Prologue



プルヌス=ピロンの朝は少し忙しい。
一緒に暮らしている誰よりも早く起き、手早く着替えて朝食作りに取りかかる。同居人たちは朝の日差しと朝食の匂いに釣られて起きてくるのでわざわざ起こす必要がないのが救いといったところか。

朝食後に食器を洗浄機にガチャガチャと突っ込み、同居人と言い合いをしたりしなかったりしつつ身支度を整える。
目にかかる前髪をピンで留め、タイを絞めてから上着を羽織る。鏡を注視し柔和な表情を意識して造る。最後に声を整えて準備完了だ。
同居人たちは今日は少し遅めに家を出るらしく、ここで数時間のお別れになる。


同居人たちと一応の挨拶を交わし、彼女は他人の名前で籍を置く会社へ赴く。




Umpire総帥アマリーに負け、彼のもとで生活を送りながらも彼女は以前と同じように他の会社に勤めていた。

彼女自身は敗北を喫し、相手の欲しいものとして自分自身を挙げられ、なりゆきで同居することにまでなってしまったために四六時中彼と行動をともにしなければならないのだと思っていた。しかしそう思っていたのは彼女だけだったようで、アマリーからはできれば以前通りに勤務していた会社に通い続けてほしいと言われた。曰く、外部に属する手駒があればいざというとき便利なのだとか。
周到さに少々げんなりしながらもプルヌスはその言葉に甘えて会社に今まで通りに通っている。四六時中彼と一緒にいなければならないよりは心休まる。おそらく盗聴器や発信器などをどこかに忍ばされているのだろうが、それをいちいち気にするのも面倒だった。


そして会社に到着しても彼女は大変だ。
少々うっかりやな面を除けば優秀な部類に入る彼女なので、仕事はあまり問題にならない。普通に仕事が忙しいのならばまだしも、男として過ごさねばならないことのほうが問題だった。女よりも男のほうがより根深い位置に入り込めるのでこうして生活しているが、その分ばれてしまうと厄介なのである。

実を言うとプルヌスという名前だけはうっかり口を滑らせて後輩の一人に割れてしまっている。口止めはできているし、性別はまだばれていないがこれ以上ミスをするわけにはいかないと彼女は気を張っていた。まあ、気を張りながらもどこか抜けてしまうのが彼女なのであるが。


そうして彼女は少し忙しい朝から始まる日々を歩き続けていた。





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