THE LAST BALLAD | ナノ
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/Part 2

 そして、皮肉だがいつ死ぬのかわからなかったこの身体は13年の寿命を差し出す事で傷ついた身体は修復され、脳を巣食う取り除くことが出来ない、いつ破裂するかも分からない爆弾も消えた。
 そして……巨人化の代償としてユミル呪いにより13年しか生きられない自分。
 しかし、自分が人柱として座標になれば、自分は半永久的にここに縛られる事になる。生きることも死ぬことも無い。時の流れさえも感じない。まさに無の世界。

 でも、それでも。リヴァイを愛し、何百年前の過去の愛した人よりもそれ以上に愛された。愛の証は子供となり、いのちを授かれた事は彼女の生涯で忘れる事はないだろう。
 そして今、またこの胎には新しい彼の子供を宿している。

 だが、彼女の望みは一つ大きく違ってしまった。ジークを頼り、その為にマーレへ、ジークにパラディ島での結果を報告するため祖国に帰る前にマーレに立ち寄るキヨミの船に共に乗りそして、マーレでリヴァイの子供を産み育てながら残りの人生を生きていくと決めた自分は罪を犯してしまった。

「いくら我が子を守るためとはいえ、私はこの手を再び血に染めてしまった……許されることじゃない。私は、子供達の名前に一生消えない傷を与えてしまったの。犯罪者の親の子供として」

 彼の手を借りそっと立ち上がるとジークは当たり前のように自分を支えてくれた。そして、そんな彼女を励ますかのように、そっと頭を撫でてこう呟いた。

「あのさ、ウミちゃん、君は悲惨な運命だと思うよ、俺も君も父親のくだらない思想の犠牲者だ。だけど、決して悪いことをしたとは思わないよ。気にすることない、君は子供を守った。堂々と胸を張ればいいさ。だって救ってあげたんだろう? 哀れなエルディア人の魂を。むしろそんな君を誇りに思うよ俺は……俺達は、そう、まず島の人たちを救わなくちゃいけないんだ。エレンと一緒に。その為にはね、ジオラルド家の始祖であり始祖ユミルと魂を同じくしたの君の力がどうしても必要でね。君がいないと、始祖ユミルはこの世界に姿を現すことは出来ないし、その力を発揮することが出来ないんだよ。大丈夫、悲しむことは無い。どちらにせよ、遅かれ早かれこの島も俺達も滅びる運命なんだから。君はその人たちが苦しむ前に自分の手で逝かせてあげたのさ。この俺達の身体に流れるこの血がどうして世界中の人間から嫌われているのか、わかるよね。君の事だから、幾らでもその目を見てきただろう……。君の大好きな旦那様も、子供達も、皆、皆救ってあげよう」
「それが、あなたの……望みなのね」
「そうだね、だからこそ、君の力が必要だ、ここまで来たのなら何としてもやり遂げるんだ」
「うん。もう……戻る場所なんて、何処にも無いから」

――いずれ英雄がこの国を、この島を、滅ぼすのだ。

「君は、選ばれた人間だ。特別なものを持っている……、あの父親の娘であることに間違いはない」
「そうよ。だから、あなたがシガンシナ区で私たちの仲間達を投石攻撃で皆殺しにした事は、今も許したわけじゃ無い。もしこれ以上私の大切な人達に何か変な真似をしたら、私、あなたのうなじをそぎ落としてやるから……」
「いいよ、それでも、そうなったとしても、全部俺が終わらせてあげる。楽にしてあげよう、皆、皆救うんだ。愛する人も家族もみんな、終わらせてあげよう」

 王の血を引く自分では「始祖の巨人」の力を手にしても「不戦の契りに」よって自分は行使することは出来ない、だからこそエレンなのだ。エレンは初代王の「不戦の契り」の影響を受けずとも「始祖の巨人」の力で記憶を改竄できるのだ。そしてそのエレンと自分は協力して「エルディア人安楽死計画」を遂行する。ウミという柱の強固な力の結束によって。
 今ここに居るジークは「不戦の契り」から解き放たれたジークである。彼がウミへ「記憶の改竄」をしようとそっとウミの頭に触れた時、ウミはジークの手を振り払った。

「私は、残念だけど始祖ユミルの脊髄液を注入して「原始の巨人」になった。だけど私は誰の支配も受けないし、私の意識や記憶を操ったり改竄することは出来ない」

 ウミは自分がクローン人間だとしても始祖ユミルの支配から逃れられることを知っていた。父は自分を造ったんじゃない、自分に託したのだ。

「私の母は……ミナミ・アッカーマン。そして、私もアッカーマンだから。もう過去の私ではない、私は私、リヴァイ子供たち、そして島のみんなを守りたいだけ」

 そう、かつて王に背き迫害されたのは建前で、東洋の民族と同じアッカーマンたちはユミルの民ではないので巨人化出来ないのは勿論、「始祖の巨人」が座標から道を通じてすべてのエルディア人へ記憶の改竄を命じることがアッカーマンには出来ないのだ。記憶を持ったまま生かしてはおけないと絶滅寸前まで追い込まれた一族の血がこの肉体を今も流れている。
だからこそ、父親はウミがきっと自分と同じエルディア人も、マーレも関係ない未来を描いてくれることを信じウミを生かすすべてこの瞬間の為に死んでいったのだ。

「そうか……そういう、事か。全く、君の父親にやられたな……。俺やエレンの「始祖」の力で君を思い通りに出来ないようにするためにまさかアッカーマンの余計な血を混ぜやがって……。これじゃ君の望む結末になるって事になるって事かよ……だけどね、エレンは俺と同じ、意思を共有している。今更俺とエレンから逃げた所で、君は逃げられない。それに、君は「座標」に遅かれ早かれ還る運命だ、要するに肉体の死滅じゃなくて存在……君の魂の死滅だよ」

「原始の巨人」を受け入れユミルの魂を受け入れた時に全て知ってから一度自分で覚悟した事といえど、口に出す事は躊躇われるが、だが、自から望んでこの場所に足を踏み入れたのだ。

「私がこの命を使い果たして座標となれば……この世界から私の存在も、私が、この世にあった事自体も失われる。私の存在はみんなの記憶から消えて、居なかった事になる。それでも、構わない……私は、私の望みを叶えるって決めたの。私は、やる。あの島を捨てても、それが裏切りと蔑まれても、孤独になってもやり遂げてみせる。大丈夫よ。悲しくはない、誰も悲しむことはない。お父さんが私をこの島で育てたように、これは、私が選んだ事だから。二度と後悔しないように、二度と誰も悲しい想いをしないように。幸いにも私に残された命は、まだある。誰が何て言おうと、私は、ここで生まれ、そして……ここで命を落とすの。私が死んでも、私はみんなを忘れない。みんなは悲しまない。たとえ私の存在が消えても、私の産み落とした命の欠片は生き続けてそして未来に、繋がっていくから。大丈夫。悲しくなんてない。

 私は、頑張れる。お父さんが私を造らなかったら出会えなかったあの人を……リヴァイは絶対に死なせないって決めたから」

 その言葉を発した彼女はそしてジークに背中を向けた。その先に居たのは長身で長髪の男性。その男性が振り向いて自分越しにジークに告げたのだった。

――「すべてのエルディア人を……安楽死させる。こんなふざけた計画オレは到底受け入れられない。オレはここに来るために、あんたに話を合わせていただけだ」
「エレン!!」

 逃げ込んだ彼女を抱き留めたのは、見た目はどれだけ変わってもその自由を望む彼の目は幼い頃から何ひとつだって変わってやいないのだから。ウミを逃がしてその男はジークの前に立ちはだかった。
 ここでは時計など意味が無い。時間の概念が存在しない世界。男は自分に逃げろと告げた。

「……あぁあああ……本当に分かってないんだね。二人して、まったく……。こんな悲劇、もう終わりにしなきゃないのに、エルディア人がいる限り……この地獄は終わらないんだぞ……お前が、お前達がここでそれをやらなければ……この先もこの殺し合いは終わらない……俺達が繰り返してきた事がずっと続く……なぜだ、エレン……答えてくれ」
「オレがこの世に生まれたからだ。ウミ……いや、始祖ユミル、オレに力を貸してくれ」

 ジークからすればウミは到底理解に苦しむ存在だろう、彼女は「原始」の力を持って自らの肉体を捨てる事を選んだ。その理由が、彼の理解からは遠い場所の感情だからだ。
 エレンは自由を、そしてウミは愛の為に。決めたのだった。二人の手が重なるとき、その願いは果たされる。

――壁の巨人はこの島の外にあるすべての地表を踏み鳴らす。
そこにある命をこの世から駆逐するまで。

――「(私は、リヴァイに生きていて欲しい、生き続けて欲しい。たとえあなたがどう思っていようとあなたの命はあなたのもので、そしてあなただけの未来がある。マーレとの戦争で犠牲にはさせない。これから先何年も続く彼の人生がどうか、これからはアッカーマンの血とは無縁で、なおかつ、平穏であってほしい。私がもしこの世界から消えたとしても。悲しくはないから、二人の間に残した子供たちがいる、どちらかが逝っても決して寂しくないように一人きりになることは無い、その為に私は――)」

 だからこそ、この未来を実現するために自分は進み続ける。エレンがそうしたように、自分も、歩もう。自分達は父親の奴隷なんかじゃない、これは自分達の意志、誰かに頼まれたからじゃない、心がそう決めた。そして自分達の意志で決めた事。そう遠くない未来のエレン・イェーガーへ。必ずそこに辿り着くから待っていて欲しい。



「本当に、よろしいのですか?」
「えぇ、大丈夫です。それよりも……キヨミ様。この度は私の亡命にご協力頂き、感謝します」
「勿論でございます……あなたは大事な私たちの一族を救う、いえジオラルド家の大事なご令嬢ですから」

 リヴァイが目覚めた時、すでに彼女の姿はなかった。そして、最愛の、何にも代えがたい最愛が消えた事を悟るリヴァイの頬を幾重もの雫が落ちる。

 キヨミの乗る船の先端。まだ平たい腹にそっと手を当てて、顔色は悪いがウミの表情は慈愛に溢れていた。守るべきものを宿した女の覚悟。
 その表情を見つめ、キヨミは辛くも幸せそうな表情を浮かべる彼女の事を不思議だと感じた。自分が子供を産むまで、十月十日時間をくださいと。
 その目は、マーレでも変わることは無かった。不可思議に自分を見つめる者達、そして自分に向けられた銃の中心で、彼女は叫んだ。その手を血に染め、さもなくば即刻この場で巨人化してもいいと、言わんばかりに。自分はこの島では不当な扱いを受けることは無い。

「私は、パラディ島から亡命してきた、前ジオラルド家当主、カイト・ジオラルドが島で産み落とした実の娘です。血のつながりは遺伝子検査で分かるでしょう。全員、武器を向けるのを止めて道を開けなさい、私は「始祖」を受け入れた人間。誰一人として、傷つける事は出来ません」

 ここが自分の戦いの場所、どうか、私の事は忘れて末永く生きて欲しい、その為なら、あの島を救うためなら、自分は何度でも何度でも離れる選択を選ぶだろう、望むだろう。

 傍に居てあげたい。これからも、一緒に歩いていきたい。彼の隣を歩くのは自分がいい。だけど、抱き合って微笑み合うだけでは、彼の生きる未来は手に入らない。甲板で涙をはらはらと流しながら死よりもつらい決意の為に島を離れた彼女をキヨミがまるで母のようにそっと包むのだった。

「私は、ウミ・ジオラルド……。
初代ジオラルド家当主、ウミ・ジオラルドとしてこの世に舞い戻りました」

誓い合ったあの結婚式の日々が朽ちていく。記憶の彼方へ押しやる。
「アッカーマン」の名を捨てて。ウミはこれから世捨て人として、生きていこう。と、そう決めた。愛する人を心の底に埋めて、そして自分という存在を賭けて、この島を、いや、今もどこかで祖先が犯した罪を償うために何の罪もない今のユミルの民たちの為に。

「(私の罪は許されないとあなたは言った。だけど、罪を犯したとしても、あなたは私が生きる権利は誰にも咎めることは出来ない、だから生きて欲しいと望んでくれた。もうそれだけで、十分なの、あなたに出会えたことで、私は、私を保っていられる。私は初代当主のクローン人間、だけど、あなたがそれを否定してくれた。私を私として愛してくれた生涯最後の人、リヴァイ――)」

 あなたを愛して愛された記憶が彼女の身体を通り抜けていく、それだけで十分だ、彼の愛を抱いて自分はきっと生きていける。生涯最初で最後の忘れられない恋を、一生抱いて痕の残り僅かな余生として最期の時まで共に歩むことを――。



 ウミがパラディ島から去り。リヴァイと子供達だけが残された。しかし、もう悲しむことは無い、彼女の行き先は知っている。必ず自分達はいつかその大地へ笛に乗り海を越え、そして近い未来、自分達が血で染める悲劇の地、レベリオの地を踏む時に迎えに行く、その約束を信じていた。

――「親父、……どういうことだよ、何で、どうして!! 俺を訓練兵団に推薦してくれなかったんだよ!! また来年を待てって言うのか!? そうこうしてる間にもマーレがいつ攻めて来るかわからないのに」
「お前は……兵団の人間になるな。お前は身体が強くねぇし兵団組織に向いていない。学業に励み、そして普通の生活を送れ、仕事をして、まっとうな暮らしをしろ。お前まで死んじまったらエヴァはどうする?」
「ふざけんな!! そもそもアンタのせいで母さんは……母さんはこの島を追われたんじゃねぇか!! 親父が他の女にうつつ抜かしてる間に……」
「てめぇ、聞き捨てならねぇことを言うんじゃねぇよ。馬鹿野郎が……」
「母さんはマーレに居るんだろ、そうなんだろ!? 父さんが探しに行かないなら俺が一人でも母さんを探しに行くんだ!!」

 アヴェリアが目が覚めた時、まるで初めから居ない者として母の存在が誰からも語られなくなったことを誰よりも悲しんだのはあの事件の当事者でもあるアヴェリアだった。
リヴァイはウミとの約束を果たし、ウミは正当防衛が認められた。自分達がマーレに渡る際に落ちあうつもりだ。だから子供たちを必死に育てるために忙しい合間を縫って子供達との時間をなるべく取れるように子供達を安全な兵舎で囲い、過ごした。
シガンシナ区の彼女の家はそのままに店は強盗が押し入った家に誰も寄り付かなくなり空き家となるが、その時同じくしてニコロのレストランにウミが雇った彼はそちらで雇われることになり、シガンシナ区を去り、彼女の店は閉店した。今まで正直ウミに任せきりだった事をリヴァイはウミを無くして知った。
そんな彼を支えたのはアリシア、ではなく、レイラだった。
もちろん、リヴァイはウミ以外の女性にそのような感情は持ち合わせていない、だからこそ当たり前のようにこそこそあったりせずに堂々と頼んでいた。だからこそ堂々としすぎるあまりアヴェリアに誤解を与えてしまったのだ。
最愛の母を記憶から捨てたと。それにより彼はますます父親と距離が離れていく。任務の合間はサシャの厚意によりまだ幼いエヴァは孤児を育てているブラウス家で生活を共にするようになり、アヴェリアはヒストリアの孤児院に行ったきり父であるリヴァイに寄り付かなくなってしまった。

 ウミが去りそれから一年後のパラディ島鉄道開通式の夜。エレンの元に訪れたのはイェレナだった。そしてエレンもウミがイェレナと接触した時のように世界の真実、そしてジークの思いを知るのだった。

――「エレン……世界とエルディア双方を救う術は「安楽死計画」これを完遂する他にありません」

 そして、エレンとイェレナが話している後ろでフロックが話を盗み聞きしていることを知り、イェレナとの会話が終わるとエレンはフロックに伝えるのだった。

――「フロック。オレはジークの計画に従う……フリをする。お前もそうしろ」
――「……従うフリをして 何をするんだ?」

 エレンは未来の記憶で、ウミを見たのだ。彼女は叫んでいた、「始祖の力」を得たジークから逃れるように、自分へ助けを求めていた。未来の記憶で見たのだ、自分は彼女を、

――「世界を滅ぼす」
――「すべての敵を」
――「この世から」
――「一匹残らず」

――「駆逐する」

 エレンの放った言葉に目を見開き驚くフロック。そして、その会話は憲兵団の命じるがままにこの島が生き残る為だと、ジークの獣を受け入れる事を決めたヒストリアへも。自分が地鳴らしでこの島以外の大地を全て蹂躙する計画をエレンは秘密裏に伝えた。フロックは使命感に燃えた。そして、ヒストリアの犠牲になる未来をエレンは選べない。エレンの決意をすっかり女王としての品格を纏うヒストリアは涙ながらに否定した。

――「そんなの間違ってる!! 島の外の人すべてが敵じゃないのに……!!」

 ヒストリアは反対するが、エレンは止まらない、

――「わかってる。でも……憎しみによる報復の連鎖を完全に終結させる唯一の方法は、憎しみの歴史を文明ごとこの世から葬り去る事だ。お前に、島の生贄になるためだけに生まれる子を産ませ、親子同士を食わせ続ける様なマネはオレがさせない」
――「エレン、あなたを……何としてでも止めないとユミルが言い残した二度と……胸を張って生きていくことができない」

――「それはどういうことだよ……エレン」
「アヴェリア……!!」
「俺はアッカーマンだから記憶の改竄は出来ないんだろ? 母さんが消えた理由もそれなんだな? 教えてくれよ、母さんに、会いたい……会いたいんだ。俺の親父は世界一の腰抜けだ、俺は自らの手で強くなる、そしたら、今のそんな、恐ろしい話は忘れた事に、するから……」

 そして、ウミは母親の影を追いかけるようにマーレへ単身渡り、戦士候補生として戦地を駆ける事になる。やがて彼は戦火の中でエルディア人が置かれた立場や、父親の立場。そして、背負った自由の翼が決して自由などではないのだと、身をもって知り彼の短いようで長い家で生活は幕を閉じる。



――853年マーレ・レベリオ区内ジオラルド邸宅。

「ジオラルド様、新しい警護の者が本日から配属になります。ご挨拶にとの事で、」
「そうでしたか、分かりました」

 悲しまないで、どうか。いや、悲しむことは無いのだ、アッカーマンとして生きたあの島の出来事から遠く離れたこの場所でこれからも生きていく。ジオラルド家には生前から婚約関係にある一族が居た。その一族と自分はしなくてもいい結婚をしなければならない。あの島でリヴァイと結婚式を挙げた自分は今彼ではない他の誰かの者になるのだ。
 もし、自分を失ったとしても、その胸の穴は、いつか消えるから。自分がこの先、自分じゃなくなる日が来ても、この世界から消え失せても、彼の中から、自分の存在が消えたとしても、自分達の間に生まれた命を抱いて、彼のこれからの未来を祝福し続けよう。

「初めまして、ジオラルド様、本日付であなたの警護に当たります。エルゲルヒェンと申します。以後お見知りおきを」

 手を取り、跪くと、他の警護の人間より一回りも小柄だが、その意志の強い目にウミは忽ち見惚れた。焦がれたほど脳裏に描いたその声の先で、涙を落としたのだった。彼は会いに来てくれたのだ遠くの海を越えて自分との約束を果たす為に。

「エルゲルヒェン……お待ちしておりました。では、あなたには私の未来の夫となる方の警護をお願いしたいのです」

 震える唇で漏れた吐息のような声が泣いていたと気付かれなかっただろうか。マーレに潜入した彼らの中にリヴァイが居た、自分を迎えに来てくれた。だが、自分は、彼を捨て、そして他の男とこの国で婚姻関係を結んだのだ。

 これで、もう自分は彼の妻ではない。彼の元には永遠に戻れない、それでも彼は自分をこれからも信じて待ち続けるのだろう、もうこの先に自分の居ない未来が待っていたとしても、自分の選択が彼の心を踏みにじる結末だとしても。愛してくれた彼に恨まれても憎まれても、もし殺されても自分は必ず成し遂げる。

私はそのために生まれた、そして、その為にここに居るのだ。と。


FINAL SEASON.2【彼女は楽園を捨て、少年は海を目指す】Fin.
 2021.9.8
 ここまで読んで頂き本当に本当にありがとうございました。年始から始まった「BALLAD」の正当な続編にあたる「TLB」こと「THE LAST BALLAD」2019年から続いたこの物語も完結まで残すところあと2章です。自分の中では後20話でこの物語を終わらせたいと思います。

 さて、過去編と題しまして今回ようやくウミの出生の秘密を明らかにすることが出来ました。
 BALLADの最後で巨人になったりジオラルド家の遺産など、伏線で彼女がマーレにとって重要な人物であることを以前からちょいちょい示唆していましたが、今回、あまりにも突然の出来事のように感じられてしまうかもしれませんが、夢主がジオラルド家の当主のクローン人間として生まれ、そしてジオラルド家のそもそものルーツをたどれば行きつく先は始祖ユミル・フリッツの娘から生まれたマリア・フリッツから枝分かれして誕生した一族であることは前々から決めておりました。

 だからウミはアッカーマンでありながらその脊髄液を注入したことで始祖ユミルと同じ巨人になれる、でもアッカーマンだから始祖に思想を支配されることもなく、むしろ自分の中で始祖ユミルと共存出来る。
 直接明言はしていないのですが、ウミのアッカーマン一族としての覚醒は既にしていたと言うことも明らかになりました。
 つまりウミは始祖ユミル・フリッツと道を通じて一緒になった状態を言えばうまく説明できるかなとは思うのですが、本当に自分の文章力が無さ過ぎて……うまく説明できず申し訳ないです。
 ただ、夢主は始祖の支配を受けずに居られるので百年以上前の記憶もあるし、自我を保って居られていますが、今後どうなるかは……果たして。

 こんなにオリジナル展開盛り盛りで読んでくださる方を置き去りにしており大変申し訳ありません。
 始祖ユミルか、始祖ジオラルド家の生まれ変わりでもよかったのですが、もう少し現実味が欲しいと思い、巨人科学の第一人者という設定を持ってきてこのようなややこしい展開に……こればかりは本当に読み手の方に申し訳なく思います。
 
 素晴らしい進撃の世界をお借りして書いている連載も「MISSYOU」を超える長期連載となりました。これから終盤に向かって佳境に入ります。離れ離れとなりエルディア人を「ジークの安楽死計画」では無い本当に救うこと=リヴァイを家族を救うことになる。
 座標の中で夢主は未来のエレンと接触し、後にエレンと共謀を決めます。
 それがリヴァイを裏切る行為だと、知って敢えてリヴァイに憎まれる側の人間になります。自分はいつか記憶からも消えるから、だから構わないと。
 仕方なかったとはいえ押し入った男たちを殺した事で島を追われ、行き場を無くし人間の姿を捨てた夢主と、そんな夢主の自分が知らない人間になってしまったかのように、彼女が裏切ったと仲違いしたままのリヴァイ。
 地下街から一緒に手を取り、仲間の死や家族との別れ、どんな苦難も乗り越えてきたのに、歪んでしまった二人の関係はこれからさらに愛憎入り混じる激しく時に辛いものになり、書いている私が途中で挫ける時もあると思いますが、それでも私がこうして乗り越えて来られたのは、皆様からの温かいお言葉があったからです。

「TLB」を始めた頃は「BALLAD」からガラッと変わってしまったこの話に受け入れられない方のご意見を頂きました。意味がわからないと言う意見もありました。ですが、これで少しは夢主がマーレに渡った、渡らざるを得なかった理由をご理解頂ければなと思います。私の稚拙な文ではありますが、私は人より文章力も無いし語彙力も無いしとにかく底辺の文字書きですが、それでも下手糞なりに、14年という長年書いてきた事は唯一無二の証だし、せっかく来て居て頂いたからこそ良いものを読んでいただきたいという想いはサクヤとしてプライベートでのサクヤではない本来の私と志はいつも一緒です。

 難しい限界を超えどうにか最後を一緒に迎えて下さる方、もしおりましたらどうか最後まで、皆様にお付き合いいただけたらと思います。
 ここまで読んでいただきまして、ありがとうございます。次のSEASONもどうかよろしくお願い致します。

2021.09.09 ETERNITY/サクヤ
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