大まる小説 | ナノ


午後の授業中も、さくらの様子は芳しくなかった。
朝の時よりは落ちついているようだが、時折だるそうに机に伏せる。

あの状態で、一人で帰らせるのは心配だった。
たとえ避けられても、ほってなんかおけない。

シャーペンを持つ手にぐっと力を込めて、俺は思った。



放課後。
幸いにも部活は顧問が会議とかで休みだった。


帰り支度の最中、穂波がさくらに話し掛けている。
謝っているのだろう穂波に、ぎこちなくも笑顔を向けるさくら。
その顔が驚いた表情になり、俺の方を向いた。

たぶん、穂波から俺が送るというのを聞かされたのだ。
そして、穂波は教室を出ていく。

未だ気まずそうなさくらに、俺は近寄る。


「…帰るぞ」

さくらはうなだれて、一言、

「…うん」

と答えた。




帰り道。


少し離れて歩く。

会話は、ない。
それでも並んで歩いてくれていることに安堵する。

「…部活、どうしたの?」

ふと呟かれた問い。
会話が少なくなってから久しい。

「顧問が会議で休み」

「…そっか」


「…具合、どうなんだ?」

「…うん、大丈夫」


ぎこちなくも会話が続く。
どれくらい求めていたのか知れない。
不思議だった。
何故こんなにもさくらがほっとけないのか。
会話を切望するのも、隣を歩いていたいと思うのも。


「…何か、久しぶりだな。ちゃんと会話すんの」

「…そうかな?」

「そうだよ。お前、いつも気まずそうにはぐらかすじゃん」

「…そんなこと…ないよ」


少しだけ沈んだ声。
しまった、と思ったのもつかの間、さくらは早足になり、俺を追い越す。

その時だった。

左側から大きな車がこちらに向かってくるのが見えた。
さくらは気づかず、その方へ向かっていく。


「さくら…っ!!」


一瞬の出来事だった。

轢かれそうになるさくらの腕を掴み、自分の方へ引き寄せる。

ブロロ…

車の走り去る音を聞きながら、俺は内心焦っていた。
引き寄せたさくらの身体。
腕の中にスッポリ収まる小ささ。
その細さと柔らかさに驚き、動揺した。

こんなに小さかったなんて知らない。
こんなに細いのだって、柔らかいのだって、知らない。

どくん、と心臓が鳴った。

小川で泣き笑いの顔を見たとき以上に。


同時に確信した。


やっぱり、ほっとけない。
さくらを守りたい。

男が女にそうするように。

隣でずっと、守っていたい。


強く、思った。



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