それでも、僕は | ナノ


▽ 3




 エースと出会ってから絶好調だ
室内を歩くだけで息切れしていたのが嘘みたい。今じゃ病院の敷地外にだって行けちゃうもん。
今日は近くの公園までエースと一緒に散歩した。途中で診察の時間になっちゃって夏木さんが迎えに来たからそこまで公園にはいなかったけど


「アラン、調子はどうだ?」

「絶好調だよ!まだまだ病院生活だろうけど、行動範囲を広げてもいいってさ!」

「そうか。なら明日は人がいるところにでも行くか?」

「人酔いしないかな?」

「最初は酔うかもな。まァ酔っても負ぶって帰ってやるよ」

 僕の横に可愛いクマのぬいぐるみを置いてエースはニヤリと悪人みたいに笑みを浮かべた
「負んぶで帰るのは恥ずかしいかな」貰ったクマを撫でながらおぶられる自分を想像してあまりの滑稽さに笑ってしまう。
エースぐらいムキムキだと僕なんて簡単に持ち上がるんだろうけど、流石に恥ずかしい。僕だって一応男なんだから

「……随分と増えたな」

 椅子に腰掛け部屋をぐるっと見たエースに全部エースがくれたものだよ。と笑いながら僕も部屋を見渡す
本に食べ物、ぬいぐるみとか色々と増えてきたおかげで、殺風景でつまらなかったこの病室も随分と賑やかになった。
エースと出会ってまだ半年も経ってないのに、僕の世界は目まぐるしく変わっていく。いい方向にね

 「たまに、」
「たまにエースとはどこかで会ったことあるんじゃないかって思うんだ。だって、一緒にいるだけですごく嬉しくなる」

「……そうか。実は前世で双子だったりしてな!」

「ふふッ……双子、確かにっ…!」

「テメッ、何笑ってんだっ!」

 僕の両頬を引っ張りながら怒るエースについに堪えきれず吹き出してしまった
「だってその見た目で前世とか言い出すんだもん!」笑いを噛み殺すのをやめた僕は爆笑しながらエースに言う。
ムスッとしたエースに頭をぐしゃぐしゃにされてしまったが、面白いもんは面白いんだからしょうがない

「はー笑った笑った!」

「お前退院したらマジで覚えてろよなァ…って、そうじゃねェよ。今日来たのは会わせたい奴らがいるんだ!」

「会わせたい奴ら?」

「あァ!俺の兄弟なんだ」

 チクリ、胸が痛くなった。なんでだろう
胸を押さえて首を傾げる。彼の兄弟に会えて嬉しいはずなのに、なんでこんなに胸がぎゅっと締め付けられるんだろう

 
 __ぼくも、エースの弟なのに


「__イ、オイ、アラン?」

「ぇ、ぁ……なに?」

「なに、じゃねェよ。急に胸押さえてボーッとしやがって!一瞬焦ったぞ……」

 背もたれ用に腰に敷いてたクッションをどかし、僕をベットに戻して熱を測るエースにどこか懐かしさを感じる。
「熱は、ねェか。」額から離れる手が寂しくて、ついその手を握ってしまった
ピクリ、少し震えたがすぐに握り返してくれた。大きくて、とても暖かい手。何故か泣いてしまいそうになる

 さっきの胸の痛みはいつの間にかなくなっていた__

「で、なんだっけ。兄弟?」

「このままの状態で進めンのか……あァ、俺の予想が正しけりゃ、そろそろ我慢できなくてついてくるだろうしな」

「そんなに僕に会いたいの?いつでもいいのに」

「いや……これは俺の問題っつーかよ……まァなんだ。とにかくそろそろアイツらが来るからよ、紹介しようと思ってな!」

 「普通に紹介してくれればいいのに…」変なエース。首を傾げる僕にエースは苦笑しながら気まずそうに頭をぽりぽりとかき明後日の方向に視線を向けた

バンッ!
 勢いよく開いたドアに「もうちょっと堪能したかったんだがなァ……」とエースは気怠そうに視線を向ける。
入ってきたのは麦わら帽子がよく似合う青年と高そうなスーツを着ている青年。この人たちがエースの言っていた兄弟なのかな

「エース!俺もう待てねェ!!」

「悪いな、俺も待てなかった」

「だろうな。つかルフィ、もう少し静かにドア開けろ」

 「それは悪ィ!でも元はといえばエースが!」ルフィ、と言われた子がエースに突っかかりそのままプチ喧嘩みたいに発展してしまった。収集がつかないな、これ放置でいいのかな
隣にいた彼と目が合う。ニコッと人の良さそうな笑みを浮かべて隣に腰掛けてきた。サボ、というらしい

「サボはさ、エースのお兄さんなの?」

「ん?…あー、そこら辺あまり決めてないんだよな。兄二人に弟二人って感じだな!」

「へぇ……もう一人兄弟いるんだ」

「おう!もう一人はそのうち分かるさ」

 わしゃわしゃと見た目に似合わず豪快に頭を撫でるサボ。すごい、僕の頭が鳥の巣みたいになってる

「ルフィ、エースもそこら辺にしておけよ」

「ったく、お前は相変わらずルフィに甘ェんだよ」

 ブツブツと文句を言うエースは普段あまり見ないからとても面白い。兄弟っていいなぁ
サボと入れ替わるように椅子に座ったルフィは僕を見て泣いた。あれ、泣いた!?
 「ごべんなざい〜〜〜!!」って顔をぐちゃぐちゃにしながら泣くルフィをどうすればいいのか分からなくて帽子の上から頭をぽんと撫でてみる。効果はないどころかさらに泣かれてしまったので完全にお手上げ状態だ

「おでェ……おでェ!!あン時ひでェこと……言って…ッ!!」

「うん…?僕は気にしてないよ?」

 あの時と言われても僕たち初対面だよね?なんてこんな空気じゃ言えない僕はルフィが泣き止むまで彼を慰め続けた
ぎゅうっと力強く抱きしめられて苦しかったけど、泣いている彼が、ちょっと懐かしく思えて笑ってしまった。会ったことないはずなのに、どうしてか居心地がいい

 __兄弟っていいなあ

また胸がチクりと痛んだ



prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -