大まる小説 | ナノ


「さくら…大丈夫か?」

「…うん…びっくりした…」


腕の中で小さな身体が震えていた。
安心させるように背中を軽く叩いてやる。

少しずつ震えが治まっていくのを感じながら、怪我がないのを確認して安堵した。


「…立てるか?」

「…うん…あれ…?」

立とうとする肩を支えてやるが、さくらの足は上がらない。


「…腰、抜けちゃった、みたい…」


へら、と笑う顔が、いつものさくらで。
言いようのない気持ちがこみ上げて、笑った。

「…やっと笑ったな」

「え?」

きょとん、とするさくらに、俺は背中を向けた。

「…乗れよ、立てないんだろ?」

「うぇっ!!いいよ、そんな!」

すっかりいつもの調子に戻っている。
これまでの気まずさが嘘みたいだった。
そんなさくらの様子に痺れを切らし、再び腕を引き寄せて背負う。

「うわっ!ちょ、大野くんっ?!」

慌てる声に言ってやった。
少しばかり皮肉を込めて。


「まだ本調子じゃないんだろ?だから暴れんな」


途端に大人しくなった。
漸く気まずかったことを思い出したらしい。

ホント、面白い奴だ。 


「…ごめんなさい…」


蚊の鳴くような声で呟かれ、満たされた気持ちになる。 
何に対しての謝罪なのかはわからないけど、それでも。

「…いいよ」


背負った身体はやっぱり小さくて。
思ったより軽かった。


さくら家の前。
さくらを降ろして、鞄を渡す。

「…じゃあな」

そう言って振り返る俺に、「待って!」、と声が追いかけてきた。

「…何?」

問いかけると、恥ずかしそうに少しうつむく。
抱き締めたい衝動に駆られたが、どうにか抑えた。

そんな俺に、こいつはきっと気づいてない。


「あの、色々ありがとう…あんな態度とってたのに…なんか…」


ごにょごにょと言う姿が可愛くて、ふい、とそっぽを向いた。


「いいよ、って言ったろ?俺が勝手にしたことなんだから」


「…でも、何で?あたしのことなんか気にしても、大野くんに何も良いことなんかないのに」


そう言うさくらは不安げな顔をしていた。
そんな顔されたら。
離れられなく、なる。

ぽん、とさくらの頭を叩く。


「…お前が、ほっとけないからだよ」


思ったことを正直に告げた。

きょとんとするさくらの頭を二、三回撫で、離れる。

「早く体調良くなると良いな、じゃあまた明日学校でな」

去り際、そう返すのがやっとだった。

気づいてしまった気持ちは、告げたことでむくむくと形を成していく。


明日また学校で。

明日、さくらは。
どんな態度で接してくれるだろうか。

避けられても良い。
その時は今日みたいに追いかけてやる。


ずっと隣に居たいから。
居て欲しいから。


家路を急ぎながら。
俺は思いを噛みしめた。



END


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