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「#年下攻め」のBL小説を読む
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「02」



 翌日、ユミルとヒストリアの愛の巣を出発した海は地下鉄に乗り再び街の中心に向かう。そう、今日から気持ちを切り替えてこの県にあるグループ会社の出向として働くのだ。
 初日が大事と海は誰よりも1時間も早く出社し、トイレに駆け込んだ。さすが都会の企業。古臭いルールも、朝から上司へのお茶出しも、机の雑巾がけも、ゴミ集めもいらないとのこと。しかも服装は制服がない。
 オフィスカジュアルなら何でもいいらしい。なので、早速購入したピシッとしたパンツスーツに口を半開きにリップクリームを塗り、ピンク色のグロスを付けて腰まである髪をくるくるとまとめあげギブソンタックにするとお世話になる部署へ向かった。
 エレベーターで上階に向かうといかにもな無機質なオフィスビルの内装。かなり清掃が行き届いているらしい。ドアに貼られたリヴァイ班という部屋に海は訝しげに眉をひそめながらもノックしてみると「開いてるから入ってこい」聞こえた男の声におどおどしながらもドアを開けた。

「お、おはようございます。自由の翼本店から出向で参りました・・・ああっ!?」
「早ぇな。始業開始まで1時間前だぞ」
「えっ!あっ!!あなたは!昨日の!ヤのつく人!」

 緊張の瞬間。頭を下げながらドアを開けその視界に飛び込んできたのはなんと。昨日の文無し女と罵りながらもクレジットカード限度額を超えて支払いができなかった海のピンチを救ってくれたあの目つきの悪い男だった。海は思わずびっくりしてドアを閉める。すると、ドアの向こうから不機嫌な声がした。

「おいてめぇ。誰がヤのつく人間だ、俺は堅気だ」
「ひぇっ!」
「だから言ったろ、いらねぇと。お前が来るのはとっくにお前んとこの課長から聞いてんだよ。それでなくてもクレジットカード限度額を超えて散財したまぬけが出向で来るなんて……てめぇは本当に優秀な人材なのか?」
「じゃあ……あの時、連絡先を教えてくれなかったのも……」
「そういう事だ。お前みたいな訛りの人間なんてここにいる訳ねぇだろうが」
「田舎で悪かったですねっ」

 腕を掴まれ部屋に入れられ、そんな小柄な体の何処に自分を腕だけで引っ張り椅子に座らせる奴がいるんだと内心思いながらちょこんと椅子に座らせられて。手渡された名刺を受け取った。

「主任のリヴァイ・アッカーマンだ」
「アッカーマン……」

 アッカーマン。まさかこんな離れたところでミカサと同じ苗字を聞くなんて。まさか親戚?それともただの偶然だろうか?どうやら主任らしい。海も慌てて名刺を渡そうとするとバックの中のポーチが転がり落ちてチャックが開いていたので、そのままグロスやマスカラやプレストパウダーがカーペットに散らばってしまったのだ。

「わっ、あらららっ!」
「お前はどこのおばちゃんだ」
「すみません……すみません……」

 一緒に拾いながらリヴァイはまたじろりとそれを睨みつけてきたので、その目付きに海はすっかり萎縮してしまった。ぶるぶる震えながら名刺を手渡す海。リヴァイは呆れたようにそれをひったくった。

「あ、あの……自由の翼の……」
「何回自己紹介すりゃお前は気が済むんだ。遠い所から遥々ご苦労だったな。」
「あの、昨日は色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。しかもヤのつく人扱いして……昨日のお代はお返ししますので」
「だからいらねぇって言ってるだろ。お前の身体で返せ」
「ええ!?セ、セクハラ、ですか……?」
「誰がセクハラだ。お前の身体なんていらん。お前自身の働きで貢献しろってことだ」
「なぁんだ」

 差し伸べられた手に手を伸ばして握り返す。見た目よりも大きな男らしい手に包まれ、そして触れた温もりがこんなに心地いいとは。海はリヴァイの鋭い三白眼を見つめていた。よく見ればまつ毛が長いし、怖いと思ったがなかなか綺麗な瞳をしていると思った。

「おい、いつまで手を握ってやがる」
「あ……ごめんなさい」
「明日からそんなに早く出勤しても金は出ないからな。仕事はきっかり、8時30分から。早く来るだけ無駄なだけだ」
「あ……はい、わかりました」
「お前、大丈夫かよ?まぁいい、とりあえず全員揃うまで社内を案内してやるからついてこい」

 この手を、離したくないと思ったのは何故か。分からないが自分自身の本能が、心から叫ぶようにそう願ったのだ。「この男性(ひと)を、離してはいけない。」と。何故かたまらなく切なくて、瞳の奥が熱く、鼻がつんとして泣く手前まで感情が溢れそうになる。
 じわじわと太陽が当たり、暑くなり始めた日差しの射し込むオフィスに高いビルの隙間から見上げた空が青く眩しく輝く季節。その中で出会った目つきの悪い厳しさの中に優しさが垣間見える、自分の上司になるという目の前の男。
 海はぼんやりと確信めいたことを思う。
 大きな出会いだと。しかし、それは胸を引き裂かれるようなほろ苦い恋の始まりだとも。

 
To be continue…

2018.07.31
2020.07.16.加筆修正


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