Dialog


「し、」


パーキンが立ち去った数十分後。
リリスは普段アマリーが使用しているデスクに陣取り、机上一面に広げた書類を見てむむむと渋い顔をした。

「仕事が、ない」

仕事がないという彼女の発言に首を傾げたり不可解な顔をしたりする秘書二人にリリスは「サボってるわけじゃないわよ」と口を尖らせた。そしてもう一度同じ台詞を繰り返す。

「仕事がないのよ。本当にないの」


「今日の分はもちろん、明日もその先の分も全部前倒しにしてあるの。先手を打ってあるみたいに。…アマリーじゃないと片付けられない分だけだけど」

それは結局仕事があるということではないだろうか。






Umpireから数キロばかり離れたハイグレードなホテルの前に一台のタクシーが止まった。
パーキンはタクシーから降り、運転手に礼を言う。走り去る車に背を向けて手に持った携帯の画面を確認した。

画面に表示されているメールの文面にあるのは確かにこのホテルの名前だ。



Umpireから退散する最中にかかってきたアマリーと思しき人物からの電話は短い時間で終了した。

今どこにいるのかという質問にまだUmpireの中にいると伝えると、『誰かに聞かれたら面倒そうですし、すみませんが一旦外に出た後で他の場所からかけ直してもらえますか?』という提案が返ってきた。首を傾げながらも特に断る理由もなかったパーキンはそれを承諾した。
Umpireのエントランスを出てしばらくあるいた後自社Devourに戻るのが遅れるという旨の連絡を入れ、近くの空いていた喫茶店に入店してから履歴に残っていた番号にリダイヤルした。

喫茶店内でいくらか問答を重ね、電話の相手はアマリーで十中八九間違いないと判断したパーキンは核となる質問を投げた。


「ところで、今どこにいらっしゃるんですか?…というか、どうして行方を眩ませたりしたのですか?」


答えを引き出すのに時間がかかると思っていたのだが、通話相手は拍子抜けするほどあっさりととあるホテルの名前と部屋番号を教えてくれた。そして話したいことがあるから手間をかけるがそこに来てくれと続く。
調べれば分かるだろうが一応詳細を送るとの言葉の後に通話が切れた。そして数分後には先ほど聞いたホテルの名前と部屋番号が綴られた文面に、丁寧に地図まで添付したメールが送られてきたのである。



ホテル内に足を踏み入れ、受付で文面にあった部屋を尋ねると従業員から承っておりますという言葉と営業用の綺麗な笑顔が返ってきた。

部屋の前にたどり着いたパーキンは案内してくれた従業員に礼を言った。一礼して立ち去った従業員が完全に見えなくなったのを確認して扉をノックする。「どうぞ」と数十分前電話越しに聞いていたのと同じ声が聞こえたのでドアノブを捻って扉を開いた。


「ようこそ。お待ちしていましたよ、プルヌスさん」

「…どうも」


部屋の中で厚めの本を読みながら待ち構えていたアマリーは、にっこりと笑って彼女にそう言った。


2012.03.10
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