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MISSYOU

21

海とリオン。
ふたりの関係を例える言葉があるとしたら、それは一体なんだろう。
友達でもなく家族でもなく、恋人でもないのに。
一緒に寝るのに抱き合うことも唇を重ねることもなく、寂しさに寄り添うようにふたりの日々をただ共に過ごす。
きっとこの関係はリオンが元の世界に帰る時まで終わりもないのだろう。このまま平行線をたどるだけならば、考えなければならない事はいつも山積みで、そして考え事は尽きない、どうしたらいいのかわからないまま、またいつものように朝が来て考える間も無く仕事に追われてクタクタになって家に帰ってきてそのままベッドに倒れ込み泥のように眠るの繰り返しで。

外回りが嫌になるくらいの焼け付くような陽射しに海は思わず目を細めてしかめ面になる。ジリジリと焦がれた季節にまた普通の日常が始まって。繰り返すだけの日常を退屈に感じていたが、今は違う。過ぎ行く時を必死に焼き付ける様に日々忙しなく生きている。

この数ヵ月で目まぐるしく環境は変わった。いつの間にか半袖を当たり前のように着て、そして何よりも一番変化があったのかと答えるなら、紛れもなくそれはリオンの存在だろう。

恋を失い、あの浜辺でリオンに出会い、たくさんの傷を抱え喧嘩をしながらもお互い譲らない性格で度々衝突しながらも何とか一緒に生活を共にしてきて。気持ちは季節と共にまた目まぐるしい変化を迎える。

そして、また次から次へと悩みは尽きないものだ。
海はあの日のデート以来、海翔からの連絡を極力避けるようになっていた。たまに連絡が来るが当たり障りのない返信ばかりで。
返事をいつまでも渋るようなことはしたくないが、どうしたのか。何でも白黒つけてきた海がこんな風に宙ぶらりんのままでいて、友里にも誰にも言えないまま答えを出せないまま向き合うことから逃げていた。

分からないが、ただスマホの待ち受けを見る度にリオンのことを思い返しては彼が気になり何も出来なくなってしまう。恋なんて、もうしないと決めたのに。喜びよりも胸を貫かれるような激しい苦味と痛さが現実に引き戻す。
いま存在しているリオンは幻想なのだろうか、彼は死んだと言っていたが、しかし、戸籍もないこの世界にそれでも彼は確かに生きている。

「う〜ん・・・そろそろ、引っ越さなきゃなぁ、」
「何だ、古雅、引っ越すのか?住宅情報紙なんか読んで。家財保険の更新もうすぐだろ?」
「はい、ちょっと色々ありましたので・・・」

デスクでリオンの作ったお弁当を食べながら海は市内のアパートを取り扱っている情報誌を再度めくる。一緒に席にいた和之にそう聞かれて海は少しはぐらかすように答える。苦手な上司に恋愛のゴタゴタ話なんてとてもじゃないがしたくない。

「色々あったって何かあったの?まさかあいつからヨリ戻そうとか言われたの!?」

すると背中合わせで座っていた友里がいきなり大きな声で振り向きざまにそう言うものだから海は周りに聞こえると静かにしてと思わず振り向いた。

名前までは口にしないが友里にそう指摘され海は思わず言葉に詰まる。

「・・・ライン来たの。ブロックしたのは、あっちなのに勝手だよね。もう、あの人に会うつもりはないわ。私は・・・」

しまった、つい口を滑らせてしまった。勘の鋭いリオンにも気付かれないように必死に今まで隠して、内緒でラインをしていたのに。友里のハイテンションな声に圧倒されながら海は申し訳なさそうに和之からも目線をそらした。仕事の合間にそんな話をするなとまた叱られる。

「あんた、リオンに対してそれはダメよ!もし、家にあいつがおしかけて来たらどうするの!?」
「それは・・・」
「中途半端にするのがいちばん怖いんだから!プライド高いあいつを無視して逆上させてストーカーみたくされたら・・・ラインが来たって、困ってるから助けてってリオンにも言うべきよ?」

大丈夫と言い切ればいいのに友里の言葉通りにそうなるような気がしてたまらないのは。女はこれだから面倒だ、嫌な予感だけは、想像すると当たってしまう。

「そ、それは!そんなことリオンには言えないよ!他人の揉め事とかそんなめんどくさいの嫌がるってわかってるもん。他人事には巻き込まれたくないでしょう、今更やり直したいって言われてもヨリを戻す気はないし、家に来ないでってメール、しなきゃ」
「やめとけ、古雅。事情は知らないがその男のプライドを刺激するだけだぞ、」
「そうよ!あら!珍しくいい事言いますね!それに、この際、リオンに言っちゃいなさいよ!そんで助けてもらいなさい!」
「それは嫌っ、リオンだけには、・・・知られたくないのっ!」
「海」
「わた・・・し、っ」

突然、友里が口にしたリオンの単語に海は異様なほどの拒絶を見せた。ひきつったような声をあげるとそのまま慌てたように涙目で何も話せなくなってしまった。黙り込み今にも泣きそうな海の心情を悟り友里もおとなしくなる。ただならぬ雰囲気に助け舟を出したのは和之だった。

「知ってるんだろう、いつもお前を迎えに来るあのリオン?って子は、お前の過去の恋愛がどうだったのか。」
「はい、全部、知ってます。でも、だから、リオンには話せません。リオンに知られたくないんです」
「リオンが好きなんだな、それで迷惑をかけたくないと、」
「あら!」

ズバッと指摘され、海は否定もせず、静かに頷く。友里は海の姿に嬉しそうに笑顔を見せるが、海は笑顔にはなれなかった。
自分は確かにリオンを好きになっている。リオンを異性としてもうずっと前から意識し始めていた。しかし、リオンは自分を何とも思っていない事は明確であり、まして、元カレのことを忘れられなくて泣いていた自分が今はリオンが好きだと、それを知ればリオンはもっと自分を軽蔑する。

だからこそ、リオンには知られたくない、迷惑をかけたくない。それだけだ。リオンに過去のことを知られるのはどうしても嫌だが、何故こんなにも知られたくないのだろうか。軽蔑されたくない、面倒な女だと嫌われたくない、リオンに自分がどう思われているかだけが気がかりだった。

「思うんだけど、リオンは海の過去やそこまで気にしないと思うわ。他人のことなんか関係ないって感じだし。まぁ、あんたも頑固だから、あんたの好きにしなさい。あいつが来る前に引っ越しちゃえば?家探しなら一緒についてってあげるから、」

海の閉ざした真実。暴かれてはいけない、リオンのあの人を蔑むような見下した凍てつく眼差しを思い浮かべるだけで、それにまた撃ち抜かれたくなんてない。漸く、隣で安らかで無防備な寝顔で昼寝をするようになった、猫のように警戒心が強いリオンと時間をかけて邂逅を果たせるのが、また砕かれたらきっとまた絶望に支配された檻の中で何処へも行けない。

そう、答えは簡単。自分の過去を知ったリオンに軽蔑されるのがたまらなく嫌だったから。

しかし、昼間働いている間にもし自分が不在の間に彼が密やかにあのマンションに戻ってきたらどうしたらいいのだろうか。
海はそれが気がかりで午後の仕事にも全く身が入らない。もし来たらリオンに居留守をするか、知らない振りして引っ越したとでも伝えて追い返せと電話しておけばよかったと、悔やむがもう遅い。気の短いあの男の事。リオンが彼に殴られたり、悪く言われるなんて耐えられない。リオンにはなんの罪もないし巻き込みたくはない。外は夏真っ盛りの晴天なのに、海の心は梅雨空のように曇っていた。

「推進行ってきます、」

海は考え込むのを止めるようにペンを置き営業用のカバンを手に営業車に乗り込み推進という名のドライブに出かけた。
リオンにラインだけでもしておくか・・・いや、何故か躊躇う自分がいた。やはり性格なのかリオンにラインをしてもめんどくさいのか分からないがリオンはめったに返事をくれない。既読にはなるがそのままスルーされてしまうのだ。
リオンから返事が返ってこなかったらどうしよう。そんな不安に苛まれて、結局慌ただしさに身を任せていたらスマホの存在を気にしなくなっていた。引っ越してしまえば大丈夫。アドレスも、変えればいい。

昔から人と関わることを避けてきた自分だ、ただでさえ他人と暮らして気疲れしないかと聞かれたらあながち否定はしないが、何もかもがもう面倒くさくて投げ出してしまいたかった。
楽観的な考えなど持ち合わせていない、いつも自ら遮断してきた、抱え込むことしかできなくて、いつも、どうしたらいいか戸惑っているのに。
さらに対処しきれない問題が山積みだ。

「(リオンに相談したって、無駄よ、無駄無駄。私のことなんか、どうだっていいんだから。私のことはおせっかいな女だって思ってる。所詮、他人なんだから。)」

簡単に身内を殺す時代だ。ならば他人なんかなおさら簡単に信じられるか。小さく口にした言葉は誰に聞かれることもなく。海は急に振りだした夕立が大地を濡らして行く光景をただ、ぼんやり眺めていた。
嫌な天気だ、さっきまで晴れ渡っていたのに。このまま自分の不安が的中しなければいいのだが。

***


「降ってきたか、」

降りしきる夕立を見上げてリオンは急いで立ち上がるとベランダに飛び出し干しっぱなしの洗濯を次々放り込んだ。どうやらこの生活ですっかり家事が板についたようだ。今ならマリアンの苦労がわかる、いつもこうしてマリアンが身の回りの世話をしてくれていた。
最近海に買ってもらったスマホで情報を簡単に収集することができるようになり、気晴らしが増えたことで前より穏やかな生活に満たされるようになった。
剣を振らない、相手に軽い蹴りを見舞うだけでこの世界は簡単に犯罪者になる。命を奪う武器などもっての他だ。
理解していなかったあの頃よりも馴染みだしたこの世界はあの世界よりも確かに不自由もなく自由だが、何よりも胸に開いた穴は埋まらなそうだった。

すべては海のおかげであり、彼女には言い尽くせないほど世話になっている自分。
最初こそ衝突はあったが、今は何事もなく、時々互いに皮肉を交わしながらも戦いから退き今は誰も自分を知らないこの世界でのんびり平和な生活を送っている。

まさか自分が剣を振るわないでこうして見ず知らずの女と暮らしていると昔の自分が知ったらどう思うだろうか。
本当の愛の意味も知らず、恋情を抱いたこともない自分が。

ただ、今は、この生活が安らぎであったといつかは知るのだろう。いつかは、去らねばならないこの世界をやっと慣れてきたこの世界を。

仕事が終わるまで時間はまだあるが確か海がショッピングモールで買い物がしたいと言っていたから今日はどこかで外食でもするのだろう。そう考えながらリオンは傘を手に早めに家を出ることにした。
海と出会ったあの凍えそうな寒さから気が遠くなるくらいに今は湿気を含んでジトジトしている。
そう言えば気づいた時には海が飾っていた元彼の写真や思い出の品が全てなくなっていたことに気づく。永遠に元カレの帰りを待っているのかと思っていたが、彼女なりに前に進もうとしているのだろうか。

悩んでいても仕方ない。リオンに早く会いたい、会ったらまたあのそっけない笑みで年下の彼にバカにされるに違いない、だが、それが心地よかった。リオンが少しでもこの生活で穏やかさを取り戻してくれるなら、バカでもいいと海はひたむきにそんなことを思った。

「リオーン!」

7月も半ば、夕方過ぎでもすっかり辺りは明るくなった。急いで仕事を片付けてリオンが待つ電柱まで小走りで駆ける海にリオンはにこりともせずスマホを手にこちらに歩いてきた。スマホを触るならラインも返事を返してくれればいいのに。

「あれっ、傘?」
「さっき夕立が降っただろう、予報で出ていたからな。」
「あぁ、そう・・・」
「おい、その口を閉じろ。みっともない」

普段からぼんやりしているがいつにもましてさらに海が上の空な気がした。
元から人や周囲の空気に敏感なリオンが気づかないわけがなかった。海が最近夜な夜な眠れないと口にする回数は減る気配がないし、何よりスマホを気にしたりして、海に自覚はないと思うがいつもよりも何かを秘めているのは明らかだった。

「今から行くんだろう。」
「えっ、どこへ?」
「・・・お前な・・・朝に今日はモールに行きたいと言っただろ、」
「あっ…そうだったね・・・ごめんごめん」
「何だ、顔色が悪いな、」
「わぁ!あ、あんまり見ないで・・・」

しかし、海は本当にモールに行く予定を忘れていたらしい。困惑する瞳にやや斜がかかり、リオンはなんの意味もなく訝しげに覗き込んだ。すると、急に人形のように整ったリオンの鋭く意思の強い不思議な深い瞳に見つめられ、恥ずかしそうに海は真っ青な顔から一転、一気に赤いリンゴのように染め上がった。

「何だ、急に」
「何だって・・・はっ、恥ずかしい、の!」
「はぁ・・・誰が好き好んでお前の顔を見るんだ」

小学生でも、まして彼女は自分よりもかなりいい年をした妙齢の女性なはずなのに。赤らんだ頬を隠しながらリオンに背を向ける海。海も海で混乱しており、どうしてこうなっているんだ、これではリオンを意識しているみたいじゃないか。年下で、わがままで、皮肉屋で、辛辣で上から目線のそっけないリオンに。いい所なんかひとつもないのに。
しかし、彼の欠点を探せば探すほど、リオンから目を離せなくなっている矛盾は日に日に大きくなって、そして自覚してしまったのだと感じた。
むしろ、好きにならないはずがない、彼のことを知れば知るほど。

「モールにも行くけど・・・あと・・・急なんだけど、来月までには今住んでるマンションから引っ越そうと思うの。その物件も見に行きたいからさ、」

しんみりした空気の中を歩く。やはりリオンの言う通り空はどんどん淀んで今にも雨が降りだしそうなほどの曇天だ。ためらいがちに口にした海だが、リオンは海の今の異変を察してか特に驚きはしなかった。

「また急だな。何があった?」
「べ、べっ、別に、深い意味はないけれど。気分転換だよ。海沿いのマンションも魅力的だったけどね。家賃が払いきれないの。それに、もう、早く忘れたいのよ。」
「あんなに泣いていたのに、もう過去にするのか。」
「過去になるのかな・・・、私だって、忘れたくないよ・・・けど・・・」

確かにリオンを好きになっている自分がいる。元彼ではないリオンを意識してしまったから。しかし、そんなこと、とても本人には言えやしない。

「いいな、この世界は。消耗品みたいに寂しさを紛らわす為や金のために色恋で付き合う人間もいるもんな。そして、人を、簡単に忘れて次から次へと・・・キリがないな」
「っ・・・」

人は必ず何かに執着する生き物だ、死ぬ間際に生を渇望しない人間など居ない、

「そうリオンは言うけれど、誰にだって忘れたくて、消し去りたい過去のひとつやふたつくらいあるよ・・・それを乗り越えるにはやっぱり新しい恋を、人はどうしても、1人では乗り越えられないから・・・ね、リオンにも忘れたい過去とか、あるんでしょう。」

マリアン、そう、いつも、いつだって心を占めるのは愛しいマリアンの笑みだけ。
彼女の笑顔を思わない日などない、だからこそ、簡単に過去にして忘れて新しい世界へ進もうとしている海はリオンにとって異質だった。
簡単に忘れてしまえるなら、今の自分はない。海の存在はリオンの心境に確かに微々たる変化を植え付けていた。

家に着きそのまま駐車場に普段停車してある車にふたり乗り込んだ。普段運転しない分、たまに運転しないとやはり落ち着かない。車を走らせながらしばらくするとあの桜並木がある川沿いを通りすぎた。

「綺麗な桜だったね、」
「散ってしまったな。」
「桜は、儚いよね・・・あっという間に咲いて、あっという間に散ってしまうんだ。」
「そうだな、」

まるで自分の恋のようだ、そう自嘲しても虚しくなるだけなのはわかっている。
無意識に悲しい表情をしている海の横顔をリオンは何も言わずに見つめていた。
車を走らせ辿り着くとアパートが立ち並ぶ静かな住宅街だった。

「ここが、友里ちゃんに教えてもらったアパートなんだけど。この建物の2階だからこれから窓開けて寝ても大丈夫だし、リフォームしてあるからすごく綺麗なの。お屋敷にはかなわないかも・・・だけど、」
「これ、まるごとか?お前がいいなら、任せる。」
「あの・・・申し訳ないけど、パッと見お屋敷に見えるけど、私たちが住むのはこの建物の中の一部だけなんだよね・・・」

外装だけだが自分には何も口出しする権利がないことなど重々承知している。思った通りだった、リオンはこの建物自体に住むもんだと言う素晴らしい勘違いをしていたのだから。すまなそうに彼にこのアパートの間取りを見せると案の定、リオンは驚きに目を見開いた。

「何?僕の部屋くらいしかないだと!僕の部屋も狭い方だが・・・こんなに狭い所に住むなんて・・・」
「し、仕方ないじゃない、前のマンションが立派すぎたのよ。2LDKなだけまだましでしょ?」
「信じられん。あのマンションの狭さにも驚いたがあれよりも小さい家もあるのだな。」

純粋なリオンの感想が金持ちの坊っちゃんらしいくらいに庶民を無意識に見下しているようで海は思わずその憎ったらしい頭を叩いてやろうとすら感じた。しかし、三ヶ月も一緒に暮らしていてだいたいはリオンのひねくれた性格をわかっているつもりだ。

「リオンの常識じゃ考えられない世界でしょう?」
「そうだな」
「間取りで驚くかも、だけどお風呂もトイレも別だし、ね」
「此処しかないんだろう。お前ひとりの稼ぎなんてたかがしれてるから仕方ないか」
「リオンは客員剣士になってどのくらい稼いでいたの?」
「両手で足りるか足りないかくらいだ。興味がなかったからな」
「ぇえっ!し、信じられないっ!プロ野球選手並みじゃない!」
「国に仕えるんだぞ、それだけの危険も伴うからな。」

あっさり給料の額を知らしめたリオンに海は頭が上がらない。それならばこんな2DKの部屋などリオンが驚くのも無理はないだろう。しかし、若干16歳で国の特別な剣士としてしかも、次期将軍の座にまで推挙されていたなんて。それならせめてその現金も持ってこっちの世界に来ればよかったのに。
刃物を所持していた犯人を簡単に打ちのめした身のこなしといい、リオンはいったいどんな評価をされていたのだろうか。
そして、そんな、国からも多大な期待を寄せられていた彼の約束されていたはずの未来が、何故彼を裏切りと言う結末に変えたのか。

彼の意思で国を裏切り世界を敵に回したなんてとても考えられなかった。きっと彼も何か隠している。しかし、海はリオンが今までどんな生活を送ってきたか干渉しないとあのときは言ったのに、気になっている矛盾を抱く自分が居ることに気付いたのだった。

「もう少し探そうか、せっかく引っ越すなら妥協したくないよね。リオンも一緒にどんな物件がいいか、」
「そうだな・・・」

モールで買い物と食事を終え、マンションに到着すると、海が重たそうに持っていた荷物をリオンが奪うように持ち出した。

「ありがとう、」
「珍しく素直だな。」
「むっ!いつも素直だもん。」

指摘されてリオンはそう言えば初めて彼女の為に自ら動いたことに気付いた。不器用で素直じゃないお互いが少しずつ築き出した信頼関係は確かにあった。どちらともなく会話が途切れ、見つめあう。改めてみる顔つきや生活も全く異なるふたりの奇妙な共同生活はこれからも変わらずに続くと。


そう信じていた。

「海「海!!」
「え・・・?」
「海、久しぶりだな」

リオンの荷物を分けあおうと伸ばした海の手を掴んだのは。雨がやみ雲が流れ月明かりが映し出す表情に声をなくした海、そこにいたのは紛れもなく、半年以上前、急に別れを告げその行方すらくらましたかつての元カレの姿があった。


to be continue…




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