大まる小説 | ナノ



それから俺はさくらと顔を合わせず、昼休みを迎えた。

屋上で空を見上げる。
青い空は高く、太陽はまぶしい。

「大野」

呼ばれて振り返ると、杉山がパンを抱えて立っていた。

「…杉山」

杉山は俺の隣にどかりと座り、二本あるパック飲料の一本を投げて寄越した。

「サンキュ。って、コーヒー牛乳かよ」

受け取って顔をしかめた俺に、杉山は笑って。

「イライラには甘いモンが一番だぞ。
それともあれか、いちご牛乳が良かったか?」

「…これでいい」

「おう」


何だか急に脱力感が襲ってきて、うなだれる。
でも、先ほどよりはだいぶ落ち着いてきた。
そして、やっぱりあいつのことが気になった。


「大野、お前が今何考えてるか当ててやろうか?」


黙りこくった俺に杉山がニヤリと笑ってきた。
こういう風にニヤつく杉山は、正直言ってウザい。


「あ?何だよいきなり」

「…さくら、だろ?」

「……!」


がば、と横を向けば、満面の笑みの杉山。
当たっているだけに、少し気恥ずかしい。


「あーゆー時はほっとくのが一番だぞ?」

パックにストローを挿しながら、杉山は言う。

「あーゆー時って、何だよ?」

聞き返せば、杉山は少し微妙な顔をした。

「何って、ありゃあアレだろ?」

「だからアレって何だ?」

だんだん苛立ってきた俺を尻目に、杉山は言った。

「女には付き物のアレ、…って言えば分かるだろ?」


「…ッ!!?」


その言葉を理解したとき、
ひどく居たたまれない気持ちになった。
一気に頭に血が集まる。
授業で聞いて分かっていても実践はからっきしで駄目なのだ。
ましてや、それが女特有のモノならば。

「…何でお前は分かったんだ?」

ひどく恥ずかしい気持ちを抑えて、杉山に訊ねる。

「そりゃあ俺んとこ、姉貴が居るし」

ああ、そうか。
姉妹が居れば自ずと気づく。

「姉貴ん時とほぼ一緒だぜ、あの様子」

「そっか…やっぱキツいのか?」

小さな身体を丸めていた姿を思い出す。

「そうだな…、姉貴曰く血が足りなくなる上、あちこち痛いときがあるんだと。
まあ、男の俺たちには、なりようがないから何とも言えないけどな」

「そうだな…」

呟いて、漸くパックに手を付ける。
コーヒー牛乳の甘さが、ゆるりと喉を滑り落ちていった。


あぁ、何で。

俺は男で。
あいつは女なんだろう。


男と違って、女の変化には目を見張るものがある。

身体は柔らかな曲線を描き、ふとした表情や振る舞いに艶を含ませる。

恐らくそれは世の全ての女たちに訪れる変化。

誰かに守られて、その誰かを愛し。
愛されて子を成し、それを慈しみ、守り育てていく。


いつか、あいつもそうなるのだろうか。
 

「…そういえばさ」


ふと聞こえた声に、ハッと我に返る。

「何だよ?」

「さっき穂波に会ったんだけど、今日委員会があって、さくらと一緒に帰れないんだと」

「…え?」

耳を疑った。
それじゃ、あいつ一人で?
帰れるのか?あの状態で?


「だからな、お前送ってやれ」

「…杉山」

「ほっとけないんだろ?さくらのこと」

そう言った杉山は、さっきまでのニヤついた顔より優しい顔だった。


そのとき、昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。





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