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「温もりを恐れるな」
SHORTSTORY

あんなにも、酷く抱かれたのは初めてだった。
恥じらう余裕さえ奪われ貴方の指先が私の身体を滑る度に私はもう…貴方しか、考えられなくなるの。
縋り付くように、貴方の背中の赤い傷を見る度、私の爪が貴方の身体に傷を残したって囁かれている気がして、そしてこの指先にさえ嫉妬してしまう…余韻は焼き付いていて身体が甘く疼くのを止められない。

貴方の首筋から鎖骨を辿り胸に顔を埋めその香りに酔いしれて、

「…海…っ」

エミリオの低くて、優しくて蕩ける様な甘い声がまだ頭に焼き付いて離れない。

「ん…」

気怠い身体をゆっくり起こすと私は昨夜の着ていたベビードールのままだった。
でも、貴方の触れた余韻はまだ確かに火傷の様に火照って、私の身体を疼いてこんなにも仕方なくさせる。
汗ばんだ身体が肌寒くて、温もりに縋る様にエミリオが確かに私を抱いて眠っていたシーツを手繰り寄せ顔を埋めれば貴方の残り香がした、
ベッドの隣に居た筈の貴方は…何処へ?

「…エミリオ、」

ぽつりと呟いて、貴方が着ていた漆黒の服を代わりに抱き締める。
宿屋の一室、暗黙の了承で私はエミリオの部屋で、貴方の腕の中で幸せな夢を見る。

「海、そんなに爪を立てて…僕をどうするつもりだ?」

「っ…」

「海、何だ…?
未だ、飽き足りないのか」

「…!」

「お前の気が済むまで、
これからじっくり抱いてやろうか」

酷く甘い昨夜の貴方の甘い毒を孕んだ言葉が、熱く迸る汗が余韻が私の脳裏をリフレインする。愛と情欲が紙一重なら、
貴方の深い愛を感じた翌朝は重くて思う様に怠くて動けなくなる分の有りっ丈の思いを込めて、それだけ貴方は私を求めてくれる。

でも…こんなに幸せで、いいのかな。
時々、怖くなるの…
貴方の愛が当たり前に感じてしまう日が来る事を、そして終わりが迎える日を。
愛には何時か必ず終わりがやってくる。
遅かれ早かれ、

「何をしている。」
「…あっ!」

ふと、聞こえた声に慌てて振り向けば其処にはシャワーを浴びていたらしい仮面を外してさっぱりしたエミリオが私を不思議そうに怪しそうに見つめていた。

「……っ…!」
「服を取ってくれ。」

上着に顔を埋めていた私を見つめる視線が恥ずかしくて慌てて十字架を刻んだその漆黒の上着をエミリオに投げ渡し布団にくるまった。
「海」
「っ…」

やがて、ゴソゴソと上着を着込む音が止むとエミリオがゆっくり私に近付く足音が床に響いた。
そっ、とただ布団越しで触れられて居るだけなのにまるで催促する様な甘い手つきにピクンと身体が反応してしまう。

「海…」
「な、に…?」

低くて落ち着いたエミリオの声、癒されるなぁ…っていつも思う反面。
その冷たい零度の指先と私を見据えた切れ長の長い睫毛に縁取られた紫紺の瞳はまるで茨の蔦に甘く絡み付いて離れない…

「飽き足りないのは…、僕だ。」
「…っ!」

そう囁き、まるで魔法の様に気が付いたら私はエミリオに後ろから強く抱き締められている形で彼に囚われていた。

「お前が足りない、お前を求めても求めても求め足りないんだ。
不思議だ…お前を、こんなに愛したい…昔の僕が知ったら驚くだろうな、マリアン以上に大切なものがこの世に存在しているとは…」
「エミリオ…」

マリアンさんの面影を気にして求めていたのは私だったのかもしれない、育ての母と割り切った今の彼の表情が何とも言えないほど艶やかで何よりも色っぽくて甘い眩暈を覚えた。
視覚的凶器があるとしたら…

この人しか、この瞳しか居ない。
なんて獰猛な目をしているのだろうと思った。

「海、」
「っ…」

見つめ合うのが恥ずかしくて私を背後から抱き締めて首筋に顔を埋めたエミリオに瞳を閉じても頭の中では淫猥で皮肉を含みニヒルに優美な笑みで笑うニヒリストは月夜がよく似合う姿をリアルに浮かび思い出せた。
漆黒が似合う鈍色に光るシャルティエとのコントラストを描く魔物を切り裂くその切れ長の瞳も。
少年と青年の仮面を使い今も変わらずに危うい色香を醸し出している。

ふと顎を掴まれ肩越しに見つめ合えば直視できないくらいに眩しいエミリオの綺麗な素顔が視界いっぱいに飛び込んできた。
恥ずかしい、艶やかな黒髪に伝う滴を優しく拭くとそのままエミリオがゆっくり長い睫毛を伏せて、私の口唇に口唇を重ねてきて…。

隣でカイルとロニの笑い声がする、
それさえ直ぐに気にならないほど私はエミリオに夢中で、大好きで仕方なくなって瞳を閉じた。

その肩越しで笑うエミリオの艶やかな半乾きの髪に掛かってより一層、細められた瞳を見たらきっと、私は竦み上がっていたと思うくらいに妖しくて、欲情に濡れていたから…。

貴方の目を見つめてはいけない…私は、まるで魔法に掛かった様にエミリオの口唇から覗いた赤い舌が首に埋まる瞬間に胸を高鳴らせた。

Fin.
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