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「sweet×sweet×syndrome」
SHORTSTORY

「おい、ベロニカ! いつまで外で待たせんだよ、凍え死んじまう!!早くしろよ!!」

 今日もロトゼタシアを旅する豪華絢爛なシルビア号に響く若い青年の声は寒さに晒され続け、いくら寒さには慣れていると言っても潮風を受け、全身氷の魔女の吐息を浴びせられたように凍えてしまいそうだ。

 魔物に攫われ、魔力を奪われぬように抵抗した結果、幼女に姿を変えられてしまった天才魔法使いのベロニカとすっかり犬猿の仲である彼女に突然暖かい船内から極寒の甲板へ放り出されてカミュは完全に怒り心頭だった。

 普段野宿が多い旅だが、今回の目的が島のため船旅。魔王を倒すべく目指すは大樹へのロトゼタシアを巡る長く過酷な旅路の中で許された船という広い空間で自由な時間。
 普段は屋外でキャンプが多いこの旅の中、船内や宿を取った時くらいしか意中の相手でもあり、旅をする仲間達の中で一番、縁が深く長くてそして深い仲となった彼女と二人きりで過ごせるチャンスは無いと言うのに。
 そのチャンスを「ちょっと!あたしの可愛い一番弟子に引っ付かないでちょうだい!」と、天才魔法使いでもある神様女神様ベロニカ様に台無しにされた事に対してもそうだし、大変腹を立てていた。
 出会った時から生意気で年下のくせにいつも偉そうで、――自分のせいで失ってしまった妹と重なって。

 暫くすると入って来られないように閉ざされたドアの向こうから外にいても分かるくらいに甘ったるい匂いが漂い始めた。
 ドア越しにはシルビアが嬉しそうに女子たちに交ざって何かを教えているようだった。
一応彼――いや、彼女も女性メンバーの中に違和感なく溶け込んでいるのが不思議だ。
覗き込もうとしたその時、シルビアのやたらまつ毛の際立つ濃い顔がドアから顔を突然覗かせて来たのだ。

「カミュちゃ〜ん!! お待たせしました!! すっかり冷えてしまったわよね、本当にごめんなさいね。でももう大丈夫よ、さぁ、入ってきていいわよん♪」
「あぁ、全く。本当に凍え死んじまいそうだぜ」
「そうよね、本当にごめんなさいね、じゃあ……アタシが温めてあげるわ」
「いや、遠慮しとく」
「あらそう?それじゃあ柔らか〜〜いものでも抱き締めて温まってきなさいな」
「なっ!?おいっ!」

 悪態づきながらくるくる回りながら自分をやっと呼びにやって来たゴリア……いやシルビアに腕を引かれながらカミュはようやく温かい空間で甘ったるい匂いの漂うキッチンへ通されたのだった。

「げっ、なんだ?この甘ったるい匂いは」
「何よ?もう!失礼しちゃうわねっ、アンタ今日が何の日かもう忘れたの?」
「何だよ、あぁ、あれか?お子様の日か?せっかくだけらお子様ベロニカの健やかな成長をお祝いしてやるよ」
「もう!違うわよ!バカね!」

 しかし、元盗賊でありお宝を探り当てる嗅覚にも優れているカミュの第一声はそれだった。甘ったるいその香りの中でカミュはせっかくの綺麗な顔を顰め面。
一体女性メンバー達がキッチンで何をしていたのか、ベロニカの言葉で理解し、今日この日が何の日かを、思い出すのだった。

 キッチンで待っていたのは……。ラブリーなエプロンに身を包んだセーニャとベロニカ姉妹。そしてグラマラスでセクシーな見た目の割に甘いもの大好き乙女なマルティナ姫のそんな女集団に混じる明らかに場違い、いや異質な雰囲気漂うフリルエプロンのシルビア。
だが、そのメイドが着ているようなエプロン姿を見てもあまり違和感を感じないのはやはり彼女、いや――本名ゴリアテである彼が元から持つ育ちの良さや押し隠せない騎士の家系として生まれた気品さからだろうか。
 彼――否彼女が嬉しそうに自分の目の前に鎮座する――失礼だがばくだん岩にしか見えないチョコレートの塊をすごい顔で凝視し、一瞬黙り込むとカミュはベロニカを見るなり腹を抱えゲラゲラと笑い出したのだ。

「おいおいベロニカ……!! あっはっはっ、お前ってほんっとに料理もすげぇが菓子作りも壊滅的だな!」
「ちょっと、なんですって!?」
「あ〜腹痛ぇ……! これは、チョコってよりどう頑張ってもばくだん岩にしか見えねえって。ま、下手なりに頑張ったお前の努力は認めるけども」
「アンタ……さっきからなーに言ってるのよ。それ作ったの言っておくけど、あたしじゃないわよ? そもそも何でこのベロニカ様ががアンタなんかの為に」
「はぁ? じゃあ一体、誰が作ったんだよ、このばくだん岩は……」

 しかし、カミュの問いかけに誰も応えない女性陣。何を今更と言わんばかりに。
美形と呼ばれる部類の端正な顔立ちは旅先で必ず女性に声をかけられるほどの人目を惹く容姿をしているのに。
勇者御一行の女性陣はそんな彼など全く興味がないのか無反応。それどころか誰もが気まずそうに下を向いてしまったのだ。よく見ればシルビアも苦笑いしている。
 呆れたようにベロニカはぷんすかと腰に手を当てて全く気が付かないカミュへ指をさした。

「はぁ。アンタねぇ……そんなことも分からないの? ほんっとにもう!全く女の子のキモチの欠片もわかってないんだから。あの子だったらもっとマシな男は沢山いるのに、よりによって何で一番女心の欠片も分からないこんなやつと。アンタの為にチョコレートを作ってくれる女の子なんて、きっと世界中探してもあの子しかいないじゃないのよ!!」
「あぁ? 一体なんだって言うんだよ」
「カミュさま、後ろです……!」

 相変わらずのベロニカのカミュの言い合いを遮る様にセーニャが背後から姿を見せた人物を呼ぶ。
 カミュの背後から聞こえた足音に振り向くと……そこに居たのは。涙目で自分を見つめるシルビアとお揃いの可愛いフリフリ真っ白エプロン姿の、それは普段とは違う装いの紛れもなくこのばくだん岩を作った彼女だった。

「カミュ……あの、それ、その……ばくだん岩にしか見えないチョコレート作ったの……わ、たし……なの」
「はぁ? ……おい、マジかよ!」

 何故目の前の男は彼女が作ってくれた料理だと気付かないのか。ぷんすかと腰に手を当てる天才魔法使いが言う通りに「ばくだん岩」と盛大に皮肉ったような最愛の女が精いっぱい不器用でも作れるレシピの中から引っ張り出した「クランチチョコレート」という彼女のこんしんの一品はカミュの容赦ないかいしんの一撃のような一言で撃沈したのだった。

「お前、料理は得意じゃなかったのかよ!」
「うっ……!料理とお菓子は別物なの……!」

 いや、記憶の中の自分が口にした彼女の料理の腕前は自分と互角かそれ以上の腕前だった筈だが。
 彼女は自分が最愛のために作ったチョコレートをばくだん岩に例えられたのがよほどショックだったのか、それはそれは悲しそうに大きな目いっぱいに涙を浮かべ、自分にくるりと背中を向けると、ぱたぱたと小走りでキッチンを出て行ってしまったのだった。

「どうせっ、私のチョコレートクランチの出来はばくだん岩ですよ〜〜!!」

 と言う捨て台詞を残して。これにはさすがの世界をまたにかける元・盗賊もこれまでくぐり抜けてきた修羅場以上の修羅場に顔を青ざめた。

「オイッ、何でそうなんだよ!? 待てって、誰も食べないとは言ってねぇじゃねぇか!」
「カミュちゃん! ほらほら、早く追いかけなさいっ」
「なら最初からアイツが作ったって、そう言えって! てか、誰が何作ったか、チョコレートに名前書いとけっての! 言われなきゃわかんねぇって!」
「なぁによ! そんなこともわからないアンタが馬鹿なのよ〜!!」

 そして女たち(一人男性も)から非難轟轟を浴び、今まで自らに封じていた思いをやっと解き放ち結ばれ、もう二度と、絶対に泣かすまいと胸に誓った彼女を完全に泣かせてしまった。
 さすがに危機を覚えたカミュは勇者御一行様の中で一番の素早さを生かし、二番目くらいにそこそこ素早い彼女を捕まえると、逃がさないようにと船内の一室に押し込んだ。

「ちょっと、急に……っ!」
「おいっ、逃げるなって。悪かったって言ってんじゃねぇか」
「うっ、だって……ばくだん岩って」

 洗練された豪華客船のようなこの旅を支えるロトゼタシアをまたにかけるシルビア号の豪華な客室。
彼の胸板に顔を押し付け息苦しさに眉を寄せる彼女を抱き留める。
二人でただ、じっくり見つめ合うと、カミュは口にした謝罪の前にその瞳に浮かんだ涙を拭ってあげるのだった。

「悪かった、本当に。お前じゃなくてベロニカが嫌がらせで用意したんだと思ったんだよ」
「それにしてもばくだん岩だって……いくらなんでも例えがひどすぎるわ……っ!」
「だーから、ベロニカがイタズラで用意したと思ったんだって。お前、料理は上手いだろ?」
「うっ、料理が得意だからってお菓子作りも得意だと思わないでっ」
「どっちも同じじゃねぇか」
「お菓子は、グラム数とか分量とか、とにかく繊細なのよ、料理みたいにごまかしがきかないし、ちゃんと計らなきゃいけないし、」
「そんなに大変なら無理して作らなくてもよかったんだぞ。ま、お前がくれるものならなんでも嬉しいけど、」
「カミュ……」
「ほら、いい加減泣き止めって、な? そろそろキゲン直してくれよ」

 逃げようとする自分よりも小さなその身体を強く抱き締めながら。カミュはそういえばこの身体に触れたのはかなり久しぶりだなと、感じていた。
 いつも勇者御一行で行動している旅路で二人きりになれる時間などほぼ皆無に等しい。まして肌を重ねるのなど本当に、本当に、無理だ、そんな甘い空気に浸る時間さえも無い。
 詫びるようにただ抱き締めていると、震えて泣いていた彼女も久しぶりに彼に抱き締められ見上げれば彼の澄んだ青くて、彼の生まれ故郷のあるクレイモランの海のように深い瞳に見つめられ落ち着きを取り戻した。
 すんすんと、先ほどまで泣いて赤くなった鼻をすすると、カミュは皿ごと持って来たばくだん、いやチョコレートに手を伸ばし大口を開けて一気に自分の口に放り込んだのだ。
 静寂の中でクランチチョコレートの小気味いい音が響いた。若干湿っぽいが中身はれっきとしたチョコレートの味で。見た目よりは悪くない。

「あぁ。うまいよ、見た目の割に」
「っ、本当?」
「あぁ……。本当に……ごめん、だから――泣くなよ、」
「うっ……」
「ごめんって、な? キゲン直せよ、」
「いいの……。私こそ、名前も書かずにごめん。いざ渡すってなると恥ずかしくて……その、私も好きな人に渡すの、初めてだったから……」

 最愛の恋人が初めて自分にくれた愛情の籠った手作りチョコレート。さすがにモンスターに例えたのは悪かったかもしれない、だが、その屈強な見た目の割に味はちゃんとしたチョコレートでカミュは内心安堵した。
 バレンタインという名前くらいは聞いたことがあるが、自分には縁遠いものだと思っていた。
 そもそも、たった一人の肉親であり、誰よりも守りたかった妹を見捨てた自分には安らぎを求めることは許される事ではないと、こんな、自分には妹を残して幸せになる資格など無い、誰かを想うことなど想われることなど。
だが、戒めと贖罪に生きてきたそんな自分が、まさかこうして肉親と同等に大切だと思える存在達に彼女に出会うなど思ってもいなかった。
 そして、仲間とは違う特別な感情を持つ彼女と恋に落ちて、人を愛する事を知る事になるとは。
目の前の彼女の存在は彼の元に舞い降りた天使のようだった。

「あ、そうだ。ちょっと待っててくれ」
「ん?」

 不思議そうに首を傾げる彼女を置いて、カミュは思い出したように隠していたあるものを彼女に手渡して来たのだ。
 受け取った彼女の手にはそれは美しくかぐわしい香りの広がるソルティコ産の赤い薔薇を纏めたなんとも豪華な花束だった。

「え?これは?」
「本来は男から好きな女に花を贈る日なんだとシルビアから聞いた。わざわざ寄ってもらって買ってきたんだよ、あ〜〜柄にもねぇ事するとほんとに、恥ずかしくてどうにかなりそうだ。だから、枯らさずにちゃんと毎日世話してくれよ?」
「カミュ……」

 カミュが自分にくれたもの。片手では抱えきれない量の真っ赤な薔薇の花束。
口調はぶっきらぼうで粗野だが、そんな彼が恥を忍んでわざわざ買った大輪の薔薇の花束を自分へ差し出して――美形の部類に入る彼が薔薇を持つ姿は不思議と嫌味ではなくて。それはまるで、彼からの思いがけない贈り物が彼女には夢のような光景に映るのだった。

「カミュ……ありがとう、こんなにたくさん……! 夢みたい……大変だったでしょう」
「いいって、けど、慣れないことはするもんじゃねーな。もう二度とやらねぇからな」
「ふふ、じゃあ今日はレア日って事かなぁ……」

 しかし、ふと無意識にだが触れて数えた棘の無い茎。そして、ひぃふぅみぃ……と、その本数に思わず彼女のさっきまで幸せに満ちていた表情が一気に凍り付いてしまったのだ。
赤いバラの色彩よりも気になるのは、つい、思わず数えてしまった薔薇の本数、間違いない、そして……恐らく彼はそこまで深く意味を知らない。
花が持つ甘美な言葉の他に本数にもちゃんとした意味がある事を、きっと彼はそこまで考えていないだろう。
 数えやすさからその本数を定したはずなのに。
 手探りで数えた花束の本数にやっと引っ込んだ涙が再び彼女の視界を潤ませるのだった。

「ううう……ううう〜〜〜!!!」
「お、どうした? はは〜ん、そんなに泣くほど嬉しいか?」
「わああああ〜〜!!!!」
「おわっ、何だよ急に!!」

 しかし、それは明らかに歓喜の涙ではない、初めて結ばれた時に流した時に見せたあの泣き顔ではない。それどころか彼女は悲し気に眉を八の字に曲げて薔薇の花束を彼に突っ返すとベッドに突っ伏して泣き崩れてしまったのだ。

「あらヤダっ、二人ともどうしたのよ? まさかカミュちゃん……!?」
「違うからな!! 何もしてない!! 急にこいつが泣き出して……」

 せっかくの2人きりの時間、覗き見るつもりはなかったが、つい若い二人の行く末を見守るのも自分が「世界中のみんなを笑顔にする」騎士道に基づいての行動だと。
見麗しいその容姿の割に女心とはご縁のないカミュと内気で奥手な彼女の進展を心配したゴリアテの兄貴……みんなの姉さん・シルビアが様子見がてらただならぬ彼女の声を聞き付け、心配して顔を覗かせると、彼女はカミュの腕ではない別の(生物学的には)騎士の家系の後継として鍛え抜かれたシルビアの腕の中に飛び込んで声をあげて泣き出してしまったのだった。

「わ〜〜ん!! 姉さん! 聞いて、聞いてっ」
「おい!(他の男に!?)」
「まあ……泣かないで。よしよし。カミュちゃん……。あなたきっともしかして……。あぁ、この短時間の間に一体何が起きたのか察したわよ。今日は愛を、それは好きな人に花を送る日、ちゃあんと選んで買ってきたのね、でもね、……ごめんなさい、花束の本数までアドバイスすればよかったわね」
「一体なんなんだよ」
「15本のかぐわしい薔薇の花束の意味。それは「お友達」って意味なのよ……」

この言葉を受け、カミュは恥を堪えてキリのいい数字だと思って買ったというのにそれがまさかの裏目に出た事に対しての衝撃と何よりもそんな細かいことまで知らないと、花ならなんでもいいだろ肝心なのは気持ちだと言い放った。

「はぁ〜〜!? そんなの知らねぇよ、花なんて贈ったことねぇのに本数まで気にしてられねぇっての、お前が好きならそれでいいだろ?」
「うっ、私、カミュにばくだん岩しかあげられなかったのに……こんな素敵な花束……貰えないよ……」
「いいって、ったく。いいからいつまでもオッサンに引っ付いてんなよ?本当に恥ずかしかったんだからな……。あいつらに明日はサマディーに大雪が降るだとか、天変地異だって爆笑されちまうしよ、」

 どさくさに紛れて彼女を抱き締め返そうとしたシルビアから小さな彼女を引っぺがし、カミュに再度抱き寄せられて、ようやく腕の中で涙を止めた。
 花束の本数で彼女への気持ちを勝手に決められては困る。花束では収まりきらない位に彼女を自分なりに想っているのに。

「ばくだん岩の割に味はうまいよ。ただ、ロウのじいさんみたいに歯が悪いやつは食えねぇかもしれねぇけど。まぁ少し硬いくらい食うには何ら問題ねぇよ、ありがとうな」
「ふふふ……」
「お前も食うか?」
「うん……食べたい!」

 彼女にも自分が食べたばくだん……いや、チョコレートを食べさせる。しかし、カミュはあろうことかただ口に入れるのではなくそのまま自分が食べようとしていたチョコレートを無防備なぽっかり開いた唇に重ねて、器用に彼女の口の中へ押し込んで来たのだ。

「んっ……」
「な? 甘いだろ?」
「……っ! ……うん、」

 そっと咥内へ押し込まれたチョコレート。見つめ合う2人の雰囲気が一番甘い、突然彼から口移しで移されたチョコレートの甘さと、目の前の距離にある端正なカミュの顔に恥ずかしそうに俯く。
 ただでさえ街を行けば女性たちからイケメンだと視線を独り占めしてしまう彼の自覚のない整った顔が近くにあるなど、元から彼しか見えないのに、更に彼に虜になってしまいそうになる。
 そして、その整った顔が優しく屈託のない笑みに変わって。
ああ、もう。その容姿で見つめられたら、微笑まれたら、自分より年下の恋人のそんな姿に胸を打たれて何でも許してしまう。凄まじい破壊力だ。
 このままチョコレートごと彼女さえも頂くつもりのカミュと、甘いチョコレートよりも甘いカミュの普段見せないその態度にすっかり酔ってしまっている彼女の間に申し訳なさそうに、気まずそうにシルビアの声がした。

「あの〜〜おふたりとも……。一応ここにアタシが居ること、完全に忘れちゃってるみたいだけど、いえ、もうほとんど忘れてるわよね。 仲良くするのは、せめてアタシが居なくなってからにしてちょうだい……ね?」

 恋愛においては純情でシャイな一面もあるシルビアが赤面する程今の2人の甘い雰囲気に当てられてしまいとても気まずい。
 完全にシルビアがいる事をようやく二人きりになれたことで一瞬で恋の熱に浮かされていた思考が現実に戻り我に返る二人。完全に見られた、今、シルビアに。
 誰も居ないと思って何度も何度もキスを重ねていたのを思い出し恥ずかしそうに、二人は距離を取りお互いに驚いた顔を見合わせると、仲間にラブシーンを見られてしまった羞恥からもう耐えられないと言わんばかりに絶叫した。

「「うわあああああぁー!!」」
「ああ、あっ、もう……っ、やっ、ヤダー! もう! もう無理! シルビアに! みられるなんてー!! 私無理!恥ずか死ぬ!!! 海に飛び込む!」
「おいっ!何してんだ!待てって!早まるな!」
「いやあああ〜〜!!そうよ!アタシ!すぐ!出ていくから!!まだ早まっちゃダメよ!待って!」

 真っ青な顔をしたシルビアとカミュが背後から恥かしさから暴れる彼女を取り押さえることで何とかその場を収めるが、お互いよほど恥ずかしかったらしく逃げ出したい衝動が消えない。
 しかしそんな仲間同士の普段そういった甘い空気を感じさせない二人のラブシーンをまざまざと見せ付けられた中身はいつだって乙女なシルビアだってとても恥ずかしいに決まっている。

 彼女がやっと落ち着いたあと、シルビアに「二人でどうぞ、仲間たちは来ないから気にせずに。良い夜を」と、それはウキウキした足取りで部屋を後にしたのだった。

Fin.
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2022.02.26
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