大まる小説 | ナノ


帰り道。

少しだけ離れて歩く。
会話はない。
それでも、歩調を合わせてくれている。

どうしてなんだろう。

あんな態度をとったのに。
怒らせてしまったと思っていたのに。

どうしてこのひとは、あたしと並んで歩いてくれるんだろう?


…考えれば考えるほど分からない。


格好良くて、頭も良くて。
女の子たちから人気が高い彼が、いくら小学生からの仲だからって、
あたしみたいなチビで可愛くなくて何も取り柄のない平凡な子を気に掛けたって、
何も得することなんかないのに。


聞きたくても、聞けない。

またあのときみたいな、寂しげな顔は見たくなかった。


でも何か話さないと、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだった。



「…部活…、どうしたの?」


漸く絞り出した声。
大野くんの少しだけ驚いた気配がして。


「…顧問が会議で休み」


そう、返してくれた。


「…そっか」


思えば、あたしから話し掛けたのは、ずいぶん久しぶりだ。 


「…具合、どうなんだ?」

「…うん、大丈夫」


まだ、ぎこちない会話。
でも、どこか心地良くて。
ほんの少しだけ、このままで居たいと思った。


「…何か久しぶりだな、ちゃんと会話すんの」


大野くんの口調が、どこか遠くを見ているように聞こえた。 


「…そうかな?」


「そうだよ。お前、いつも気まずそうにはぐらかすじゃん」 


そう言われて、胸が痛む。
そういう態度をとってきたのは、あたし。
あたしの方だったのに。


「…そんなこと…ないよ」


涙が出そうになる。
でも、そんなこと出来ない。
また、大野くんを困らせたくない。
そう思って、早足で彼から離れようとした。


そのすぐあと。


「さくら…っ!!」


切羽詰まった声が響き、強く腕を引かれ、身体ごと引き寄せられる。

その直後、だった。

ブロロ……

先ほどまであたしが居た場所を大きな車が轟音を立て走り去った。

大野くんが引き寄せてくれなかったら、轢かれてた。
大野くんが…

あ……

改めて自分たちの状態を思い返す。
あたしはしっかりと大野くんに抱き締められていた。


身体をスッポリと包む腕。
広くて、温かい胸。

幼い頃、お父さんやおじいちゃんに抱かれていたときと全然違う。

ぜんぜん、ちがう。



「さくら…大丈夫か?」


頭上から、大野くんの声がして、我に返った。


「…うん…びっくりした…」


声に出した途端、身体が震えだした。
びっくりして。
ただ怖くて。
大野くんにしがみついた。
震えに気付いたのか、背中を軽く叩いてくれる。

あの、筋張った手で。

小さい子にするみたいに優しく。

それがすごく心地良くて、次第に震えは治まってきた。


震えが完全に治まって、彼が漸く身体を離した。
それが名残惜しく感じるのは、何故なんだろう?

「…立てるか?」


そう言って、手を差し出してくれる。

「…うん…あれ…?」


その手を借りて立とうとするけど、足に力が入らない。

これって…もしかして…


「…腰、抜けちゃった、みたい…」


力なく笑って言うと、大野くんの目が丸くなり、次第に笑みに変わっていく。


「…やっと、笑ったな」

「え?」


呟くように言われて、今度はあたしが目を丸くする番だった。
そんなあたしに彼は笑みのまま、背を向けて。

「…乗れよ」


と言った。さも当たり前のように。

「立てないんだろ?」


その言葉の意味を悟って、あたしはひどくうろたえる。


「うぇっ!!いいよ、そんな!」


つい、いつもの口調になって、慌てる。
さっきまでの重苦しさは欠片もなかった。
そして、慌てまくるあたしに呆れたのか、
またしても彼はあたしの腕を引き寄せて、背中に乗せた。


「うわっ!ちょ、大野くんっ?!」


いきなりのことに、あたしはもうパニック寸前だった。



TEXT
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -