THE LAST BALLAD | ナノ
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#52 不屈の誓い

 今までさんざん休ませてもらった身分でウミと一緒にのんきに寝ていられる現状ではなかった。
 リヴァイは泣き疲れて眠るウミの腰まであった髪が肩上まで焦げてしまい、もう切るしか手段がなく、短くなってしまった髪を撫でながら自身の部屋を後にした。

 エルヴィンが右腕を巨人に食われてから昏睡状態から目覚めた今も絶対安静の中でハンジと手分けして今後の調査兵団の方針を練っていた。
 合間を見ては自身の部屋に運んだウミの目覚めを待っていた中で目覚めたウミの温もりに癒しを求めるように同じベッドにもぐりこみその温もりを確かめるように温かな体温を抱き締めていた。

 あれからウミの治療を終え、ウミを連れてリヴァイは自身の部屋に戻って来た。骨折した鼻も完全に回復とはいかないが、元通りに骨を形成する手術も成功してウミは傷ついた体を癒しながら事務処理など簡単な補佐業務から手を付け始めてリハビリを開始していた。
 相変わらず声はまだ小さい声で話すので精いっぱいだが、ウミの声が戻ったと聞き安堵する104期生達も少しづつかつての同期との辛い別れから立ち直りつつあった。
 たった一人、ヒストリアを除いて。

 エレンとヒストリアを人里離れた山奥の小屋に隠すことを決め、その一方でウォール・ロ―ゼ内の安全確認をしながらコニーの故郷である今回の発端であるラガコ村での調査を兼ねてたミケの捜索も行われたが、遺体はおろか、その痕跡も結局見つかることはなくミケも主のない墓石にその名前を刻むことになった。

 そして、曇天の空の下、今回の騒動で犠牲になった兵士たちの合同葬儀が静かに行われた。

 ミケ班で唯一生き残ったのは伝令で早馬を走らせ巨人襲来の報告を告げ迅速に動いたトーマだけだった。ミケもナナバもウミを知る者達がまた多く命を失われ、そして、山奥の僻地に旅立つ前にとすっぽりとフードで素顔を隠したままのエレンがハンネスの墓に花を供えていた。

 ふ。と、頬を伝う雫に天を仰げば、どんよりしていた空から静かに雨が降り出していた。
 トーマは自分だけが生き残った事に対して非情に申し訳ないと嘆いていた…。
 すすり泣きの声があちこちから響く中で、ウミは今作戦で唯一遺体が一部残っていたクライスの墓に手を備えるのだった。

 クライスの遺された遺体を見た時、ウミは涙を流すことなくかつて共にウミ班の一員として駆け抜けた彼の死を未だ受け入れられずにいた。
 ただ、彼がどうか穏やかに安らかに楽園に行けるようにと願う事しか出来ずにいた。
 どうしても信じられなくて、あの屈託のない笑顔も、紫煙をくゆらせた煙草も、その煙草をくわえていた指先も、まだ、過去には出来なかった。

 ウミが兵団を去り、イザベルもファーランも死に、フラゴン分隊長の死を責められたリヴァイ。彼を責めた兵士により彼が殴られているのをクライスが止めたことがあった。
 いけ好かない奴だと思っていたが、クライスもクライスなりにウミが居ない寂しさを抱えていたのはリヴァイと同じで、憎まれ口をたたきながらもクライスは何かとリヴァイに絡むようになり、犬猿の仲ではあったが調査兵団ではなかなか絵になる2人だと影で言われていたらしい。

 ウミにとってもクライスはウミが初めて分隊長になったばかりの頃、不安だったウミにとって大きな存在だった。見た目が大きいだけでなく、心も広かった。
 最初はこんなガキの下で生きるために調査兵団を志願したんじゃねぇと拒否されたが、シャワー室で自分が複数の兵士に襲われかけた時に助けてくれたのはクライスで、泣いてばかりいた自分を励ましそれからはいつも守ってくれた。
 何度かの壁外調査で絆を築き上げてきた恋愛感情はないが、大切な存在であったことに変わりはなかった。

 昨日、リヴァイの腕の中で散々泣いて悲しみを分かち合ったからこそもうこれ以上は泣くのは止そうと決めたのに。
 ペトラの隣に並んだクライスの名前が涙で滲んでよく見えない。
 調査兵団のシンボルである自由の翼が刻まれたトレンチコートをその身に纏い、ウミも静かに手を合わせ、火をつけた煙草を墓前に供え、酒が好きだったゲルガーが最後まで飲めなかった酒を備えてやりながらミケの墓前に向かう。

「ミケさん…」

 父親とも長い付き合いだったミケ。彼が死んだなんて本当に誰もが信じたくはなかった。ハンジの泣きそうな顔が忘れられない。
 エルヴィンと並んでミケとも長い付き合いだったから。父亡き後、父親の代わりに励ましてくれたのはミケだった。
 寡黙でクライスとは違い真面目でお世辞や冗談を言ったりするような性格ではなかったが、人の匂いを嗅いでは鼻で笑う変な癖も、
 一カ月前はみんないたのに、もう、そこには誰も居ない。

 今度は誰に死が訪れるのか。
 胴かもう誰も死んでほしくはないと願うしか出来ない自分。
 自分一人の力ではエレンを奪い返す事で精一杯で、無力な自分を呪いたくなるが、もう振り返り悲しんでいる場合ではないのだと改めて痛感し、また歩みだす。
 いつまた作戦が動き出すのかわからない。
 どうか、もう誰も死なないで欲しいと、願えば願う程に迫りくる現実はあざ笑うかのようにその命をまた摘み取っていく。

 ▼

 1週間が経過した後、ウォール・ローゼの住民は第2の壁が突破された際の模擬訓練の通りにウォール・シーナ内のリヴァイと過ごした地下街に避難することとなったのだった。想定された通り最悪なシナリオは残された人類の半数以上を食わせることのできる食糧の備蓄は持って1週間が限界。ウォール・ローゼがもし巨人によって本当に突破されていた場合、最後の平和が訪れるのはその1週間のみで、それ以降はもう誰も明日の食べるものを保証してはくれない。もしそうなれば飢えて死ぬか、食べ物を奪って生きるか、生き抜くために食を諦め弱者がすべてを強者に譲るか。
 それともすべてを切り捨て戦争を始めるのか。
 最後に滅ぶのは巨人によってではなく、人間が人間を殺し、そして内側から滅んでいくのだと。張りつめた空気の中で、ウォール・ローゼ内の安全が確認されたのはミケたちが南区から発生した巨人を見つけたあの朝から1週間後のようやく目を覚ましたエルヴィンがピクシスとリヴァイとウミからその話を聞いた時だった。

「……とまぁ正確に言えば我々はその1週間でウォール・ローゼは安全じゃと言い張る他無かった。
 今は避難民も元の土地に帰っておるが、幸いというべきかこれ程の混乱の最中に兵力を行使した事件はその1件のみ。元々旧地下都市にいた不法住民が立ち退きを命ぜられ…一部の地区で憲兵と衝突しおった。死者こそ出んかったがその事件が壁全域に与えた影響はでかかったのう…ワシらは地獄の釜が一瞬蓋を開けたのを見たのじゃからな 皆が身をもって確信したよ ウォール・ローゼ崩壊後は1週間の猶予を経て人類同士の殺し合いが続くのだとな」
「すまねぇなエルヴィン。せっかく話ができるまで回復したのによ……。この1週間は聞くだけで寝込みたくなるようなことしか起きてねぇぞ」
「いいや、寝飽きてた所だ。続けてくれ」

 包帯を巻かれた痛々しいエルヴィンの失われた右腕、長い間眠っていたので無精ひげが生えて髪も無造作な姿をを見てウミが気にして落ち込むのではないかと危惧したリヴァイがお前は一緒にエレン達について山小屋への異動を開始し、こちらにはついてこなくてもいいと伝えたが、ウミはそれでも行くと聞かず、ついてきた。
 リヴァイと離れていた期間は短かったが離れていた期間はよりお互いを深く思う大切な期間として二人の絆はより強固な物になっていた。

「エルヴィン……その、私のせいでエルヴィンの腕が……どう償えばいいか……」
「オイ……もう気にするんじゃねぇって言ったじゃねぇか。右腕は残念だったがお前のせいじゃねぇ、ウミ」
「ああ、リヴァイが言う通りだ。君は何も気にする必要はない。むしろウミのお陰で俺は今こうして悪魔に腕一本差し出すだけで済んだんだからな。それに…俺が今まで巨人に何百人食わせてきたと思う?腕一本じゃ到底足りないだろう。いつか行く地獄でそのツケを払えればいいんだが、」
「そりゃええのうエルヴィン……その際は地獄でご一緒させてもらえるか?」
「どうしたじいさん、さすがに参っちまったか?」
「あぁ、お前はこんな状況でもウミという可愛らしい嫁さんを捕まえてウハウハしてるじゃろうが……」
「それとこれとは話は別だろ、それに、今はそんなのんきなこと言ってる状況でもなくなっちまったからな……」
「全く……今こそ酒にすがりたい所じゃがの。取り上げられてしまっとる。ワシのおしめの面倒までは見てくれんようじゃ」
「ハハ……優秀な部下をお持ちですな」

 ジャケットを脱いだベスト姿のピクシスの傍らではアンカが控えていてこの会話をウミと同じように見守っているようだった。
 その時、ドアの向こうでノック音が聞こえてリヴァイがこの部屋に訪れる予定の人物が来たのだと、ウミにドアを開けろと促し、招いた。

「ハンジだ。ラガコ村の調査から戻って来たらしい。ウミ、開けてやれ」
「はい、リヴァイ兵長」
 あくまでも公私混同はせず自分は彼の部下として。努めて振舞うウミ。
 ジャケットを脱ぎブラウス姿で下はひざ下の長いプリーツスカートを履いたウミが肩先で切られた髪を揺らしてハンジを招いた。

「失礼するよエルヴィン。いらしてたのですねピクシス司令、丁度良かったです。今回の件の調査報告に参りました。彼は――」
「104期調査兵団 コニー・スプリンガーです」

 敬礼をしながら進み出るとハンジはコニーの説明を始めた。

「彼は例のラガコ村の出身です。事件発生当時を知る兵士であるため私の調査班に同行してもらいました」
「今回の巨人の発生源と言われていた村か……コニー。ご苦労だったな……」
「……はい……」
「私から説明させていただきます。
 今回の巨人の発生源についてですが、やはりあの仮説が信憑性を増す材料が揃うばかりです。
 村の家屋はすべて家の内側から何かが爆発したように破壊されていました。また、あれだけの破壊跡がありながらも…血痕一つ見つかりませんでした。何より…ラガコ村の住民が未だどこにも見つかっていません。そして…、壁内に出現し討伐された巨人の総数が…ラガコ村の住民の数と一致しました。
 つまり今回出現した巨人の正体はー…ラガコ村の住民である可能性が高いと思われます」
「あの時、俺の家に居た巨人が俺に「お帰り」って聞こえたって言ったら……ライナーの奴、必死に「そんなわけねぇだろ」って言って……そういやユミルもだ……。そうか……あいつらは知ってたんだ…何がどうなってたのか知ってたんだ……。そして……それがバレねぇようにごまかした………俺が感づいたから……あいつらは……。クッソォ……」

 ラガコ村での調査を終え、ハンジはコニーの母親巨人を始末せずにそのままにすることにした。
 そう、巨人は人を捕食しなくても生きていける。
 まして、彼女が、唯一コニーにとっては村で唯一の生き残りで、そして
 ましてハンジの立てた仮説が合うのなら…このままコニーの母を殺すことはコニーの手前出来なかった。
 例えもう口がきけないとしても、それでも、コニーの母は生きているのだ。
 あの状態では動けないし完全な状態ではない、しかし、愕然と項垂れるコニーを前に母親を始末することは出来なかった。

 そして、すべての無知性巨人の正体がかつての人間だと、この仮説が本当だとして、もしコニーの母親に知性巨人を与えたとしたらもしかしたらユミルと同じように無知性巨人から知性巨人の力を授かればまた人間に戻れるかもしれない。
 コニーはどうしてもまだ希望に縋りついて居たかった。
 コニーは唯一村の生き残りとなった母親を奪うことは誰にもできない。
 ハンジは動けないように拘束してコニーの母に刺していた杭を引き抜く事しか何もしてやれることがなかった。

「コニーのお母さん、村で待ってるから定期的に会いに行ってあげないとね……」
「ウミ……ああ、そう、だよな」
「お母さん、それでも生きてるから…確かに巨人になってしまったから、会話が出来なくても、帰れる故郷は残されてて、巨人になってしまったけれど村に行けばお母さん元気で迎えてくれる……きっと、コニーの事、待っていたんだね、どこにも行かずに、コニーがわかるように、」
「……ウミ、」

 変わり果てた母の姿、これならまだ人間のまま死んでしまえば母もよかったのではないかコニーは思い悩んだが目の前のウミは故郷も親も失われてしまった。
 しかし、自分はまだ村も残されているし、優しい母親は巨人として今も生きている。
 彼女は大事な被験体としてラガコ村と共に保護され恐らくは殺されることはないはずだ。

 今にも泣きそうなコニーに駆け寄り同じ痛みを持つ者同士、そんな彼を励ますウミ。彼女はともに三年間を過ごしたエレンミカサアルミンと同じ友人であり仲間であるコニーを励ますように自分に触れた手がコニーを抱き締めた。
 優しい彼女の事だ、きっと本人は当たり前のように触れるだろう、しかし、自分以外の人間にまで正直触れてほしくないと思う自分が居た。
 この五年間、自分達が離れていた間に彼女の優しさに付け込んでどさくさに紛れて触る輩も居たのかもしれないと思うと…。大人げない一面が顔を覗かせる。

 手術を終え、ようやく見ていられる元の顔にまで回復したばかりのウミの頼りないその背中を見つめながらリヴァイは静かに二人のやり取りに耳を傾けていた。
 やはり、彼女は自分の班の仲介役に相応しい。
 104期生とも長い付き合いで親交のあるウミと自分との橋渡し的な役割として表向きウミを配置した。
 公私混同でも言い、よく同じ職場に夫婦でいない方がいいと言うけれど、今彼女の存在はこの壁の世界で狙われている。自分の手の届く場所で守りたい。
 添い遂げる相手を傍に置いて何が悪いのだと。誰も二人を咎めたりはしないのにリヴァイはそう思っていた。

「ウミ……ウミも、ずっと、こんな気持ちだったんだな。故郷を奪われるってこんな気持ちだったんだな……あいつらに奪われたんだもんな……そりゃ許せねぇよな……」
「コニー……」

 コニーも、ウミがエレン達と同じく巨人によって故郷を奪われた人物の一人だと知り、その悲しみに寄り添い合っていた。
 故郷を奪われる痛みを知る者しか知らない、ましてコニーは村人全員を一瞬にして亡くしたのだ。
 そして、いままで知らなかった事実が浮かび上がり、誰もがその真実のあまりの残虐さにただ、ただ、絶句するのだった。
 村へ去っていくコニーを見送りながら、ウミは静かに話に耳を傾けリヴァイに手招かれるとその隣の椅子に腰を下ろして話に耳を傾けた。

「つまり……我々が今まで相手にしてきた巨人の正体は……人間であると」
「すべての巨人がそうであるという確証はどこにもありませんが……ただ……そうなると巨人のうなじの弱点に何があるのかわかる気がします。
「なぜ個体差が大きく違う巨人の弱点が皆同じ大きさなのか…「縦1m横10cm」には何が該当するのか……。もしそこに人の大きさのままの一部があるとすれば…
 それは「脳から脊髄」にかけての大きさに当てはまります。
 そこを切除されるとそこだけ修復されずにすべての機能を失うのはそれが巨人の物質とは独立した器官であるからでしょう」
「ほぅ…。お前が生け捕りにした巨人は毎回うなじを切り開いてパァにしちまうじゃねえか…何かそれらしいもんは見なかったんだろ?」
「あぁ…特に人の変わった物は見なかったんだけど、そもそも一太刀入れる程度ではすぐに塞がるようなうなじだから完全な人の脳が残ってるわけじゃないだろうけどね。
 でも確かに脳と脊髄と同じ大きさの「縦1m横10cm」の何かがそこにはある…おそらく同化して姿形がわからなくても確かに」
「何言ってんのかわかんねぇなクソメガネ」
「あぁそうだね。ごめん」
「じゃあ……何か? 俺が必死こいて削ぎまくってた肉は実は人の肉の一部で、俺は今まで人を殺して飛び回ってた……ってのか?」

 リヴァイはハンジの言葉にただ、静かに自ら受け入れ難いただ一つのゲロが出そうな事実を受け入れるようにそっと呟く。
 それは今まで巨人の正体を探り続けてきた調査兵団にとって大きな一歩ではあったが、それは同時に残酷な現実を齎すものだった。

 ウミは言葉を失い自らの全身で受けてそして幾度も染めていたこの両手に触れ静かにため息をついた。
 ねっとりとした肌に纏わりつくあの汚らしいそれは。
 そして蒸発する血の中で悲しいほど雨のように浴びたそれは紛れもなく自分達人間と同じ血と同等だった。
 はぐらかすようにハンジが言葉を述べるが今更否定することも出来ない。

「……確証は無いと言っただろ……?」
「もし、そうだとすれば…何じゃろうな。
 普通の巨人とエレンのような巨人との違いは肉体が完全に同化しない所にあるのかのう……」
「なぁ……エルヴィン……エルヴィ――」

 誰もがその事実に項垂れ愕然とする中で、リヴァイはさぞやショックを受けているのだろうと思いエルヴィンのへ話しかけた時、何と、エルヴィンは微笑んでいたのだ。
 その表情はまるで幼い頃に戻ったかのような、本来の彼の素の表情を束の間だが見た気がした。
 何時も凛々しく口元を引き結んだ彼の姿に何年間も憧れたウミでさえ久々に見せたエルヴィン団長ではない本来の彼の姿、一週間寝たきりで無精髭も目立つ彼を横目にリヴァイは訝し気に眉を寄せ彼に呟いた。

「お前……何を……笑ってやがる……」

 その表情からは彼が何を考えているのかまでは読み取れない。
 エルヴィンはかつての自分が幼い頃、教師だった父親と共に立てた仮説を思い返していた。
 それが見事に的中し、これでまた一歩自身の夢に近づいたのだと、エルヴィンに喜びを与えていたが、はたから見れば不気味でしかない。
 突然微笑みを浮かべたエルヴィンの表情に驚きを隠せないリヴァイ。

「……あぁ……何でも……無いさ……」
「……気持ちの悪い奴め……てめぇが調査兵団やってる本当の理由はそれか?」
「…? え?」

 突然のリヴァイの推測に意味が分からず疑問符を浮かべるハンジと顔を見合わせるウミ。

「勘弁しろよリヴァイ。腕を食われ心身共に疲れ切っていてかわいそうだと思わないのか?」
「は……らしいな」
「子供の頃からよくそう言われたよ。気にしないでくれ。
 ところで……エレンとヒストリア・レイスは今どこに?」
「あぁ……それに関しても進めているよ」
「まず二人を安全な場所に隠した。この混乱が静まるまで大人しくしてるよ」

 ハンジの言葉にすかさずピクシスが忠告を促す。

「焦るでないぞ…今、世間は棒で引っ掻き回した蜂の巣のようなもんじゃ。先ほどの巨人の正体の説も今はまだ広める段階に無い」
「えぇ……もうしくじるわけにはいきません。そして、ウミ。君の事もそうだ、君の父親……カイトが壁外から逃げてきた存在が知れれば君は間違いなく狙われる。君もしばらくは身を潜めておきなさい」
「はい……」
「クリスタ……いや、ヒストリアを辿れば我々以上に巨人に詳しい組織を追及できます。エレンの能力を発揮できれば壁を奪還できます、そしてウミの父親の言葉通りなら彼女は恐らく壁内で育ったウミの母親と壁外の世界の血を受け継いだ父親の遺伝子を持つ奇特な存在ということになる。今は何よりこの三人が重要だ、それで、残りの二人はどこに?」
「お前が腕を食われて心身共に疲れ切っていてかわいそうだと思ったから俺が色々決めたよ。俺の班の新しい編成もな」

 リヴァイは静かにウミを見つめながら真っすぐに呟いた。

「エレンには……死の物狂いになれる環境が相応しい」

 エレンが死に物狂いになれる環境。
 それはあの子たちの存在に決まっている。
 今回のエレン奪還作戦で多くの犠牲者を出した調査兵団は今新たな危機に直面している。今回の責任を求められている。
 そして、エレンとヒストリアを差し出せと。
 更にウミの存在が明るみになれば。

「それで、ウミの戸籍だけど……やっぱりどこにもない。ウミの母親もウミの父親も、皆、だから君にはファミリーネームが存在しないんだよ」

 ハンジから告げられた真実にウミは自分が本当に何者かわからなくなってしまったと大きく肩を落として絶望した。
 自分がこの壁の世界に存在しない存在だなんて信じたくはなかった。
 ずっとこの壁の世界で生きてきたのに。
 そしてその事実を知る両親はもう既にいない。
 こうなる事を予期していたのだろうか。
 優しく微笑む父、そして最期に見た凛とした母の美しい笑みが今はもう霞んで見えた。
 しかし、そんなウミの手をリヴァイは今度こそ離さないと握り締めてている。

「それなら問題ねぇ……こいつはどっちにしろ俺の戸籍に入れるつもりだ。無戸籍なら新たに戸籍を作ればいい、だから落ち込むな、」
「リヴァイ……」

 こんな先の見えない不安な状況の中でリヴァイの鋭い眼差しだけが今のウミの大きな支えである。そして結ばれた二人の微笑ましい光景にピクシスも穏やかに瞳を細めていた。

「我々は……また一歩真実に近づいたというわけだ」
「たった一歩か。踏み台にした巨人と人間の数にしちゃあ割に合わないがな」
「だが確実な一歩だ。……我々は必ず突き破る。真実を隠している壁を……」

 決意を胸に。その先で待つウォール・マリア。そしてシガンシナ区のその一番壁の果て。ウォール・マリアを蹂躙する巨人の群れを抜けたその先で待つ主の元へとそれぞれの意思がぶつかり交差する地点、決戦の時は迫る。

「まだかな」

 シガンシナ区の壁の上で。蒸気を放ちながら獣の巨人の中から出てきた男が大事な人が自分へ授けた大事な形見である眼鏡を直しながら来るべき者達へと。

「ウミ、いい名前だ。うん。君はお父さんにとても似てるから、どれが君なのか、わかりやすそうだね。早く会いたいなぁ……」

 そう、呟いた。

SEASON.2. −Das Gebrüll
des Erwachens−
 NEXT SEASON To be continue…


 Es stellt sich heraus, dass es das Ergebnis einer Reihe von Fällen mit früheren Untersuchungen ist. Die Existenz von Riesen, die wir Menschen jemals als Katastrophe betrachtet haben In der Tat ist es nicht von der Person. Obwohl es ein sehr großer Riese ist, der die Mauer des Sigancina-Distrikts durchbrach Er ist ein Mann mit der Fähigkeit, mit einer klaren Absicht Um die menschliche Rasse in der Wand zu töten. Die Tatsache, dass wir dies Es ist toll, dass es sich herausstellt. Der Schaden von Riesen wird durch die Existenz jenseits des menschlichen Wissens verursacht. Nicht die himmlische Strafe, die bestraft wurde, sondern Es sollte als eine Invasion betrachtet werden. Und wenn es eine Invasion ist, Es gibt keinen Grund für uns, dies als Folgemaßnahme zu akzeptieren. Wir werden niemals nachgeben. immer weggefegt, Schwört auf das Blut der großen Brüder.

「馬車を呼んでくる。待ってろ」
「うん、」

 負傷した自分を気遣う彼に手を振りながら、ウミは馬車を探しに離れたリヴァイの遠くなる背中を見つめて愛しい思いを募らせていた。
 彼を待ちながらウミはふと、先程から誰かの視線を感じてたまらず振り向いた。しかし、そこには誰もいない。

 気のせいだろうか。だが気配には敏感な自分は確かに人の気配を感じたのだ。
 ふと、気付いた時には周囲に人影が無いなと感じていた。
 不審に思ったその時、

「ウミだな」
「え……」

 目の前に現れたのは憲兵団の姿。そして、拍子抜けしている間にガツンと背後から何かの衝撃を受け、ウミはこめかみを殴られたと気付いた時にはもう地面に倒れ込んでいた。

「間違いない。肖像画の通りこいつだ」
「早く連れて行くぞ」

 遠のく意識の中で、ウミは有無を言わさず必死に今ここに居ないリヴァイへ助けを求めようと声を絞り出そうとしたが、まだ大きな声が出ない。助けを呼びたくても不思議なことに周囲には人がいない、まるでここだけ人がいないような気がした。どうして、なぜ…いったい誰が、何のために。

「(この人たち…………憲兵じゃない…………! 見たことない顔……まさか……)」
「不安な因子は早く処分してしまうに限る」

 数分後、戻ってきたリヴァイは確かにここで待っていろと告げたはずのウミが居ないことに気付き、周囲を見渡し探していた。

「クソッ……(まさか……奴らにもう気付かれていたのか……bk_name_1#!)」
 リヴァイの嫌な予感は的中した。そしてエレンとヒストリアだけではなく、何よりも隠さなければいけなかった存在がウミだと知る。
 一人にするんじゃなかった。彼女は確かにそう簡単にはくたばりはしないだろうが、それでも彼女は五年間のブランクのある非力な兵士なのだから。

「せめて、あの母親に似てればこんな目にあわずに済んで……よかったのにな」

 ウミはあまりにもあの男の容姿に似ていた。
 だからこそ、すぐに憲兵達は彼女を探し当て、消しに来たのだ。
 今までは放置されていた調査兵団、しかし、王政は調査兵団をも消しにかかる為に行動を起こした。
 知性巨人は巨人を食らう事でその力を得る。
 失われた王家の巨人の力を奪ったその力を持つのは…この世界を根底から覆すカギを握るのは。
 真に戦う相手は巨人ではなくもうひとつ、壁の中にあったことを男は、調査兵団の残された面々はこれから思い知ることになる。

2019.11.17
2019.12.10加筆修正
2021.02.08加筆修正
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