよいよだ!! これより人類はまた一歩前進する!! お前達の成果を見せてくれ!!」
「「うおおおおおおお!!!!!!!」」

 後方ではベテラン兵士が士気を高めようと全員に呼びかけ、その声に応える調査兵団の兵士達がそれぞれ腰に下げた剣を掲げ高らかに叫んだ。それを横目に先陣を切るエルヴィン率いる次列中央部隊の中に紛れ込んだクライスはぼんやりとその光景を眺めていた。

「相変わらず暑苦しいなぁ……ご苦労さんだ」
「クライス、もう傷は癒えたな。索敵班は任せる」
「ハイハイハイ、ったく、めんどくせぇな……」
「行くぞ、」

 エルヴィンの声にクライスも慣れない馬上に跨り手綱を握る。そう、ようやく骨折した足が癒えたのだ。ここまで来るのにだいぶ時間を要したがトレードマークになりつつあった松葉杖もこれにておさらばだ。

「ミケ、どうした?」
「いや、何でもない」

 ミケはウミと先ほど話した会話の内容を思い返しながらいろんな人間の匂いを嗅いできたが一番好きなリヴァイの香りがウミからした事が引っかかっていた。
 5年前からもウミは香水を使っているが時折その香りの中に自分が一番いい香りだと思う潔癖なほど清潔を好むリヴァイの紅茶の香りがしていたが、再会した彼女はからはもうリヴァイの香りはせず、そして思い出した。
 そうしてリヴァイがウミを自身の班に入れ、自分に問題児のクライスを押し付けてきたようにいつも寄り添い合っていた2人がまた再会したことで思いを伝え合って成就した意味を理解するのだった。
 
「開門始め!!」

 ゴゴゴゴゴ……という重厚な音と共にカラネス区の大きな外門が開かれていく。ふと、エレンは自分達を見つめる無垢な視線に気が付き目をやれば、そこにはかつて幼い自分が壁外へ向かう英雄たちを羨望の眼差しで見届けたように注がれる幼い子供たちの目線があった。その視線にかつての自分を見て懐かしさを覚えエレンは優しく微笑んだ。その様子を見てエレンの先導を導く幼馴染が振り向いて穏やかな笑みを浮かべた。

「懐かしいね……エレンもああしてお見送りしてくれたよね、」
「ああ、ウミと、ウミの父さん」
「頑張ろうね、エレン。ミカサとアルミン、他の104期のみんなもベテランの先輩たちが付いてる、きっと大丈夫だから。エレンは前を向いてただ走るだけで大丈夫、みんなに着いてきてね」
「ああ……やってやる。オレも、もう立派な調査兵団の1人なんだからな!」

 頼もしいエレンの日に日に成長していく姿にウミは瞳を細め重々しい音と共に外門が開くのを今か今かと見届ける。帰ってきたらこのメンバーで祝杯をあげたいといえば5人は喜んで賛同してくれた。必ずみんなで帰れるものだと信じて…。
 遥かその先を見据えるエルヴィンが目を見開き声を張り上げ指揮を執り愛馬の手綱を引くと大きく息を吸い込んで兵士たちを死地に追いやるために号令をかけた。

「進めえええええええ!!!!」

 エルヴィンの迫力と凄みのある声と気迫は遥か後ろにもいる兵士たちも戦意を煽られ、号令として一斉にそれを合図に全員が馬を走らせ開かれた巨人たちが待ち受ける門に向かって突っ込んでいく。

「第57回、壁外調査を開始する! 前進せよ!!」

 エルヴィンの声を合図に調査兵団達が馬を操り壁内に巨人を入れないために。そして一気に門外へ向けて走り出した。一斉に群れを成して走る馬の迫力は、ウミを乗せて走る美しい毛並みのタヴァサも多少怯えるほどすさまじいものがある。
 走り出した馬に跨り、そっとウミが上空を見上げれば久方ぶりに見たウォール・マリアへ繋がる門が見える。
 まだ本当の壁の外ではないが、そこは久しぶりのウォール・マリア領内である。しかし、見据えた故郷は未だ見えず、それは遥か彼方だ。門を次々と潜り抜け、壁の上では駐屯兵団たちが固定砲を構え迎撃態勢を取っている。そしてシガンシナ区を目指し突き進む隊列の左手から巨人が向かってきたのを巨人の匂いを嗅ぎつけたミケがハンジに目で合図した。

「左前方10m級接近!! そのお腹の中に何が入っているのか非常に気になります……が、援護班に任せます!」

 残念そうにそれを見届けるハンジ。建物の方から次々と立体機動を駆使して飛び出していく援護班にクライスは遠巻きに自分もまだ壁の外に向かうより援護に回りたいと内心死地に向かうことに嘆きながら馬を走らせていく。
 援護班が自分たち隊列を守るために向かい来る巨人たちの項めがけて刃を振りかざすが、斬撃が浅かったらしく取りこぼしてしまう。

「クソッ!浅い!!」
「隊列を死守しろ!!」

 巨人が援護班に向かって大きく手を伸ばしたその衝撃で廃墟と化したウォール・マリアの家屋の屋根が吹き飛んでいく。
 その破片が雨のように降り注ぎ巨人が突っ込んでくる巨人の姿を目の当たりにして巨人の恐怖を真横を向いて偶然見てしまったサシャが悲痛な悲鳴を上げると班長がサシャの頭を掴んで正面に向き直させた。

「ひッ!!」
「怯むな!! 援護班に任せて前進しろ!!」
「進めぇ!!!! 進めええぇ―――!!」

 エルヴィンの声が突き進む者たちを鼓舞し、それぞれが真剣な表情で思いを胸に抱き第57回壁外調査は幕を開ける。
 一方、その壁上では静かに一人の少女が降り立ちその様子を眺めていた。
 そして、爆発のような衝撃と共に粉塵が巻き上がりそうして、すべてを打ち壊すかのように凶暴な風が調査兵団に向けられたことを誰も知らない、待ち受けるは屍の道である。
 エレンの脳内でグンタの言葉がよみがえる。

 ――援護班の支援は旧市街地までだ。それより先は完全に巨人の領域。俺達が頼れるのはエルヴィン団長の考案した長距離索敵陣形しかない。俺達特別作戦班はここだ。

 市街地を駆け抜けながらエレンは最終打ち合わせの際に班全員で確認した長距離索敵陣形を思い出しながらこの1か月間一緒に過ごしだいぶ打ち解けて隣を並走するオルオに問いかける。

「オルオさん! あいつら……俺の同期は巨人に勝てますかね?」
「ああ? てめぇこの1か月間何していやがった?いいか……クソガキ、壁外調査ってのはなぁ!「いかに巨人と戦わないか」に懸かってんd〜〜〜〜〜!!」

 相変わらずペトラの言う事を聞かずガチッと舌をかむオルオを横目にペトラがまた小さくため息を漏らすのだった。

「長距離索敵陣形!! 展開!!」

 馬たちは市街地を突き進むと平地に入り草原が広がり、エルヴィンがすかさず水平に左手で全員に索敵陣形を展開しろとの合図をした。精鋭班に交ざり先陣を切ってかけていたクライスも与えられた配置に着くために馬のスピードを落とした。

「クライス、くれぐれも頼んだぞ」
「いいか。俺はそもそも英雄になる気はハナっからねぇ。ただ、ウミの親父さん……あの人が残した命の分……ただ、働く。そんだ家の話だ、」

 あくまでも自分は助けられた命。そして生き残るために戦うのだと、吠えながら孤高の男は1人、内からの見えざる敵を暴くため駆け出した。

「エルヴィン、俺の代わりにクライスに任せて大丈夫なのか?」
「あいつを信じるしかない。お前には別の重要なことを任せたいからな。そのために配置した。まぁ、索敵に関してはミケに適う者はいないが……」

 フン、と鼻を鳴らしてクライスを見送る2人。誰にも飼い慣らす事の出来ない男に託した命運。リヴァイとはまた別の強さで彼はこれまで幾多もの死地をくぐり抜けてきたのである。そう、これは一種の賭けだ。

 ――クライス・アルフォード
 初列八・索敵。

 エルヴィンを中心として、兵士達が統制された動きで放射状に分かれていく。簡単に言えば人力の電波探知機と同じ原理だ。陣形中央を走るエルヴィンへ早期に巨人発見を知らせることで遭遇前に陣営の進路を変えて巨人との遭遇を回避して進むのだ。
 エルヴィンに指名されたベテラン兵士のクライスが果敢に右翼側の方へ馬を走らせてゆく……。

 ――ミカサ・アッカーマン
 三列三・伝達

 前方半円状に、長距離だが確実に前後左右が見える距離で、広間隔に兵を展開。可能な限り索敵・伝達範囲を広げろ。との指示を受け、次々と距離を開けてゆく兵士たち。一人一人が個々となり離れた場所から合図を送り合う。しかし、上に向かって放たれる煙弾ばかり気にしてもダメだ。前を見すえて走り続けなければ敵は見えてこない。

 ――エレン・イェーガー
 ――ウミ
 五列中央・待機

 ――ライナー・ブラウン
 次列五・伝達

 ――サシャ・ブラウス
 次列三・伝達

 ――ジャン・キルシュタイン
 三列四・伝達

 ――アルミン・アルレルト
 次列四・伝達

 そして、
 ――エルヴィン・スミス
 次列中央・指揮

「はぁぁ、疲れた、右翼側の索敵に配置するなら中央から移動すんじゃなくて出発前から右翼側の配置にしとけよ、ったくエルヴィンの野郎…ヅラみてぇなヘアスタイルのくせによ……」

 肩につくくらいの襟足の髪をなびかせ、右目にかかるさらりとしたワインのような深みのある前髪を首を振って振り払いながら、クライスはエルヴィンの指示通り一人出遅れながらも中央から移動を開始し横へ広がるようにと馬を走らせ一人右翼側の配置についた。
 中央からどんどん離れ、進行方向を確認するとそっちに向かって方向転換をして馬を走らせ。とうとう周囲には自分以外誰も居なくなった。立ち上る緑の信煙弾を道しるべに曲がりくねった道を行く。
 しばらく一人馬を走らせつつこちらに迫る巨人を探していたのだが、不気味なほどに周囲は静まり返りしばらくは知らせても誰も見当たらず、まるで最初から壁外調査はなかったのかのように自分以外に右翼索敵班のメンバーは本当にいるのか?と不信感さえ抱いた。

「前も後ろも居ねぇ……どうなってやがる?」

 見える距離で走れとの指示の筈。思わず馬を走らせる手を止めて巨人の脅威がどこに潜んで居るのかもわからない中、精鋭班として生き残っている男は場慣れしているのか特に恐怖感もなく馬から飛び降りて周囲を見渡す。
 こっそり隠し持っていた煙草をブーツの中から取り出すとのんきに青空を見上げて一服しながら考える。巨人たちが来るとしたら初列の索敵が一番遭遇しやすい筈だが…しかし、索敵で巨人と遭遇したにせよ、まずは赤い信煙弾を打ち上げて後方に次々と煙弾で合図が送られて筈だが信煙弾の煙の軌跡すら見えない。壁外に出てから体感的にも1時間は経過したはず。しばらく待って後方の右翼班を待つことにしたのだが…

「来ねえ……誰も来ねぇ、」

 むなしく吹き抜ける風に、そして草原に落ちていく何本目かの吸殻をブーツで踏みつぶして火種を消して水筒の水を飲み干すが、待てども待てども一向に自分の後方に配置された兵士たちが追いかけてくる姿も、巨人の足音さえも聞こえない。
 もう自分を残して他の兵士たちは目的地がある自分たちの立体機動が生かせるあの場所へ行ってしまったかもしれないというのに…。まさか自分が道を間違えたかもしれない。乗り慣れない馬のせいで。クライスは今回の作戦の真の目的を知る数少ない人物で命令に背くことだと理解していても、いまだに後方から姿を見せない右翼索敵の兵士を探しにそのまま後方に向かってくるりと方向転換して逆走を始めたのだった。

「サボってみんなでピクニックか?索敵班が一番重要な役割だってのによ」

 ひたすら走りながら逆走を続けていると、クライスはやがて地面が揺れていることに気が付いて馬を走らせている手綱を引き停止する。そして立ち止まれば巨人の足音が振動となって地面が揺れているのだと理解し、静寂の中耳を澄ましてみるとやがて木々の間から大量の素早い動きの巨人たちが襲い掛かってきたのだ!!

「うぉっ!! マジかよ?」

 自分を見つけるなり嬉しそうに大きな口を開けて迫りくる巨人たちに更にはなんと奇行種も混ざっている、みんなで寄ってたかって集まって何の祭りだと、急いで刃を抜いて立体機動に移るクライス。
 アンカーを射出し、迫ってきた1体を仕留めるとそのままさらに巨人に狙いを定めてクライスは次々と一気に巨人を倒した。返り血が蒸発する前にさらに血に染まる頬。
 しかし、おかしいことに気が付いた。巨人は基本群れで行動をする生き物ではないし、巨人化エレンのように知恵もない、しかし、自分の目の前に広がる衝撃的な光景はまるで巨人たちが最初から群れを成して自分以外の右翼索敵に奇襲してきたのか錯覚するほど不意打ちを狙った突如の襲撃に皆そのまま食われたのだろう。

「誰か……いないのか……」
「!! オイ、しっかりしろ!」

 その時、確かに聞こえた弱々しい声にクライスは走ってその声の方向へ向かうとさらに衝撃的な光景に呆然とした。茂みの先、自分以外の右翼索敵班に配置されていた兵士達がほとんど巨人共に食い散らかされていたのだ。
 巨人の捕食対象にならない、乗り主を無くした馬たちだけがむなしくそのあたりうろうろと走り回っている。
 ほとんど肉片と化しているかつての仲間たちの姿にクライスは悔し気に顔を背けるしかなかった…。自分がもっと早く気が付いて駆けつけていたら…のんきに煙草なんか吸っている場合ではなかった。ここは戦場なのだ。しかしどうしてこんなに巨人たちが一斉にここに集まっていたのか。その疑問はすぐに判明することになる。今まさに生き残りの兵士を食らおうとしていた巨人のうなじをすかさず斬りつけると咥内から落ちてきた兵士を受け止めたが、兵士はすでに虫の息だった。
 間に合わなかった…悔し気にその顔を覗き込み救護班の役割も担う男が延命治療をしようとするがその手を遮り兵士は今にも消え入りそうな声で呟いた。

「しっかりしろ、大丈夫か、オイ!!」
「クライスさん……右翼……索敵班、ほぼ……壊滅……女型の巨人が……巨人の大軍を連れてきたん、です…」
「女型の巨人……? だと!?」
「伝えてください……このままじゃ陣形が……破壊される……調査兵団が全滅……しちまう…!」
「おい、しっかりしろ!」
「わざわざ……来てくれて……感謝しま、」

 しかし、クライスの呼びかけもむなしく兵士はその腕の中で事切れてしまう…。

「クソッ!! 女型の巨人!? 聞いた事ねぇよ……!「鎧」でも「超大型」でもない新しい巨人が現れたってのかよ、何なんだよこの5年間で……人間が巨人に変身するようになっちまったってことかよ……」

 その正体が、誰かも知らずにクライスは緊急事態を知らせる黄色の煙弾を空に向かって撃ちあげた。しかし、この状況を知ってもきっと本来の目的を――……。
 内部に潜む敵の出現によってますます撤退するわけにはいかない事が決定してまだ壁内に帰れないことに絶望して、そこまで計算していたエルヴィンに畏怖の念を抱かずにはいられなかった。

「エルヴィンの読み通りかよ……おっかねぇ野郎だな本当に……奴が言った通りにエレンを狙って知性巨人がハーレム連れてきたってのか?おい!早く走れ!」

 頭を噛まれ、声が途絶えていく索敵班を見てその目線の先に多くの巨人たちが揃いも揃って自分に向かってくる。
 さすがに一人でこの数は対処できない。その先に黒い煙弾が登ったのを見届けクライスは慣れない馬に半ば手綱を引っ張られる形で真横の陣形に向かって突き進む大きな足跡を追いかけ始めた。

 ▼

「違う、違うぞ……! 奇行種じゃない! ヤツには知性がある。鎧や超大型……エレンと同じ巨人の身体を纏った人間だ……!」
 
 その一方では、右翼索敵を壊滅させ、目標であるエレンを探す為に大地を揺らして暴走する性別が無い筈の巨人の中でひときわ目立つ金髪の女性らしい体つきをしているまさに女型の巨人と呼ぶにふさわしい巨人の大きな足音がアルミンを今にも踏みつけんばかりの勢いで迫ってきていたのだ!

「だっ……誰が!? 何で!? 何でこんな!! まずいよ!! どうしよう!? 僕も死ぬ!! 殺される!!」

 馬を必死に走らせ今にも踏みつけられそうな勢いで迫ってくる女型の巨人からひたすら逃げるアルミン。初めての壁外でさらに迫る脅威に顔面蒼白している。

「巨人がわんさか来たんだ!! 何でか知らねぇけど!! 足の速ぇヤツが何体もいる!! 今は何とか食い止めているがもう索敵が機能してない!!! 既に大損害だが下手すりゃ全滅だ!!」
「あいつが来た方向からだ! まさか……あいつが巨人を率いてきたのか!?」
「あいつ?」

 その窮地に合流した同期のジャンとライナーの2人も駆け付け同じ陣形を走る3人の前方を真っすぐ目的を見据えて通常の巨人とは明らかに違う筋肉組織と皮膚、スラリとした体躯に女性的な体つきのライナーいわく良いケツをした女型の巨人を見たジャンが驚いたように声を発した。

「何であんなところに巨人がいるんだよ……奇行種か?」
「いや……違うんだ。あいつは……巨人の体を纏った人間……エレンと同じことができる人間だ」
「……何だって!?」
「アルミン…どうしてそう思った?」
「巨人は人を「食う」ことしかしない。その過程として死なせるのであって「殺す」行為自体は目的じゃない。しかし、あいつは急所を狙われた途端に先輩を「握り潰し」「叩きつけた」「食う」ためじゃなく「殺す」ために殺したんだよ。他の巨人とはその本質が違う「超大型」や「鎧」の巨人が壁を破壊した時に大勢の巨人を引き連れてきたのはきっとあいつだ。目的は一貫して人類への攻撃だ………いや…どうかな、誰かを探しているんじゃないかって気がする…もし…そうだとすれば、探しているのはもしかしてエレン……?」
「エレンだと? エレンのいるリヴァイ班ならあいつが来た右翼側を担当しているハズだが」
「右翼側? 俺の作戦企画紙では左翼後方あたりになってたぞ?」
「僕の企画紙には右翼前方あたりにいると記されていたけど……いや、そんな前線に置かれるわけがない、」
「じゃあ……どこにいるってんだ?」
「この陣形の、一番安全なところにいるはず。だとしたら中央の後方あたり…かな」
「アルミン!! 今は考え事をしてる時間はねぇぞ!ヤツの脅威の度合いを煙弾で知らせるなんて不可能だ。そのうち司令班まで潰されちまう。そうなりゃ陣形が崩壊して全滅だ」
「何が言いたい?」
「……つまりだな、この距離なら……まだヤツの気を引けるかもしれねぇ。俺達で撤退までの時間を稼いだりできる……かもしれねぇ……何つってな……」

 いきなり何を言い出すのか、突然ジャンが口にした不可能な無謀ともとれる提案に思わず二人は黙り込む。

「あいつには本当に知性がある……。あいつから見れば僕らは文字通りに虫ケラ扱い…はたかれるだけで潰されちゃうよ?」
「マジかよ…ハハッ。そりゃあおっかねぇな…」
「お前…本当にジャンなのか?俺の知るジャンは自分の事しか考えてない男のハズだ」
「………失礼だなオイ…。…俺はただ…。誰の物とも知れねぇ骨の燃えカスに…がっかりされたくないだけだ…」

 マルコのことを思い出し手綱を握る手に力がこもるジャンは強い決意を秘め選択した。自ら女型の巨人から調査兵団に迫りくる脅威を守るために。誰にも看取られず一人死んだマルコが今も自分を見守ってくれているような気がしたから。彼に恥じない自分でありたい。ジャンは自分が正しく現実を認識して行動が出来る自分を褒めてくれた彼の言葉を今は信じて2人に呼びかけた。

「俺は…!! 俺には今何をすべきかがわかるんだよ!そして、これが俺達の選んだ仕事だ!! 力を貸せ!!」
「フードを被るんだ! 深く! 顔があいつに見えないように! あいつは僕らが誰か分からない内はヘタに殺せないハズだから!」

 ズボッとフードを被る先ほど自分達が入団志願した際に今まで面倒を見てくれた班長と先輩を皆殺しにした巨人を目の当たりにしたアルミンが今から立ち向かおうとする2人へ呼びかけた。

「なるほど……エレンかも知れんヤツは、殺せないと踏んでか……気休めにしては上出来。ついでにヤツの目が悪いことにも期待してみようか」

 ライナーも深くフードを被り期待を寄せてほくそ笑むと目標対象に向かって目線を配らせた。

「……アルミン……お前はエレンとベタベタつるんでばっかで気持ち悪ぃって思ってたけど……やるヤツだとは思ってたぜ……」

 2人に倣い彼の言葉に従いジャンもフードを被った。気持ち悪いと言われ、アルミンはその発言に傷つきながらもそれぞれが覚悟を決める。

「え……?ああどうも……でも、気持ち悪いとか酷いなぁ……」
「(あのジャンが……変わったんだな)」

 そこにはライナーが知るジャンはもういなかった。そんな彼を見直すように胸の内で呟くと、自分達には目もくれずにひたすらに一直線に走る女型の巨人の後を追うアルミン、ジャン、ライナーがそれぞれ目配せし、それぞれの方向へ陣形を展開して、女型の巨人を取り囲んだ。右側に回り込んだアルミンが様子を窺うように女型の巨人を見上げている。

「(あっちから来た時よりだいぶ遅くなった……疲れたのか……? あの速度で再び走られたら手遅れ 今やるべきだ……今手を打たないと……)」

 真後ろから追うライナーと、左手側に展開したジャン。

「(いいかお前ら……さっき言った通りだぞ……少しでも長く注意を引きつけて…陣形が撤退できるよう尽くせ……少しでも長くここに留めるんだ。もし足の腱を削いだのなら十分以上、ただし無茶はしてくれるな。仕留めろとは言わん……!)」
「(ヤツはうなじの弱点を把握してる…他の巨人とはまったくの別物。仕留めるのは不可能だろう。少なくとも……人間の常識に当てはめた限りではそうだろう……けど、あの二人ならもしかしたら)」

 人類最強の称号を持つ1個旅団並、兵士4000人分の強さを誇るリヴァイと、並の兵士100人分の戦闘力を持つと訓練兵時代からその実力を発揮して破格の待遇を受けたミカサのことを思い浮かべるアルミン。特にエレンかピンチの時ほどミカサはその実力を遺憾無く発揮している。ふと、その時真後ろからこっちに向かって走ってくる馬の足音を聞いた。
 本作戦の事情も知らずにこと切れた兵士たちへの罪悪感を感じないわけがない、クライスは馬で女型の巨人を追いかけるトロスト区襲撃の際に本部を占拠した巨人たちを知恵と勇気で乗り切ったアルミン、ジャン、ライナーの姿を見つけたのだった。

「おい!」
「……クライス、さん?」
「アルミンか? よぉよぉ、何だよいっちょ前にフードなんかかぶって、誰だかわかりゃしねぇよ、可愛い女かと思えばお前か」
「ああっ、本当に、いい所によかった!! クライスさん!!(そうだ!右翼側にはこの人がいたんだ!よかった、助かった……!)」
「いやいやいや、そんな期待されても俺普通の兵士だからな!? リヴァイとかミカサとは違うぞ!!」

 深いワインレッドの髪を揺らしこちらに走り寄ってきたトロスト区襲撃の際に一緒に補給室奪還作戦に協力して窮地を乗り越えた恩義のあるクライスの姿に安堵したアルミンはクライスと並走しながらこれまでの状況をかいつまんで説明する。
 女型の巨人が現れネスとシスが殺されたことを知ると、クライスは悔しそうに女型の巨人を睨みつけていた。
 そして、女型の巨人の狙いがエレンだと知るも、クライスは元から知っていたので大して驚きはしないまま前を見据えた。三人で足止めをさせる作戦だと言えばクライスは自分が来た右翼側の惨劇を伝え若い命を散らすなと逃走を促すが、もう間に合わない。
 おまじないのように剣に口づけるとそのまま馬から飛び立つジャンの姿を見つけ、クライスはその行為に訝し気に柳眉を寄せた。

「ん!?」

 アンカーを射出し飛び掛かろうとした瞬間、女型の巨人がアルミンとクライスに気付き方向展開したのだ。腕を振りかぶりその風圧でジャンのフードが飛んでいくと女型の巨人の手は迷わずこっちに向かって飛んできたのだ。

「―――うッ!!」

 グイッと馬の手綱を引いてその手を回避しようとするアルミンとクライスだが、間に合わないまま女型の巨人の手が馬を捉えそのまま地面に自身の手を叩きつけた衝撃で二人の馬が上空に向けて吹っ飛んだのだ!

「アルミン!!」「クライス教官!!」

 そのまま馬を失い二人は馬上から投げ出され宙を舞う身体。

「おい!? マジかよ」

 とっさに伸びた腕がアルミンを抱き込むとクライスはアルミンを守るようにそのまま地面に身体を打ち付け、アルミンの衝撃をそのタフな身体で受け止めたのだ。飛んで行った馬を避けながらライナーも走る。

「ぐあっ……!!」

 小柄で軽いと思っていたアルミンだがやはり彼は可愛らしい顔をしてはいるがやはり体は鍛えた兵士、その予想以上の重みが全部自分の身体に伸しかかり、クライスは顔を歪めて激痛にもんどりうった。男を抱き寄せて受け止めるなんて…しかし、とっさに体が動いたのた。彼が死ねば悲しむ自分のかつての上官が脳裏に浮かんだ。
 思いきり地面に叩きつけられたクライスに駆け寄るアルミンとその2人を一気に仕留めるのかと思った矢先、ぼんやりとしたまま2人の顔をのぞきこむ女型の巨人の姿があった。そして、その逆光でよく見えない俯き加減でこちらを見つめる女型の顔をぼんやりとした思考の中でアルミンはその女型の巨人の顔にある疑問を抱くのだった。

「ッ……」
「アルミン! クライス教官!」

 今にも踏みつけられてしまいそうな2人を助けようと、自ら女型の囮になるべく立体機動を展開したその背中化にアンカーを射出するとその感触を察知して2人からジャンに振り向く女型の巨人。

「うッ!!(こいつ……!! 運動精度が……!! 普通のヤツの比じゃねぇ!! クッソ!! 認識が、認識が甘かった!)」

 振り向いた勢いで自身の背中に突き刺さったワイヤーが抜け落ち、再びガスを蒸かして冷静に女型の巨人の脇腹にもう一本のワイヤーを膝当たりに刺して大きく弧を描いて軌道を変えながらうなじ側に飛んだジャンだったが、それを見た女型の巨人がまるで自身の弱点が項であるということを理解しているのか自身の左手でガードしたのだ!!

「(!? うなじを守りやがった!!)」
「やめろっ!」「ジャン!」

 走るライナーと苦痛にうめきながら痛む腰を抑えたクライスがジャンの名を呼ぶが間に合わない。

「(クソ! もう逃げられねぇ! 死んじまう!! ワイヤー掴まれて終わりだ!!)」

 行き場を失い呆然と死を覚悟するジャンめがけて女型の巨人が裏拳でジャンを叩きつぶそうとしたその瞬間だった。

「ジャン!! 死に急ぎ野郎の仇をとってくれ!!」
「(アルミン!? 動きが止まった!?)」
「そいつだ!! そいつに殺された! 右翼側で本当に“死に急いでしまった”死に急ぎ野郎の仇だ!!

 自分を受け止めて地面に叩きつけられたクライスから身を起こして叫ぶアルミンは突然見当違いの発言をしたのだ。
 死に急ぎ野郎。それは自分の幼馴染としょっちゅう喧嘩していたジャンがよく言っていた。104期生ならだれもがおなじみのエレンの愛称。アルミンがそのあだ名を叫んだ瞬間ラリアットを食らわせようとしていた女型の巨人が突如としてその動きを止めたのだった。

「(何が起こった!? 頭打って混乱しちまったのか!? まずいぞ……こんな時に!!)」

 微動だにしない女型の巨人。まるでアルミンが突如として言い放った「死に急ぎ野郎」の言葉に動揺しているかのように。そのスキをついて命を救われ窮地を脱したジャンが無事に大地に足をつけることが出来た。アルミンはなおも言葉も続ける中でライナーが突如自らフードを取っ払ったのだ。

「僕の親友をそいつが踏み潰したんだ!! 足の裏にこびりついているのを見た!!」

 そして呆然とする女型の巨人のスキをついてライナーが馬で駆け付けワイヤーを女型の巨人の首筋に刺し剣を振り構え飛んでいく。

「(うなじを直接狙うのか!? いや!! いける!! ヤツがアルミンに気を取られている……!! 今なら―――!)」

 その瞬間、ライナーは自分を見つめる冷たい青い目と目線が交わった、どこか不敵な笑みすら浮かべているような表情を見て目が合い青ざめている大柄な体躯のライナーをそのまま片手で閉じ込め掴まえてしまったのだ−…!

「オ……オイ!?」

 女型の巨人の手の中に囚われたライナーが苦しそうにうめきながら必死に抗うも徐々にライナーを締め付ける手の力がどんどん強くなっていく光景を呆然と眺める一同。立体機動に映りたくても動けないままのクライスが必死に立ち上がろうとするも、女型の巨人の親指がライナーの頭をそのまま押しつぶすように拳が完全に閉じられ、まるで果実のように押しつぶされたライナーの血が一気に噴き出したのだ!

「あぁ!? ……お…おい…ライナー…お前……」
「え!?」
「クソッ(俺よりまだ若い命が)……ライナー!!」

 クライスは愕然とした。巨人に捕まれた者は基本助からないとこれまでの戦いで学んできたから。
 それに巨人の掴んだ手から逃れるには一気に回転して切り裂かねば到底無理だが彼は新兵だ。
 ライナーが殺されてしまったショックで呆然とする3人だったが、次の瞬間、回転しながら折れた剣で女型の巨人の指を切り刻み、血塗れのライナーが女型の巨人の手の中から再び姿を現したのだ!女型の巨人の肩にワイヤーを刺し地面に降り立つと、アルミンを小脇に抱え必死に逃げるライナー、それに続くようにクライスはふらふらになりながらも地面に手を付けて駆け寄ってきた馬に飛び乗りながら頭部をぶつけてもうろうとする意識を揺り起こした。
 ジャンもそれに続き一斉に目型の巨人から距離を取るべく走り出す。

「(ライナーの奴やりやがった……ミカサが強烈で忘れてたが……あいつもズバ抜けて優秀で頼りになるヤツだったな)」
「もう時間稼ぎは十分だろう!? 急いでこいつから離れるぞ!! 人食いじゃなけりゃあ俺達を追いかけたりしないハズだ!!」

 ゆっくりと立ち上がる女型の巨人を横目にライナーが逃走を促した。彼の血ではなく女型の巨人の手を切り刻んだ際の出血だったという事か。自分の手をまるでぼんやり眺めているかのような女型の巨人がどこかへ向かって走り去るのを背後に見やりライナーは勝ち誇ったかのように悪態突いた。

「見ろ! デカ女の野郎め…ビビっちまってお帰りになるご様子だ!!」

 しかし、アルミンはある事に気が付いて言葉を止める。

「(そんな……!! なぜ…? あっちは中央後方……もしかして、エレンがいる方へ…)」

 元から作戦を知らされていたクライスはとうとうエルヴィンの読み通りに動く瞬間が来たことを悟り行動を起こした、もう馬は苦手だとのんきに言ってる場合じゃない。しかもこのメスの馬は危険に自ら果敢よりも無謀に飛び込んでいく自分の上司にそっくりだ。

「クライスさん!?」
「お前ら、全員そこで待機してろ。紫の煙弾で知らせれば誰か馬と並走してるお前らの同期が来てくれるだろう。せっかくトロスト区で生き残ったのに、お前らこそ死に急いでんじゃねぇのか?」
「クライスさん!?」
「俺は女型を追う、お前らは休んでろ!(クソ立体機動装置が壊れたかもしれねぇのによ……だが、問題ねぇ。このままコイツについていけばエルヴィンの読み通りだ)」

 ようやく女型の巨人の脅威から逃れられたというのに3人に構わずクライスはアルミンの頭に軽く手を置いて、そうして自身の馬にまたがると突如として導かれるようにエレンの居所を探して走り続ける女型の巨人を追いかけその場を後にしてしまったのだった。
 そうして見えてきた本当の目的の場所へとようやくたどり着く。しかしここへ辿り着くまでの間に多くの仲間が血を流しこの巨人に殺されてしまった。壁の中の人類の敵を暴き出すためとは言い払った対価は、犠牲は大きい。しかし、それでもエルヴィンは壁の人類を守るために多くの仲間を殺す非情な決断をしたのだった。

To be continue…

2019.08.12
2021.01.27
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