血すら吸えぬまま干からびるこの身体、 俺が俺じゃなければどれほど良かったか、狡賢で、醜い非力な人間のお前には一生分かりやしねぇ、だろうな… 回り出す、歯車 狂い出す、歯車 そして互い時間を共有すればするほど離れ難くなると知りながら求めてしまった。 若く瑞々しい少女の無垢なる血に餓える日々を繰り返した果てに。 終演の戯曲、 その果てに罪の恋に落ちた相容れぬ種族に生まれてしまった2人を結末が訪れようとしている。 「っ…!」 「…!」 その声に弾かれた様に離れた2人の先に扉を突き破ったのは鋭い槍と… 「ヴォックス…!!」 餓えが一瞬で遠退きウミを引き離すとアルベルはクリムゾンヘイトに手を掛け扉を睨みつける。 「ラルヴ…お義父さんっ!!」 扉をぶち破るには十分だ。 ヴォックスの不気味な声が響いた瞬間、なだれ込む様に倒れ込んできたのは…ウミが小さな悲鳴を上げ慌てて駆け寄った先には傷だらけの2人。そしてその首筋にはふたつの双牙が丁度当てはまる咬み痕だった。 「ラルヴ…しっかりして!」 「う…お嬢様…早く、あの男が…がはっ!!」 「いやああっ……お義父さん…ラルヴ!」 嫌な予感が胸を過ぎる… 義父は既に事切れていた。 失血死により人間の体内を湿る大量の命の水を失い、ラルヴも弱々しく左胸を押さえ苦しみに悶えている。 「ウミ…」 「っ…どうして…誰が…こんな酷い事っ!!」 事切れた義父とラルヴの死のショックは到底計りきれる物なんかじゃない…悲しみに涙を浮かべるウミをアルベルは隠す様に抱き締めた。 怒りに顔を歪ませそして姿を見せたヴォックスを勢いよく鋭い緋色の双眼で射抜いた瞬間、その放たれた覇気に部屋に亀裂が駆け巡った。 アルベルは全てを悟った。 自分が、彼女を不幸にしてしまった……彼女と許されぬ恋に落ちたことで彼女を不幸にしてしまったと。 しかし、後悔先に立たず。 「ヴォックス公…やっぱり貴方がお義父さんたちを!!!」 「いつまでも私にお前を差し出さないからつい、な。」 「っ…なら…どうして最初から私自身を狙えば…!」 「それではつまらんだろう、」 「…っ…!!よくも…よくもっ!」 「ウミ…!」 やはりこの男が…弱い者を容赦なくいたぶりつくす吸血鬼を逆に喰らい蘇ったこの男にこみ上げる怒り…アルベルの制止をすり抜けヴォックスに掴み掛かろうと駆けよる。 「最初から…私が狙いだったのなら…どうして…!!」 「フン、簡単だ、周りから攻めれば人間とは簡単にボロが出る」 「…よくもっ!私が狙いなら私を最初から狙えばよかったのに…!!」 「それではつまらんだろう、私は人間のその悲しみと絶望に染まりきった血が何よりも好きなのだよ…クククッ、」 「っ…そんな…それだけのために!」 自分1人をウミがそう叫んだ瞬間、ヴォックスは手にしていたラルヴが護身用に持っていた銃で思い切りを引き金を引き彼女に発砲したのだ! 「その血を頂こうか…!」 …ドウンッ!!! 「っ……ヴォックス……!!」 非力な人間を平気で毒牙に駆ける男を…アルベルは睨み飛ばすままに彼女の腕を思い切り引きつけ… 「!」 ―ドウンッ!ドゥンッ!! 「ぐっ…がはぁあっ!!」 「いやあああー!!!」 ウミを庇った彼の身体を銀弾が容赦なく貫いたのだ! prev |next [読んだよ!|back to top] |