――「今までもこれからも、彼女の事は私が覚えているのであなたはどうか、彼女の事は、安心して忘れて下さいね」
――「それが、あの人の願い、皆があの人の事を忘れても、あの人のことは私がきちんと覚えていますから、心配しないで下さいよ」
あの日、まるで泡沫のように弾け飛んだ世界から消えた愛しい人。
――「リヴァイ、あなたに……もう一度、触れてみたい。リヴァイ、悲しまないで、どうか私の事を、忘れて、いいから。」
――「っ……ねぇ、リヴァイ……っ、私たちが地下街で出会えたのは、運命だって、思っても、いいかな……っ、」
泣いても悔やんでも、記憶から奪われるようにサラサラと掴めない肉体はまるで砂のように消えて行く、幾度も抱き合い確かめたのに、抱き締めるように差し出した指先を掠めていく幻想を抱き締めても、もうあの日々は二度と戻らないのだ。
二度と戻らない、彼女は二度と還らない、そして延々と泣き続ける自分に手を差し伸べる人間はもうこの世界広しと探してもきっとこの先にはいない。
今この世界では自分はたった一人、それでも、生きているのは何故だろうか。
これが自分の、罪、だとしたら、この残酷だが儚くも美しい世界で自分はこれからも身を置き続けるのだろう。
自分の笑顔が好きだと微笑んだ彼女の為に、自分はこれからも笑うと決めた。
時に悲しく胸の穴が疼いて眠れぬ夜は、優しい夢の中で彼女と眠ろう。
触れたその指はあまりにも愛おしく、耐えがたい程の幸福をもたらすだろう。
彼女はそれでも笑ってくれていた、願うなら、誰よりも幸せになって欲しい、あなたの笑顔が好きだと、自分は何度でも伝える、微笑むだから。
――もう、悲しまなくていい。これは永遠の旅立ち、だが別れではない。
いつかまた楽園で会うための約束として。
共にすごした仲間たちと別れの瞬間、きっと笑って消えたあなたは最後まで幸せだったのだと、その笑みを絶え間なく愛していたのだ。
世界を探してもきっと彼女の笑顔を消すことは出来ないだろう。
prev |next
[back to top]