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「…で、エレムルスさんはこんなところで何をしているのですか?」 「買い物だ」 気付かれて声をかけられたからには無視するわけにもいかず、適当に投げた質問に対する答えは簡潔すぎるものだった。 そして彼女自身に隠れて見づらいが確かに片手に買い物袋をぶら下げている。しかし買い物という言葉がこれほど似合わない女性というのも珍しい。 「……そっちはどうした?」 「暇なので甘味を買いに。ああ、もう一方の袋はリリス達宛てですよ」 「…そうか」 「?」 中身のない会話を続けながらエレムルスはなおもディスプレイの方を気にしてちらちら目線をやっている。アマリーが何を見ているのかと彼女と同じ方向に目を向けるとすぐに合点がいった。 可愛らしいぬいぐるみ達の中に混じって、素直に愛らしいとは表現しづらい頬に傷の走った三白眼の物体が鎮座していたのである。背中に甲羅のようなものが見えるのでおそらく亀を模したものだろう。 アマリーにはなぜかは分からないが昔から彼女はこの手の素直に可愛くないものに惹かれる傾向にあるのだ。大方今回も買い物の途中か帰りで気に入った品を見つけたが買おうか買わないかで立ち往生している、といったところなのだろう。会話中にも気にしている様子を見る限り相当気に入ったのだろうか。 ならばさっさと買ってしまえば良いのだろうが、見た目に似合わずいかんせん彼女は優柔不断であった。 (…このままだとこの人ずっとここで悪目立ちしてるんじゃないのか?) ――…ありうる。 アマリーはふっと頭をよぎった想像に苦虫を噛み潰したように顔をしかめて再度溜息を吐くとエレムルスに「ここで待っていてください」と言い残して雑貨屋の中に駆け込んだ。少しして店から出てきたアマリーは、自分が待てと言った相手にぬいぐるみを一つぺいっと投げつけた。 見事に投げられた物体をキャッチしたエレムルスはそれを見て驚いたように目をぱちぱちとしばたかせる。 「………これは」 「ずっと見てたじゃないですか。欲しかったんでしょう?」 「ああ」 「知り合いが変なところで悪目立ちしていると嫌なんですよ。もう買い物が終わっているなら早く帰っていただけますか、貴方はやたらと目立つんですよエレムルスさん」 「…そうか?」 きょとんと首を傾げる昔馴染みに更に溜息を追加して、アマリーは「それでは」と言い残してその場を後にした。 が、なぜか後からエレムルスもついて来る。 「…何ですかエレムルスさん」 「いや、どうせ帰る先は同じだ。一緒に帰ろう」 「はあ…」 「…懐かしいな。昔はラジやリリスも含めて子供だけで散策したりしていた」 「そんなこともありましたかね」 確かに幼い頃は親がWar Gameをしている間に暇を持て余していた子供同士で集まっていたし、自分たちは年長者であるグラジオラスとエレムルスにくっついていた時期もあったがアマリーにしてみれば今更そんなことを言われてもという感じだ。いつの間にか隣を歩いている彼女のように感慨になどまったく浸れない。 正直今のアマリーとグラジオラスとの仲は険悪と言っても差し支えない状態なので思い出しても良い気はしないというのが本音である。 「でもそれが何だって言うんですか。帰るならさっさと帰りますよエレムルスさん」 「ああ。………むう」 「何です?」 「今更だが他人行儀だな、お前」 「はあ?」 いきなり何を言い出すんだ、とアマリーは隣を歩く自分より少し背の高い顔馴染みを怪訝な目で見た。だがそこにあるのはいつも通りの涼やかな表情である。 …いや、いつもより少し楽しそうだ。 「せっかくだから昔みたいに呼んでみてくれ」 「嫌ですよ。どうして今更」 「呼んでくれないとここから動かないぞ?」 「……はぁ。ほら行きますよ、エレムお姉さん!」 「ああ」 その数時間後、執務室で不機嫌そうに疲れたように和菓子をつまみながらだらだらしているアマリーの姿が目撃されたという。 ++++
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