「す、すみませーん!!」
古ぼけた丸木橋の向こうから呼び掛けると、子供たちの笑い声が聞こえてきて、扉を開けて出てきたのはリオンと全く同じ顔立ちの美しい女性だった。
「はいはーい!ちょっと待って、今手が離せないの……」
「ルーティ・カトレットさん、ですね」
嘗て、強欲の魔女と名を馳せ、ソーディアン・アトワイトのマスターとして、弟の死と父親の死を乗り越え、世界を救った四英雄の一人。
そして、最愛の人の実のお姉さん。
どうしたらいいか分からなかったが、取り敢えずにこり、ほほえんだ海に釣られてルーティもポカンとした後、すぐに駆けつけ、そして柔らかな笑みを浮かべた。
全くの初対面なのに、海からは懐かしい香りがした。
「でも、珍しいわね。あなたロニくらいの年頃よね?若い女の子が孤児院に訪ねてくるなんて。うちの孤児院かなり古いし、狭くて、ごめんなさいね、」
「いいえ、こっちこそ、急に押し掛けてしまってすみません。
でも、孤児院なのに、子供たちが少ないような」
「そうね、今、私の息子が子供たちと外に遊びに行ってるみたいだから、まぁ気にしないで!それで、私に話って何かしら?」
用意された紅茶に手を伸ばすと、ルーティがこちらをじっと見てきてお互いに顔を見つめ合う。
「ルーティさん、美人ですね…とても15歳のお子さんがいるようには見えません」
「なっ!いきなり何よ!そんな風に褒めて貰ってもあたし、何も出来ないわよ?」
よく見ればよく見るほどルーティの中には確かにリオンと同じ血が流れていた。
顔立ちもそうだが、本当に兄弟なのだろう、初対面ですぐに察することが出来た。
目の形や体型は違えども髪の色や顔立ちがそのまま似ている。
きっと、リオンのすべてを狂わせた父親も、リオンを産んで亡くなった母親もリオンと同じ端麗な容姿をしていたのだろう。
遺伝でこんなに美形な姉妹がいるなんて。世間はほんとに不公平だ。
「私、信じてもらえないかもしれませんがリオンと一緒に暮らしていたんです。約1年くらい、」
「なんですって?」
「それで」
本題を切り出した海、普通ならば絶対に信じないだろう。出て行けと、言われる覚悟で海は真相を口にした。
3年前のこと、あの人と過ごした1年間のこと、自分が異世界から来たことを…。
時々思い出しては言葉を詰まらせ、涙ぐんだが、ルーティは取り乱したり、疑うことなく聞いてくれた。
やっぱり彼女は血縁者だ、本来の優しさがとても伝わってくる。
「エミリオ・カトレット。リオンは私にそう、教えてくれました、そして、貴方のことも、みんな、みんなリオンから聞きました」
「あいつ、生きていたの?」
「そう、なんです。あの人はずっと望んでいました、ここではないどこかに行くことを、そして、私は傷だらけのエミリオと暮らして、エミリオのことを知りました、」
昔の彼女だったら殴りかかっていたかもしれない、でたらめだと、そんな筈などないと、だから、海はその証拠の極めつけとして一枚の写真を取り出した。
それを見せるとルーティが何かを感じたかのように立ち上がった。
「聞かせて、あいつのこと、」
「はい、」
海は今までのことをすべてルーティに話した。
まるで遠く、海の底で眠る彼へ思いを馳せて。
miss you
ー海の底からー
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