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MISSYOU

32

闇雲に海を飲み屋街で探しているが、さっぱり見つからない、あれから30分以上は経過している。どうしたらいいんだとリオンは息を切らし、途方に暮れていた。

「お掛けになった電話は電源が入っていないか電波・・・「くそっ!!」

友里にも手伝ってもらうかと思い電話をすれば肝心な時に繋がらずリオンは思わず海が買ってくれたスマホを叩きつけそうになった。しかし、そんな大騒ぎになるようなことを頼むまでもないし、意地でも自力で見つけたい。らしくもない、汗だくでこんなに息が切れ切れになるまで走り回るなんて。

あの旅の時みたいにどうしてこう、上手くいかないのか。あの冷静さはどこに行ってしまったのだろうか。何時だかにバティスタに取り付けたティアラ型の探知機でもあれば・・・そうだ。探知機だ。

「そうだ!GPS・・・」

握り締めていたスマートフォン、長い指がすっかり手慣れた手つきで操作し、前にお互いはぐれてしまった時のためにとアプリを登録していたのだった。まさかこんな時に役に立つなんて・・・すぐ彼女の居所を割り出すと、海はまだこの近くにいるらしい。

「よかった・・・」

こんな風に誰かの無事に安堵に笑みを浮かべるなんて。らしくもなく走り出す。夜の仕事の勧誘や飲み屋の店員に目もくれず裏通りに出て、ネオンで光る夜のきらびやかな街をひた走り、看板を潜り辿り着いたのはいかがわしいホテル街。きらびやかなネオンのホテルが所狭しと並んでいる。

「あの男・・・こんな如何わしい場所に海を連れ込んでどうするつもりだ。」

どうするつもりだなんて、分かりきっているくせに。チカチカとあちこちにある眩い看板を横目にリオンは今にも海があの男に奪われてしまうのではないかと、不安でたまらない。

「海に手を出したら、許さん。」

自分だけの海だ。
誰にも奪われてたまるか。歪んだ独占欲に支配され秋の夜長だと言うのに汗だくになりながら走るリオンが探し求めているのは海、ただひとり。
海が気掛かりでいてもたってもいられない。今すぐ会いたくてたまらなかった。

曲がり角の先でホテルから出てきたカップルにぶつかり暴言を吐かれたが今はそんなの気にもならなかった。

「先輩、ここは?」

「私・・・バッグ置いたままで」

「帰りましょう、私は・・・」

「先輩・・・リオンを置いていけない・・・」

雑踏と言うノイズが消え去った通りに耳のいいリオンは確かに海の声を聞いた。
酔っているのか酒に上ずった声をした海は普段にも増してやけに艶やかしく感じる。街を走り抜けた先、やっと覚束ない足取りで歩く海を支えていた先輩がネオンの光のもとにさらけ出された。

「おい!何をしている!」
「あぁ?」

華奢な海の手首を掴み、ベロベロに酔った海をホテルか自分の家に持ち帰りたらし込もうとしていた先輩と対峙するリオン、その瞳は怒りに静かに燃えていた、今すぐその痩躯に蹴りを見舞いたかったが海に前に怒られたことを忘れたわけではない、だから代わりに海を引き寄せ連れ戻した。

「海、帰るぞ。」
「リオン、?・・・あ・・・わ、たし・・・」
「馬鹿め、心配させて・・・」
「ふーん、ナイト気取りか?居候の分際で。」

「・・・ナイト気取りか、格好良いね」

背中を向けたリオンに対し、先輩が嫌みったらしく暴言をリオンに浴びせた。それは、かつて自分が発したあの言葉と全く同じであった。皮肉がまた皮肉を呼びまた自分に巡り返ってきた。記憶が呼び覚ます、最後の邂逅を自ら砕いたあの悪夢を。

「・・・そうだな・・・まさか、その言葉をここで聞くなんてな。」

リオンは海底洞窟での、あの戦いを思い返していた。遠く飛び越えたこの世界でまさか自分が投げ掛けた言葉がそのまま自分自身に返ってくるなんて、愉快を通り越し、滑稽な光景だと、嘲笑すると先ほどこちらに挑戦を投げ掛けてきた先輩に見せつけるように、リオンは海を抱き寄せていた。

「勘違いするな、僕は同居人でも、こいつのknight(騎士)でもない。」

かつて仲間たちを裏切った自分。そんな自分にはそんな資格などないとわかっている。だが、海のピンチは見過ごしたりはしない。彼女が自分を救ってくれたように・・・彼女への思いで、今にもはち切れてしまいそう。
海が酔いつぶれた勢いで先程よりも強く強く抱き締め返してくる。リオンの胸板に凭れて顔を埋める海がとろんとした眼差しをしている。微かに漂うアルコール、酔っている海、挑発的な態度の先輩に分からせるために、リオンは自らの意思で海は渡さないと彼女を抱き寄せ、

「僕は・・・こいつの恋人だ。」

はっきりと、そう告げ、そして、海の肩を掴むと、慈しむように唇を重ねたのだった。覚束ない記憶のなかで、どうしようもならないジレンマを抱えていた海はふわふわと浮かんだ思考の中、おずおずとリオンの背中に腕を回し、ふたりは公の場で口付けを交わしていた。

「海、どこかでお前の酔いを冷まさないと帰れないだろう。」

海の唇はいつも柔らかくて温かくて。満たされて行く気持ちが確かに存在した。孤独、悲しみ、折り重なる痛みで胸に開いたままだった傷口が、次第に癒えて行くようだった。

今度はリオンが勝ち誇った笑みを先ほど同じように自分に向けた先輩に向け、形勢逆転、海の肩を抱くとネオンに輝くラブホ街を後にしたのだった。

「海、ほら、歩けるか?」
「ん、気持ち、悪い・・・」
「待て!まだ、吐くな。これは借り物だ、」

抱き寄せた途端、海は急に動かされて思わず口元を覆うとリオンはとっさに身構えた。動かしてこれ以上刺激しないようにリオンは海を引き寄せると、そのまま膝から腕を通し、ふわりと、お姫様のように軽々と抱き抱えたのだ。

「え・・・リオン・・・」

プリンセスに憧れる海にはまさに最高の言葉しか出ない、酔っていなければ、の場合だが。

軽々と海を抱き抱えたまま、リオンはとにかく何処か休めるホテルを探した。すぐ目の前のネオンのホテルが一番簡単だろう、それはわかっていもそこだけは絶対に海とは行きたくないし、まして自分はまだ未成年である。酔った海を暴こうとした先輩と同類など断じてありない。散々海に酷いことをしたのに、海には穢れのないまま輝いていてほしいと願うのはエゴだと理解していてもだ。海とは越えられない壁を余計に感じさせる距離。ホテルになど入れば海と居られなくなるかもしれない。リオンはグッと耐え、自分が未だ未成年で年下だという悲しい現実に目を閉じた。

酒も飲んでしまい海の車でも帰れない。飲み屋街から離れ、ベンチに休ませるとコンビニで海に水を買ってやり、甲斐甲斐しく飲ませてやった。

「気分はどうだ?」
「大丈夫・・・」
「な、訳あるか。いいから休んでいろ。」

ネットを駆使してタクシーを拾い、辿り着いたのはビジネスホテルだった。先に電話ですぐ宿泊出来ないか尋ねればちょうど空き部屋があるそうで。セミダブルの部屋しかないが致し方あるまい。酔った海を何とか部屋まで運ぶとリオンはベッドに海を寝かしつけジャケットを放り投げようやく落ち着く。

「暑い・・・」

汗ばんだ身体を洗い流そうとシャツを脱ぎ捨て、浴室に向かった。

ーーーーーーーーーーー



「う・・・わ、たし、」

数時間が経過した後、気持ちが悪い激しい胃のムカつきに目を覚ました海はゆったり起き上がり周囲を見渡した。見慣れない部屋だが思考もままならず、だが、誰もいないことを知ると、ふらふらと頼りない足取りで胸に詰まるこの不快感を発散したくてトイレを探して歩き回った。白を貴重とした部屋、セミダブルのベッド。ひとつあった扉を開けると、其処にはトイレと反対側に浴室があり、ピンクネオンからかけ離れたビジネスホテルならではの清潔感とシンプルな形。
向かいの浴室から水の伝う音がするが構わず海は気持ち悪さを便器にぶちまけ、少し気分が楽になった気がする。レバーを引き、洗面所で涙目で口をゆすぐと、トイレと向かいの浴室からリオンが顔を見せた。

「海・・・気分は、どうだ。」
「リオン。」

振り向き其処にいたのはハードスプレーでガチガチに固めた髪型をシャワーで元に戻したリオンの姿だった。濡れた黒髪が艶々しく輝き、もちろん、何も身に纏わない裸で傷の残る筋肉質な身体が酔った海の視界に生々しく照らされている。

「びっくり、した・・・うん、お陰さまで、良くなったよ。」
「そうか。なら、良かった。」

彼の裸に魅入ったが恥ずかしくなりすぐに目線を反らすとリオンは濡れた髪をタオルでガシガシ拭いながらドライヤーもせずにバスローブを羽織るとさっさと部屋に行ってしまう。海がその後を子供のようにちょこちょこついてきて、ようやく落ち着いた海が口を開いた。

「よく、当日でホテルに泊まれたね」
「4つも鯖読んで如何わしいホテルなど冗談じゃない。お前が連れ込まれそうになった場所でなく、ビジネスホテルならお前もいいだろうと思ってネットで予約出来た。」

未成年だがスーツと髪型が彼をグッと大人びて見せていたので疑われることはなく、当日泊まりだからなかなか見つからなかったがスマートフォンを駆使して見つけたホテルからは夜景が見えた。

「ありがとう・・・ごめんね。」
「何がだ、」
「リオンのこと、置き去りにして、見境なくお酒飲んだりして・・・もし・・・リオンが追いかけてきてくれなかったら、私。」

何よりも清潔を最優先に考えるリオンがスーツまで汗だくになりながら海を探していたリオンの必死さも、苦労も知らずに。リオンは買ってきたミネラルウォーターを飲み干しベッドに腰掛けた。

「そうだな。間違いなくお持ち帰りされていただろうな。お前は、他の男に対して無防備過ぎるんだ。ましてや、今日の姿を見てみろ、」
「反省、してます」

悪酔いが覚めたのか、顔色も青ざめていたのがいつものように赤みが戻っている。

「僕も悪かった、」
「どうして?

私に、キス、したから・・・だから、嫌なの?」
「それは・・・」

海は確信めいた事を口にした。早くこの場から逃げたくてたまらなかった、でも、今逃げたらきっともうリオンとは向き合えない。向き合うなら想いを伝えるのは今しかない。何故もっと早くこうしなかったのだろう。海は朧気な記憶を手繰り寄せ、リオンの座るベッドの隣に腰を下ろした。

「はぐらかさないで・・・ちゃんと、答えてっ、」

言葉が怖くて向き合うことが出来なくて逃げてばかりいて、身体で必死に埋めようとしていたのに。そんな事でつなぎ止められないと分かっていたのに。そうして、ふたりの眼差しがぶつかって。リオンはまっすぐに海を見つめていた。

「未だわからないのか?僕はお前が・・・」
「っ・・・!やっぱりいい!聞きたくない・・・っ」
「おい!何処に行くつもりだ!」

リオンの真っ直ぐな瞳と力強い言葉に死刑宣告を今から受ける犯罪者の気持ちになった海。その表情から察するにやっぱり今から振られるんだと思うと、怖くてたまらなくなり海はベッドから離れるとリオンの手を振り払い、距離をとった。しかし、リオンは決して海を逃がそうとはしない。羽交い締めにして再びベッドの上で向かい合った。

「じゃあ、何で、追いかけてきたの?意味分からないよ・・・っ、何でっ・・・?リオンはわかってないよ、言い聞かせてきた、諦めようとした、リオンは私のことなんて好きじゃないんだからって。早く諦めたいのに・・・キスしたり、優しくされると、諦められなくて・・・でも、離れたくなくて・・・・辛いんだよっ、」

そのまま海は子供のように顔をくしゃくしゃに歪めて崩れ落ちるように泣き出してしまった。酒で気が立っているのか、混乱でめちゃくちゃになる思考。ドレスの裾を乱して泣き崩れる子供みたいな海を宥めることも出来ずに立ち尽くすリオン。リオンが呆れたような眼差しでこちらを見下せばそれで話は終わる。

リオンが冷酷に自分を突き放してくれたらとてつもなく辛いが、諦めきれるのに。自分の気持ちさえも嘘をついてよくわからないのに、リオンのことも分からないままなのは当たり前だ。

いっそこのまま、ずっと最後までこの燃え上がり続ける恋心を封じろと苦痛を与えるなら、彼に潔く振られてしまえばいいと願った。あのまま先輩と一晩明かせば忘れられると思っていたがどうしても出来なかった。海は自分が歌ったThere will be love thereに重ねていた気持ちをリオンに見抜かれてもいいと分かってあの歌を選曲した。

リオンは自分とは違う世界で生まれた存在で、自分よりも年下で、未成年なんだ。立ちふさがる壁はあまりにも高く聳え立っていた。そしてリオンはマリアンが好きだとわかっていた。諦めようと、この気持ちを墓場に持っていくつもりだった。だけど、打ち明けないまま前にも進めずずっとこのままでいることがどれだけ身を切り裂かれるより辛いか身をもって知ったのだ。
触れたくて、焦がれた存在が手の届く距離に居て、何も出来ずにいるなんて考えられなかった。まるでふたりは運命に惹かれるように気持ちを通わせていた。彼がいつまでも自分の傍に、居てくれたらいいのに。

「・・・すまない。」
「え?」
「海。僕は死んだ人間で、この世界の人間でもない。間違いなく一生このまま暮らすなんて無理だろう。戸籍も無ければ健康保険も無いし学歴もない。この先一緒にいても僕はお前を悲しませることしか出来ないと分かっていて、嘘をついた。突き放して、身勝手に傷つけた・・・」

この胸の高鳴りを抑えきれる方法があるのなら教えて欲しい。こんな罪にまみれた自分に優しく接してくれて、どんなときでも笑顔でたちまち深い傷に染み込んで癒してくれた海の優しさ。リオンは驚くほど穏やかな顔立ちをしていた。

「けど、あの日、お前があの元恋人に襲われそうになっていた時、お前を1人にしなきゃよかったと後悔した時に気付かされたんだ。お前に心惹かれていたんだと。」
「えっ・・・嘘、私のことなんて馬鹿にしてたじゃないって、」
「馬鹿め、こんな時に嘘なんかつけるか。確かに、何でお前みたいな奴を、と思ったこともある。頑固でうるさくて、そそっかしくて、泣き虫で」
「むっ!何それっ!」

それは窓から入ってきた秋の冷たい風にかき消されてしまいそうな小さな声だったが確かに海の耳に優しく響いた。海の手を優しく取るとその手がそっと海の頬を撫でて行く。リオンは微笑みを浮かべていた。どんな肖像画よりも勝る笑みに海はたちまち魅了されて、おずおずとその自分の手を包み込むような冷たい手を握り返す。

「けど、いつの間か泣いているお前を見て、やるせなくて、目が離せなくなっていたんだ・・・海は、どうなんだ?あの夜と変わらないのなら、お前の今の気持ちを聞かせてくれないか?」
「私は変わらないよずっと、これからも・・・でも、マリアンさんが・・・!」
「マリアンは・・・確かに、好きだったかもしれないが、僕にとってはやはり、母親のようなもので、こんな風にお前みたみたいに抱いたりだとか、そういった類の気持ちではなかったと今は思う。遠くない未来、お前との別れが来るのはわかっている。けど・・・もう、お前しか見えないんだ・・・」

リオンが恥じらいを忘れ、ありのままの、今までに見せたことのない笑顔で笑うが、海はただ照れくさくて、真っ赤な顔でいつまでも下を向いてばかりだった。
そうして噛み締める。
彼が、自分を好きでいてくれた一途さに、自分が思うよりも想ってくれていたことが何よりも温かかった。奇跡なのだ。こうして他人同士が気持ちを通わせあえることなんて。

「リオン・・・」
「お前の悲しむ顔は見たくないのにな・・・もう一度、その名前を、エミリオと呼んでくれ。」
「エミリオ・・・!」

ハラハラと、涙を流しながら海はただ驚いていた。リオンが好きだったのはマリアンではなかったのか。リオンの告白がまだ夢の続きのような気がして、そんな疑問符が頭を駆け巡っていた。聞いたことのない甘いリオンの声にあの夢のような夜がリアルに蘇る。海は乾いていた心が満たされ潤っていくように感じられ涙が溢れていた。

「私は、エミリオよりも年上のおばさんなんだよ?」
「年齢なんか関係あるか。なら僕は年下で、まだ未成年で、お前に養われている身で言えたことじゃないのはわかっていた。だが、お前が、過去を引きずって泣いている姿はもう見ていられない・・・」
「わ、たし、っ私から言うつもりだったのに・・・」
「もうお前は何も言わなくていい。あの夜にちゃんとお前は打ち明けてくれたじゃないか。怖くて逃げたのは、僕の方だ。」

熱い思いが溢れだし、海はリオンの胸に顔を埋め泣いていた。堪えてきた温かな涙、リオンがそれを優しくぬぐってくれて、そして大きな手で涙でくしゃくしゃな海の頬を包み込み、今までにないほど満たされた優しい笑顔をして。

「心でこんな風に呼び合うなんて・・・お前に触れてから、お前のことしか考えられなくて苦しかった。心を拒んでも身体は正直だな、お前のことが忘れられなくて、ますますお前に触れたいって、思うようになっていたら尚更お前しか見えなくなっていた。海・・・すまなかった、お前のことをさんざん傷つけて。だが、僕はもう逃げない。今度はちゃんと言う。

お前が好きだ。」
「エミリオ・・・!」
「ここまで来るのに・・・待たせてすまなかった。」

きっぱりとそう告げたエミリオの言葉に、これは夢ではないのかと海は嗚咽が止まらなくなり子供のようにわんわん泣いてリオンに抱き着いて、2人は身体だけでなく思いが通じあった気持ちにただ、ただもつれあうように激しく抱き合ってその深さに海はベッドに沈むも交わすキスは優しかった。

「こんな気持ちはね、初めてなの。」
「僕もだ・・・お前はいつも僕の欲しい言葉をくれたから。伝えてよかった。」

唇を離し見つめ合う先に誰よりも焦がれていた自分だけを見つめる真っ直ぐな紫紺の切れ長の瞳、顔にかかる黒髪、中性的で端麗な顔、低く甘い声。初恋の時よりも純粋に海はエミリオを愛おしく思った。

前の恋人の時も抱き合い見つめ合う瞬間はあった。しかし、こんなに満たされたことはなかった。ただ見つめ会うだけで涙が溢れて今にもひとつの個体にとけ込んでしまいそうな気持ちだった。

リオンと離れたくない・・・このまま他人を拒絶してきたのに、自分を受け入れ心を開いてくれたリオンと一緒にいたい。ふたりがひとつになってしまえばいいのに。そうすれば離れずに済むのに。海はリオンの腕の中で微睡みながらそう願った。

「海・・・僕はどんな言い訳を並べたところで数えきれない罪を重ねた咎人で、この手は穢れきっている。お前に触れるなんて、そんな資格はないとわかっている・・・だが、お前への気持ちに嘘などない。他人は信じられないが、お前だけは・・・信じてみたくなったんだ。」
「エミリオっ、私も、いつか私達がさよならだとしても、ずっと、ずっとエミリオのことだけを思ってるから。貴方の過去がどんなものだとしても、貴方がどんな咎めを受けていても、私が、ずっと、貴方の味方だから。これだけは忘れないでね。」
「海・・・」

ふたりは夢中で抱き合い、ベッドでもつれ合うように唇が腫れ上がるまで思いを確かめるようにリオンと夢中でキスを交わしていた。異性、いや人間という存在そのものに嫌悪していたリオンがこんなにも求めてくるなんて。お互いの思いが伝わる。なんて幸せなことなんだろう。

海はありのままの彼を受け入れ、夢のような時間を刻み込んだ。瞳を閉じて確かめ合うように2人はセミダブルのベッドで夜が明けるまで抱き合った。


To be continue…



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