それから代表の青年はまだ治りきっていない体を押して駆け回りました。


―試合で負った怪我の手当てをする人が必要だ―


青年はまわりにそう訴えて署名を集め始めました。
集めた署名はUmpireへ意見書として提出するつもりでした。

けれども、まわりは渋い顔をしてためらう人ばかり。今までそんな役目はなく、医学的な知識を持っている人もろくにいなかったからでしょうか。
まだ若く、経験も浅い青年の意見を聞き入れにくかったというのもあるのかもしれません。

新しくTracerのリーダーとなった彼女は、何も言えずにいました。
今自分が代表の意見に同調しても、先代を亡くしたから躍起になっているのだろうと思われる気がしてならなかったのです。
躍起になっていないと言えば嘘になるかもしれませんが、彼女は怪我をした際に対処できていれば死なないかもしれない誰かに命を落としてほしくないとも思ったのです。



そんな彼らを見ている二つの影は言います。

『二人とも甘いわね』

『まったくだね。理想だけを叫んでも物事は動かないよ』

『利益が大事よね。数学は嫌いだけど』

『それが分かってるならちゃんと勉強すればいいのに…』

『嫌よ、面倒だわ。でも手当てする人っていてもいいかもね』

『死人が出るのもそれはそれで面倒なんだよね。ちょっと前に死んだ人の遺族から慰謝料の請求がうちに来たの、覚えてる?』

『ええ。…嫌よねぇああいうの』



ある日、Keeperの代表とTracerの代表がUmpireの総帥に呼び出されました。

総帥の傍らには彼の子供である双子の兄妹が控えています。


総帥は、試合等での怪我の処置をする役職をKeeperとTracer双方に設けてもいいと言いました。


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