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「11」



 はじめから叶わない恋なら、出会わなければ良かったのに。出向なんかしなきゃ良かったのにと、過去の自分をただ、ひたすら責めるしかない。
 それでも、この胸を焦がす感情は燻るばかりであまりにも辛すぎる。
 誰にも満たされない思い、あなたに満たされて、この行き場のない思いはどこへ行けばいいのだろう。いろんな感情が混ざってただ泣き続ける海をヒストリアとユミルは放っておけるはずがなく、2人と共に海は泣きながら自宅に戻るなり、ベッドに潜り込み、それきり、出てこなくなってしまった。
 しかし、2人は帰ることなく貴重な三連休だと言うのに憔悴しきった海を見つめ、2人は海の口から何が起きたのかを話してくれるのを待つ事にしたのだった。
 そして、海が落としたままになっていたスマホの画面に現れたメッセージトークアプリの「levi」という明らかに男からのメッセージに互いに顔を見合わせるのだった。
 失礼しながらも画面に出てくるから見ないようにしても見えてしまう。そして、メッセージの内容は「昨日は邪魔したな、体調はどうだ?」との事。
 昨日の出来事、そして……2人は何となくしかし、確信は持てないまま。お互いに頷く。

「「この男と、何かあったんだな」」

 何もしたくない。もう、三連休明けの仕事どころではなかった。海は枕に顔を埋め化粧も落とさずにひたすら泣き続けた。時折インターバルを置くように涙は止まるが、それでも胸の心の傷が痛くてたまらなかった。
 楽しい夏のはじまりは絶望に包まれた。きっとこれは、罰なのだろうと壊れそうな思考の中で思った。ミカサに紹介された年下の男の子に好きだと告白されて、半ばお試しで付き合ってみた事がある。しかし、どうしても違うと、振ってはまた告白された人と付き合い、また違うと振っては、別れたくないと泣き崩れる女よりも繊維な男の哀愁。そして自分は誰も愛せないのではないかという不安を抱いて今まで生きてきて、そして、初めて自分から好きになった人には、彼女がいたという皮肉・・・。自分に振られて泣いた彼等も、こんな気持ちだったのだろうか。

 
***


 どれだけの時間が経ったのだろう。海は泣き疲れて眠ってしまっていたようで、目を覚ますと時計もない部屋、あたりは既に真っ暗で。頭が割れそうに痛く、今自分はとんでもない顔をしているに違いない。リビングに繋がる部屋のドアを開けるとヒストリアが両目いっぱいに涙を浮かべて海に抱きついた。

「海!本当に、よかった……」
「ユミル……ヒストリア・・・ごめんね、帰ってても良かったのに……」
「そんな! 帰れるわけないよ! いつも笑顔の海がこんなに泣いてるのに! もしかしたらベランダから飛び取りちゃったらって思ったらいてもたってもいられないよ!」

 よく見ればヒストリアも涙目で海を見つめている。ユミルも心配するヒストリアを見つめながら、優しく海を抱き締めてくれた。本当に優しい2人。海もその優しさに気付かず、1人何も言わず二人の時間を邪魔してふさぎ込んでずっと泣いていた事に罪悪感を覚えた。

「ゆっくりでいい。何があったのか話してみろ」
「うん。実は……」

 そして、海は今までの経緯を2人に掻い摘んで説明した。ヒストリアともつ鍋屋で2人で飲んだ日の夜から始まった奇妙な出来事。そして、出会って再会した上司のリヴァイ。2人で交わしたお酒、重ねたキス、そして・・・昨夜の出来事。彼と愛し合ったソファに腰掛け海はぽつりぽつりと話しながらやはり思い出してしまうのか、リヴァイの優しい声も鋭い眼差しも熱い温もりも、・・・思い出せば出すほど愛しくてたまらないのに、ペトラと見つめあって笑いあっていたことに胸を痛め、確かめることも出来ず、ただ、どうしようもなくて、嗚咽を漏らしてまた壊れそうな声で泣きだした。

「そうだったのか」
「でも……海は、ちゃんとそのメッセージをくれた人に、好きだって言ったんでしょ?それなら、じゃあ
「そういう問題じゃねぇんだよ。ヒストリア。しっかし、これだから男は……最低だな。海をいいように利用したんじゃねぇの?本命の彼女では飽き足らず、責任のないお手軽な関係って、1番身近で慕ってくれる海にターゲットでも絞ってよ」

 じゃあ、あの時、気を失う前のあれは……やっぱり幻聴だったのだ。そしてようやくリヴァイから届いたメッセージ。しかし、今更返事をする気にもならない。きっと、その隣にはペトラがいて、そして彼女の髪を当たり前のように撫でながら、その片手間に返事をしているだけなのだ。そう思えば思うほど頭から離れられなくて、自分に触れた手がペトラにも同じように、駄目だ。嫉妬に狂っておかしくなりそうだ。髪を振り乱して泣く海の頬に触れ、ユミルは真っ直ぐな目で海に告げる。

「とにかく、もうお前はそいつと金輪際仕事以外で関わらない方がいい。また利用されるだけだ」
「うん!そうだよ!海がこれ以上悲しむ姿なんて、見たくない!」
「どうせ、出向なんか上半期だけの約束だ、あと数カ月だろ?仕事にもそのふたりがいるのは厄介だがけど、分かるよな?」

 そう、リヴァイが好きなのはペトラで、付き合っているのもペトラ。どんな理由があれ、どんなふうに誘われたにしろ、リヴァイが選んだのは、優しくて可愛くてかしこくて、気配りができてしっかり者の仕事もできるペトラ。ずっと来た時から二人の関係を見ればいくらカンの鈍い自分でも分かっていたはずなのに・・・。

「うん、分かってる」

 そう、好きだったけれど、そう、諦めるしかない。この思いには、無理やり蓋をするしか無いのだ。見ないふりをして、残りの期間をやり過ごして、そしてさっさとここを離れればいい。そうすれば忘れられる、昨夜のことは特別な思い出として。まるで足元から全てが崩れ落ちるようだが、ショックが大きすぎて今はリヴァイを責める気にもなれなかった。
 ずるい人だと分かっている、実りはしない恋だと分かっているのに、このままの状態で諦められるのか、無理やり思いを断ち切る事は引き裂かれるよりもつらかった。今の自分には分からなかった。身体の関係を結んでしまったから尚更海はリヴァイの事が好きで、たまらなくなってしまって、彼に夢中になっていた時に一気に幸福から絶望に叩き落とされて。
 何回も2人に心配されたが、大丈夫だと告げ、2人が帰ってからも海は1人、ぼんやりそんなことをキャンドルだけをつけた暗い部屋の中で考えていた。
 スマホを眺めながら、海は知恵袋にこの行き場のない感情の答えを求めた。そして、既読スルーになったままのリヴァイに返事を返すべきか、否か、考え込む。しかし急に鳴り響いた電話に全ての思考を奪われた。ユミルかヒストリアが心配して電話をくれたのかと思って画面も見ずに、電話に出ると。

「海、」
「……リ、ヴァイ……さん」

 こんな時に。どうして連絡を寄越してくるのだろう。ペトラがあなたにはいるじゃないか!喉まで言いかけた言葉に詰まる。

「この前の夜は、勝手に帰って悪かった。鍵は閉めたんだが、大丈夫か?」
「……はい、……大丈夫です、」
「声も枯れてるな、無理をさせて悪かった」

 ユミルと約束をした。この関係は許されざる関係だ。しかし、自分の中の天使と悪魔が囁く。そして、

「会いたい……」
「何だ?よく聞こえない」
「っ……会いたい……」
「……待ってろ」

 分かっているのに、やるせなくさせる。分かってるのに会いたくて。たまらなくて・・・貴方が好きだと心を痛めながらも血を流しながらも彼を求めてしまう。

「海、俺だ」

 しばらくして、どれだけの時間が流れたのだろう。インターフォンの音が響き、覗き穴を見る前に聞こえたリヴァイの声に海は待ちきれなくて閉ざした心のドアを開けてあんなにも約束をしたのに、操られるように彼を招き入れてしまった。見つめ合うなり、リヴァイは海を強く腕の中に閉じ込めた。

「馬鹿野郎が。くだばっちまいそうな声、出してんじゃねぇよ・・・何事かと思ったじゃねぇか」
「っ……うっ」
「泣くな」

 抱きしめ合いながらリヴァイは海の小さな頭を撫でながら2人は玄関でいつまでも抱き合っていた。

「(ごめんなさい、ユミル、ヒストリア……約束したのに……わ、たし……この人を、どうしても失いたくない……諦められない……!)」

 必死に諦めようと言い聞かせる。この人を失いたくないと心が叫び悲痛に。声なき声で、心は泣き続ける海。彼には付き合っている恋人がちゃんといるのに、自分は、彼にとってただの浮ついた火遊びの相手。しかし、それでも浮気相手に対してここまでしてくれるだろうか?
 最低なことをしているのは分かっている。それでも。もう、重度の中毒患者のようにズルズルと、引かれ合う磁石のように抱き締められた腕の中から、鋭い眼差しから、逃れることは出来なかった。

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To be continue…

2018.08.09
2020.07.20


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