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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「君がいるからV」

都心から離れた海と山が美しい小さな都会、空を見上げれば包み込む優しい淡いケヤキに灯るイルミネーション。
降り積もる雪の様に愛しさが募る其処はまるで白銀世界。
しかし、それはあちらでの話。現実は現実、仕事に追われる毎日。
そしてもちろん木曜日のイヴに特別仕事が休みになるわけがない。

「あぁ…すっかり遅くなってしまったな。」

家ではきっと最愛の恋人がごちそうを作って待っている。
まだ新婚夫婦と呼ばれる中で初めてのクリスマス・イヴからクリスマスにかけて期待に膨らむ胸、こみ上げる笑顔。

陽気なクリスマスソングが流れる街並みを早足で駆けて行くスーツ姿のそれは中性的な美貌と色香を惜しげもなく醸す男に独り身の女だけではない、彼氏とクリスマスデートの真っ最中の着飾った女達も誰もがすれ違い様に彼、海と奇跡とも呼べる再会を果たした穏やかに満ち足りた幸せな雰囲気を放つエミリオに見蕩れている。

当の本人はその熱い眼差しに気付いている訳は無いが…
浮き足立つ中、左手の薬指に填めた揃いで買ったCartierのラブリングを煌めかせ雪の降りしきる帰路を急ぐ。

此の指輪が繋ぐ先の恋い焦がれた少女の元へ。
君と過ごす、大切な今日の日を共に分かち合うために。


「…エミリオ…遅いなぁ…」

一方で揃いの指輪を繋いだ先に海はエプロン姿で何時まで経っても帰ってこない最愛の彼を待ち焦がれていた。
がんばって作った七面鳥や石焼き釜のピザに父親直伝の手作りのブッシュ・ド・ノエル。
どれもこれも大好きな彼に喜んで欲しくて一生懸命昨夜から下準備をし作ったもの。

左手に光るゴールドのラブリング、エミリオと再会し結婚した先、2人で交わした愛の証。

なのに、最愛の彼は…
既に時刻は深夜を回っている。まだ帰ってこないのか、クリスマス・イヴを2人で過ごせないことよりもこんな時間まで寒い中働く彼の身を案じていた。

「まだかな…エミリオ…」

テーブルに肘を置き頬杖をつきだんだん外とは対照的に暖かい室内で微睡み始めた意識を揺さぶりふるふると頭を振り眠たそうな大きくてまん丸の愛らしい瞳を擦ると待ち焦がれた靴が踵を鳴らす音がドアに近づき慌てて鍵を開けて彼を迎え入れた。

「ただいま、」
「っ……!」
「すまない、遅くなってしまったな。」
「お帰りなさい…っ…!」
「1人で待たせてすまなかった…」
「うぅん、いいの。エミリオが帰ってきてくれるだけで嬉しい…寒かったでしょ、早くご飯食べよう、ね?」

最愛の彼が帰ってきた、普段のクールでニヒルな姿とは打って変わり息を切らし寒気に頬や鼻を赤くしたエミリオの姿は彼が急いで戻ってきてくれた何よりの証拠で…

海は彼が戻ってきてくれた喜びに嬉しそうにふわりと可愛らしい笑みを乗せてエミリオに抱きついた。


単なる抱擁とは違う、口で思いを上手く伝えあえない2人にとって大事なコミュニケーションだ。
そっと彼の冷たい口唇が頬を掠めて2人は見つめ合いまたキスをした。
交わした言葉は時に意味すら成さなくなる、数え切れない"愛してる"もいつか2人に当たり前のやりとりになるなんて我慢ならなくて…。
いつも一緒が当たり前なんて有り得ない、隣で寄り添ってくれる人は偶然なんかじゃない、出会うべくして出会った大切な存在だから。

「bk_name_1はいつも温かいな…」
「っ…苦しい」
「ごめん…少し力が強かったな」

ぎゅうと温もりを欲し満たす様に抱き締められて苦しそうな吐息を漏らしながら指先が漆黒の濡れた様に輝くキューティクルを掠めた。

「ふふっ、エミリオ…頭に雪積もってるよ。」
「あぁ、すまない…」
「…うぅん、はぁい、屈んで。」
「…」

ふと気が付くと彼の頭に柔らかなシャーベット状の白い雪がふわりと乗っかっていたのだ。
上背のある彼が頭を垂れ優しく払うとその手を取りエミリオは幸せそうに潤んだ紫紺の瞳で海をうっとりとした眼差しで見つめた。

「あぁ、しかし今晩は本当に寒いな…」
「そうだね、うぅん…先にお風呂に入りたい?」
「そうだな、海も一緒だろ?」

機転を利かせてそう問えば穏やかさと少し意地悪な両面を兼ね備えたそれはまさしく甘い美形の部類に入るスマートだが均等のとれた上背のある体躯の男に優しく囁かれては海もどうすればいいのか困った様に真っ赤な顔で俯いてしまう。

選択肢なんて初めから無い、
海は彼と出会い彼にだけに全てを捧げてきたのだ。

「なぁ、海…」
「っ…今日だけ、だからね…?」
「あぁ、久々に背中を流してくれるだけで良い」

初めから決まっていたかの様に、海はエミリオに見つめられ魔法…催眠術に掛けられ彼の後に続いてすっかり冷えきった身体を暖めるべく風呂に向かった。

その後もなかなか風呂から出ようとしない上機嫌な彼がなかなか離してくれずよりすっかり逆上せてしまったのは言うまでもない。

「ねぇエミリオ、」
「今年も見たいな、お前のサンタ姿。」
「っ…もう無理よ…恥ずかしいし…私…」
「ふふっ、いや…無理強いはしないさ、」

甘いマスクで離したくないと低く囁かれれば誰だって彼の求めに応じたいと切に願うだろう。海も同じ、彼の腕にあっさり収まる小さな身体を抱き寄せしっとりと濡れたエミリオの髪は光に透ければ紫紺にたなびいた。

「ちょっと、だけだよ?」
「あぁ、」
「もぅ…エミリオはずるいよ」
「僕が?」
「…だって…っ…いつも、いつも、ね…普段はいつだってクールですましてるのにたまに甘え上手なんだもん。調子狂っちゃう」
「フン、僕だってたまには甘えるさ。お前限定だがな、」

低いテノールに囁かれとどめに緩やかな髪に隠れた耳朶をかぷりと甘く咬まれ疼く身体、そのまま抱き抱えられたまま浴槽の隅に追いやられエミリオが静かに長い睫毛を伏せたのを合図に海も顔を上げてそのキスに応じた。

聖夜は静かに更けて行く。
賛美歌やキャンドルやサンタは居なくとも、一度離れまたこうして巡り会えた奇跡は二度と無いー…出会うべくしてまた巡り会った確かな事実なのだから。大切にしたい、共に命が2人を分かつ時も。

海は愛しい存在が自分の肩に顔を埋めて居る事に頬を染めながらもサラサラに流れる彼の髪の心地よさに自ら頭を抱いて堪能し口唇を啄む様に交わした。

もう離れない、
淡い誓いを交わして2人はこれからも歩いて行くと誓うから。

「おいしい、」
「ほ、本当…っ!?」

2人で飾り付けた大きなクリスマスツリーがきらきらと輝き暖かい部屋でキャンドルに火を灯し2人は乾杯をした。

「あぁ、また腕を上げたな。」
「うん…っ、ありがとう、
いっぱいあるからどんどん食べてね。」

海の手料理はどれも美味しくてまた腕を上げたんだなとエミリオは笑みを浮かべて海の小さな頭を撫でてあげれば海も可愛らしい笑みを浮かべ照れたようにはにかむ。

口の中で弾ける金色の泡、口当たりの良い飲み心地にすっかりほろ酔い気分でシャンパンコールをし始めた海を落ち着かせながらエミリオもシャンパンを飲んだ。

ふと、

「海…」
「…っ…」

ふとエミリオがシャンパンを口にした瞬間だった。

確かに唇にシャンパンの弾けた液体とはまた違う冷たい金属の様な感触がしたのだ。
慌てて唇に触れたそれを確かめようとグラスをテーブルに置くと、正面には髪をふわりとかきあげ左の耳朶で輝く小さなアメジスト石を填め込んだ海のピアスが視界に飛び込んできたのだ。

「これは…」

そしてエミリオのグラスの中には…
一昨年は海が、昨年は自分が仕掛けたサプライズ。
そして、今年は…。

エミリオはいつ仕組まれたのか、シャンパングラスの中に泳ぐアクアマリンの石を填め込んだピアスの輝きに思わず時間を忘れた。

「それならエミリオが仕事中でも大丈夫かな、って。」

わざわざお揃いでピアスを片方ずつ分け合える最高のクリスマスプレゼントにエミリオは紫紺の切れ長な瞳を細めてとても優しくて愛おしい微笑みを見せた。

「海…ありがとう。
高かったじゃないか…わざわざ買ってきたのか…?」
「うんっ、でも値段とか気にしないで。
私が…エミリオと離れていてもいつも近くに感じていられるようにお揃いで選んだんだから、ね?」
「海…」

募る想い、ただわき上がる愛しさの儘にテーブル越しの海の頬に触れ海も幸せそうに瞳を細めて…彼の腕に身を委ね、2人はどちらからともなく見つめ合った。

「愛している、…最高のクリスマスだ…」
「エミリオ…」

普段、お互い思いを上手く伝えられず顔を見れば喧嘩ばかり、そんなもどかしくてシャイな2人だから、表面で上手く伝えあえなくても、シャンパンの酔いが回ってきたのか海は素直に彼にすりより背中が大胆に開いたサンタクロースの服装ではないが、そっと彼の薄く乾いた唇にキスを落とした。

「私もエミリオと一緒に居たい…」
「あぁ、いつも有り難う…お前には本当に感謝している。
長い間待たせたな、
だが、これからはずっと一緒だ。」

そして結婚指輪の裏に刻まれた約束を刻んだ文字がキャンドルに煌めいて、約束は果たされた。
長い時を越えて巡り会えた喜びは何にも変えられない奇跡としか呼べない。
きっとこの先もどんな困難も乗り越えていける…

不意に意識を浮上させる。
自分を後ろからしっかり抱いてすやすやと眠る彼の手首に光る去年お揃いで買った腕時計で時間を確かめると時刻はあれから半日経過していたことに気付いた。

「…ん…」

身体がだるくてたまらない…
まるで鉛の様に重くのし掛かる。
ぼんやりと微睡む海にそっとベッドを軋ませ不意に口唇に冷たい感触がしたかと思えば冷たい液体が流れ込み、からからの乾いた喉を潤した。

「っ…や…エミリオ…!」

触れたそれに恥ずかしそうに慌てて瞳を開け彼の筋肉がつき引き締まった二の腕を掴むとさらさらと顔に掛かった黒髪を靡かせエミリオは名残惜しむ様に唇を離した。

「起きたか。」
「っ…うん……」

筋くれ張った大きくて繊細な指が優しく頭を撫でてくれる。
毛布と彼に包まれて幸せな余韻に浸る。
そして不意に下腹部を撫でながら海はまた幸せそうに彼の胸にすり寄った。

「ね、エミリオ…」
「どうした…?」
「うぅん、何でもないの。
ただ幸せだなあって、」
「あぁ、そうだな…今日を有給にして良かった。
本当はイヴに休みを取るべきだったがでも、イヴからクリスマスに掛けての此の時間を休みに…大切にしたかったんだ。」

低く甘い声で、エミリオは囁くと揃いのピアスに触れてまた口唇を落とし名残を惜しむ様にそっと唇を離し昨夜脱いだままのシャツに腕を通した。

もう彼と出会い5年の月日が流れたのだ、成長が止まった海に反し男はこれからが成長期。
その通りにすっかり逞しく成長した身体、開いた胸元から漂う色香に囁く声も狂気と愛を兼ね備えまた見つめてくるのは愛しい彼の整いすぎた甘いマスク、切れ長の射る様な紫紺の瞳にくらくらと惑わされそうになりながら海もそっと近くにあった彼のシャツに袖を通し2人で仲良くシャワーを浴びた。

「ぶかぶかだな、」
「…うん…。」

彼のシャツ一枚を着るとちょうど普段着ていたワンピースと同じ丈になる。
服の代わりに白いシャツ一枚だけを身に纏っただけの海の白い引き締まった脚、其処から醸し出される色香を指摘され恥ずかしそうな海にエミリオは高鳴る胸を押さえきれずまた優しく口唇を落としたのだった。

今日の彼は普段にも増して優しい。
それが何よりも嬉しくて愛しい。
たまにくれる優しさが痛いほど身に沁みて幸せで切なくて涙か溢れてしまう。

「いただこうか、」
「うん、いただきます。」

海が作ったブッシュ・ド・ノエルを切り分けて2人で口に運ぶ。
不意に外を見れば柔らかな雪が夕日に輝き幸せそうな2人を彩ってまた新たな幸せを生んだ。

願いはどうか来年も変わらぬ穏やかな日々を過ごせますように。

揃いのピアスと結婚指輪が煌めいた。


fin.

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