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ずっと考えていました。 或日の日常と。 秘書を希望した就職理由。 そんな物語です。 都心部の夜明け前は郊外に比べ、独特な静けさを持っていた。 深夜が過ぎ、太陽がすぐ其所まで迫っている時間帯。 街は未だ眠りの中に在り、大通りさえ車や人の姿は無く、沈黙を守っている。 スピリットはそれでも着実に近付いて来る太陽の気配にうんざりとしながら、色の濃いサングラスを掛け直す。 大通りによって二つの通りに隔てられたビル群を繋ぐ歩道橋の真ん中で、スピリットはダークブルーのブリーフバッグを片手に、サングラスによって人為的に明度を落とした一際暗い夜明け前の街を一望する。 既に良く知り、住み慣れてさえいる街。 スピリットは改めて見渡してから。 この街には案外、可愛げというか流れている時間の雰囲気に穏やかさが有るものだと感じていた。 思い返せば、たった一つ。 ほんの僅か、運が悪かっただけのこと。 その所為で今スピリットは此処に居る。 今よりも暗く、騒がしく、混沌とした街の中で、スピリットは嘘を纏って生きていた。 他人を装い他人を謀り、その中で手にできる全ては余りにも不安定でいて、それだけ魅力的だった。 カジノは夜と共にその姿をより華やかにさせて人々を引き寄せる。 あの日も。 ネオンの光りと人口密度の熱気で蒸された地下に広がるカジノの一角では、4人がディーラーを交え一つのテーブルを囲みポーカーで盛り上がっていた。 「・・・代わり映えしないなぁ・・・」 その様子をモニター越しに眺めながら、アマリーが呟いた。 「ねぇアマリー、あの目に悪いのは?」 アマリーが座る椅子の肘掛けに腰を下ろし、同じくモニターを眺めていたリリスは、人差し指でモニターに触れて、紫の髪と緑の瞳が画面上に見栄えしている一人の男について言った。 「あぁ彼はスピリット・O・ミリバール。近頃ランクが上がってきたみたいでね、最近になって地下にも度々顔を出してきてるんだよ」 「そうなの、初めて見たけど良さそうね」 「ふふ、彼の運もそろそろかな」 リリスが何かしらをスピリットへ抱いたことを察して、アマリーはギャンブラーにとって不吉な言葉をモニターへ投げ掛けた。 そんな事など知らず。 スピリットは盛り上がるポーカーの終盤。 巡って来たカードを自信有り気にプレイヤー達に見せつける。 テーブルに放り出された5枚の手札。 それはスペードで構成されたロイヤルストレートフラッシュ。 「今回も上乗、楽しかったよ」 勝ちを決めたスピリットは散りばめられたチップを一人で掻き集めてから、ディーラーが用意した札束を掴むと、テーブルを外れ地下のフロアを後にする。 「彼、結構強いのね」 「気に入ったのかい?」 「一回遊んでみたいわね」 「程々にね」 「アマリーだって、退屈は嫌いでしょ?」 「そうだね、今回のゲームも何か面白いことが起これば良いのにとは思うよ」 アマリーは言って複数有るモニター画面の映像を一斉に変え、一つの大きなスクリーンの様に、今から始まろうとしているゲームの映像を流し始める。 一方、スピリットは運を引き連れた儘のその足で、カジノの施設内に設置された別の会場へと移動する。 「そろそろ時間ね、行って来るわ、アマリー」 「気を付けて、いってらっしゃい、リリス」 巨大なスクリーンと化したモニターの群集が映し出す映像を合図に、リリスは腰を上げ、モニター室を出て行った。 暫くして、会場内へやって来たスピリットは、結構な広さを持つ観客席の中から空席を見つけると、その席に着く。 それと同時ゲームが始まりを告げた。 観客達が一斉に沸き立つ。 その中にスピリットも飲まれていった。 スピリットが目当てとしていたゲーム。 それがWar Gameだった。 今回のWar Game、予想が当たれば口座残高は跳ね上がる。 今後はホテルのスウィート暮らしが出来るとスピリットは意気込んでいた。 勝てる。とスピリットは確信していた。 だが。 終われば大穴。 「アマリー今終わったわ、データがそっちに着く頃かしら」 リリスは何時もの様に、アマリーへゲームを無事に終えられたことを報告する。 スピリットが賭けたのは確かに実力の在るプレイヤーだった。だから大金を託した。 しかし、残ったのは紛れもない負けたとゆう証拠のチケット。 スピリットは只のゴミと化したチケットを舞い散る紙吹雪の中に捨て颯爽と会場を後にする。 その光景も、アマリーは見逃さなかった。 「ご苦労様リリス。そういえば、彼が逃げたよ」 「まぁ、それは良いことを聞いちゃったわね」 賭けに負け、大金を失ったスピリットはそれでも別段、後悔も無く十分楽しんだと満足感さえ味わっていた。 今頃は粗方カジノの関係者の手によって、口座残高を引き落とされ、0より酷い数字を表示させられていることだろう。 「彼、さっきのWar Gameに負けたんだ。徴収はさせたけど足りないそうなんだ」 スピリットがぞんざいにポケットへ詰め込んだ札束も今は頼りなく、駆ける度に音を立ててはためいた。 この街のカジノで遊ぶゲームはどれも面白かった。 だから、無茶もしたくなる。 それで無くしきったとしても、それはそれでしか出来ない清々しさを味わうだけ。 次の街でも、また同じ様な楽しみが待って居るだろう。 そんなことを考えながら、スピリットは路地裏を猫の様に駆け抜けていった。 「そう、悪い人ね・・・ねぇアマリー」 スピリットが先ず考えることは、とりあえずは今回のゲームでカジノ側に出してしまったマイナス分の取り立てから逃げなければ行けないとゆうこと。 「何だいリリス」 一刻も早く、カジノから遠ざかりたいと思うスピリットだったが。 不思議とカジノから遠ざかれば遠ざかる程、スピリットの足は速くなっていく。 「私もゲームがしたいわ、何時も眺めて勝ち負けを決めるだけ。なんてつまらないのよね」 直感にも似た警報が脳裏に鳴り響いて止まない。 「しょうがないなぁ、それなら僕がジャッジメントをしようか」 街に溢れ返る人混みの中で、確かに自分へと近付いてくる足音が有った。 まさか、たった一人の賭け金のマイナス分の為に、物騒な連中が自分を狙って来ているとは思いも寄らなかった。 だが、だから何だ。此処で負ける心算も、スピリットには無い。 「嬉しいわ、それじゃぁ」 「ゲームスタートだ」 スピリットにとって予想外のことが起きるのは予想範囲内のこと。 顔もそれなりに知られた程、スピリットはこの街のカジノを満喫してきた。 街の通路だって良く知っている。 スピリットは人が一人、ようやく通れる場所を駆け抜ける。 その先のフェンスを越えれば街外れも近く、Umpireが仕切るカジノの管轄は外れる。 そのフェンスが目に入り、スピリットは手を伸ばす。 逃げきれると確信していた自信が、銃声によって打ち砕かれた。
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