大まる小説 | ナノ


他愛もない話をしながら、町並みを歩く。

杉山と遊び回った場所。
仲間たちとサッカーをした場所。
商店街の並木道。

ここでさくらと(冬田もだけど)手を繋いで歩いたっけ。


見れば見るほど懐かしく甦ってくる思い出。
その風景には、いつも杉山とさくらが居た気がする。



「やっぱ、落ち着くな。この町」


ぽつり、と呟くと、杉山は嬉しそうに笑った。


「他に行きたいとこあるか?」

「ああ、そうだな…」


ふと、あの小川が浮かんだ。


「…寺町。寺町の小川、いいか?」

「小川?」



杉山は首を傾げていたが、快く承諾してくれた。


もう一度見たかったのだ。
さくらたちと見た、あの小川を。




「お前が小川に行きたがるなんて、何か意外だな」

道中、杉山が不思議そうに言う。



「転校前、お前と喧嘩してた時期あっただろ。その時にちょっとな」

「あー。確か、さくら、穂波と長山、あと長山の妹も行ってたんだっけ?」


「ああ。よくメンバー知ってたな」

「さくらがバカでかい声で『春の小川』歌ってたからなー」


「ははは」


あの時のさくらの歌声は今も覚えてる。
場所も憚らず、元気よく陽気に歌っていた。

さくらは今も元気だろうか。



寺町の小川に着いた。
まださほど花は咲いてないが、暖かな風が吹いている。


「まだ時季的にちょっと早かったかな」

川を見つめながら、杉山が言う。
「メダカいねーし」とのたまう姿が面白い。


さくさくと土手を踏みしめて、川辺りを歩く。
あの、レンゲとタンポポ畑へと自然に足は向かっていた。


川向こうの木に近付いた時だった。



「はーるのおがわはーサラサラいくよー…」


小さな声だが、歌が聞こえてきた。

この声。耳が覚えてる声。
柄にもなく駆け出す。


見ると、木の下にひとりの女が座っていた。


肩の上で切り揃えられた黒髪が、風で揺れて。

膝の上に置かれたスケッチブックに、歌いながら鉛筆を走らせている。


ああ、間違いない。
記憶の中の姿と一致する。


「…さくら…」


小さく、その名を呼んだ。


ふっ、とその視線が動き、互いの目が合った。


「…大野、くん…?」


彼女の大きな目が、更に大きく、丸くなって。
立ち上がろうとして鉛筆を取り落とす姿に思わず笑った。


ゆっくり近づいて、落ちた鉛筆を拾う。


「ほら」

「ありがと…」

差し出した鉛筆を小さな手が受け取る。

「…久し振りだな」

「いつ…戻ったの?」

「…今日。今、杉山も居るんだ」

「ふぇ?杉山くんも?流石、あんたたち相変わらず仲良いんだねぇ。」


さくらの口調に何か満たされていく。



「お前も相変わらずで、安心したよ」



ぐしゃ、とさくらの頭を撫でる。


「ホント…相変わらずちっせーし」

「〜うるさいなあ、アンタがでっかくなりすぎなんでしょ!」


顔を赤くしてむくれる姿は、あの頃のままで。
何故か胸が締め付けられてるような気がした。




「…会いたかった」

「え…?」

ぽつり、とこぼれた言葉。
あまりにも自然に出たその言葉に、自分自身が驚く。
さくらも、きょとんとした顔で見上げていた。

「俺、戻ってこれて良かった。またこうして、お前や杉山と会えて、一緒に居られる」

「……」

「あの時、言ってくれたよな?古い友達も、ずっと仲間だって」

「…うん」

「…また、仲良くしてくれよ」

ざあっ…、と優しい風が吹き、俺たちの髪を揺らす。

その時、だった。
さくらの丸い黒目から、ころりと滴が落ちた。


「…さくら!?」

まさか泣かれるとは思ってなかったので、ビックリする。

「ごめ…、あれ?あたし…」

ぐす、と鼻を啜って、涙を拭う。


「あたしも…会いたかったよ」


そう言って、泣き顔で笑う。

その顔が可愛くて、涙で濡れる頬を指先で拭ってやった。


「…泣き虫なのも、相変わらずだな」

「だって…大野くんがあんなこと言うから…嬉しいやらビックリやら」


鼻と頬を赤くして言うさくらの頭を、またがしがしと撫でてやる。

「うわわ! ちょっ、乱暴に撫でないでよ〜;;」



その反応が面白くて笑う。
彼女の顔も笑っていた。



「なーにじゃれあってんだよ?」

ふと掛けられた声に、振り向くと、杉山がにやにやしながらこっちを見ていた。



「戻って早々、仲がよろしいですねぇ、お二人さん」

「うっせ。」


にやけ顔の杉山に小突かれ、俺は笑ったまま小突き返した。



「ま、さくらとも会えたことだし、そろそろ思い出巡りも最後の締めと行きますか。さくらも来いよ」

「締め?」

杉山が暢気に提案し、さくらが訊ねる。


「何処だよ、締めって」


俺の問い掛けに、杉山はにやりと笑った。



「小学校だよ。3年4組の教室」


「…!!」


ビックリしてさくらと顔を見合わせる。
杉山はさも当然に続けた。


「既に皆そこで待ってるからなー。これからお出迎えパーティーだ!」

「ちょっと待て!既にってどういうことだよ?」

「そうだよ、あたしそれ初耳だもん!」


ぎゃいぎゃいと言い合う俺たちに杉山はあれ?と言う顔になり。そして溜め息を付いた。


「さくら…携帯見てみろ。多分穂波から連絡来てると思うぞ」

「うえ?」


慌てて携帯を確認するさくら。

「ホントだ…たまちゃんから着信がいっぱい…」



携帯を手に、へら、と笑う。


「お前なー。もし此処で会ってなかったら、大野が帰って来ても会えなかったぞ?折角の計画もパアじゃん」

「あははは、ホント良かったよ…」


力なく笑うさくらと呆れる杉山。
そのやりとりが可笑しくて、
ひたすら、嬉しくて。



「…っく、あはははは!」


「大野くん?」
「どしたよ、お前…」


「いや…はは、ホントに帰ってきたなって思ってさ…」


涙が浮かぶほど笑ったことなど、東京にいた頃はなかった。

ずっと馴染んできたこの空気。
杉山が居て、皆が居て。

そして、さくらが居る。

そこに俺が居ることが、堪らなく嬉しい。



「…行こうぜ。俺たちの仲間のとこへ」

「ああ」


そう言って、土手を上る。


「あ、その前に」

ふと、さくらと杉山が俺を振り返り。


「「おかえり!大野(くん)!」」



二人の笑顔と声が同時に届いて。



どうしようもなく嬉しさと温かさでいっぱいになって。



「…ただいま!」


精一杯の返事を大事な二人に返した。



これから先もまた
こいつらと笑って過ごしたい。
一度は離れた仲間。 でも、再び繋がることが出来た。
また共に歩いていける。
それはきっと、幸せな事なんだろうと思う。



俺たちが立ち去ったあの土手に、
小さな花がひとつ、咲いていた。



おわり


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