及川さんと付き合いだしたのは、及川さんが部活を引退してからだった。
彼が涙を堪えながら体育館から出ていく姿を、俺はぼんやりと眺めていた。及川さんは、意地悪な先輩だ。あのサーブやトスを見れなくなるのは残念だけれど、会う度につっかかれられないのだと思うと清々する。そう思うのに、胸がぎゅぅ、と押し潰されてしまうかのような苦しさを覚えた。俺は遠ざかる後ろ姿を追いかける。及川さんに追いついて、その袖を掴むと、及川さんが驚いた表情をしていた。

「どうしたの、トビオちゃん」

俺は肩で息をする。呼吸が整わないまま、言葉を発した。

「アンタ、俺に何したんですか」

及川さんはジッと俺を見つめる。あぁ、また苦しい。俺は自分の胸元を掴んだ。

「ここ、苦しいんです。及川さんがいなくなると思ったら、俺、」

俺はこんなにも必死なのに、及川さんはゆっくりと笑った。

「なに笑ってるんですか」

「……一緒だよ、俺も。どうにかなっちゃったのは、俺の方だ」

及川さんはそう言った。笑顔なのに、なんだか痛々しい表情で。

「なんでお前なんだろうね、ほんと」

「なんの話ですか」

及川さんが、俺の頭に触れた。髪を撫でて、首の後ろのほうを手でなぞられる。そのまま頭を引き寄せられ、気付いたときには俺の頭は及川さんの肩に埋まっていた。

「お前が好きだよ」

お前もでしょ、トビオちゃん。
そう言われて初めて、自分のこの感情が「好き」という名前で呼ばれていることに気が付いた。



及川さんと付き合い始めてから気付いたことがある。「好き」という感情はなかなか厄介なやつだ。一緒にいたり、手を繋いだり、そういったことに幸せをを感じたりする。でも、苦しいこともある。及川さんはいつも女子にも男子にも囲まれているし、一緒にいられる時間は凄く短い。及川さんには、俺より一緒にいる時間が長い人が大勢いる。そう考えると、どうにもムカムカしてしまう。俺は会おうとしなきゃ及川さんと会えないのに、学校に来る、という行為だけでそれを果たすことができるなんて、ずるい。

「苦しい」
「なにが?」

「及川さんといるのが」

俺はそう漏らした。及川さんも苦い顔をしている。

「好きって感情はもっと単純でいいのに」

俺は馬鹿だから、こんな複雑な感情は手に負えないんだ。及川さんが俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

「ほんとにね。この感情は人に優しくない」

及川さんはそう言った。いつだったか聞いたことがある。俺のことは大好きだけど、憎たらしくもあると。それがどんな状態なのか分からないけれど、きっと俺の感情と同じように、一筋縄ではいかないのだろう。
ただ好きなだけなのに。この感情はそれだけでは終わらせてくれない。


紙一重、若しくは
表裏一体なこの、


(愛しいという感情)

2013/12/21

道端ロータスのこころちゃんに捧げます。遅くなっちゃったけど50000Hitおめでとう!!




七ジルシ。の七愛ちゃんから当方の五万打祝いに頂きました!
もうね、ひれ伏すよね。七愛ちゃんの及影を前に私は立っていられないよ。我心服す。及川さんを取り囲むモブ女子になりたいです。飛雄ちゃんにムカつかれたい…
しかしお互いはっきり好きだって言ってるくせにどこか煮え切らないこのもどかしさは何でしょうか。青春かな。違うね萌えだ!!!!(帰れ)
七愛ちゃん、素敵な及影をありがとうございました!