Event | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

「君がいるからU」

「こちら、クリスマス限定のメッセージカードとなっております。おつけいたしましょうか?」

ケヤキの美しいイルミネーションはまるで、色とりどりの宝石箱をひっくり返したようだ。
優しい光は忙しなく街を行き交う人々をこんなにも優しく照らす。
降りしきる容赦ない雨はやがて白く降り積もる粉雪へと姿を変え、今年はきっと素晴らしいホワイトクリスマス・イヴになるだろう。
降り積もる雪に見上げた灰色の空。
吐き出した息はこんなにも白い。
ひんやりとした冷たい空気がこんなにも心地いいものかと感じながら1人静かに暖を求めるようにアクセサリーショップへと足を踏み入れた。

「普段は言えない事、これで伝えてみたらいかがですか?」

お世辞にも高いとは言えない指輪。
しかし、それでも彼女の泣き笑いの嬉しそうな姿が見れるなら…
手にしたのはシンプルなシルバーに波打つハートをモチーフにしたふたつの指輪。
一目見た瞬間、これがいい。
そう確信した。
迷わずそれを選び店員がその指輪を買うことにした彼にサイズを聞けば指輪を選んだ主はそれは穏やかに口元に孤を描き店員の指に触れた。

「あぁ、このくらいだな。」
「お、お客様…!!」

店員の自分と、そして彼女のサイズを選んだのだった。

綺麗にラッピングされてゆくふたつ並んだ指輪を遠巻きに眺めながらその並んだ指輪に肩寄せ並ぶこれからの2人を思い浮かべては押し寄せる幸せに不意に怖くなる。

「あの、メッセージカードは…」
「…ああ、もらっておこうか。」

静かにラッピングの施された今日のプレゼントを受け取り、メッセージカードにはそっと、彼女に宛てた思いをポケットに忍ばせた。


「ありがとうございました。」

愛想のいい笑顔のよく似合う店員に別れを告げ、再び粉雪がちらちらと降る街並みを歩き出す。
さぁ、彼女が帰ってくるまで後2時間弱、今から間に合うかは分からないが思い起こせば去年のクリスマス。
彼女が自分の為に用意してくれたサプライズより更なるサプライズを。と、密やかな対抗心を燃やし、またひとまわり成長した少年と青年の狭間で1人の黒髪の男は帰路へと道を急いだ。

降り積もる雪はまるで彼が彼女に捧ぐ思いに比例して。
更に降り積もるようだった。

今年のイヴは雪。
ちらりと窓に目をやれば外はすっかり白銀の世界に染まっていた。
しかし、時間は定時を過ぎてもそんな簡単に帰れるはずもなく、海は仕事の後片付けに追われていた。

「ふぅ、Xmasでも患者さんには関係ないのよね…」

忙しなく後片付けに追われる同僚を横目に海は時計と睨めっこ。
きっと家では昨年の自分よりももっと素敵なクリスマスイヴにしようと完璧に準備を済ませた彼が今か今かと自分を待っているはず。
しかし、このままでは約束の時間までに間に合わないのは必至。
1人、片付けをする手は動いていても時計を横目にもやもやとそんなことを考えて居るものだから早く片付けてしまおうと考えるも作業は先程から全く捗っていない。

「海さん、」

「は、はいっ!」

仕事帰り、よく彼女を迎えに来る優しい彼の存在を理解しているからきっと今日は彼と過ごすのだろう。いつも忙しなく駆け回る海。
今日くらいは…


そんな海の心情に気が付いた彼女の上司がそっと海に耳打ちしたのだった。

「海さん、今日はもう先に上がっていいわ。」
「え、あ、あの…」
「美形の彼氏が待ってるわよ。」
「!」

その言葉にその通り、美形の部類に入る彼を思い出し頬を真っ赤に染めた海の初々しい反応に上司は優しく笑い、そして優しく海の背中を押す。

「す、すみません…!
お先に失礼します。」
「慌てて転ばないようにね。」
「はいっ…!」

そして海は優しく背中を押してくれた上司に頭を下げると急いで身支度を済ませ、慌てて彼が待つ家へ一目散に駆けだしたのだった。

左手には昨年の失敗を返上するために前もって既に買っていたプレゼントの紙袋。
中身は果たして彼が喜ぶかどうか。
滅多に笑わない彼の見せるふとした笑顔が見れる事に淡い期待を抱きながら、走ること20分。
海はやっと家に辿り着いたのだった。

「あれ…?」

サクサクと、軽快な足音で雪を踏みしめるよう息を切らし慌てて帰ってきたのはいいが、いつも自分の足音に気付き鍵の掛かったドアを開けて仕事に疲れた自分を優しく迎えてくれる彼がいつまでたってもドアを開けてはくれない。

「どうしよう…私がいつまでもモタモタして仕事終わらないから怒ってるのかな…」

嫌な予感にざわめく胸。
月明かりに照らされて反射した雪の光で普段この通り使わない為、バッグの奥底にしまい込んだ鍵を見つけだすと慌てて鍵を開けて家の中に転がり込むように飛び込んだのだった。

「エミリオ、エミリオ!」

不気味な程の静寂に包まれた部屋には誰も居ない。
真っ暗で外よりも冷え切った気がするこの部屋にもしかしたら"エミリオ"と言う人物は元々存在しない架空の人物だったのかという錯覚を覚えてしまう。

「エミリオ…」

不安に駆られ、涙混じりに彼の名を呟き力なく床にへたり込んだ海。
せっかく彼のために買ったプレゼントと気持ちの詰まった紙袋がくしゃくしゃになっている。
このままではせっかくのホワイトクリスマスイヴが…
そう思った瞬間、突然真っ暗だった部屋に電気が付き、テーブルには色とりどりの料理が並んでいる。
そして、驚きに顔を上げた涙目の海が振り向いた先にぼんやりと浮かび上がるシルエットに慌ててカーテンを開ければ。

「…海、」
「…!」

なんと、結露によって白く曇った窓ガラスに映っていたのは間違いなく海の帰りを今か今かと待ちわびていたエミリオだったのだ。
トントンとニヒルな笑みを浮かべて、人差し指でガラスを叩いて自分の存在を知らせる彼に慌てて窓ガラス一枚で隔てられたその向こうに居る彼に縋り付くように張り付いた海が彼を見た瞬間…。
彼の着ていた服に驚き思わず手で口を覆うほどに彼の服は海の意表を的確に突く。

「エ、エミリオ!?」
「…お帰り、海。」

なんと、ベランダから普段着のような感覚でサンタクロースの服を着た少年が姿を現したのだ!

「エミリオ、ど、どうしたの!?」
「いや、別に大した意味はないが…変か?」
「…!
ぜ、全然!すっごく似合うよ!さすがエミリオだね、うんっ、カッコいい人は何でも似合うね。」
「!…っ」

慌ててベランダからやってきたサンタクロースに驚いた表情を浮かべ、そして駆け寄ってきた海にサンタクロースの服を着た少年が不安混じりに帰ってきたばかりで冷たい彼女の指先をその華奢で繊細な指先で包み込みながら問えば満面の愛らしい海の笑みと歯の浮くような甘い言葉が返ってきたのだ。

予想以上の海の反応に彼も彼女も互いに頬を赤く染めた。

「でも、帰ってきたら誰も居ないから心配したんだよ。
せっかくエミリオが準備してくれたのに私が仕事でモタモタしてるから怒って帰っちゃったのかと思った。」

「帰る…?
おい、ここは僕の家だぞ。」

「あ…!」

「それに、ベランダからお前が走ってくる所を見たら…。」

しかし、伝えたい言葉は山ほどあるのにいざ、海を前にするとうまく伝えきれなくて…

「…いや、
そうだ、寒かっただろう。
まずは…乾杯しようか」
「うん、」

全ての思いは迷わずに告げるから。
これから、迷わず君にちゃんと伝えるから。
だから、心の準備をもう少しだけ。

「エミリオ、か〜んぱい〜いまきみは〜「…分かった、分かった。ああ、そうだな、乾杯だ」

それから2人、テーブル越しに見つめ合い静かに乾杯をすれば其処からは楽しい2人だけのパーティの始まり。

テーブルに広げられた料理はもちろん全てが彼の手作り。
どんなフランス料理にも勝るとフランス料理を知らない海が吸い込むようにどれもこれも味わうようにじっくり味わう。

ふと、目が合えばにっこりと笑う海にエミリオも幸せそうに黒い前髪の掛かった紫紺の瞳を細めた。

「ふぅ〜…おなかいっぱい。
もう食べきれないよ…」
「ああ、さすがに食べ過ぎだな。」
「ん…歯になんか挟まる。
あっ、そうだ!」
「海?どうしたんだ?」
「私、ちょっと着替えてくるね!」

あっと言う間に平らげおなかをぽんぽんと叩き口の周りについた食べカスも構わずに海はまた笑顔で何かを思い出したようにぱたぱたと部屋に走り出してしまったのだ。

「絶対、覗かないでね!」
「ああ、」

パタンと扉を閉めるとなにやら鼻歌交じりで海はどうやら着替えているらしい…果たしてこの扉の向こうでは何が起きているのだろう。
衣擦れの音が聞こえる、表情は落ち着いていても内心は気になって気になって仕方がないがしかし、ここはぐっと我慢。
そして…

「じゃーん!」

開かれたドアの先、エミリオの視界に飛び込んできたのは鮮やかな赤だった。
満面の笑顔で笑う海が着ていたのは去年と全く同じミニスカートタイプのかわいらしいサンタクロースの服。
くるくると回るとエミリオはそんな無邪気な海に降り積もる雪のように淡い思いを更に膨らませた。
そして海は白い袋にしっかり準備していたあのプレゼントをそっと取り出し同じくサンタの服を着た彼に手渡したのだった。

「はい、海サンタからエミリオサンタさんにプレゼントです!」
「ありがとう。
開けても…いいか…?」
「うん!」

にっこりと笑って愛らしい自分だけのサンタから貰ったプレゼントを渡されたエミリオは期待に逸る胸を押し殺してそっとリボンを紐解く、
期待に震える指先。
彼女にこの震えを悟られやしないかと不安になるが、大丈夫みたいだ。

「…!」

そしてラッピングされた箱から出てきたのは黒のシンプルかつクールでスタイリッシュなデザインのそれはカッコいい腕時計だった。

「海…これは、」
「あ、うん。
腕時計にしたんだ。
ほら、」
「…!」
「うん、お揃いにしちゃった…!」

そして恥ずかしそうに頬を真っ赤に染め、笑顔で笑う海にも白の色違いの時計が身につけられていたのだ。

「同じ時間を…エミリオと刻みたいなあって…」
「…海、」

その言葉の裏に隠されたあまりにも甘味で幸せな響きにエミリオは口にしないワインの代わりにその言葉に1人酔いしれ、その時計を強く握りしめると、そのまま##NAME1##を強く抱き寄せ幸せに僅かに涙を浮かべ瞳を閉じた。

「エミリオ…これ…!」
「…言っただろ、お前にプレゼントだ」

そしていつの間にか装備したのか、至極穏やかな笑みを浮かべた彼がそっと自分の右手を海に見せれば、そこには海と同じデザインの指輪が部屋の片隅で鮮やかに色を変えるクリスマスツリーのランプの光を受け、またキラリと美しく輝きを放っている。そして内側に刻まれた二人の名前。
それは世界にひとつしかない…ひとつだけの。

「エミリオ…私…っ…私…」
「海、」

女の子なら誰もが憧れのペアリングをまさか、本当に…。
予想だにしないニヒルなサンタからの贈り物。
感激に打ち振るえじわじわと海の瞳には押さえきれない大量の熱い涙が浮かんできて…。
そっと隣に座り込んだエミリオが未だに涙を流す海の剥き出しの肩を優しく抱いてやれば海は感激に震える身体をそのままにエミリオに抱きついた。

「エミリオ…あり、がとう…嬉しい…私…」
「ああ、ほら、泣いたらせっかくの顔が台無しだ。
…喜んでもらえたのなら何よりだ、お前に内緒で働いた甲斐があったな。」
「エミリオ…ってえぇっ!?
働いた甲斐があったって…何の仕事?」
「さぁな?
まぁ、お前の想像に任せる。」
「ええっ、まさかホスト!?
通りで最近なんだか私の態度が優しくなった気が…
ああっ、でもでもっあの滅多に笑わないエミリオがホストなんて出来る筈…
そうだ、体つきが最近妙に男らしくなってきたからまさか鳶職人…」
「…海」

しかし、彼の背に腕を回しながらぶつぶつと呟く海に構わずエミリオは静かに被っていた帽子を外し、そして海の後ろにあるソファにちらりと視線を光らせる。
そして揃いの時計に刻まれた時刻は既にイヴからクリスマスへと日付を変えるまで約1時間余りとなった。
二人きりのクリスマスの夜はこれから更けていく。

「唇にクリームが付いてるぞ、」
「え?
や、やだっ…恥ずかしいっ…!どこどこ?」
「ふっ、
ほら、取ってやるからじっとしてろ。」

そして近づく彼の綺麗な顔に海の頬はますます熱を帯びたように赤くなってゆく…。
さらさらの漆黒の前髪から見えたアメジストの双眼に一瞬にして心を奪い去られた海を愛しげに見つめるエミリオの情熱を秘めた紫紺の瞳が静かに燃えている。

そしてライトに艶めく柔らかな唇が海の唇にぴたりと重なれば、二人はそのまま苺味の甘いキスを交わしたのだった。
そっと繋いだ右手と右手にはお揃いの指輪。

「っ…エミリオ…」
「クリスマスは、まだこれからだぞ。
海」
「…うん、そのつもりだったけど」

その意味を理解した海が恥ずかしさでどうにかなりそうな、押し隠せない胸の高鳴りを彼に縋ることで押し隠し、そしてエミリオが優しく海の肩を抱き膝裏に腕を差し込めばふわりと海の身体が力強い彼の腕によって容易くも宙に浮く。

そう、二人のクリスマスはこれからが本番。
降り積もる雪、それに比例する思いを確かめるよう、ふたりはまた口づけを交わしたのだった。

時刻はもうすぐクリスマスへと差し掛かろうとしている。
ギシリとソファを軋ませ海はそのまま仰向けに寝転がり、跨ってきた彼に身を任せてそっとまた唇を重ねた。
甘い甘い生クリームと苺の混ざり合ったキスに表情はトロンととろけてすっかり夢見心地。
薄暗い、ツリーのライトだけが灯るこの部屋で二人は静かにお互いを求めてキスをした。

甘く濡れた音を立てて彼が静かに唇を割り唇を挟み込むと海もそっとそのキスに応えるように甘いキスに伏せって居た長い睫毛をあげればキスに酔いしれる海の恍惚を浮かべた表情が更に彼の静かに芽吹きだした欲情に火をつけ、そして一気にスパークした。
若い二人をこれ以上を引き離し止める事は、もう誰も出来ない。
そっと唇を離したエミリオがキスに夢中の余り息継ぎの仕方さえも忘れる程に没頭していたらしく、唇を離し、鼻と鼻が重なる至近距離で甘い吐息を漏らし、海はそのあまりの色香にゾクゾクと身を震わせた。

「…っ…甘い…」
「ああ、もうケーキは食べたくないよな。」

しかし、恥ずかしながら海しか知らない甘党な自分ならあと半ホール分残されたケーキを食べきれる自信がある。
しかし、ただ食べるだけでは…つまらない。

ちらりとテーブルに放置されたままの手作りの苺のクリスマスケーキ。

思わず手を伸ばしてそのクリームを指先で掬い、そのまま海のキスで赤く色づいた頬に擦り付けたのだ。

「ひゃっ…!」
「ああ、これなら幾らでも食べれそうだ。
ついでに…お前も味わえる。」

ぺろりと子猫のように#海の頬にわざと擦り付けたケーキを舐め上げ、低い声で脳髄が溶けてしまいそうな囁きに海はぴくんと肩を跳ね上げた。
ニヒルに笑う彼の姿に海はドキドキと期待に震える胸の高鳴りを押さえきれる事など出来る筈がない。

「つっ…!」

腕をそっと持ち上げられ、柔らかな二の腕にクリームを擦り付ければ今度は二の腕の内側からねっとりとエミリオの舌が這い回る。
伏せられた彼の長い睫が不意に開けば欲情にギラつく瞳がカッと開かれ海の瞳を逃さずに捕らえている。

「海、」
「やっ、」

耳元で囁きフッと甘い吐息が海の聴覚を犯せばそのまま吐息と共に内部に彼の舌が進入してきたのだ。
くすぐったさにいやいやと身を捩らせた海にクックッと静かに喉を鳴らす。
募る愛しさ、震える胸。

「そう言えば…去年の事、覚えているか?」
「え…」
「確か、プレゼントにお前を貰ったよな。」
「うん。」
「…だから、」
「エ、エミリオ…?」

そして、再びソファを軋ませたエミリオがそのまま海に跨ればエミリオは着ていたサンタの服の釦を外しながら海に甘く低い声で囁く。

「お前が欲しい、今すぐにでも…」
「エミリオ…」

甘ったるい雰囲気と囁かれた言葉、外した釦から覗く彼の素肌と彫刻の様な引き締まった身体に身を委せ、ソファに溺れたのだった。

「、エミリオ…!」
「っ…綺麗だ…、」
「ひゃ…あっ」

くすぐったさにもじもじと身を捩らせる海にそっと口づけ着ていた海の服の戒めをそっと開けば揃いの下着を付けた海の素肌が露わになった。

「やっ…ダメ、こんな明るいところで…!」
「大丈夫だ。
見せてくれ、お前の全てを見たい…」
「っ…!」

その甘い言葉に身体が一瞬にして硬直すればそのまま海の身に纏っていただけの下着に手を掛けすっかり慣れた手つきで戒めを片手で解いたのだ。
下着を外された事により包まれた胸から赤く色づいた突起が揺れる。
更に膨らみ溢れた欲望の均衡はは彼の理性をガラガラと音もなく崩してゆく。
―…彼女とひとつになりたい。
もう脳裏には自分の下で達した脱力に喘ぐ海の姿しかない。

そのまま蝶結びに紐で結ばれたショーツもするすると解き、海はあっと言う間に彼の手で生まれたままの姿にされてしまった。

瞳を閉じ、額には汗。
腰を振れば振るほどに海の中は熱く蠢き襞が絡めば更に身体が触れ合った箇所から愛らしい顔を不埒な快楽に蝕まれてゆく。
この狂宴にもうすっかり溺れている。
このまま溺死すれば最高の天国へ逝けるだろう。

海となら何処までも堕ちてゆける。
互いにペアリングの填めた指を絡め合いそのまま握りしめた。
「はぁ、はぁ…」
「海、すまない…大丈夫か…?」
「ん…」
「喉を痛めたか…水飲むか、」

彼が腰を引き抜けば海の全身を達した後のあの喪失感にも似た脱力感が全身を駆けめぐる。ソファに倒れ込みまた荒くなった息を整えた。

「シャワー浴びてないよ…」
「そうだな。僕も風呂に入りたい。」
「うん、」

海は汗ばんだ肌を恥ずかしがり身体を不快に感じ、未だ達した脱力感に余韻に浸りながら顔に付着した生クリームをぺろぺろとキスを落としながら舐めとる彼の手に揃いの指輪の填まった手を重ねたのだった。

「エミリオ…」
「どうした?」
「あのね………」

静かにふけてゆく聖なる夜のささやかな祈り。

「ずっと傍にいてね。」
「海、」
「いつまでもずっと…」
「…!」

その笑顔が続く様に。
いつも、ありがとう…
不意に彼女が鈴のような歌声で何度も何度も繰り返し口ずさんでいたあの歌のフレーズを思い出す。
それは…いつもあの歌詞を自分に当てはめて歌っていたのか…
いつも彼女の近くに居たのに今更になってその事に気付かされるなんて…

「ずっと…ずっと…傍に…」

うとうと海は余りにも激しすぎた彼との甘い情事の後の疲労感に身を委せ彼に寄りかかると海は無意識にすやすやと眠りについてしまったのだ。

「…大丈夫だ、
僕はもうお前の傍から離れない。」


眠る彼女の小さな手をゆっくりと握りしめ、エミリオは静かに思いを馳せた。
そう、仮面を脱ぎ捨て、海が待つただひとつしかないこの場所にまた帰ってくると交わした約束を。


…海の心と記憶の中に自分と言う名の存在を刻みつけてくれ

そしてこの手でこれからも彼女を愛して守っていく力を与えてくれ…

この聖なる夜に…今はただ、切に願う。

もし、このかけがえのない記憶も僕の消滅と共に…

消える事になってしまったとしても。

fin.

prevnext
[読んだよ!back to top]