THE LAST BALLAD | ナノ
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#95 話ナ死合イ

――「ん〜重い!! きゃっ!?」
「オイ! てめぇは何してやがる……」
「ご、ごめんなさい……!!! あの、雷槍がどんな感じなのか……試してみたくて……!!」
「夜ごとこっそり何してるかと思えば……開発段階の新兵器を盗み出して森林伐採か。よく見ろ、これはな、お前みたいなか弱い女に扱える代物じゃねぇ…。大事な作戦前に余計な負傷してぇのか。お留守番がしてぇならそう言え、そっちの方が負担なく俺も作戦に専念できる」
「それは……違うの……!!! ごめんなさい……」
「お前は使う必要ねぇだろうが。ましてこれはなんの準備もせずき使い方を間違えれば大惨事だぞ……そんなにお前は俺のいない場所で死にてぇのか……?」
「ごめんなさい……そんなつもりじゃ、無かったの……」
「ったく。これは、お前の太刀でも切れなかった鎧にブチ込む為のモンだと教えたはずだが?ん?聞こえなかったか?」
「はい……。そう、です……でも……! あの、これ……鎧の巨人に使うんでしょう? この雷槍……危険だよ……」
「あ?何が危険だ」
「だって……これを巨人のうなじにブチ込むんでしょう? もし、その時爆発に巻き込まれたら……? よく使い道を考えないと……。……もし、距離とか、使い方を……間違えたら……人間なんて即死だよ……。リヴァイ、雷槍の使い方、気を付けてね…あなたが爆発に巻き込まれて死ぬなんて、嫌だから……」
「その顔でブチ込むとか、萎えること言うな。お前に心配されるほど俺は腑抜けじゃねぇ」
「リヴァイ……お願いよ……嫌な予感が消えないの……」
「あぁ、それは俺もだ…お前の悲願でもある…この作戦、何もなければ、いいが…絶対は言えねぇ。
 いい、念のため俺がお前に使い方を教えてやる、ついてこい」



 シガンシナの街並みは二体の巨人の激しい肉弾戦によりどんどん破壊され、建物を巻き込んだ壮絶な戦いが続いていた。エレンと戦う中で鎧は関節技を決められ、振り払った勢いでそのまま大きく地面を転がりながら膝を着いた。
 鎧を取り囲みながら様子をうかがうハンジ。ミカサと共に反対側から攻める。

「(クッ クソッ……やはり……俺一人では、エレンを囓り取るまでには至らないか。もはやこの手を使うしか――……)」

 追い込まれたライナー。あの時と同じく、潜伏しているベルトルトへ向けて合図である咆哮を上げるべく息を吸い込んだ、その時だった。

「今だ!」

 はじけ飛んだようにハンジの声が反響し、やがてガスを噴出しながらエレンの背後からミカサと共にアンカーを射出しながら双方に装備した雷槍を光らせ風に乗って高速で鎧の巨人へ突進を開始した――!

「(兵士が動いた!? さっきから周りを囲まれていたのはわかっていたが……だが、兵士の刃が何だと言うんだ。そんなもんじゃ全身をくまなく硬質化で覆った俺には傷一つ……付けられは――)」

 散々思い知ったはずだ、この高質化で固められた身体にはどんな刃物も通じないと、まして、そんな技術の無いこの未だに文明が止まったままの壁内人類の装備が壁外から来た自分達に通用すする筈がない。しかし、ワイヤーを器用に操りながら次々とミカサとハンジの連携鎧の巨人へとたどり着くと、二人は肘に固定して装備した雷槍を食らわせるべく行動する。立体機動装置のグリップを握り込んで、それはまるで鉄の雨のように。ミカサとハンジの放った「雷槍」は見事鎧の巨人の両目の眼球に突き刺さったのだった。

「(なっ――!? 一体何が!?)」

 突如視界を奪われ、自分が兵団にいた時には見た事もない兵器の登場に驚くライナー。その瞬間、雷槍と繋がっていたアンカーをミカサとハンジが一気に引き抜き外した瞬間、それが起爆スイッチとなる。交差しながらその場から離れるように白煙を吹き出し飛び立つ二人の精鋭。鎧の目玉へ見事突き刺した雷槍は激しい轟音を立てて黒煙と共に爆発したのだ!!

 雷槍――……。それは全身高質化の鎧のような体躯をした巨人に対抗する為に、ハンジが中心となり中央憲兵が隠し持っていた技術を導入して開発した調査兵団の新たなる兵器の名前である。その名の通り、それはまるで木へ落ちた落雷のような破壊力で鎧の巨人の視覚を完全に奪った。ハンジの作戦は成功だ! エレンも雷槍が命中し実践でも雷槍は通用するのだと確信し、安堵した。
 その爆発は壁上で見守るエルヴィンとウミにも見えた。思った以上の破壊力にウミは驚いて口に手を当てている。こんな新兵器が幽閉されていた間に急ピッチで完成したことに対しても。
 そしてこちらからも聞こえた爆音とそしてその威力、立ち上る黒煙がそれを示している。そして、誰もが太刀打ちできなかった鎧の鋼鉄のボディを砕いたこと、あの兵器がもっともっと実用化すれば、壁内人類の未来の安寧を確信した。

「(やった……)」

 しかし。鎧の巨人の視覚を奪ってもそれは一時だ。女型の巨人の時のように片目だけでも視力が即回復するその前に。
 この隙に全員で雷槍を打ち込んで、本体のライナーを引きずり出して力を奪わない限りいつ隠しているベルトルトを呼ばれてはあの高熱の身体には誰も近づけなくなる。ハンジの顔には実戦での成功を喜ぶ余裕はなく、焦れたように顔を歪める。

「(イヤ……まだだ……。雷槍はその破壊力ゆえに撃った本人にさえ危険が及ぶ武器。通常の刃の斬撃のようにして巨人にアンカーを撃ち込めば、飛び込んだ先で巻き添えを食らう。したがって雷槍で攻撃できる条件は、目標の周囲に十分な立体物がある時に限られる。雷槍で攻撃できるチャンスは、このような条件下しか無い! 今ここで!! 決めるしかない!!)」

 眼球に突き刺さった雷槍の威力は申し分なし。ハンジやミカサに続いて動けずにいるライナーの背後からモブリット・ジャン・コニー・サシャたちが姿を見せると。そのまま背後から鎧の巨人のうなじに目掛けて雷槍を発射したのだ。
 次々と降り注ぐ鉄の雨を降らせ。それは一気にドドドドドドドドド!と音を立てて次々命中し、一斉に起爆させるべく全員で起爆用アンカーを引き抜いたその瞬間、雷光が周囲を照らし大爆発を起こしたのだ!!

「やっ……やったぞ……!! 効果ありだ!! うなじの「鎧」が、剥がれかけてる!!」

 超硬質ブレードでは不可能だったが、新兵器雷槍の破壊力の前でとうとう因縁の鎧の巨人のうなじの「鎧」を破壊することに成功した。弱点であるライナーが居るうなじがむき出しになり、ジャンは飛びながら成功を噛み締めていた。

「ほ……本当に」
「雷槍が……効いた!!」

 着地に失敗しながらも屋根に滑り込んだコニーとサシャもようやく鎧の硬質化の身体を破壊したことに驚いている中でハンジの命令が飛ぶ。

「もう一度だ!! もう一度雷槍を撃ち込んで、とどめを刺せ!!」

 その言葉は、それはかつての同期でもあり頼れる兄貴分だった、今もまだ彼が人類を混沌に陥れて巨人の蔓延る地獄へ変えた張本人だと信じたくない気持ちが残る同期たちにとっては重い言葉だった。

――「私達の刃は「鎧の巨人」に無力だった。敵が硬質化の隙でも見せてくれない限り、私達はただ……エレンと鎧の戦いを眺めることしかできなかった。壁の穴を塞ぐのも重要だが、 我々は何よりも、壁の破壊者であるライナーとベルトルトを殺さなければならないのだから……」
「ライナー……!」
――「巨人にもしくはこいつ(超硬質ブレード)を奴らのケツにぶち込む! 弱点はこの2つのみ!!」

 新兵とクライスだけで挑んだトロスト区において補給室の奪還時に巨人へのトドメの刺し方について話していたライナーに。かつての仲間へ自分達の手でトドメを刺せと言うハンジの命令を受けライナーと三年間寝食を共にしてきた同期達に重い沈黙が流れた。エレンを守る為なら躊躇しないと決意したミカサも、顔面蒼白している。言葉を失うコニーとサシャ。しかし、そんな同期達を叱咤する様に同じくライナーへ止めを刺すことに複雑な感情を抱いたジャンが、同期だからこそ、やるのだと、背中を押す。

「お前ら――……! こうなる覚悟はもうとっくに済ませたハズだろ!? やるぞ!! 俺達の手で終わらせるんだよ!!」

 苦しげにそう呼びかけたジャンの表情も辛そうで、決して誰もが彼らとの戦いに対して迷いがないわけではない、それでもやるのだ。ジャンからの叱咤を受け、コニーとサシャも覚悟を決めたかのような表情で大声で叫んで、そして……鎧の巨人の鎧が剥がれかけたうなじへ突撃する。

――「「うおおおおおおお!!!!!!!!」」」

 腹の底から、声を出さなければ。攻撃の手が鈍ってしまいそうだった……。迷うな!躊躇うな!奴らは敵だ!!殺せ!かつての仲間に向かって一斉に迷いを振り切り雷槍を鎧の巨人に撃ち込んだ。
 ドスドスドス!!と一気に高質化が破壊された柔らかな皮膚へ突き刺さった雷撃。聞こえた音に視界を奪われ鉄の雨を浴びて意識を混濁させていたライナーが意識を呼び戻したその時には。

「……待っ、待って――……!」

 ライナーがかつての友へ静止の言葉を投げかけたその瞬間、雷槍は鎧の巨人のうなじを爆破し、巨大な閃光が一斉に弾け飛び、とうとう鎧の巨人の本体から顔の上半分が吹っ飛んだまま動かないライナーの変わり果てた姿が、剥き出しになっていたのだった。

「やったぞ!! 頭を吹っ飛ばした!! とうとう「鎧の巨人」を仕留めたぞ!!」

 見事対鎧の巨人対策に考案、開発した新兵器「雷槍」は成功だ。因縁の相手の脅威を打ち破った、剥き出しの頭部から下の遺された彼の膝を着いて動かないその姿に抱き合い喜び合う兵士たち。しかし、彼の友人であり仲間であった104期生達は変わり果てたかつての友のその姿に呆然と立ち尽くしており、ハンジもまだ完全に止めを指せていないと警戒に目を光らせている……。

「ライナー……」

 ぼそり、誰にも聞かれぬ声で、ウミはかつてのエレン達の同期でもあり自分にとっても可愛い年下の若き彼の変わり果てた姿を見つめていた。
 故郷を奪った憎むべき相手、それなのに…堪えようにも。彼らとの思い出までは誰もが拭い去ることは出来ない、あの瞬間は確かに彼は兵士だった。
 頬をつう、と伝い、流れる涙はそのまま壁下へと落ちて行くのだった。

「ハハハ……やったな……今まで散々手こずらせやがって……ざまぁねぇな……悪党め」

 その光景を見て悪態を吐くジャンだが、その表情は複雑な感情が入り乱れ、かつての仲間を自分達の手で葬り去ったことへの苦悶の表情が隠しきれずにいる。その時、その横で同じようにその光景を見つめていたコニーとサシャのすすり泣く声がしてよく見れば二人は涙を流してかつての仲間の姿に胸をいため、号泣しているではないか…。泣きたくなる気持ちも分かるが、今はかつての仲間の姿に泣いている場合ではない、そんな二人の胸ぐらを掴み上げ怒号を放つジャン。

「何泣いてんだ!! てめぇら!? オラ!! 立て!! まだ終わっちゃいねぇぞ!? 泣くな!! ライナーは俺達が殺したんだぞ!?」

 洗浄で悲しんでいる場合じゃない、泣くなと叱咤するジャンだが。彼も辛いからこそ分かる痛み、その悪人面の瞳にも涙が浮かんでいる。
 皆より年上のライナーは本当に同期たちの間では頼りになる兄貴分だっだのだ。兵士としての厳しい訓練の中でもライナーが居るだけで全員が励まされ、誰もが彼を慕っていた。
 まるで本当の兄のように、そして、そんな彼を慕う者は多かった。だからこそ、今目の前の光景が信じたくはなかった。彼らが本当にこの壁を破壊するためにやってきた敵なのだと、受け入れがたくもあった。
 そして。それは、エレンも同じだった。変わり果てたかつての仲間に呆然と立ちすくむエレン。悲しむ者、歓喜で抱き合う者、両極端な空気を発つようにハンジが厳しい声を投げかける。ここは戦場、手を取り合って喜び勇んで安心する暇など無い。

「まだだぞ!! 装備を整えて次に備えろ!!」

 ハンジの叱咤を受け即次の行動へ移る中で呆然と佇むアルミンにミカサが優しく声を掛けると、アルミンも同じ悲しみを抱き涙ぐみ声を詰まらせながら静かに呟いた。

「アルミン……」
「……交渉……できる余地なんて無かった……」
「え?」
「何せ、僕達は……圧倒的に情報が不足してる側だし、……巨人化できる人間を捕まえて……拘そ……」

 傷ついた同期の姿、自分達が手を下しかつての友で在る仲間を殺したのだー…噛み締めたアルミンの表情は青ざめ、激しい罪悪感に苛まれ涙を浮かべていた。そんアルミンの姿に同じように胸を痛め、哀愁入り混じる表情で静かに瞳を伏せるミカサ。だが、次の瞬間、鎧の巨人は本体のライナーの顔の上半分が損失している重傷だと言うのに、顔を伏せたまま動かなかった鎧の巨人が突然口を開くと、そのまま無人のシガンシナ区に向かって大きな雄叫びを上げたのだ。

――「オオオオオオオオオオオオ!!!!!!」
「(なっ!? 何だ!)」

 耳をつんざくような咆哮が周囲の静寂を引き裂き反響する。その咆哮から漏れた息が旋風のように吹き荒れ、その咆哮はまるで自分達に追い詰められ、囚われた女型の巨人が最後のあがきで叫んだ咆哮を髣髴とさせた。
 あの時、女型の巨人の甲高い叫び、それは巨人を呼ぶ合図。あの時に似ている。最後の力を振り絞って叫び終えると、ライナーはそのまま力尽きたように蒸気を発して動かなくなった。



「エルヴィン!!」
「まさか――……」

 その叫びは壁上のエルヴィンとウミ、そして獣と対峙する中聞こえた鎧の巨人の咆哮に何事かと青ざめるリヴァイをも突き抜け、そのもっと果て、獣の巨人の背後から走って来た四足歩行の巨人の耳に届くと四足歩行の巨人が背中に背負った樽の中、ある影が動いた。
 四足歩行の巨人の背中に背負われた樽の中身はただの物資ではない。その中で、密やかにベルトルトは息をしていたのだ。そしてライナーの叫び声の進撃の合図を今か今かとずっと待機していたのだった。

「(ライナーが巨人化してしばらく経った…。…奇襲が上手くいかなかったことはわかる)来た!! 合図だ!!」

 獣の咆哮は敵側にも伝わった。獣の巨人はそうして付近まで走って来た四足歩行の巨人の背負っていたベルトルトの潜伏する樽をガシッと掴み、そして勢い良く振りかぶるとそのままリヴァイ達の頭上を飛び越え、エレン達の居るシガンシナ区に向け思いっきり投げ飛ばしたのだ!!
 それは自分達からすれば超大型巨人の巨人化能力である周囲を灰燼と化す高熱の蒸気を利用した焼夷弾だ。何もかもを焼き尽くすつもりか…!ウミは青ざめエルヴィンも敵の作戦を理解して悔し気に顔を歪ませた。

「やられた……エレンらのいる重要地点へ、ベルトルトが急襲するッ!」
「大変……皆!! 早くライナーから離れないと……助けなきゃ!!!」
「いや……もう手遅れだ」
「そんな……」

 ウミが叫ぶ、今すぐ退避しなければ…全員あの高熱の蒸気に吹き飛ばされ、そして焼き尽くされてしまう!!

「ウミ、」

 しかし、リヴァイもエルヴィンもわかっている。だからこそ、今すぐ自分の部下やハンジ達を助けに行こうにも、もうベルトルトはシガンシナの空を飛んでいるあの樽の中。壁を挟んだ獣側にいたリヴァイも彼らはベルトルトが巨人化した際の爆発に巻き込まれて助からないと、悔し気にグリップを握り締める。
 もう間に合わない。それどころか、今駆け付けても超大型巨人の爆発の巻き添えになる。エレン奪還作戦のそもそもの始まり、もう少しで鎧を追い詰めたところで壁上から落下して高熱の爆発を巻き起こした衝撃でハンジ達に熱傷を負わせ、そしてミカサやアルミン達も巻き込み巨人化エレンはなすすべもなく戦闘不能にされ敗北してそのままライナー達に連れさらわれたのだ。
 あの爆発を耳にしても実際にどれだけの凄まじい破壊力だったかを知らないウミの小さな身体が巻き込まれればその肉体は原形を留めることなく望み通りこの地で燃え尽きて灰となりシガンシナの街に降り注ぐのだろう。
 エルヴィンの呼びかけにこれ以上の犠牲を生んではいけないと、その為にこの場に残した。体力温存もだが、全滅した際の保険として残されたウミは悔し気に拳を壁上に打ち付けた。理性を上回る怒りが全身を駆け抜け震える。しかし、今言っても無駄に命を散らすだけ。

「……このまま。戦えないままあの子たち全員が吹っ飛ぶのを…見てろって言うの……!!」

 公に心臓を捧げた兵士として、これまで生きてきた。いつ死んでもおかしくない日々の中でどんどん麻痺していった。いつ死んでもいい。
女としての幸せなど望まない。遺書を認め戦いに明け暮れた。それなのに。公に心臓を捧げた兵士でありながら、あの地下でリヴァイと出会い、彼を愛して、そして…叶わない思いの果てに実った恋。
 育てた愛の果て。彼の為に、生きたいと願ってしまった。彼と結ばれて、彼の帰りを待つような平穏な暮らしを…夢に描いたことがあった。しかし、この血に流れる本能は紛れもなく兵士である。
 自分は巨人の返り血を浴びながら愛馬に跨り平原を駆け抜ける兵士なのだと、戦いが激化すればするほどその戦いに身を投じながら命のやり取りをして、それでこそ。愛する彼と共に走り続ける方が自分の望む形だった。
 自分は兵士としてここに来た。いつか爆発する時限爆弾を脳に抱えているが、そんなもの障害でもなんでもない。
 自分はもう母の望むような平穏な生活には戻れない。人類の役に立たないままどうせこの先死ぬ身で翼を散らし逝くまだ若い仲間達が次々と死んでいく光景にこうして突っ立ってただ見ていろだなんて…無理だ。出来ない。

「楽園にいる両親に……胸を張って会いたい……。この戦況を見届けて歴史の語り部になるために私はここに来たんじゃない。私も戦わせてよ……エルヴィン。私の故郷をこんな姿に変えて、今も尚庭みたいに散歩して荒らして……許さない、全員引きずり出して……償わせるの」

 ウミは巨人の姿をした人間達へ憎悪を向けていた。そして、無理な願いでも、祈りだけは……どうか。
 少しでも彼らが逃げ切れることを望んだ。もしハンジ達や104期のあの子たち全員が爆発に巻き込まれて死んだとして、自分が巨人化したエレンから彼を引きずり出し、そして、他の生き残りと合わせて鎧と超大型を仕留める事になる。
 彼らの死を覚悟して、その屍で出来た道を進むのだ。生身の自分ではどうすることも出来ない、超大型巨人の前には誰も近づく事さえできないのだから。
 今自分にできる事。それは、彼らを奪われた憎しみを糧にこの刃で彼らの壊滅後の行動に備える事。それしか出来ない。



「雷槍を撃ち込め!! こうなったら体ごと、全部吹き飛ばすぞ!!」
「(さっきの叫び……まさかベルトルトを……!!)ダメです!! ライナーから離れて下さい!!」
「え!?」

 自体を察知したアルミンも上空からものすごい勢いで振ってくる樽を見て察してハンジに叫んで急ぎ退避を促す!早くここを離れなければ!!

「上です!! 上から超大型が降って来ます!! ここは丸ごと吹き飛びます!!」
「(どこだライナー!? 今行く!!)」

 獣の巨人の剛腕から繰り出されたひとつの樽が宙を飛びこっちに飛んでくる。獣の巨人の投石攻撃の勢いがダイレクトに樽に伝わり、その衝撃と重力に堪えながら樽の中で歯を食いしばってベルトルトは覚悟を決めていた。もう涙ひとつ流さないベルトルト。樽にいくつも空けられた覗き穴からシガンシナ区のどこかにいるライナーを必死の形相で探していた。

「クソッ!! 全員「鎧の巨人」から離れろ!! 「超大型巨人」が!! ここに落ちてくるぞ!!」

 気絶して動けない「鎧の巨人」に止めを刺そうとしていたハンジたちだったが、アルミンの声で上空を見上げれば猛スピードで降ってくる樽。その中で潜んでいるベルトルトに気付きガスを最大放出して退避するが、超大型巨人は自分達の上空の落下圏内にいる。立体機動装置の移動スピードでは範囲内から逃れる事は間に合わない。ベルトルトの急襲に気付き、急ぎ距離を取りながら叫ぶ。しかし、

「(まずい!! この距離じゃもう……!!!」 あの爆発は避けられない……!)」

 窮地に陥った鎧の叫びに呼応した超大型巨人。壁上からそのまま熱を放出し、多くの兵士たちを一瞬で戦闘不能に陥らせ、自分達からエレンを奪い去ったあの威力を覚えている、戦慄し、早くと急ぐが獣の巨人の剛速球の勢いは下がることなく自分達の居る真下へ接近している。誰よりも理解しているからこそ、聡明なアルミンはもう逃げきる事は不可能だと悟り、手招きする死への覚悟を決めた。

「(地面の距離……今だ……!! まずはここら一体を、吹き飛ばす!!)」

 この場所がいい。近づく地面に上空から爆発させ巨人化しようとしたベルトルトだったが、ふと、彼の樽の覗き穴から雷槍を喰らい最後の叫びをあげて力を使い果たし力なく項垂れたままの瀕死のライナーが視界に飛び込んで来たのだ。

「ライナー!?」

 変わり果てた仲間の姿にベルトルトは爆発に適した場所を探す中、ライナーの変わり果てた姿にショックを受けた。ここで巨人化すればライナー諸共吹き飛ぶところだった。彼の位置が自分の爆発させようとしていた範囲内である事を知り巨人化を止めた。

――「ライナアアアァ!!!!」

 そして天井部分で開閉できる樽の蓋を開け、そのままライナーの元へと立体機動装置で飛び降り、微動だにせずにいる鎧の巨人のうなじから剥き出しのままの彼の隣へと着地した。

「ライナー……! しっかりしてくれ……!」

 しかし、幾らベルトルトがライナーを呼びかけても、鎧の巨人の内部にいるライナーの反応はない。まるで意識が無いようで。

「……ライナー?」

 白い蒸気を吹き出し顔半分損失したまま動かないライナー。死んでしまったのかとベルトルトはライナーの厚い胸板に手を当て、彼の心臓の鼓動を確かめる。しかし、巨人加納両区を持つ人間はそう簡単には死なない。彼の左胸のかつて捧げていた鼓動からは確かに心臓の音が聞こえ、その生の振動は確かにその手に感じられた。

「生きてる……!! これは……そうか、全身の神経網に意識を移すことに成功したのか? ……そうだ。神経網を通じて巨人の脳を利用すれば記憶も失わずに済む……!!! でも、これは……最終手段だ。まさかここで本当にやるなんて……君がここまで追い詰められるなんてな……ライナー……一つ……頼みがある。もしできるなら、少しだけ体を動かしてくれ……できなかったら……すまない。覚悟を決めてくれ」

 動かないライナーの隣から覚悟を決め立ち上がるベルトルト。その表情には、もうかつての時のような、共に過ごし苦楽を共にした大切な同期達を殺さねばならない戦士と兵士の狭間で苦しみ嘆いていた彼の今までの迷いは無かった。

「僕はこの辺りを吹き飛ばす。もし……可能なら。この巨人の身体を仰向けに倒して耐えてくれ。今度こそ、この地獄みたいな世界を、終わらせてくる」

 ライナーやアニの身を案じてきた、最期まで非情になり切れずにアルミンの説得や仲間達の嘆きの静止の声に涙を流し、そして流されていた誰よりも本当は体格に恵まれ、そして強い能力を持っているのに。臆病で根の優しいベルトルトがとうとうかつての友と殺し合わなければならないこの地獄のような戦いに終止符を打つことを決めた。
 もし、自分が巨人化したことでかつての友や動けずにいるライナーを巻き込むことになったとしても……。強い決意を秘めたベルトルトがそう意識を失ったままのライナーへと呼び掛け立ち上がるのだった。
 超大型巨人の巨人化の爆発に巻き込まれてこのまま焼け死ぬ覚悟を決めていたハンジ達だったが、ベルトルトが突如巨人化を止めた事で難を逃れることが出来た、その事実に安堵し屋根の上で様子をうかがう。
 ハンジは安堵しながらも前向きに、決して希望は捨てずに作戦を練っていた。迫る超大型巨人との戦い。

「はぁ……ひとまずは助かった……! ベルトルトがライナーの状態に気付いて攻撃を中断した。何にせよ我々の作戦目標が目の前に飛び込んで来たんだ。好都合だと言っていいだろう……!」
「ハンジ分隊長!! 目標、前方より接近!! ベルトルトです!!」

 ベルトルトの接近をモブリットが知らせる中、ハンジはすぐさま頭を切り替え次の指示を出した。

「作戦は以下の通り! リヴァイ班はアルミン指揮の下、エレンを守れ、その他の者は全員で目標2体を仕留めろ!!」
「「はっ!!」」

 超大型巨人を迎え撃つべく、行動を開始したシガンシナ区側の主導者のハンジを追いかけるようにアルミンがハンジへ静止を呼び掛けると、ハンジは不思議そうな顔をしてガスを噴出するのを止めた。
 迫るベルトルトの元へと飛ぶアルミン。ベルトルトなら…あの時出来なかった話し合いができるかもしれない。しかし、彼らも本気で自分達を滅ぼし、そしてエレンを奪い去る事を目的とし、この短時間で地獄のような日々に終止符を打つためにベルトルトがどんな思いでその決意を固めていたか、知る筈もないまま。

「待ってください!!」
「アルミン……!?」
「これが最後の……、交渉のチャンスなんです!!」

 アルミンはベルトルトへ接近するハンジを追いかけ、前へ進み出ると深く息を吸い、そして普段の彼ら叱らぬ大きな声で、ベルトルトと離れた場所から叫んだ。

「ベルトルト!! そこで止まれ!!」
「(アルミン……そりゃ一体……何のマネだ?)」

 今更何を話すと言うのか。エレンは巨人化したうなじの中で幼なじみはこれから何をしようとしているのか…こんな時に。もうのんきに話し合う意味はない筈だと、言うのに。

To be continue…

2020.06.04
2021.03.16加筆修正
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