どうしよう。

傍らに置かれた鞄を見て彼はぐうっと顔をしかめた。鞄の中には布をぐるぐる巻きにして雑なガードを施された石板が数枚入っている。



ある日、自宅の掃除を手伝わされて仕方なく広い書斎を整理していたときに見つけた古く汚れた本。棚を拭くために適当に出して積み上げていた本の塔が崩れて、その中に混ざっていたものだった。
舞い上がった埃に咳き込みながら破けていないか、古い本だし高いのかもと思って拾い上げた。気になってぱらぱらと色んなページを覗いてみればどうやら昔の文字に関するものらしい。読みやすいとは言い難いが、ご丁寧に解説までついていた。親戚の不要になった本まで詰め込んである書斎だからとにかく色々なジャンルの書物があるだろうとは思っていたが、こんなものまで紛れ込んでいるとは。把握していないが親類に考古学者や言語学者でもいたのかもしれない。

もしかしてと思い書斎整理後に本を持ち出した。
昔の文字といえば自分たちの間ではあの石板の他にない。そして、『もしかして』はおそらく正解だったようだ。
仕事用の共用倉庫に保管していた石板の文字に似たものが本に載っていた。


解読して相棒に少し目に物見せてやろうと意気込んだだけなのに、いつの間にか石板を持って逃亡生活を送っていた。本当に気がついたらこうなっていたのだ。
家からも仕事場からも離れた後に残るのはぐるぐる渦巻く家族や相棒をはじめとした知人に何も言わず出てきたという後悔の念と、自分の行動への疑問だった。

解読作業がある程度進んで文章が何となく把握できるようになったところで背筋が粟立つような感覚を感じたことは覚えている。そして唐突にこれは駄目だと感じて、急に人目に晒すまいという決意が降ってきた。我に返ったときにはもう遅く、ろくな装備も持たずに家を飛び出していた。金と仕事道具の一部だけは手にしていたあたり我ながらちゃっかりしているなというか。
はっと気がついたときには解読したものを書き留めた紙切れを燃やしてしまっていて、黒い煤しか残っていなかった。本当、どういうことなのだ。


彼は自分で自分が分からないなかで、とりあえずこの石板は廃棄してしまおうと考えていた。
だって得体が知れなくて怖いから。誰の目にも留まらないようにするなら粉々に砕いて海にどぼん、とかだろうか。まだ言うほど遠くに来たわけじゃないから海なんてまだ先だなあ。

はあ、ここからどうしよう。


Prologue?



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