大まる小説 | ナノ



それから昼休みまで、彼はあたしに接触して来なかった。
怒らせてしまったのかも知れない。
けれど、正直言って助かった。

アレコレ詮索されるより、よっぽどマシだった。
アレが重い日の休み時間は、保健室で過ごすのが日課になっていた。
誰とも接触せずに過ごせる絶好の場所だった。

「さくらさん、具合はどう?」

保健室の先生が暖かいお茶を出してくれる。


「はい、今朝よりは楽になりました」

「そう。午後の授業は受けれそう?」

「あと一時間だけですし、大丈夫と思います」

「それなら良かったわ。でも帰ったらゆっくりなさいよ」

「はい、有り難うございます」


先生にお礼を言って、保健室を出る。
朝よりは良くなってはいたけど、正直少し不安だった。

「まるちゃーん!」

教室前で、たまちゃんが駆け寄ってくる。

「具合どう?大丈夫?」

「大丈夫だよ、あと一時間だけだし」

言いながら、教室を見回す。
大野くんの姿はない。
少しだけ、ホッとした。

「それなら良かった。あ、あのね、まるちゃん、放課後なんだけどあたし委員会があって、それで…」

「そっか、それじゃ仕方ないね」

たまちゃんの申し出に、少しばかりガッカリする。
今日はひとり帰りか…
でも、委員会なんだし、我が儘は言えないよね。
 
「気にしないで」

「ごめんね、まるちゃん、それでね…」


たまちゃんが何か言い掛けたところで、昼休み終わりの予鈴が鳴った。

ぞろぞろとクラスメイトが戻ってくる。
その中に大野くんを見つけて。

「ごめん、たまちゃん。またあとでね」

あたしはそそくさと席に戻る。
たまちゃんが何を言い掛けたのか気になったけど。



やっと授業が終わった。
心から安心する。
帰り支度をしていると、たまちゃんがきた。

「まるちゃん、ホントごめんね」

「いいって。そりゃ一緒に帰れないのは残念だけど、委員会なら仕方ないよ」

いまだに低姿勢なたまちゃんに、あたしは笑った。

「あの、まるちゃん。それでね…今日の帰りなんだけど…」

言い澱んでいたたまちゃんが決意したような眼差しを向けてきた。

「…大野くんが、送ってくれるって」


……え?
何で大野くんが?

混乱の最中、大野くんと視線が合った。

動けずに固まっていると、大野くんがこっちにやってくる。
たまちゃんは大野くんが来たと同時に
教室を出ていってしまった。

少しだけ彼女を恨んだ。

でも、今は。
目の前の大野くんを見ることができなかった。
彼はそんなあたしの様子に構わず、一言だけ言った。


「…帰るぞ」

その声はいつもと同じで。
あたしはうなだれたまま、


「…うん」

と返すしかなかった。




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