コラボ小説 | ナノ



「…カジカは辛くないの?この仕事…」

暫く泣いたあと、鈴沙は尋ねた。

「最初は辛かったよ…。目の前で蝶達が朽ちてくのを黙って見ていなければならなかった。
でも、次から次へと蝶達は孵る。新たに生きる為に。短い生を愛しむみたいにね。
…その度に彼等が『泣かないで、私達は悔いてませんから』って言ってるみたいだった…
その声が聞こえたから、僕は泣かなくなった。辛くなくなった。この役割の本当の意味が分かったから」

カジカの顔は優しく微笑んでいる。
見守る存在。次から次へと孵っては朽ちていく命の様を見届け、その存在を刻む存在。
悲しく、切なく、優しい守人────

「…悔いてない…?」

「勿論。君みたいな人にも会えるしね」

鈴沙の問いにカジカは優しく笑った。

「蝶達の為に泣いてくれて有難う」

カジカはそう囁き、彼女の小さな額にキスをした。
その時、カジカの釣竿についていたクリスタルが輝き出した。  

「…!!」

クリスタルが、次第に蝶に孵っていく。

「孵った…」

鈴沙が驚いた声を出した。
孵った蝶は美しく弧を描き、カジカの指にとまった。

「ああ…もうそんな時間だね…」

カジカは切なそうな顔をした。

「…さあ、お行き」

そう言ったカジカの指から、孵ったばかりの蝶が再び飛び立った。
鈴沙はその様子をじっと見つめていた。

「…さぁ、僕等も行かなくちゃ」

クリスタルの無くなった釣竿を持ち直し、カジカは彼女を見返した。

「…行っちゃうの?」

鈴沙は尋ねた。カジカの目が優しく笑う。

「うん、また次に孵るクリスタルを見守らなくちゃならないしね。
行こう…送っていくよ」

差し出された手。

「…また、此処に来れる?」

手を取りながら、鈴沙は尋ねた。

「…そうだね。来れたらまた会おう」

「うん」

鈴沙は笑った。此処に来て初めて見せた笑顔は、蝶達の淡い光に照らされて輝いていた。

「また会おう────…」


カジカの手を握った瞬間、鈴沙は光に包まれる。
彼の声が、遠くに響いて、溶けて行った────… 



「…ん…」

気がつくと、鈴沙は原っぱに寝転がっていた。

「…ゆめ…?」

ぼやけていた目を握っていた手でこすると、手の中に何か握っている感触に気付く。
開いてみると、小さなクリスタルの欠片が出て来た。

「…夢…じゃなかったんだ…」

そう呟いた彼女の顔の真横を、一羽のアゲハ蝶が飛んでいった。

「…カジカ…」

飛んでいくアゲハを見送りながら、少女は呟いた。

「会えるといいな…」

見上げた空にまた、アゲハ蝶の群れが飛んでいく。
その姿に、あの優しい笑顔の金髪の青年の顔を思い出し、鈴沙は目を閉じた。

「また…会いに行くよ───…」



END



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