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黒いスーツに身を固めた追手が放った一発の威嚇射撃が、スピリットの左耳を飾っていた翡翠のピアスを背後から撃ち落とした。 「ッ!・・・・・・・・・」 フェンスの編み目を掴んでいたスピリットは、自分でも驚く程ゆっくりとした動作でフェンスから手を離す。 そしてそのまま頭の後ろで手を組んでから追手が撃って来た方を振り返る。 「!?・・・」 背にしていたその正面を見れば、其所には同様に黒いスーツを着た追手が数十人、まるで待ち伏せして居たかのように立っていた。 「さて、今回スピリットさんが此方に支払って頂く金額は口座からでは少しばかり足りませんでした・・・ですから、直接回収しに参りましたわ」 スピリットに向かい、穏やかに言うのはリリス・ノート本人だった。 War Gameから一時間も経っていないとゆうのに、主審を勤める彼女の登場にスピリットは一瞬ためらう。 照明器具など設置されていない路地裏の暗がりに浮かぶリリスの艶やかな青色の髪が、もうじき夜が明けることを知らせる冷えた空気の中に栄える。 「大手、やっぱりリリスの勝ちか…つまらないなぁ」 モニター室の片隅に置かれた小さな画面が映し出す路地裏の映像を眺めていたアマリーが呟いた。 「チェックメイト、ですね…では、お支払いの方をお願いしましょうか」 笑みさえ浮かべて言うリリスの声色は、酷く冷めざめと澄んでいた。 War Gameを観戦していた時の、画面で見る彼女の方が、暖かみのある笑顔を見せていた気がした。 その表情を眺めて。 −あぁ、そうか。俺は遊ばれて居たんだな。 対峙していたスピリットは直感した。 その圧倒的な存在感を見せ付けられたスピリットは、一回深く呼吸をしてから口を開いた。 「・・・だが生憎負けを補える金は無い。この程度では、足りんだろう?」 頭の裏で組んでいた手を降ろし、スピリットはポケットに押し込んでいた札束をリリスに向けて投げ渡す。 放り投げられた札束は紙吹雪の様に一枚ずつ綺麗に舞い散ってしまい、リリスへと届くことは無かった。 「貴様!」 三発。 挑発に乗った三人の追手が、別の角度から各々が一発ずつ銃弾を飛ばした。 放たれた銃弾は舞い散った紙幣の三枚に穴を開けただけでスピリットを傷付けはしなかった。 「殺気立たないで頂戴、みっともないわね」 リリスは極めて冷静に、静かに良いながら許可無く発砲した部下達を一人ずつ一瞥する。 それだけでリリスが従える部下全体の温度が下がると、スピリットは心で舌打ちをしてリリスだけに集中する。 内心、挑発すれば追手達が騒動の引き金になると踏み、その隙を狙っていたスピリットは、リリスの一言で冷静に統括される追手達が誤算だった。 「今日はツいてねぇみたいだ」 自分に向けた嘲笑か、口元に笑みを作りスピリットは言う。 「そうですか、それは残念でしたわね」 相変わらずの余裕で、リリスは応える。 「ですが、お支払い頂かないと此方としても困りますの、そうね、良いお医者様なんかを教えてあげましょうか?」 リリスは瞳を煌めかせ、鋭い視線でスピリットを眺めて言う。 「待てよ、純白でもねぇ野郎サバいたって金に成るか、知れてるだろ?」 「あら、それ以外に何かメドでも有るのかしら?」 リリスは上目使いで楽し気に会話を振って来る。 スピリットもなかなか、完全に引き際を失った緊張状態に痺れていた。 そして、未だ曇っていない隻眼で相手を見据えスピリットは応えた。 「それならどうだ・・・俺を雇え、問題は無い損はさせないさ」 数時間前、ポーカー・ハンドを披露した時に似た高揚感と、War Gameで全てを賭けた時に似た爽快感を、スピリットは今確かに感じていた。 「貴方、正気なのかしら?」 リリスも思わぬ応えに一瞬目を見開いた後でクスクスと笑い始める。 スピリットは構わず続けた。 「全く。最初の一発こそ見事だが、視界に邪魔でも入ったか?この散らばった端金に目が眩んだか?一人一発の発砲とはいえ、三人も使って次の威嚇は外れだ、その点俺は」 スピリットは良いながら、シャツの胸ポケットから素早くハードダーツを取り出すと、ダーツの矢は夜明け前の暗がりの中を銀に煌めいて最初の一発目、翡翠のピアスを打ち抜かれた追手の拳銃を撃ち落とす。 「なかなかだろ?」 「確かに良い腕をしていますね、スピリットさん」 一気に殺気立った部下達が、今度は男の声で姿勢を正す。 部下は道を開け、その男が通りかかる度に頭を下げていく。 その光景が意味する物。 その男は鮮やかな赤い髪を優雅に靡かせて、スピリットの前に登場した。 「アマリー!来てたの」 「まぁ、何か物騒且つ楽しそうだなぁと思ってね、やっぱりこれは直に見ておかないと損でしょう、それに、良いもの見れましたし。ね。スピリットさん」 カジノのを取り仕切るボスが。とうとう目の前にやって来た。 スピリットは目を合わせて笑顔を見せるアマリーに、遂に自分の持ち合わせる運が尽きた事を実感した。 「・・・総統のお出ましか・・・」 半ば、笑えない冗談混じりに手術台が脳裏をよぎった。 「やぁどうも、Umpire総統のアマリーです。ふふ…逃げようとした挙げ句雇ってくれだなんてかなり良い度胸ですよね、スピリットさん。その度胸に免じて失態はチャラにしますから、せいぜい良い働きをして下さいね」 アマリーの言葉に、スピリットの熱された血の気が失せ、一気に脳がクールダウンされるのが良く分かった。 その中で、命拾いした。など其だけでは無いもっと複雑な感情が渦巻いてもいた。 スペードのエースを前にジョーカーを手にしているとは、全く烏滸がましいか。 そんなことを思い流して一呼吸。 置いた後でスピリットはアマリーに応えた。 「嗚呼、交渉成立だな…宜しく頼みます、総統。なに、確り働かせて貰いますから心配には及びません。」 未だ街は深い眠りの中に有る。 しかし霧が立ち始めた夜明けがこの路地裏にも訪れていた。 太陽が昇り始め、光に照らされ消えていく暗がり。 遂に路地裏に残された物は、無造作に散らかる紙幣の群れと、壊れた翡翠のピアスが一つ、フェンスの向こう側に転がるだけだった。 -Act the end-
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