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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「ある冬の日の歌」

「海!」

くるりと振り向いた海にリアラが思わず飛びついた。
「似合う、似合う!
すごく綺麗だよ!!」

まるで今から結婚式のような会話のやりとりに後ろでニンマリと笑う天才が1人。

「だって私の選んだドレスだもの!ぐふふっ!やっぱり海は何でも似合うわね〜」
「で、でも
背中、スースーするよ…」

緩く巻かれてアップにまとめ上げた髪。
前はタートルネックで露出は抑えめになっているが、後ろは大胆に背中がむき出しになっている真っ黒なドレスが海の普段見ることはない何ともいえない色気を醸し出していた。


「よし、じゃあ行きますか!」

各々選んだドレスに身を包み、ダンスホールに向かう。
海は鏡で軽く最終確認をすると満面の笑みで笑った。


彼の普段は、決して言わない褒め言葉を心待ちにして。

「……」

ドアを開けたその先に鏡で何度も自分の姿を確認する海を見つけたジューダス。
既に仲間たちにリオン・マグナスだと正体も明かしたということで、仮面を外し、スーツに身を包んだ姿をしていたが、彼にとっては自分の姿より海の姿、背中に視線が集まる。

綺麗な背中にこみ上げる理性を抑えるため、ジューダスは努めて冷静に海を呼んだ。

「あ、ジューダス。」

振り返ったその姿は大人びているのに、変わらない笑顔を浮かべて、慣れないドレスに戸惑いながらこっちに向かってくる海。

しかし、ジューダスはやけに頬が熱く感じ、逃げ出すようにダンスホールへ向かっていってしまった。

「………?」

訳が分からないまま取り残された海。

「海?
わー!やっぱり海だ!」

振り向くとかつての父親に似たまぶしい笑顔。

「カイル!ロニ!」
「すごい、海、どこかのお姫様みたい!
あ、言い忘れてた!
メリークリスマス!海!」
「うん、メリークリスマス!」

そう、今日はクリスマス。
せっかくだからジューダスと楽しみたいと淡い期待を抱く海。
クリスマスの夜は静かに更けてゆく…。
カイルとリアラは仲良くベランダで雪を見ている。
仲間が皆、旅を忘れて過ごす中、大きなシャンパンタワーで飲み耽る1人と1本。

『美味いか?ハロルド博士?』
「…もう、クライス!次、博士って言ったら解体(バラ)するわよ!」
『うぇぇーそれは、勘弁してくれ!ハロ…ルド!』
「よろしい。」

まだまだぎこちない2人だが、クリスマスだからか、なかなか幸せで穏やかな時を過ごしていた。

「…う〜んいい香り。
…あら?」

ガタン、と乱雑な音を立てて向かいのイスに腰掛けたのは

『よぉ、ムッツリストーカー仮面小僧の坊ちゃん。』

クライスのバカにしたような毒舌に内心苛立ちながらも、ジューダスは盛大なため息をついて落胆した。

「…どうしたのよ。
らしくないわね〜あ、一杯飲む?」

未成年に酒を勧める見た目は子供だが、大人のハロルド。
軽くため息をつくと、シャンパンタワーから一杯グラスをとった。

「メリークリスマス」
「…メリークリスマス。」
『おい、おい、なんだか元気ねぇな〜…海はどうした海は?』
「……」

本当は海と酌み交わしたかった乾杯とメリークリスマス。
しかし…

「海があまりにも綺麗すぎるから近づけないんでしょー?」

さすが、ハロルド。
図星だと言わんばかりにグラスのシャンパンを飲み干すと、クライスを掴んだ。

「お、おい!俺に八つ当たりかよ、ジューダス!」

紫の水晶に映るのは同じく紫の瞳。

「違う…頼む、海をこっちに呼んでくれないか?」

周りから見たらクライスはただの剣。しかし、ジューダス、ハロルド、海に聞こえる声は果たして海に届くのか…

『仕方ねぇな…
おい、海ー!海〜!』

しかし、クライスの声は軽快な音楽と、ざわめきでかき消されてしまった。

「……ハァ」
「ああ、イライラする!
あんたらしくない!
男ならビシッと行ってきなさいよ!せっかくのクリスマスなのに、誰かにお持ち帰りされてもいいわけ?」

その一言に更に煽るようにクライスも囁いた。

『…俺がお持ち帰りしてもいいんだぞ?なぁ、エミリオ坊ちゃま?』

その一言がジューダスを立ち上がらせた様だ。

「クライス…
また坊ちゃんと言ったら、お前を海に沈めて破壊してやるからな。」
『…出来もしねぇことを』

普段は冷静沈着なジューダスが海の事になるとこんなにも臆病になる。
見慣れない海に緊張のあまり震える手に¨我ながら重傷だな¨と軽くその手を額に当て瞳を閉じた。

「海!」
「あ、ロニ…ナナリーは?」
「海、なんで聖なる夜にあんな奴の側にいなくちゃいけないんだよ!クリスマスだぞ?恋人達の三大イベントだぞ!
俺を求める女性方がたくさんいるはずだ!」
「あはは、つまりナンパしてたわけ。」
「う…
そう言やジューダスは?
迷わず海のところにいるのかと思ったんだ…」

無言で海が指した指の先にはハロルドと乾杯をするジューダスの姿。

「おいおい…海、」
「…別に、パーティだからと言って恋人と過ごす法律もないよ。それよりも、ナナリーがナンパされて困ってるよ。」
「何!?
ったく、目を離せばすぐにあの女は…」

なんだかんだで結局ナナリーの元に行ったロニに海は軽く笑うと、テーブルに並んだワインに手を伸ばした。
まるで、ハロルドとシャンパンを飲み交わすジューダスへの当てつけのように…
一杯、また一杯と
積み重なるワイングラス。

1人、顔を真っ赤に火照らせてグビグビと飲みながら意識はだんだん遠のいていく…

「……う〜水飲もう」

ふらふらと頼りない足取りで立ち上がった海の目の前には体格のいい男。

「きゃ…っ!」
「危ない!!!」

ぶつかった反動で海が倒れたその先には運悪く誰かが割ったのであろう、ワイングラスが放置されており、その上に背中から倒れてしまった。

「…っ………」

しかし、背中から肩に掛けての痛みはない。
それはそうだ。

「…!!
エミリオ!?」
「くっ…」

そう、倒れた海を自らの身を犠牲に投げ出したのだ。

「ジューダス…やだ、どうしよう…私…」

痛々しげに刺さった破片。
慌てて彼の肩に手を伸ばすが、海も海で軽く酔っているのか、足取りはふらふらと頼りない。

「つっ…平気だ。」
「で…でも…」

厚手のスーツのおかげで大事には至らなかったが、海の頬に触れる手は赤に染まっていた。

「僕は大丈夫だからお前は休め。
千鳥足になる程まで酔っぱらうなんて……おい、海!!」
「う〜ん…」
「海、しっかりしろ!
今ー…くっ!」

床にくたりと倒れて動かなくなってしまった海。
慌てて抱き起こそうとするが、ガラスが刺さった腕に痛みが電気の様に走った。

「……とりあえずあんたを治療しないとね。」
「ハロルド…」
『海が酔っぱらってるからって襲うなよ?性(青)少年!』
「クライス。」

現れたハロルドとクライスの手配で酔いつぶれた海はすやすや熟睡中。
一方の、ジューダスはハロルドの晶術により、すっかり癒えた腕を捻りながらスーツに袖を通した。

「う…ん…」
「……全く、僕の怪我よりお前の身体が心配なんだからもう無理はしないでくれ。」

そう言いながら顔を真っ赤に火照らせ、すやすやと眠る海の頭を優しく撫でてやる。

しんしんと降り積もる雪。
部屋にはジューダスと海の2人きりで、邪魔は誰もいない。

「う〜ん
ジューダス…」

そう言いながら無意識のうちにジューダスの手を振り払うと彼と同じサイズくらいの抱き枕に顔を埋めてすり寄る。

「…それは僕じゃない。枕だ!おい!海!いい加減に…」

ふと、重なる唇。
交わした海の唇はワインのせいで焼けるように熱かった。

「…珍しいな、
どうした?お前からなんて」

そう言いながら、海の額に手を当て、するりと頬をなぞり、もう片方の手で海の腰から背中をなぞる。

「ん…熱いの…
ねぇ、ジューダス…私どうしちゃったの?」

上目遣いで見つめる、潤んだ瞳。
その目にもはや理性の欠片もなくて…

「そうか…なら、治してやろう」

同じくシャンパンを飲み、軽く酔いが回ってきた身体
むき出しの本能ままにジューダスは海の身体にそっと手を伸ばした。

2人のクリスマスはまだ始まったばかり。

あれから海が気を失って眠りにつく頃にはジューダスも精根尽きてしまっていた。
そのまま迎えた朝、ゆっくりと瞼を開くと海の目の前には…

「!!
エ、エミリオ!?」
「…ん……」

寝顔はまるであどけない少女の様だが、剥き出しの肩に抱きしめられた身体はゴツゴツと骨ばみ、やっぱり男なんだと認識せざるを得ない。

「………」

布団で身体を隠すように身体を起こし、周囲を見渡す。
脱ぎ散らかした服、互いに生まれたままの姿に海は昨夜、どう言った理由でその行為に至ったのかも分からず、飲み過ぎで痛む頭をさすりながら
すやすやと綺麗な寝顔を浮かべて眠るジューダスの寝顔をまじまじと見つめた。

「僕の顔に何かついているのか」

寝たフリをしていたのかはたまた気配に敏感なのか、ジューダスがゆっくりと瞳を開く。
慌てて飛び退くと大きな瞳から覗く長い睫毛に縁取られた紫色の瞳が海を見つめた。

「おはよう…」
「…ああ。」

そう言って起きあがったジューダスも、もちろん裸な訳で…
海は直視できずに視線を逸らした。

「ね、ねぇ…ジューダス
ひとつ聞きたいんだけど…私達って昨日…」
「…見れば分かるだろう?」

彼の指し示す先は後ろの鏡
そこに映る自分の背中は彼が散らした赤い花弁でいっぱいになっており、何よりも…

「つっ、腰痛い…」

ズキズキと痛む腰をさすりながらベッドにうずくまってしまった海と対照的に普段と変わらないジューダスは意地悪く笑むと、一緒に布団に入り込んできた。

「そうか…
昨夜はあんなに求め合ったのに忘れられたんじゃ悲しいな。
安心しろ、どうせ動けないなら…昨夜のことを思い出させてやるからな。」
「何それ…あの…エミリオ?」

そう言いながらジューダスは海の胸に顔を埋める。

「ちょっと…や、待って!」
「悪いが…それは無理な話だな。」
「!…や、やめて…!」

2人のクリスマスはいつまでも終わらない。

fin.

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