「…………」
「僕の勝ちですね」

赤と青。
楽しそうににまりと笑う彼と冷や汗を垂らして顔面蒼白な彼女。

どこまでも対照的な光景であった。


「アンタ何なの…ジブンのが絶対有利だったのに…イカサマか…」
「ご想像にお任せします。でも勝負は勝負ですから」
「チッ」
「ところで、欲しいものを挙げてもいいですか?」
「…好きにすればいいわ」



Sequel



「ラジ兄さん蘇生おめでとう!」
「俺死んでないけどありがとー」
「せめて生存だろう」
「…うん、エレムちゃんもフォローになってないかなぁ」


彼が運びこまれて二週間以上。
彼がいなくなって一週間以上。

運び込まれた彼、グラジオラスの意識が戻ったようだ。
意識が戻ったとはいえ傷は塞がりきっておらず、いましばらくは絶対安静という状態である。だが、それでも構わず目が覚めたとの報を聞いたリリスはエレムルスを引っ張ってすぐさま彼の病室を訪問したのだった。

「蘇生でも生存でもこの際もういいけどぉ…あの性悪兄はどうなってるのリリスちゃん」

女子二人の大げさな物言いに少しへこみながらもグラジオラスはベッドから半身を起こして病室の扉をちらりと見た。アマリーがいなくなった云々の話は先ほど彼女らから説明を受けたばかりだが、事情の呑み込みは完璧に済んでいるらしい。

アマリーは突然行方を眩ませて家族も周囲も散々混乱させたかと思えば、いなくなった翌日にひょっこり連絡を寄越してきたらしい。しかも公衆電話やどこかのホテルの電話とかではなく、普通に自分の携帯から。
本人曰く「やりたいことに集中したかったから街中のホテルに閉じこもってプライベート用も仕事用も全部携帯をオフにしていた」のだという。心配した側からすれば迷惑な話であるし、これには妹のリリスも怒った。不安で涙まで流した分反動が来たのかもしれない。
その上すぐに戻って来いと電話口で喚いても「悪いけどもうしばらく帰らない」と返される始末。このためにかなりの仕事を前倒ししたのだからゆっくりさせてもらうとの弁だった。一応それ以降も電話やメールのやり取りをしてはいるが、ここしばらく彼は姿を見せていない。


「さっき言った通り電話とかはするけどさっぱり…あ、でもラジ兄さんのこと教えたら面見て笑うために今日お見舞いに行こうかなって言ってたわ。だから私も今日来たんだけど!心配かけた罰としてとっ捕まえて色々付き合わせてやるわ!」

「まったく心配かけてねえ。利き腕骨折すればいいのにあいつ」

「……お前は相変わらずだな」

毎度の喧嘩のときのように笑顔で吐き捨てるラジを見てエレムルスはある意味関心したように呟いた。
呟いたのちエレムルスは病室の扉を見て「…廊下が少し騒がしいな」と首を傾げた。




彼と彼女は病院の廊下を歩いていた。

何やら話をしながら歩いているようで、彼女のほうは不満げな顔をしている。


「っていうか、もう携帯複数持ってたのに今回ジブンをおびき寄せるタメだけに新しいの買うとかバッカじゃないの。お金が勿体ない!」
「携帯なんていくつ持っていても困らないしいいじゃないですか。今回買ったのは貴方専用ということで」
「…嬉しくない」
「はいはいとりあえず到着しましたよ」

目的の部屋に着いたらしく、彼は「失礼します」と病室の扉を静かに開けた。
扉の横に下げられている入院患者の名前を記すプレートには、グラジオラス=ガーシュウィンと書かれていた。



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