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「09」



 突然の雨が恵みを齎すのか。海はずぶ濡れで会社に戻ろうとしたリヴァイをそのままにはしておけなくて、つい声をかけて、そして一人暮らしの家に招いてしまった。この先どうなるか分からない。
 神様も出会いまでは導くがそこから先は自分で道を切り開くもの。海はびしょ濡れのワンピースの裾を握りしめて。同じくずぶ濡れのリヴァイを見つめた。濡れたシャツがしっとり肌に張り付き、普段隠されたリヴァイの筋肉を纏い隆々とした肉体を浮かび上がらせる。街灯に照らされてあまりの生々しさに直視出来ず、目を背けるように玄関のドアに手を伸ばした。

「主任、どうぞ上がってください!」

 リヴァイの潔癖症はここでも惜しみなく発揮されるようだ。出来れば清潔かどうかも分かりかねる他人の家にはあまり上がりたくないのだが、さりげなく気遣いスリッパを用意した海の好意を無下にはできない。アパートの2階の南の角部屋。パチリと電気がつけばシンプルでリヴァイには負け劣るが少なからず掃除の行き届いる女の子の一人暮らしの部屋がお披露目になる。そして、やはり、海の香水の香りがした。

「ここ、出向先で用意してもらったお部屋なんですけど無駄な家具がなくてごちゃごちゃしていないのでお掃除も楽なんですよ。あ。タオルです」
「悪いな」
「お風呂のお湯もすぐ汲み終わるのでもう入れま……ぶえっ、ぶえっくしょいっ!!」
「うるせぇな。お前どこの親父だよ」

 頭から先までずぶ濡れのまま。海も雨で冷えたのか長い髪を揺らしてくしゃみをしてしまった。先に風呂に入れと促されたが、どっちが先に入るかなんてわかりきったこと。

「海、先に入れ」
「そんな! いけません! ずぶ濡れの上司を差し置いてお風呂なんて入れませんよっ!」
「つべこべ言うな」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ海を、リヴァイは有無を言わさず浴室に押し込んだ。貰ったタオルを頭から被り濡れた髪をグシャグシャと拭く。

「ったく、透けてんだよ、下着が」

 とりあえず座ることも出来ないのでリヴァイは海の部屋が嫌でも視界に飛び込んでくることとなる。リビングに飾られた写真を眺めていると、ビルみたいに高く厳つい体格の男に抱かれた子供の頃の愛らしい海が笑っている。今と全く変わらない海の顔に思わず吹き出した。これが唯一の肉親の父親だろうか。あとは、金髪の小柄の可愛らしい少女との写真や、背の高い黒髪の美女と抱き合い仲睦まじく映っている。しかし、当たり前だが男との写真は1枚もなく、そして慌ててベランダから取り込んだ洗濯物がぶん投げられており、仕方なく拾い上げてカーテンレールにかけてやると、海の可愛らしい下着がぶら下がった物干しハンガーにリヴァイは思わず目を背けた。ガキじゃあるまいし下着だけなのに何動揺しているのか。風呂を借りたらとっとと出ていこうと風呂から出てきたルームウェア姿の海の声に入れ違いで風呂に入る。

「お着替えご用意しますので。」
「女物着ろってか、出張の替えの服があるから問題ない」

 濡れた身体に張り付くシャツを気持ち悪いと思いながら脱ぎ捨てて、用意してもらったビニール袋にそれを入れる。これはクリーニングに出さないとな、と思いながら。リヴァイは浴槽に身を沈める。海が入ったあとの浴室は海が使っているいい香りのするシャンプーやボディーソープばかりで。嫌でも海の存在を残した。

「あっ、お風呂お湯加減大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ない。悪かったな。」
「いいんですよ。」

 そうして、海が用意したのはリヴァイも海も好きな紅茶専門店の有名な紅茶。しかも限定の茶葉となればリヴァイの瞳が微かに輝いた気がした。受け取りカップの持ち手には触れずに片手で飲み干し鼻腔に広がる茶葉の香りと味を確かめた。二人きりの空間の中、静かに紅茶を飲む2人は先程まで染み込んだアルコールも有り、かわいた喉を潤した。

「悪かったな。そろそろ行くか。」
「はい、あっ、いたたた! あ、足がぁっ」

 リヴァイの手前、お行儀良く正座していた海、急に立ち上がるもんだから足が痺れてしまったのかバランスを崩してリヴァイに倒れ込んでしまった。しかし、倒れ込んできた海を難なく受け止めたリヴァイは静かに
 抱き留め、言葉なく見つめ合う。

「リヴァイさん、」
「何だ」

 今なら、言ってもいいだろうか。言えるだろうか。海はもう目の前の彼を主任としてではなく、1人の男性として、見つめていた。頬に触れ、刈り上げのところを撫でながらやがて、サラサラに整えられた黒髪に触れ、強い意志を宿した鋭い目が海を金縛りにさせるも、必死に絞り出す声は確かに凛と、彼の耳に届いた。

「私は、リヴァイさんのことが、好き、……です」

 普通、思いを告げる時は何があっても女から言ってはいけない、男から言わせた方がいいと、好きだと先に言わせた者が勝ちだと。それは分かる、それでも自分の口から伝えたくてたまらなかった。
 しかし、見つめるリヴァイの瞳は変わらず、感情を表にあまり出さない男の表情は読めない。大人の余裕たっぷりな彼は海を拒否もせず、しかし、何も言わずに恋に落ちてしまった海を受け止めていた。

「お前がここに俺を招いた時から、分かりきっていた事だ」
「……え……」
「……海……もう喋るな」

 そう告げたが最後。リヴァイは静かに海をソファベッドへ押し倒した。いつも一人暮らしの夢の中に落ちるまでぼんやりと見上げていた天井。しかし、その視線の先に見えるのは天井ではなく、待ち焦がれた愛しい彼の姿。

「リヴァイ、さん?」

 これは肯定として受け止めていいの?
 曖昧なまま一線をこのまま超えてしまってもいいの?立ち止まり戸惑う海に、痺れを切らし行動に出たのは、先手を打ったのはリヴァイだった。

「っ!? ンンっ、……んっ、」
「もう、何も考えるな」

 外は未だに降り止まない雨の音がする。静かに重なる口唇に海は久しぶりのキスを受け止めるだけで精一杯だと言うのに、冷静な大人の男の影は形を潜め、激しく舌を絡み取られ酸素さえ奪うような息をもつかせぬ激しいキスは海の悩みやとまどい、すべて奪い去る。
 雷雨が響く空。2人の思いは交差することなくそのままなだれ込むように抱き合った。流されるがまま、海は静かに瞳を閉じて彼を受け入れることを許した。

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To be continue…

2018.08.05
2020.07.19加筆修正




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