大まる小説 | ナノ


暴れんばかりのあたしに、大野くんは言った。

「…まだ本調子じゃないんだろ?だから暴れんな」


その台詞に込められた皮肉。
それを悟って慌てた気持ちが急激に引っ込んでいく。

そうだ。あたし、彼を、男子を避けてたんだ。
男とか女とか、必ずやって来る性別の差とか、認識の違いに怯えて。

ずっと、小学生の頃のように、無邪気に一緒に居たいのに。

あたしは女になって。

彼は男になっていく。

そしてお互い、いつか離れていってしまうのだと。
勝手に思っていた。


けれど、彼は。

こんなあたしに『会いたかった』と言って。

あんな態度をとったあたしを気に掛けてくれている。 

どうしてなのか、分からない。

でも、知りたいと思う。


大野くんのことをもっと。


そう思った途端、何だか今までの自分の態度の方が以前の自分より子供のように思えて、恥ずかしくなった。


「…ごめんなさい…」


蚊の鳴くような声で謝った。

「…いいよ」


こちらを振り返らず、大野くんは言った。
その声は優しくて。
きゅ、と大野くんに気付かれないように彼の首に回された腕に力を込めた。


漸く、家に着いた。
門の前で降ろしてもらい、鞄を渡される。


「じゃあな」

そう言って帰ろうとする大野くんを慌てて呼び止める。

「待って!」


その声に、振り返る彼。

「何?」


その顔を見つめると、途端に恥ずかしくなってうつむく。


「あの…、色々ありがとう。あんな態度とってたのに…なんか…」


ああ、もっと言いたいことがあるのに。
うまく言葉が出てこなくてもどかしい。


「いいよ、って言ったろ?」


そう言って、彼はぷいとそっぽを向く。


「俺が勝手にしたことなんだから」


その言葉と、ふと見せた笑み。
あのときと同じ、優しい顔。
そんな顔されたら、何だか急にこそばゆくなって。


「…でも、何で?あたしのことなんか気にしても、大野くんに何も良いことなんかないのに」


聞かずには居られなかった。


大野くんの目が、あたしに真っ直ぐ向けられる。
綺麗な黒い目。

その目がふっ、と和らいで。あたしの頭に、あの大きな手が乗せられた。


「…お前が、ほっとけないからだよ」


柔らかく笑う顔で、そう告げて。
更にあたしの頭を二、三度撫でる。

その声は低く、そして優しく甘かった。

思わず彼を凝視すると、そっと離れる。


「早く体調良くなると良いな。じゃ、また明日学校でな」


そう言い、今度こそ彼は踵を返した。


途端に、顔に集まる熱。
あんな声で、あんな顔で言うなんて。
どうしようもなく顔が熱い。


また、明日。

明日、学校でどんな顔で会えばいいのだろう?
うまく話せるだろうか?


遠くなる背中を見送ったまま、あたしはお母さんから声を掛けられるまで、門前に立ち尽くしていた。



END


TEXT
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -