その壁の一番奥にあるウォール・シーナに囲まれた華やかな王都を囲むようにひっそりと存在している広大な居住空間……地下街。
人類が巨人に支配され始めた頃に作られた人類の平和な移住先だった。しかし、移住は廃止され廃墟と化した地下は貧しいものや犯罪者の巣食う危険なスラムと化していた。その中で生きてゆくのは過酷を極め、男も女も子供でさえも危険な場所と化していた。
この前まで会話していた人間も無残に殺される。盗み、殺し、暴力、強姦、全ての醜悪がこの地下街には密集していた。生き残るためには、自らの持てる力の全てで生きてゆくしかない。そう、男は殺伐した日々に世界がこんなにも美しい事も、人を愛し愛される幸せがあることも知らないままだった。
そんな人類のあらゆる醜悪を詰め込んだその街の片隅で、誰にも聞かれぬ、歌があった。
真昼に浮かんだ月の下で。1人歌う悲しみ、誰にも聞かれない歌があった。あの日の夜、光さえも届かない暗い暗い世界の淵、自分の名前を呼ぶ、愛しい人。
二人の交わした約束、それは今も変わらずにこの世界を美しく彩り続けている。
穏やかな空。何処までも限りなく広い空を鳥たちが自由に羽ばたいて。この大きな壁に包まれた世界が全てだと思っていた。
「さよなら、」と小さく呟いて、愛おしい声で名前を呼んで。忘れる事なんて、きっと出来ない。今もこんなにも溢れている。あなたを思って、届くはずもないあなたへ。
「今日も、いい日になりそうね。」
世界が、今日もどうか穏やかでありますように。
“I still believe”
どうかこのままで。
拙く奏でるその歌を
――望む願い。自身の果てに。
どれだけ悲劇的な状況であろうと、全身満身創痍だとしても、「道」の代償にアッカーマンの力の衰えを感じても、この心は――……決して折れない。
彼の強さ、これまで志を共にした大切な仲間たちの存在だった。
仲間が命を捧げてここまで繋いだ今がある。
自由の翼を背に、心臓を捧げた仲間たちへ、この心臓は最後の瞬間まで命を燃やして戦い続けると誓う。
「最後にもう一度、翼を授けてくれ」
負傷した視界は暗黒の中にいる。バランス感覚もままならない。負傷した足を引きずり尚も。男の手は戦うことを止めない。
今度こそ、彼女を迎えに行くのだ。
例え、この命を散らすとしても。
その決意の刃が静かに煌めいた。
――「リヴァイ、」
あなたを愛している。
確かにそこにあったのだ。
感じた永遠。
今もそこで笑う彼女が自分を呼んでいる。
早く来て、と手招きして待っている。
その笑顔の為ならなんだってできる、そんな気がした。
「ウミ。今、取り戻すからな。一緒に帰ろう、お前の家に、あの場所に……」
――変わり果てた姿となった彼女が、
大口を開け、空を舞う自分へ手を伸ばすから。
導かれるままに、誘われるままに。
男は真っ逆さまに自らの意思で彼女の中心へと、落ちていった。
THE LAST BALLAD
人類の夜明けと共に世界は終わりを迎え
最後の、終末の夜が始まる。
2019.01.09
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