THE LAST BALLAD | ナノ
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#152 Rusty Honesty

 次々と現れる巨人たちによって次第に追い込まれて行くミカサ達を助けたくても全身負傷し足も動かせず、見ているだけしか出来ない自分へ激しい憤りを覚えるリヴァイと、銃弾の数が無限ではないライフルを携えたガビはどれに狙い誰を助けたらいいのかわからない。
 未だに見つからないウミとジークの行方は知れない。皆が懸命に戦っている様子を見る事しか出来ないアルミンは必死にオカピの口の中でもがいていた。

「甘かった、意識が……このまま窒息死させるつもりか。エレンが僕を……? いいや……あの子だ、ウミ。いや、「始祖ユミル」エレンが言うように、エレンがただ進み続けるだけなら、この抵抗は「始祖ユミル」の意志。だとしたら「始祖ユミル」も人類の虐殺を望んでいる……?「始祖ユミル」……無敵だ……どうすることも……できない。こんな……ところ……で……終わる……のか……」

 遠のき薄れて生きそうな儚い意識の中、呼吸さえうまく出来ずに。アルミンは次第に遠のいていく記憶の中で気を失ったもう1人の人間の自分へと、そっと語りかけるのだった。

「どうして……どうして……僕の身体は……動かないんだ……。頼むから……。動いてくれ。みんなが……死んでしまうんだ……!!

 ライナー、
 ピーク、
 ジャン、
 コニー、
 ミカサ、
 アニ、
 まだ僕よりも小さいアヴェリアだって……リヴァイ兵長の代わりに戦っているのに、子供にまで心配かけて、何やっているんだよ……!」

 アルミンの意識と肉体はまるで分裂したかのように分かれていた。必死に呼びかけるアルミンの目の前では未だに動かない眠ったままの自分の肉体がある。まるで自分の肉体から精神だけが離脱しているように見える。そんな肉体へアルミンは呼び掛け、そして必死に語りかけていた。

「みんなが!! 死んじゃうんだよ!! 起きろよクズ!! ゲスミンのくせに!!このっ、役立たず!! 僕はお前が嫌いだ!! ずぅうっとお前は!! 僕を裏切り続けてきた!! もらった命も!! 期待も!! 責任も!! 何も!! 何一つ!! 何にも返せなかったじゃないか!! なのに!! なんで死んでんだよ!? 動け!! 動けよ!!」

 皆の戦いが手に取るように伝わると、アルミンは眠る自分へ頭同士がぶつかりそうな距離から顔を覗き込むように、あらん限りの声で必死に自分を揺り起こそうとするが、一向に目が覚めないどころか乖離した肉体の自分はさらなる深い場所へ沈む意識の中で、ただひたすら自分の無力さを呪い続けていた。

 こんな時でも囚われたまま役に立たない自分へ激しい苛立ちを抱いて。悔し気に頭を垂れて嘆いていると、ふと、自分の手にサラサラとした感触を感じて握り締めてみると、それは自分の手を滑り落ちて行くように流れて行き、自分は、いつの間にか砂の大地に居たことに気付き、無意識に砂を掴んでいたことに気づく。

「……砂? 考えろ、本当に死んでるなら脳に酸素が回らない状態でなぜ考えることができる? ここは……夢でも幻でも死後の世界でもない……ここは「道」、ここは現実だ!!」

 時が付いたアルミンのその視界の先にはエレンとの精神世界での対話で何度も目にした光で溢れる命の大樹が聳え立っていたのだった。

「おかしい……! 僕は巨人の口の中にいるはずなのに、なぜかみんなの状況がわかる……エルディア人が皆「道」を通じて繋がっているから?……それなら、何か……ここでできるかもしれない。そうだ、考えろ、考えろ!!」

 と言うと、ふと、背後に自分では無いまた別の気配を感じた。振り返ったそこに居たのは、なんと、自分達が血眼になって探していた「地鳴らし」のカギを握るお目当ての調本にでもあるに人物がいたのだった。

「え……?」

 リヴァイの一番の狙い、いい歳をして一人この「道」にとどまって砂の山を作るジークがいることに気付いたのだった。
 一体何をしているのだろうか、ジークはもくもくと子供の頃に戻ったかのように、砂山を作っており、何故ここにジークがいる事に居るのかと。驚くアルミンだが、エレンも通った道に連れて来られたのだと、それが「始祖ユミル・フリッツ」の意志だと、アルミンは敢えていつものように、争いではなく対話を重ねるべく、未だに自分に気付かず砂山を作るジークと向かい合う様に彼の視界に映るように腰かけ、話しかけた。

「……こんにちは、ジークさん」
「こんにちは、エレンの友達。何だ、君もユミルに食われたか……」

 とジークは目の前の砂山を見つめ腰かけたままアルミンの質問へ静かに答えていくのだった。
 シガンシナ区決戦において「獣の巨人」として対峙していた時からは考えもつかない二人の対話。
 リヴァイだったなら、きっと彼は八つ裂きにされていただろう。エレンとの争いに敗北し、自分の望みも途絶えたままで……。
 アルミンは、ジークと最後まで目を目をそらさずに対話でこの場を切り抜けるべく、口を開いた。道という名の未知なる場所で。2人がこうして対面で語り合う機会が出来た事は果たして偶然、なのだろうか。それともこれも「始祖ユミル・フリッツ」を通じたエレンからのメッセージなのだろうか。

 時をさかのぼること遥か昔、「始祖ユミル・フリッツ」が存在しうる前よりもずっと昔の伝承。
 道を通じ過去から未来に至るまでの膨大な時間を旅したジークはアルミンに突然人類の起源の話を始めた。
 ジークは膨大な時間をかけても分からない、ユミル・フリッツの目的がわからないまま、人類の起源、そしてどうして巨人がこの世に存在しうるのか、知る限りのことをアルミンに打ち明けるのだった。

 ――「今から遥か昔、まだこの世に物質しか存在しなかった頃、有象無象の「何か」が生じては消えをくり返し、やがてあるものが生き残った。それを、生命と呼ぶ。結果的に生命が残った理由は、生命が「増える」という性質を持っていたからだ。増えるために生命は姿形を変えてゆき、あらゆる環境に適応し今日の我々に至る。より多く、より広く、より豊かに。つまり、生きる目的とは、「増える」ことだ。この砂も、石ころも、水も、増えようとはしない。だが生命は今日も増えようと必死だ。何せ死は種の絶滅は増える目的に反する。そのために恐怖という罰則があり……あの子もその苦しみから逃れようと必死だった。より強く、より巨大な、不死身の体を生みだし。そして死さえ存在しない世界へと彼女は逃れた……」
「それが始祖ユミル……ここが、「死の存在しない世界」だとしたら、ユミルの目的は一体……何ですか?」
「……俺もここで気の遠くなる時間をかけて彼女を理解しようとしたよ。これだけの力を持っていながらフリッツ王に逆らうことができなかった。それがなぜなのか……二千年もの間……ここに留まりフリッツ王に従い続けた理由。何かの……未練を残していたことは確かだが……それがエレンには理解できて、俺にはできなかった……。だから、ユミルはエレンについた」
「ジークさん、……教えてください!! ここから……何か外の世界に戻る方法はありませんか!?」
「さぁねぇ……もう無理だと思うけど……」

 こんな場所でかつての敵と悠長に話し込んでいる場合ではない、すぐにアルミンはジークにこの場所から元の、皆が戦っている「地鳴らし」の進行場所へ戻りたいと、そして、意思のある目がジークの目を射貫く。

「僕は何も諦めていません、」
「……どうして、」
「それは……」
「まだ増えるためか? 種を存続させることが君にとってそんなに大事なことなのか? 今起きていることは、恐怖に支配された生命の惨状と言える。まったく無意味な生命活動がもたらした恐怖のな……」
「仲間が……戦っているんです!! 今ならまだ多くの人々を恐怖から救えるから……!! 恐怖と戦っているんです!!」
「なぜ負けちゃだめなんだ……? 生きているということは……いずれ死ぬということだろ? 案外……事切れる前は、ほっとするのかもな……。何の意味があるのかもわからず、ただ増えるためだけに……踊らされる日々を終えて……これで自由になったって……」

 諦めていないと示すアルミンに自分の望みは断たれ、肉体はエレンに取り込まれ自分の意思など無いこの場所で自分た出来ることは膨大な時間に飽き飽きしてひとまず砂の大地に山を作る事だけ。こんな童心に戻る事でしか膨大な時間を自分は正気を失わずに諦めながらも静かに過ごせなかっただろう。
 仲間達が戦っているから自分も戦うんだと、そう告げたアルミンに対しジークは生きる事は死ぬことと同義だと説く。言葉にアルミンは返す言葉を失って俯いたその時、アルミンは砂の中にいちまいの枯れ葉を見つけ、拾い上げるのだった。
 その葉に託した思い、そしてその葉は幼い頃を共に駆け抜けたあの丘の木の葉によく似ていたのだ。

「あれは……夕暮れ時、丘にある木に向かって4人でかけっこした。言い出しっぺのエレンがいきなりかけだして……ミカサはあえてエレンの後ろを走った……やっぱり僕はドベで……でも、ウミが、調査兵団の兵士として活躍していたのに、立体機動装置任せだったから脚は遅いんだと、何度も振り返りながら、呼びかけて待っていてくれて……。その笑顔が優しくて、僕は……憧れていたんだ。でも……その日は風が温くて、みんなで、ただ走ってるだけで気持ちよかった。枯葉がたくさん舞った。その時……僕はなぜか思った……。僕はここで四人でかけっこするために生まれてきたんじゃないかって……。雨の日家の中で本を読んでる時も、リスが僕のあげた木の実を食べた時も、みんなで市場を歩いた時も……そう思った。このなんでもない一瞬が……すごく大切な気がして……」

 いつの間にか城の塔を作り上げたままぼんやりとするジーク。そして、いつのまにか、さっきまで持っていたアルミンの手に握られていた枯れ葉はジークがクサヴァーとの絆を結び、そして、何の取柄も無く戦士候補生でトベだった自分が唯一得意だった野球ボールに見えており、お互いに見ているものが違っていたのだ。

「……それは」
「これは……砂に埋まってました」

 それはアルミンには枯葉だが、ジークには野球ボールに見えた。自分を導いてくれた恩人でもあり第二の父親でもあったトム・クサヴァーとの絆を築いてきた証の。

「……なぜ、それが……」
「さぁ……でも……僕にとってこれは……増えるために必要でも何でもないけど……すごく大切なものなんですよ」

 とアルミンにとっは枯れ葉だが、ジークにとっては野球ボール、それを受け取るとジークは思い出したように言葉を詰まらせ、トム・クサヴァーとの出会いもこの野球ボールだったことを思い出していた。

「あぁ……そうだ。ただ投げて、取って……また投げる。ただそれをくり返す。何の意味も無い……でも……確かに……俺は……ずっとキャッチボールしてるだけでよかったよ」

 とアルミンに伝えたそのジーク達の背後に見えた影にアルミンが驚いた顔をし、ジークが振り返る。なんとそこには、先ほど話したクサヴァーや、そして見覚えがある顔たちが道を通じて姿を現したのだった。

 そこには、エレンの父親でもある「進撃の巨人」の継承者であるグリシャ・イェーガー、エレンの名前の起源となったエレン・クルーガー。そして同期でもあったユミル、そしてマルセルにポルコ、「顎の巨人」を引き継いだガリア―ド兄弟。そして、そんな自分を見つめながら悔いるように涙を流していたベルトルト。間違いない、歴代の過去の九つの巨人継承者の姿があったのだ。
 そして、……アルミンは、もう一人の影がこちらを見つめていることに気付いて顔を上げる。

「ウミ……」

 そこに居たのは、紛れもなく、ウミだった。
 ウミはあの頃からどれだけ大人になっても、微笑みだけはいつもと変わらないままだった。その笑みを向ける対象が増えてますます彼女の笑顔には慈愛で満ち溢れていたことを思い出す。
 にこり、と聞こえそうな顔で、何を考えどんな言葉を発しているかわからなくても、その笑顔はいつも通り。
 そして、アルミンは自分の背後にもはるか上に聳え立つ人の気配を感じ振り返ると、そこには今の自分が確立するために犠牲となり、同じく道で囚われの身である、自分が彼から引き継いだ巨人の力を持つ「超大型巨人」アルミンが継承前の保有者でもあるベルトルト・フーバーだった。

 ジークとアルミン、二人は道を通じて次々姿を現した歴代の九つの巨人、そしてその枝分かれした巨人達の元をたどると、全ての巨人の起源となりし、「原始の巨人」の保有者でもあるウミへ呼びかけた。
 自分達もそうであるように、この道が交わるこの場所。全てのエルディア人は道で繋がっている。
 それは、全ての理由は、自分達の起源でもあるユミルの民が増えたそもそもの根源、「始祖ユミル・フリッツ」が繋がりを求めているからだった。
 まるで自分達に助けを求めるかのように、本当は、この未知の世界の崩落を誰よりもこの連鎖からの奴隷からの解放を、望んでいることを。ウミの身体に宿りながら、ずっと待っていた、そして彼女は出会ったのだ、自分の終わらぬ何千年もの間の悲しみを解き放つ存在を。

「クサヴァーさん。俺達の望みは叶わなかったよ。「安楽死計画」は間違っていなかったと今でも思う……でも、生まれてこなければよかったと散々良心を恨んだりもしたけど本当は違っていて、俺を愛してくれていたことを知ったら、あなたとキャッチボールするためなら、また……生まれてもいいかもなって……思ったんだ。……だから、一応感謝しとくよ、父さん。俺を、この世に産んでくれたこと……あの子が、ウミちゃんが教えてくれた通りだった。子を想わない親はいないと、」
 ――だって、お父さんは言っていた。この世に生まれて来なければいい命なんてひとつもないって。それは人間が決めてはいけない、王でも許されない事だと。私は、「始祖ユミル」の巨人化薬を打つまで子供が出来ない身体だった。でも、巨人になった今だから愛する人と愛し合ってそして、リヴァイとの子供を授かることができたの」
 ――「悲しくなんかない、それでも私はこの世界に生まれてきて良かったの。だって。あの人に、リヴァイに出会えた。ねぇ、聞いて。私は、何千年も何百年も昔に得られなかった愛を本当の愛を、リヴァイはからたくさんもらった、あの人が私に心臓をくれた、私の身も心も、全て愛してくれた……。だから、私はあの人に愛された記憶を持って、死んでいこうと思う」

 と、ジークは自分の拠り所でもありドベの自分が唯一自分らしくいられたアイテムである野球ボール、それが自分にとっての支えであり宝物を握り締めて。
 これまで自分の「生」を呪い続けてきた男は、ようやく、この道の中で再会した父親でもあるグリシャ本人へとその揺るぎない思いを伝えることが出来たのだった。
 そして、アルミンも今生きながらえていること、そのそもそもの命を奪った相手に今更ながら後ろめたさをずっと感じながら生きて来た。
 エルヴィンと自分、命の天秤にかけられる中でエレンは自分を望み、そしてリヴァイは苦渋の決断の末に、盟友を終わりなき地獄から解放し、壁の外に人類が居る事をほとんど知らないまま死んでいった仲間達と共に、一緒に眠らせる事にしたのだ。
 そして生き長らえた自分はユミル・フリッツの呪いによる13年の寿命にはなったが、本当なら今ここに自分はいないし、あの船で過ごした束の間の時間、アニとお互いの思いを確かめ合うことも、無かっただろう。
 本当ならそれは全てベルトルトが味わうかもしれなかった未来、だが、自分はベルトルトからその全てを奪った。

「ベルトルト……僕は君からすべてを奪った……。命も力も大切な記憶も……。だから、わかるんだ、ここでじっとしてられない。力を貸してくれ……!」

 と、自分より上背のある彼へ真摯に打ち明ける。自分の抱く思いを伝えていたのだった。

 そして、ウミ。
 やはり彼女は道の中に閉じ込められ囚われの身となっていたのだ。彼女が遠くで微笑みながら、そしてこちらに歩み寄ってくる。身近な存在だった彼女の優しい温もりに触れて、そして確かめる。ほんとうに、こうなることを、彼女は、望んでいたのだろうかと。

「ウミ……! エレンに協力したままで……このままでいいの? このまま消えるのが君の意思なの? リヴァイ兵長がこのままじゃ、死んでしまう、アヴェリアだって、君の帰りを、みんな、待っているんだよ!!」
「……アルミン、」
「よかった、本当に、話せる、君なんだね? ウミ、」

 嬉しそうに、道の先で。いつまでも掴めなかった普段の彼女とは明らかに違う無機質な感情を瞳に宿していたウミではない、本来のウミだ。
 リヴァイのあの悲しげな顔が忘れられない、本当は誰よりも彼女を深く愛するがゆえに苦悩し、彼女をこの手で解放すると決めたリヴァイに、ウミの存在がこの先も必要なのは痛いくらいによく分かる。

 急ぎウミを連れ戻そうと、アルミンが彼女の華奢な手首をつかんだその時、「リヴァイ」と、愛すべき彼女の存在、その単語を口にした途端、ウミは何が言いたげに必死にその感情の宿る優しい眼差しが再び目を剥くと、また煙のように立ち消え、そして、目の前に広がっていたのは「始祖ユミル」の無機質な顔、だった。

「やっぱり、君が、「始祖ユミル・フリッツ」ウミの身体を乗っ取って何をするつもりなの!? 彼女を、解放してあげろよ、もう、いい加減に気が済んだでしょ!?」

 自分と共にあの木の丘まで走ってくれたウミではない、そこに居たのはウミが器となってくれたことでその身体を自由に使えるようになり、完全なる拒絶、自分たちが抗い続ける限り彼女は意志を持ちウミの身体を使って「地鳴らし」を起こし、エレンへ力を与え続ける存在「始祖ユミル・フリッツ」へとなり替わっていた。
 ウミは肉体も意識もあの雷槍の爆発でリヴァイが死んだと完全に勘違いし、完全に彼女にその意識さえも明け渡してしまっていたのだ。
 だが、彼女の肉体が再び消える間際、アルミンには確かに聞こえた。「始祖ユミル」へ成り代わった彼女が意識を微かに取り戻し助けて欲しいと懇願の涙を落としていたことを。

「ウミ!」
 ――「助けて……ここから、連れ出して……っ」
「やっぱり、それが君の、本音なんだね……。聞こえたよちゃんと、大丈夫! 待ってて!! 必ず助けを連れて来るから! 君の為なら、あの人は、どんな姿になってもきっと来てくれる……リヴァイ兵長は、君が選んだ人なんだろ!! これ以上、もう悲しませちゃだめだよ!!」

 微かに聞こえた幻聴のような、だが幼馴染の声を自分は聞き間違えたりなんかしない。その言葉を最後に、アルミンは再び深く沈んでいたまま動かない自分の身体から抜け出している精神だけの自分が折り重なり、そして――世界は目まぐるしく反転する。生と死の境目でさ迷っていた自分を導いてくれた者達の手に再び現実の世界へと押し上げられるようにアルミンの意識は浮上するのだった。

 ▼

 エレン巨人から次々生成される巨人達。混戦する中で戦っていたジャン達は未だにエレンの頭部まで辿り着けずに苦戦している状態だ。頼みの綱である強度は無くとも持続力のあるピークは何度も、何度も、その身体を巨人に変えては酷使して、すでに巨人の力を使い果たそうとしていた。変身を解いては襲われては脆い身体を抜け出し、また変身をして、巨人化に必要な自傷行為を繰り返してはとうとうその腕の先端が無くなり、痛みに呻いていた。

「ピーク!!」
「ウッ――」

 腕を負傷し、欠損した腕からはまるで噴水のように血が噴き出している。
 次々と巨人体では無い非力で小柄な彼女を取り囲むように襲い掛かる巨人たちの輪の中にいる小柄な体躯をジャンがガスを吹かして駆け寄って、腕に抱きかかえてかっさらう様に小さな彼女を救出し、そしてその場から離れる。

「……腕が治れば、まだ……戦える……!」
「限界だ!! ライナーの元まで後退を――ライナー!!」

 ピークを抱え急ぎ交代するジャン。もう彼女は限界だ、何百回変身したって先に彼女が力尽きるだけ。
 何度も何度も変身を繰り返した事で肉体もダメージを受けており、小さな身体は悲鳴を上げている。
 これ以上巨人の力を行使しも、もう残り数年しかない貴重な若い寿命を削るだけだ。

 急ぎ自分達の代わりに囮となり、九つの巨人の中で一番頑丈で強靭な肉体を誇っているであろうライナーを呼んだが、なんと、彼は歴代の「戦槌の巨人」を前に力尽きていたのだ。
 何度も何度も硬質化で作られている弓矢の標的にされた肉体はボロボロで、エレンの骨の上でくし刺しにされて動けなくなり、弱点の頸部を今にも「戦槌の巨人」が硬質化で作った鎌により切断されそうになっていたのだ。

 自分を助けようと近づくジャンに抱えられたピーク、宙を舞う2人の背後から迫る二体の巨人にライナーが危ないと「鎧の巨人」の中で叫んで知らせる。

 そして、その反対側の尾骨の方でも上半身だけのベルトルトに道を遮られ、アルミンを連れ去ったオカピの巨人は頭部の方向へと逃げようとしている。
 その間にも周囲を取り囲まれ、混戦状況にある中で背後からアニ扮する「女型の巨人」に向かってタックルした巨人によって思い切り仰け反った彼女の身体は浮き、アニは巨人体の中で苦し気に呻く。

「ウッ!!」
「アニ!!」

 片腕を奪われ、「女型の巨人」もとうとう周りの巨人たちに囲まれ動けなくなった。無防備なアニへ群がる巨人たちに絶体絶命に陥る。

「あのままだと「女型」もやられる……!」

 しかし、あの巨人の群れの中で自分を守る事で精一杯だと言うのに。アヴェリアが助けようにも間に合わない。
 このまま「女型の巨人」の全身が巨人たちに貪られようとしたその瞬間、信じられない現象が起こったのだ。
 なんと、「超大型巨人(ベルトルト)」が、「女型の巨人」であるアニを取り囲んでいた巨人たちを一斉にその手を振り上げ、勢いよく吹き飛ばしてアニを助けたのだ!!

「(ベルトルト……!)」

 アニは確かに見た。先ほどまで虚ろだったその目には、今はかつて共に故郷へ帰るべく共に島の仲間を裏切り、時には殺し、その秘密を守るべく手を汚し、罪悪感に苦しんで来たベルトルトの優しい眼差しが、確かに宿っていた。先ほどまでとは違う目をして自分を見つめている。
 そして、ピークたちの周囲にも突然救援が現われたのだ。

「何だ!? 一体どういうことだ?」
「……ポルコ!! マルセル!!」

 先程まで自分達へ襲い掛かっていた巨人たちが次々と自分達へ味方するように集結すると言う、そこには信じ難い光景が広がって居たのだ。
 かつての仲間の救援。思わず涙ぐむピークの視界の前には、かつての戦士候補生としてこれまで共に過ごしてきたポルコとマルセルが先代から継承した「顎の巨人」も、他の巨人たちに襲いかかって巨人たちの弱点であるうなじを次々噛み千切って自分達の窮地に助けに駆け付けてくれたのだから。

「(ガリア―ド……!)」

 押さえつけられた「鎧の巨人」絶体絶命のピンチの中援軍も無い中で孤軍奮闘していたライナーを助けてくれたかつての戦士仲間達、そしてその背後からは自分達の手土産になってくれた最後まで口は悪かったが、自分達が壁外の人間だと薄々感づいても知らぬふりをしたりそしてウトガルド城で追い込まれた時にも自ら正体を明かした。
 ヒストリアを愛し、そして優しかったユミルの「顎の巨人」も姿を現した。

 自分達の仲間であり共に戦った仲間の巨人達が今度はエレンから生み出された巨人を次々と蹴散らし始めたのだ。
 一体何が起きたのか、驚く中、まるで奇跡のような出来事にかつての友が助けてくれたことに対して嬉しい気持ちと驚きの中にもう一度こうして会えた喜びを抑えきれず誰もがその光景に胸を打たれていた。

「俺達を助けてくれたのか!? ベルトルトが!?」
「……わからない……でも――この機は逃さない!!」
「ミカサ!」
「逃がさない!! アルミンを返せぇええっ!!」

 周囲の救援にようやく自分達の道を塞いでいた巨人たちがどんどん倒されて行き道が開かれ今が好機だとミカサが飛ぶのを追いかけアヴェリアも巨人たちの群れをすり抜け上空へ飛翔する。
 誰よりも高く、飛んでいた母親の遺志を受け継ぐように、そして誰よりも速く駆け抜ける父親のように、アヴェリアはこの数日間の戦いの中で、ウミにさわりだけ教えてもらっていただけの立体機動装置を完全に理解し、自らの手足のように使いこなしていた。

 次々蒸気へ変えられた巨人たちは倒され、カモフラージュにしてエレン巨人の背骨にしがみつくオカピの巨人だけがその場に残される。
 ミカサとアヴェリアは一気にオカピへ狙いを定めて接近していく。凄惨な状況下でようやく掴んだ希望、アルミンを取り戻さない限り自分達に残された道は無い。

 ――「世界を救うのは、アルミンだ!!」
 かつて、シガンシナ区決戦の終結間近にリヴァイに迫られた選択、かつての盟友か、同じ夢を語る瞳を輝かせた新兵か、その選択の結果が今こうして目の前でもたらされている。
 あの日の後悔、盟友を死なせたことには自分の中で最善だった。悔いなき選択は今アルミンが「超大型」を引き継いだことで訪れている。

「ファルコ、もっとオカピの巨人の近くへ!! ここからなら、狙える!! リヴァイ兵長、私、やってみる! 皆が戦ってるのに、ただ黙ってこのまま見てるだけなんて!!」
「……お前の意志は分かった。だからそんなに、焦るんじゃねぇ……撃つなら、まだだ、ヤツが完全に飛び移る動作に入ったその瞬間を狙え、」
「はい!!」
「援護する、照準を合わせろ」

 鼻息荒くそう自分へ詰め寄るガビの本気を感じ取り、リヴァイは彼女に協力すべく彼女の背後で一緒に大型の対巨人ライフルの照準を合わせることに今の自分の残された隻眼を遣う。

 身体が動かなくても、目は動かせる。骨伝いに移動するアルミンを今だ捕食したままのオカピの巨人。
 囲まれた巨人達を蹴散らして追いかけて必死に戦っている仲間達を見てガビはこれまで自分が活躍してきたとおりに活躍したいのに、自分は巨人化能力者でもなければ立体機動装置の心得も無くてそれがもどかしくて耐えられないと自分の思いを吐露した。

 負傷したリヴァイならまだしも、自分はただ安全なファルコの背中でただ見ているだけなんてそんなの嫌だと、そんな自分い、同じようにファルコの背中の安全地帯でジークを探すだけのリヴァイもさぞ悔しさをにじませているだろう。

 リヴァイの援助もありオカピの巨人に狙いを定めるかのように、ファルコに乗ったガビの狙撃が、まるで、かつて彼女が殺したサシャの代わりをガビ自らが務めるように。
 リヴァイのアシストを受けたガビの対巨人ライフルから放たれた弾丸は見事オカピの巨人の右目を貫通させることに成功したのだった。
 右目を撃ち抜かれた事で急に平衡感覚を無くしたオカピは手を滑らせながらエレンの背骨からそのまま重力に従い滑落していく。

「今だ!!」

 ガガガガ!!!と音を立てて手を滑らせながら顔面から落ちて来るオカピを待ち構えていたアヴェリアとミカサが追い詰めていく。

 そしてアルミンがいるであろう口元に狙いを定めると、そのまま自分の元に滑り落ちたタイミングで二人は交差するようにブレードを振りかざしたのだ。

「止まれ!! いつまでも逃げてんじゃねぇ!!」
「アルミンを――返せ!!」

 オカピの巨人が落下してきたところをちょうどいいタイミングで二人がクロスするように斬りつけ、口の端を斬り裂かれたオカピの巨人の口からベロンとオカピの決してきれいではない口腔液まみれのアルミンが飛び出して来たのだ。

「アルミン!!!」

 アルミンの口の中にまで夥しい量のオカピの巨人口腔液が詰まっていたが、咳き込みながら体液を吐き出し、何とか事なきを得るアルミン。
 まだ息はしている。生と死の境目をさ迷っていた少年は再びこの世界に戻ってくることが出来たのだ。
 しかし、オカピ巨人は尚もアルミンを捕縛しようとその長い舌を伸ばしてアルミンを追いかけ、鋭い舌がアルミンの足を貫通した。

「うぁあああ!!!」

 真っ逆さまに落ちて行く身体を引きずりながらアルミンは覚醒、そのままオカピの巨人の舌に向かってまだ一本だけ残されていた雷槍を撃ち放ったのだ。
 不気味に口を開いたまま、咥内へ向かって雷槍の強烈な一撃を見舞うが、オカピの巨人は落下する、しかし、アルミンの太腿に未だ突き刺さったままの舌に引きずられるようにアルミンも一緒に遥か下へ落ちて行く。

「アニ!!」

 コニーがアルミンの太腿とオカピの巨人をつないでいた舌を超硬質ブレードで切り抜いた先でアルミンが落ちた場所へ「女型の巨人」のアニが手を伸ばし、愛しい相手をそっと受け止めた。
 二人は別れ際に交わらなかった目線を再びかち合わせる。
 アルミンはオカピの巨人から命からがら脱出すると、元のこの世界への帰還を無事に果たすのだった。

「アニ……!」
「アルミン……」
「ごめん……みんな……! でも……もう大丈夫」

 体液を吐きながらアルミンは皆に自分がオカピの巨人に囚われの身となり強制的に戦線から離脱した事でこの混戦状態を招いた事を詫びる中、背後からアニを狙った巨人たちの群れが一斉に押し寄せて来るではないか。

「アニ!! 後ろだ!!」

 アニが背後から一気に囲まれたその瞬間、アルミンが道を通じて助けを求めた歴代の「進撃の巨人」であるエレンの実父でこの壁に真実をもたらしたグリシャがアニを守ったのだ。

「すげぇ、……巨人たちが味方してくれてる……」

 そして次から次へと道を通じて援軍がやってくる。
 エレンの名の由来になったであろう全ての始まりの人物であるクルーガー、そしてジークの父親的存在でもあった「獣の巨人」であり羊の形態をしたクサヴァーも現れ、自分達と一緒に戦いに参戦し、次々と巨人達を蹴散らし共に協力してくれたのだ。
「女型の巨人」に乗りながらその様子を見つめるアヴェリア達は信じられない奇跡を目の当たりにしたように、その光景を、ただ見つめている。
 巨人は人を食う生き物だと言う認識を嫌でも刻まれたパラディ島の者達からすれば今目の前で起きている光景は奇跡とも言えるような光景だ。

「おおぉおお、奇跡だ……!! すげぇこれは!! 俺達の大変な時に歴代の巨人達がアルミンを取り戻した瞬間手のひらかえしたみてぇに、俺達に味方してくれてるってのか!?」
「どうなってんだこりゃ!?」
「ジークさんのおかげだよ……」
「え……? ジークが……どうして!?」

 アルミンの口から飛び出した思いがけない人物に誰もが耳を疑う中、アルミンと対話したことで心境の変化でも起きたと言うのだろうか、エレンと道で対話した際に見せた記憶の中で、自分はエレンと同じように、グリシャとダイナから愛されていたことを知ったからだろうか。

「あいつは俺達の島で散々「脊髄液入りワイン」振舞って大混乱に陥らせたんだろ?」
「それが……ジークさんは、生も死も無い「道」の世界で眠っていたみんなを呼び覚ましたんだよ……。すべてのエルディア人は道で繋がってる。それはおそらく……「始祖ユミル」が繋がりを求めているからだ。僕らに、何かを求めて……そして、その道の先に、君のお母さんも……ウミも囚われていたんだ、」
「母さんが……? じゃあ、母さんも??」
「うん、でも、まだ囚われている……道の先に……ウミは「始祖ユミル・フリッツ」に身体を乗っ取られて今も動けないんだ。だから、あの子には、助けが必要だ」

 アルミンとジークは道の中でこれまでかかわってきた自分達の知る知性巨人を保有する者達へ道を通じ助けを求めたのだ。そして王家の血が流れるジークがそう命じたこと、アルミンの言葉に囚われの身だったジークはこうして元の世界に戻る気持ちへと次第に変化したのだった。

 2021.12.15
 2021.02.01加筆修正
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