「「それは、十数年前のことでした」」





War Gameで負った傷の応急処置・治療をする役割がまだ置かれていなかった頃の出来事です。



当時のKeeper代表は先代からの役目を継いで数年目。
ようやくゲームの駒として戦うことに慣れてきた若い青年でした。先代の急な不幸によりろくに経験も積めぬまま若くして代表の座に就いたため、肩身の狭い思いをしていたそうです。

その一方、Tracerのリーダーを務めていたのは戦い慣れたベテランの戦士。
少々年を重ねてはいましたが長きに渡ってリーダーを務めた実績、わけ隔てない性格、数々の戦歴から敵味方を問わず信頼されていました。彼の後を継ぐ予定の娘も戦闘センスに優れ、期待されていました。

Tracerのリーダーは経験の浅いKeeper代表にも、形式上は敵である立場ながら戦う上でのアドバイスをしてやることがままありました。
年若い代表の青年はそんなリーダーを慕い尊敬していましたし、リーダーも娘と同じ年頃の代表を実子のように可愛がっているようでした。


そんなある日、代表とリーダーが一対一で試合をすることになりました。


試合をすることになったと言っても、二人が試合をすることは特に初めてではありません。War Gameでの対戦の組み合わせはランダムですし、今まで個人戦でも団体戦でも手合わせをしたことがあります。
毎回経験の差、とっさの判断の差で青年が敗北を喫していました。青年は敗北を重ねこそしていましたが、幸い深刻な怪我を負うことはありませんでした。

その日の試合の結果は予想外なものになりました。
代表の青年が、初めてリーダーに勝利したのです。

試合の様相は泥沼と表現しても差し支えのないものでした。
バトルフィールドでの作用もあったのでしょう、代表もリーダーもどちらもボロボロになっていました。代表のとっさの攻撃が決め手となって試合は終了しました。試合の後に代表とリーダーのどちらも倒れて、近くの病院に運ばれました。

医療系の役職もなく、搬送することに必死だったまわりの人々は応急処置をしていませんでした。珍しいことではありません。


数時間後、リーダーは息を引き取りました。


医者が言うには、応急処置がなされていれば助かる確率が高かったそうです。

翌日に目を覚ました代表の青年は、それを聞いて何を思ったのでしょうか。
青年は戦闘に長けているわけでも、力があるわけでもなく、それまで彼が経験した試合では死者は出なかったそうです。
初めて自分が負わせた傷で誰かの命を奪った代表は、何を思ったのでしょうか。




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